半径1メートルだけの最強。

さよなきどり

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第三節 〜サガンの街〜

034 幻覚(ルーナ)

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幻覚(ルーナ)マジックです。幻術って、リアルだと炎の玉なんかよりも凶悪だと思いませんか?
あんなこともこんなことも。
ご笑覧いただければ幸いです。
―――――――――

 そーーーだと、思った!


 鼻で笑うなハナ&サチ。
 その心底呆れたゲな顔はなんだ『(自称)お姉さんなギル長』。
 許すまじ。

「……魔力量ゼロ光らないヤツなど初めて見たな。結局は見掛け倒し以下だったと……ちッ、少しでも期待してしまった自分が腹立たしいわ」

「うわ、酷。自分でハードル上げておいて折られたからって舌打ちまでして、後で痛い目あっちゃうよ」

「それは楽しみだな、小僧。出来るならやってみろ。魔力無しが」

「そんなことは、如何どうでもいい」とサチ。

 如何どうよくはないぞサチ、大事な事だそ其処そこは。

「もうイイだろう。ハナ様の冒険者登録の手続きを進めてくれ。
 小僧も……冒険者は無理でも私の従者枠で登録出来るはずだ。
 二人とも手の甲に我ら落国の民アッシュの証である印を刻み(ハナが刻印された左手甲を自慢げに掲げ、テヘペロしてる。苦労したんだよな。痛くしないで、且つ出し入れオッケー)そして上位者白金特務指揮権限者オフィサーである私が承認してる。身分的、出所的にも問題ないはずだ」

 えッ、僕は冒険者は無理って事? マジで? ただの従者? それもサチの? 納得出来ないんですけども。

「なるほど、手の甲に痛い思いをしてまで印を刻んでご苦労だな。
 サマンサ貴様が認めたから問題ないか。しかし残念だなサマンサ、大有りだよ。犯罪者を冒険者として登録する事は出来ない。
 そして私たちブレンボ王国ギフ街支部““特異生物産資源買取その他冒険者ギルド業務委託会社“はその権限を以ってお前達を捕縛する」

 ありゃ! 僕たちったらアレよって言う間に捕縛されちゃうの? っていう謎の急展開。
 もう、何言ってるのかわからない。

「なに? 言ってる意味がわからないが」とサチ。

 うわ、『(自称)お姉さんなギル長』ったら胸を反らし、顎を天井まで持ち上げて“お告げ”ってる。すごく嬉しそう。鼻の穴が丸見えだぞ。

「解らないか? なら、わかる様に教えてやる。
 キノギス王国、フレゥール・プランタニエーナ・従四位下 ジュイシイゲ・フィン・ヴレゥ侯爵家令嬢の名を騙る“偽者”と拐かし未遂の犯人である“銀髪の小人族”が表れ次第に即捕縛する様にと、キノギス王国ヴレゥ侯爵家より大陸全土の各ギルド宛に“特務A種”の依頼が発布された。
 そこの小娘はヴレゥ侯爵家令御嬢その人なのだろう? いや、失礼。ヴレゥ侯爵家令嬢、を騙る“偽者”であろう?」

「……確認だが、その“特務A種”の等級を教えてくれないかフレミナ」

「フレミナな。
 五等級だが何か問題があるかサマンサ。それでも殺しはしないさ、あくまで捕縛だ。“銀髪の小人族”は『生死を問わない』だがな。抵抗しなければ手荒な真似はしない。そんな訳でサマンサ、オマエは関係ないらしい。このまま立ち去れ、同族の誼で見逃してやる」

「五等級とは恐れ入る、他国の権力者からの五級の依頼をそのまま唯々諾々いいだくだくと受託して、完全独立機関としてのギルド、いわん落国の民アッシュの矜持を保てるのか?」

「悪いなサマンサ、商売だ」


 う~ん、よく解らないがコレはアレか?
 確認だが“銀髪の小人族”は僕の事か? そして、どうして犯人になってるのかな? 犯人は金髪碧眼のフワ金さんと黒フードの地味顔男だろ。やべ、地味すぎて顔を思い出せない。フードの意味ねぇ。最初から記憶してないけど。

 ……まあ、先ずは諸事情の確認だな。情報は大切。

「あー、ちょっと、二人で盛り上がってる処で悪いんだけど、ちょっと確認させてくれないかな」と僕は手を上げて間に割り込む。まず「サチ、特務なんちゃら何等級依頼ってなんだ?」

「『特務』とは特定権力者からの高額依頼のことだ。この場合は他国だが貴族のヴレゥ侯爵家からとなる。

『A種』とは最高位で取扱注意案件って事だ。
真意だが、偽者って事だが嫁入り前の高貴族令嬢が攫われたなんて言える訳ないから、捕縛って言う名の保護だろう。
 
『等級』は胡散臭さ、トラブルの危険度を表し『5』は最高注意案件だ。
 この場合は保護した後に殺される可能性が大であるってことだろう。
 貴族からの依頼は何かと闇が深く、後々に権力闘争など不用意な争いに巻き込まれやすい。いや、必ず巻き込まれる。
 だからは五等級など受けない。或いは強制されても受ける振りをして無視する。
 そんなものを受けるのは高額な依頼料に釣られた非合法傭兵の掃き溜め者ミスフィット位だ」

 なるほど~、よく解らん。解るのは『(自称)お姉さんなギル長』がムリクリしてるってことだな。ダメじゃん。

 基本的に僕らの今の目標はハナを親御さんの元まで帰す事だ。だけどね。

 ハナを見る。ハナは真剣な顔でただ僕をじっと見つめるばかり。拒否も懇願も肯定さえない。なるほど。闇が深い。

 ハナと僕が初めて出会った、再会した? 時の騒動、ハナが誘拐されそうになった。特に知り合いらしい“フワ金さん”に拐かされかけ殺されかけた。その理由ワケは特に聞いてない。問いただしてもいない。だから知らない。

 聞けばハナは、何時でも何処ででも、嘘・偽りのない事実を教えてくれただろう。それはわかってた。
 でも凄く辛そうな表情をする事もわかっていた。
 だからあえて聞かなかった。興味なかったし。人の嫌がる事はしたくないしさ。

 今回のコレもハナひとりを引き渡して、はっきり言って裏切って僕だけ逃げてもハナは文句一つ言わずに受け入れるだろう。

 溜息しか出ない。

 あー、いいさ、正直に言おう。関わりたくなかった。ハナの事情を聞かなかった本当の理由。
 だって面倒っくさいの嫌いなんだもん。

 だからこそ、今度こそ、僕は……。

 
「あー、なんだ。『(自称)お姉さんなギル長』には認識の決定的な間違いが三点ある」
 と一応、穏便に済ませようと抗議という形の説得を試みる僕。まあ、無駄だと思うけど、偏狭的戦闘狂バトルジャンキーじゃないんだからさ。それにこっちにも状況悪化の際の取らざるを得ない手段の“言い訳”も欲しいし。自分的にだけど。

「『(自称)お姉さんなギル長』とはワタシノコトカ?」
 おっ、ピキッてきてるか? でもそんなのカンケーネー。

 ハナを指し示し「フレゥールなんちゃらフンチャラ侯爵家令嬢じゃない。名乗ってない。だから一般人のただのハナさんだ(ハナが優雅にカーテシーを決める。いらん事しなくていいから)。
 それに僕はただの人族の子供で小人族じゃないし」と頭に巻いていた布を剥ぎ取り「白髪じゃない。ほれこの通り、黒髪だ」と論破しておいた。だから人違いなんじゃオラ! と。 
 ヤンキー的に下から白目剥いて練り上げる感じで言ってみる。でもこれ、嘘偽りのない事実だからね。

「そうか、それは失礼した。訂正しよう。では改めてお前達を捕縛する。頭の後ろで組み、跪け」

 ですよねー。
 だから身分が上の人って嫌い! 少しは平民の話を聞いて理解しようよ。理解する真似ぐらいしろや、オラ!
 だから。

「ですよねー。ではこの辺で僕らは失礼します。あ、お見送りはいいですから」

「そんな事がまかり通る訳なかろう? 此処ここは私の場所だ」

 そんなこと言われてもなー。出口を確認する。後ろ。
……後ろだった筈だよな。なら何でその出口が無くなっている?

何処どこへ行こうと言うんだ。つれないだろう? ゆっくりしていけよ」

 既に対策済み? 対策バッチリで余裕かましてるってか。
 うわー、ムカつく。

 先に仕掛けられた。いや、既に用意万端だったのだろう。僕等自らが蜘蛛の巣のど真ん中に飛び込んでいた。意識の内側で警告音がマックスで鳴り響く。今更だけど。


 急速に部屋自体が広がって捻じれて行く感覚。それでいてカウンターの向こうの人物が大きく僕らに迫りくる。
 子供の頃入ったビックリハウスを思い出す。横浜にあったやつ。あれよりは過激か。
 自身の平衡感覚が失われる。立っているのも難しくなっている。これは確実に、不味いんですけど。

 左手の掲示板も右手の飲食スペースもいつの間にかなくなっていた。
 実に美味そうだった小皿料理達も消えた。ものすごく残念。あのカナッペ風は是非とも食べたかった。

 取手付き深椀陶器ジョッキを傾けて談笑している雰囲気は霧散し、裏街の“バル”は幻に消え、そう此処ここは殺風景で安価素材の薄いペラペラ長机が正面に設置されただけの、ただの受付事務所。
 薄ら寒いだけの此処ここは“特異生物産資源買取その他業務委託会社”受付所。でも、絶対に冒険者ギルドじゃない。僕の知っている、僕が夢見たワカチャカはもう、無い。

 飲み食いしていた客達の胸筋モリモリゴリゴリは変わらないが肉厚で重そうなバスターソードや酷悪でトゲトゲなハルバードは室内戦闘向きの実利重視な、容赦ない刺突特化な短槍に変わっており、既に無数のソリッドな鉾先が綺麗な円状形態で僕らを囲んでいた。
 赤黒い飛沫のシミが消えない軽鎧である事は変わらないのだが、すべてお揃いの灰色で装飾ゼロな無骨で実践的な、ちっとも面白味のない、先ほどの鍛錬所で皆さんがオソロで身につけていたゴリゴリなモノに変わっていた。
 人の数より槍の穂先の方が多いのが不思議。どこまでが嘘でどこまでが本物か、分からない。

 それらがゆっくり回転しながら僕らを取り囲んでいる。
 お馴染みのヒリヒリする死の影が其処そこにいる。

〈∮ 検索及び検証考察結果を報告
 幻覚魔法ルーナ・マジックですね。謂う所の状態異常に罹患中ですね。建物群に入ってから徐々に仕掛けられてたようですね。驚くほど微弱で脱帽的に巧妙で気づけませんでしたね? ビックリですね。
 と結論 ∮〉
 
 アホか、仕掛けられていたのは高い塀を潜って敷地に入って直ぐにだ。
 徐々に試し々々ためしだめし、少しずつ仕掛けられていった。あの迷路のような建物群、おかしいだろ。まあ、俺も気がついたのは今だけどな。でもさ、お前は騙されちゃダメだろ。賢者だろ? 久々のダメダメ感が炸裂だな。同罪の俺も。

 でもって、これの何処どこが微弱なの?
 ……逆に僕ら如きに対して過剰戦力じゃねって感じだけど?
 ってどうすんべ。幻覚ルーナって、魔法って“具現化”と“事象遷移”だけじゃ無いのかよ。“幻覚”なんて聞いてないぞ。精神に直接作用するなんて謎不思議ちゃん系なんて反則じゃね。

〈∮ 検索及び検証考察結果を報告。
 精神に直接作用は確認出来ていません。簡単な具現化です。単純に“眼”や“皮膚感”等の複数の身体センサーから得る情報を“あたかも有る様に”や、“あたかも無い様に”等で歪めて物理的に取り組むようにされているだけです。“見せ方”の技巧です。

 単純で簡単だからこそ優れている。具現化された幻覚は現実と現実の隙間の虚無に隠し全てを侵食します。

 右手をひらひらさせて左手で仕込む。原理も手法も元世界あっちでのアレと、ネタは魔法的ではありますが、同じです。
(それって、つまり……)
 正解です。ただの手品です。と偉そうに告げます。
 と結論 ∮〉

 そんな悠長なやり取りを似非賢者様とやっている暇なんてなかった。

 乗せられて単純にパニクる者一名。
 背負った火縄銃型の魔法の杖アルカナ・ロッドが滑るようにハナの手元に繰り出され、銃口を正面の人物に向ける、と思っているだろうが実際はの額に狙いを定めつつある。のを寸前で手で掴み逸らす。

「ハナもサチも落ち着け」そして僕は正面に座る魔女に向かって、
「いい加減カンベンしてくださいよ、お姉さん」

「なんの事だ」口角を上げて答える幻術使いの魔女。

うわ、マウント取り太郎だ「そう言うとこだよオバサン」

「と、言ってる割には平気そうじゃないか。小僧。まさかレジストし耐えたのか?」

「そんな事ないよ、俺が一番罹患しビビってる。心底。我を忘れて全てをぶち壊して逃げだしたくなっちゃう位には。最初から全部を無い事にしたくなっちゃう位に」

 ハナの火縄銃型の魔法の杖アルカナ・ロッドを握る僕の手がカタカタ震えている。“同士討ち”って、俺ら如きの相手に余裕ぶっこいた遊びなんだろうけどさ……、そうですか……そうですよね……。カタカタ震える僕の掌。

「ハム、くん……?」

 どうにかしろよ似非! このままだと何もぜずに終わる。
 ってかその前に、どうにかしちゃうぞ、



―――――――――
お読み頂き、誠にありがとうございます。
よろしければ次話もお楽しみ頂ければ幸いです。

毎日更新しています。
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