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第三節 〜サガンの街〜
035 レジストをお望みですか
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夢なら覚めてほしい。夢ならこのまま永遠に。どっちだ?
ご笑覧いただければ幸いです。
※注
黒い◆が人物の視点の変更の印です。
白い◇は場面展開、間が空いた印です。
―――――――――
〈∮ 検索及び検証考察結果を報告。
レジストをお望みですか?
レジストが御希望でしたら眼を見開き、そのまま歩いて正面の人物に近づいてください。大丈夫です。正面の人物は実体です。
と結論 ∮〉
それはわかる。確かに正面に人の気配がする。見えている人物と実際の姿形が同じであるが。
優秀なんだか駄馬なんだか、な似非さんで、どういう理論なのかワケワカメだけど、取り敢えず眼をクワっと見開き、足を出そうとする。
カウンター越しの魔女がグワングワン大きくなったり小さくなったり斜めになったり横になったり。伸びたり縮んだり、ひしゃげたり、平衡感覚が狂いフワッフワのマットの上を歩いている様で今にも転びそうになる。足裏に意識を集中させれば確かに地面を感じるが、その他の感覚はもろに足を掬われているとしか思えなくて、思わずバランスを取ろうとする。
〈∮ 検索及び検証考察結果を報告。
転びません。掬われていません。余計な動作はそのまま本当にバランスを崩し転倒します。効果的にそう思わされているだけです。ご存知のビックリハウスと基本原理は同じです。まあ、ちょっとプレミアム感出して、アレです、映画の“MX4Dシステム”?
と結論 ∮〉
なんで疑問形。まあいいや、なら、構わず大きく足を振り出し歩を進める。
何故か魔女の周りで酷く薄く、それでいてクッキリとした幾つかの魔法陣が表れては消え、明減を繰り返す。
目の端で部屋のあちこちで同じような魔法陣が煌めき消える。至る所に仕掛けられていたらしい。やっぱりビックリハウス改めMX4D仕様のアトラクションではあったのね。
〈∮ 検索及び検証考察結果を報告。
“高高速自動読取解析及び再構築付与”【真魔眼】にて幻術魔法の魔法式をコピーしました。
と結論 ∮〉
そして呆気なくカウンターに辿り着く。絶対、金輪際、永遠に辿り着かないと思っていたのに意外とあっさりと。まあ、考えてみればオバサンとの距離は五メートルも離れていなかったんだよな。それなのに……。
「あ、本当にオバサンだった。なんで?」とハナ。
彼女も解けたらしい。
「小っちゃい角があるよ……」
如何ゆう種なのか、呆気なくレジストに成功したようだった。
「なるほどな」
と正面のオバサン(もうオバサンとしか呼んでやらん。ハナのお墨付きも得たし)。
僕らを包む威圧するような濃厚な何かは霧散していた。何事もなかったように「なるほどな」と再び納得するようにオバサン。でも、
「オバサンじゃなくてお姉さんな」
そこは譲れないらしい。
「うっせいよオバサン」
慣れないけど一応お約束だから、両手をカウンターに突き、顔を斜めに傾げてヤンキー般若ツラでメンチ切る。
その僕の唇に軽くチュッとキスをしたオバさん。
「へ……ぇ?」
「かわえーの~。奪って喰ってええかのぅ~」
僕は尻餅を付き、腰を抜かす。僕は異世界に来て最大の恐怖に震えた。そして、僕のファーストキスという名の夢想はあっさりと霧散した。僕の初めては……オバさんかぁ……。
ハナの“火縄銃型の魔杖”の連射音が響き、オバサンの体を蜂の巣にする。蜂の巣になりながらオバサンは(もうお姉さんに変わっていたけど。さすがです)ニヤリと笑う。
ハナの銃弾が『(自称)お姉さんなギル長なオバサン』の体をすり抜け派手に背後の木板壁を破壊する。そしてゆらりとその姿をかき消し、僕らの背後に再び現れると回転回し蹴りで派手にハナを蹴り飛ばし壁に叩きつけ、かえす刀でサチの鳩尾につま先をめり込ませ沈め、床に座り込む僕の脳天に踵を叩き込んだ。
意識を手放す刹那「壁を派手に壊してくれて、これは弁償してもらわなければな」酷く嬉しそうな『(自称)お姉さんなギル長なオバサン』の声が聞こえた。
〈∮ 検索及び検証考察結果を報告。
勝負に勝って試合に負けたってとこですか。
情けないですな。
それと、階段を一段上がりましたね。おめでとうございます。
と結論 ∮〉
うっせ。
◆ (『(自称)お姉さんなギルド長』の視点です)
最初から偽装は看破られていた気はしていた。でもそんなモノはほんのお遊びだった。お遊びなんだから~。
それが、本気の私の幻術を完璧に看破った上に接近まで許してしまった。
如何やってレジストした。破られた事など今まで無かった。看破られた事はあった。だが、完全に、正に破壊されていた。実にあっさりと。
いや、わかっている。小僧が近づいてきた時、私が知る魔力とは似て異なる、身も凍る禍々しいナニカの力の暴流に晒され、飲み込まれた瞬間に弾け飛ばされたのだ。
訳がわからない。理屈が分からない。
そもそもここまでやるつもりはなかったのだ。こちらの力を見せ付け、優位に進めようとしただけだった。ぶっちゃけ只の悪ふざけだった。サマンサが妙に私を警戒していたから揶揄っただけだ。
まあ、その訳もわかっての事だが、そんなに私が信用できないのだろうか。まあ、信用できないだろうな。フフっ。だからこっちもそれを逆手に取るつもりだったが……。
思わず舌打ちが出そうになる。計算違いも甚だしい。と言っても私の自個保有特異魔系技能では人に与える効果を想定出来ても、完全に此方のコントロール下に置くなど元々無理な話なのだが。浅い深いは勿論、ブレなどの想定はまず不可能な中途半端な出来損ない魔法ではあった。
人が有っての騙しだから。
それでも決定的に想定外だったのがお嬢さんが背負っていた魔法の杖を目にも止まらない程の素早さで手元に手繰り寄せ、よりにもよってサマンサの眉間に杖の先を押しつけ、今にも魔法を射出しようとした事だし、小僧がそれを咄嗟に察知して杖を掴み止めた事だ。
私は自分の魔法の危うさを十分理解していたというのに、対応が遅れ、あろう事か重大な事故を引き起こす所だったのを救ったのが……救ってもらったのが、あの見た目がアレな小僧だという事。
完全に失敗だ。
サマンサだけなら此方の意図も察したはずだし、奇妙な魔法の杖使いのお嬢さんは確かに強力だが、遠距離に特化してると解っていたなら対処の仕方もあった。計算違いはただ一つ、あの見窄らしい小僧という訳だ。最後まで。忌々しい。
最初に見かけた時、小僧からは、今もそうだが魔力も含め脅威に結び着くカケラはいっさい感じられなかった。だが、最初からなんの工夫もなく初見で私の“若返り”を看破ってたのはやはり可笑しい。なにか特異体質なのか?
……なにより時より私を見る目が酷くイヤラシく、舐め回す様な視線が(特に胸部を舐め回すその視線が)実に下卑だった。
今回、私の色香で小僧が怯んでくれたから助かった。たぶん小僧は熟女好きで“若返り”には興味がなく、幻術の効果が薄れていたのかもしれない。私の“幻覚”は興味を持って視線が集中すればする程に効果を増す。きっとそうなんだろう。私にはわかる。困ったものだ。やはり|奪(と)って喰おう。接吻だけでは物足りない。
いや、私が喰われるのもいいかもしれない。
酷く楽しみだ。
◇
なんて考えてんじゃないだろうなババア。っざけろよ。
と、僕は薄く目を開き。そっと周りを見渡し確認しながらグチってみる。
やはりそこは何もないガランとした倉庫内然とした場所だった。家具はチープな長テーブルが一つ。その置かれた背後の壁の数カ所が大きく抉られ斜めの陽光の帯が幾筋も差し込むのが見える。ハナの銃弾跡だ。
それだけが妙にリアルだった。
もちろん僕は壮絶脳天踵落としで意識を刈られた。生体脳は。
だから瞬時に意識は擬似脳にバトンタッチし、生身で追った傷やらを“生体再生修復魔技能”で修復して直ぐに生体脳に戻り今に至る。だから何か?
直ぐに逆襲なり脱出なりを行わなかったのは明確な考えがある訳ではなく、なんとなくだけど、冷静になると今動くのは拙いと直感的に思ったから。面倒くさくなった、じゃないよ。ホント。
それに、『(自称)お姉さんなギル長なオバサン』も最初から本格的に危害を加えようとはしてない様に思った。なにより、サチもハナも僕もまだ生きてる。
最小限の攻撃力だった。ハナには倒れる際に気づかれない様に腕に軽く触れ、蹴られた傷を瞬時に直しておいた。直す傷なんて最初から本当に僅かだったんだけどね。だから今ウンともスんとも言わずに倒れているのは、ただ単に深森から抜け出しての、その疲れから只グースカ寝てるだけだったりする。
サチはウンウン唸っているが、だって遠くて体のどこにも触れられなかったから。まあいいだろう。丈夫だし。
正直、ファーストキスがワーストキス(うまい! 上手すぎて悲しい)となった瞬間に呆然自失となり、ハナがやられ、サチが気を失った時点で如何する事もできなくなったのが最大の理由。意識のない二人を抱えての脱出は、土台無理ゲー。
それに、今も僕らを取り囲む兵隊の他に、多数の気配がこの小屋の外に満ちており、拙いかなと。
彼らと『(自称)お姉さんなギル長なオバサン』を蹴散らして外に脱出が出来たとしても臨戦態勢のギルド直属の冒険者や訓練生がわんさかと雲霞の如く湧いてくるのを蹴散らすのは、正直に不可能だ。
だからクタって気絶してるフリをしてる。ホントだよ。
なんかさ、ハナとサチはそれなりに丁寧に扱われているのに、僕だけバッチいものを扱う様に(まあ、着てるものはボロボロだし実際バッチいんだけどさ)。アメフト野郎系の兵士に粗雑に首裏を捕まれ後ろ手に縛られ、そのままゴミの様に床に転がされる。
その際、アメフト野郎はチラリと覗く僕の自我存在理由を横目で見て鼻で笑った。殺す。絶対殺すぞアメフト野郎。そして何よりやっぱり、give me おpans。
ハナとサチの“魔法の鞄”は外され、僕の“中折れ剣”も取り上げられ、“火縄銃型の魔杖”と一緒に部屋の隅に纏めて置かれる。オバサンがそれらを手に取り確かめている。
ただの棒だし、根元で折れた剣だし(宝飾は全部街に入る際に渡して無いし)、“魔法の鞄”はロックが掛けられている為に諦めて放り投げた。おいおい、大事に扱ってくれよ、壊れたらどうする。なにせ換金できる魔晶石がそれなりの量が入っているんだから。パンツが買えなくなる。
……脱出時には“魔法の鞄”だけでも回収しないとな。“中折れ剣”は……まあ、如何でもいいか。
(酷いです、ご主人さま!)
あっ、久々に喋った。
さて、如何なることやら。
(ねえ、聞いてますご主人)
―――――――――
お読み頂き、誠にありがとうございます。
よろしければ次話もお楽しみ頂ければ幸いです。
毎日更新しています。
ご笑覧いただければ幸いです。
※注
黒い◆が人物の視点の変更の印です。
白い◇は場面展開、間が空いた印です。
―――――――――
〈∮ 検索及び検証考察結果を報告。
レジストをお望みですか?
レジストが御希望でしたら眼を見開き、そのまま歩いて正面の人物に近づいてください。大丈夫です。正面の人物は実体です。
と結論 ∮〉
それはわかる。確かに正面に人の気配がする。見えている人物と実際の姿形が同じであるが。
優秀なんだか駄馬なんだか、な似非さんで、どういう理論なのかワケワカメだけど、取り敢えず眼をクワっと見開き、足を出そうとする。
カウンター越しの魔女がグワングワン大きくなったり小さくなったり斜めになったり横になったり。伸びたり縮んだり、ひしゃげたり、平衡感覚が狂いフワッフワのマットの上を歩いている様で今にも転びそうになる。足裏に意識を集中させれば確かに地面を感じるが、その他の感覚はもろに足を掬われているとしか思えなくて、思わずバランスを取ろうとする。
〈∮ 検索及び検証考察結果を報告。
転びません。掬われていません。余計な動作はそのまま本当にバランスを崩し転倒します。効果的にそう思わされているだけです。ご存知のビックリハウスと基本原理は同じです。まあ、ちょっとプレミアム感出して、アレです、映画の“MX4Dシステム”?
と結論 ∮〉
なんで疑問形。まあいいや、なら、構わず大きく足を振り出し歩を進める。
何故か魔女の周りで酷く薄く、それでいてクッキリとした幾つかの魔法陣が表れては消え、明減を繰り返す。
目の端で部屋のあちこちで同じような魔法陣が煌めき消える。至る所に仕掛けられていたらしい。やっぱりビックリハウス改めMX4D仕様のアトラクションではあったのね。
〈∮ 検索及び検証考察結果を報告。
“高高速自動読取解析及び再構築付与”【真魔眼】にて幻術魔法の魔法式をコピーしました。
と結論 ∮〉
そして呆気なくカウンターに辿り着く。絶対、金輪際、永遠に辿り着かないと思っていたのに意外とあっさりと。まあ、考えてみればオバサンとの距離は五メートルも離れていなかったんだよな。それなのに……。
「あ、本当にオバサンだった。なんで?」とハナ。
彼女も解けたらしい。
「小っちゃい角があるよ……」
如何ゆう種なのか、呆気なくレジストに成功したようだった。
「なるほどな」
と正面のオバサン(もうオバサンとしか呼んでやらん。ハナのお墨付きも得たし)。
僕らを包む威圧するような濃厚な何かは霧散していた。何事もなかったように「なるほどな」と再び納得するようにオバサン。でも、
「オバサンじゃなくてお姉さんな」
そこは譲れないらしい。
「うっせいよオバサン」
慣れないけど一応お約束だから、両手をカウンターに突き、顔を斜めに傾げてヤンキー般若ツラでメンチ切る。
その僕の唇に軽くチュッとキスをしたオバさん。
「へ……ぇ?」
「かわえーの~。奪って喰ってええかのぅ~」
僕は尻餅を付き、腰を抜かす。僕は異世界に来て最大の恐怖に震えた。そして、僕のファーストキスという名の夢想はあっさりと霧散した。僕の初めては……オバさんかぁ……。
ハナの“火縄銃型の魔杖”の連射音が響き、オバサンの体を蜂の巣にする。蜂の巣になりながらオバサンは(もうお姉さんに変わっていたけど。さすがです)ニヤリと笑う。
ハナの銃弾が『(自称)お姉さんなギル長なオバサン』の体をすり抜け派手に背後の木板壁を破壊する。そしてゆらりとその姿をかき消し、僕らの背後に再び現れると回転回し蹴りで派手にハナを蹴り飛ばし壁に叩きつけ、かえす刀でサチの鳩尾につま先をめり込ませ沈め、床に座り込む僕の脳天に踵を叩き込んだ。
意識を手放す刹那「壁を派手に壊してくれて、これは弁償してもらわなければな」酷く嬉しそうな『(自称)お姉さんなギル長なオバサン』の声が聞こえた。
〈∮ 検索及び検証考察結果を報告。
勝負に勝って試合に負けたってとこですか。
情けないですな。
それと、階段を一段上がりましたね。おめでとうございます。
と結論 ∮〉
うっせ。
◆ (『(自称)お姉さんなギルド長』の視点です)
最初から偽装は看破られていた気はしていた。でもそんなモノはほんのお遊びだった。お遊びなんだから~。
それが、本気の私の幻術を完璧に看破った上に接近まで許してしまった。
如何やってレジストした。破られた事など今まで無かった。看破られた事はあった。だが、完全に、正に破壊されていた。実にあっさりと。
いや、わかっている。小僧が近づいてきた時、私が知る魔力とは似て異なる、身も凍る禍々しいナニカの力の暴流に晒され、飲み込まれた瞬間に弾け飛ばされたのだ。
訳がわからない。理屈が分からない。
そもそもここまでやるつもりはなかったのだ。こちらの力を見せ付け、優位に進めようとしただけだった。ぶっちゃけ只の悪ふざけだった。サマンサが妙に私を警戒していたから揶揄っただけだ。
まあ、その訳もわかっての事だが、そんなに私が信用できないのだろうか。まあ、信用できないだろうな。フフっ。だからこっちもそれを逆手に取るつもりだったが……。
思わず舌打ちが出そうになる。計算違いも甚だしい。と言っても私の自個保有特異魔系技能では人に与える効果を想定出来ても、完全に此方のコントロール下に置くなど元々無理な話なのだが。浅い深いは勿論、ブレなどの想定はまず不可能な中途半端な出来損ない魔法ではあった。
人が有っての騙しだから。
それでも決定的に想定外だったのがお嬢さんが背負っていた魔法の杖を目にも止まらない程の素早さで手元に手繰り寄せ、よりにもよってサマンサの眉間に杖の先を押しつけ、今にも魔法を射出しようとした事だし、小僧がそれを咄嗟に察知して杖を掴み止めた事だ。
私は自分の魔法の危うさを十分理解していたというのに、対応が遅れ、あろう事か重大な事故を引き起こす所だったのを救ったのが……救ってもらったのが、あの見た目がアレな小僧だという事。
完全に失敗だ。
サマンサだけなら此方の意図も察したはずだし、奇妙な魔法の杖使いのお嬢さんは確かに強力だが、遠距離に特化してると解っていたなら対処の仕方もあった。計算違いはただ一つ、あの見窄らしい小僧という訳だ。最後まで。忌々しい。
最初に見かけた時、小僧からは、今もそうだが魔力も含め脅威に結び着くカケラはいっさい感じられなかった。だが、最初からなんの工夫もなく初見で私の“若返り”を看破ってたのはやはり可笑しい。なにか特異体質なのか?
……なにより時より私を見る目が酷くイヤラシく、舐め回す様な視線が(特に胸部を舐め回すその視線が)実に下卑だった。
今回、私の色香で小僧が怯んでくれたから助かった。たぶん小僧は熟女好きで“若返り”には興味がなく、幻術の効果が薄れていたのかもしれない。私の“幻覚”は興味を持って視線が集中すればする程に効果を増す。きっとそうなんだろう。私にはわかる。困ったものだ。やはり|奪(と)って喰おう。接吻だけでは物足りない。
いや、私が喰われるのもいいかもしれない。
酷く楽しみだ。
◇
なんて考えてんじゃないだろうなババア。っざけろよ。
と、僕は薄く目を開き。そっと周りを見渡し確認しながらグチってみる。
やはりそこは何もないガランとした倉庫内然とした場所だった。家具はチープな長テーブルが一つ。その置かれた背後の壁の数カ所が大きく抉られ斜めの陽光の帯が幾筋も差し込むのが見える。ハナの銃弾跡だ。
それだけが妙にリアルだった。
もちろん僕は壮絶脳天踵落としで意識を刈られた。生体脳は。
だから瞬時に意識は擬似脳にバトンタッチし、生身で追った傷やらを“生体再生修復魔技能”で修復して直ぐに生体脳に戻り今に至る。だから何か?
直ぐに逆襲なり脱出なりを行わなかったのは明確な考えがある訳ではなく、なんとなくだけど、冷静になると今動くのは拙いと直感的に思ったから。面倒くさくなった、じゃないよ。ホント。
それに、『(自称)お姉さんなギル長なオバサン』も最初から本格的に危害を加えようとはしてない様に思った。なにより、サチもハナも僕もまだ生きてる。
最小限の攻撃力だった。ハナには倒れる際に気づかれない様に腕に軽く触れ、蹴られた傷を瞬時に直しておいた。直す傷なんて最初から本当に僅かだったんだけどね。だから今ウンともスんとも言わずに倒れているのは、ただ単に深森から抜け出しての、その疲れから只グースカ寝てるだけだったりする。
サチはウンウン唸っているが、だって遠くて体のどこにも触れられなかったから。まあいいだろう。丈夫だし。
正直、ファーストキスがワーストキス(うまい! 上手すぎて悲しい)となった瞬間に呆然自失となり、ハナがやられ、サチが気を失った時点で如何する事もできなくなったのが最大の理由。意識のない二人を抱えての脱出は、土台無理ゲー。
それに、今も僕らを取り囲む兵隊の他に、多数の気配がこの小屋の外に満ちており、拙いかなと。
彼らと『(自称)お姉さんなギル長なオバサン』を蹴散らして外に脱出が出来たとしても臨戦態勢のギルド直属の冒険者や訓練生がわんさかと雲霞の如く湧いてくるのを蹴散らすのは、正直に不可能だ。
だからクタって気絶してるフリをしてる。ホントだよ。
なんかさ、ハナとサチはそれなりに丁寧に扱われているのに、僕だけバッチいものを扱う様に(まあ、着てるものはボロボロだし実際バッチいんだけどさ)。アメフト野郎系の兵士に粗雑に首裏を捕まれ後ろ手に縛られ、そのままゴミの様に床に転がされる。
その際、アメフト野郎はチラリと覗く僕の自我存在理由を横目で見て鼻で笑った。殺す。絶対殺すぞアメフト野郎。そして何よりやっぱり、give me おpans。
ハナとサチの“魔法の鞄”は外され、僕の“中折れ剣”も取り上げられ、“火縄銃型の魔杖”と一緒に部屋の隅に纏めて置かれる。オバサンがそれらを手に取り確かめている。
ただの棒だし、根元で折れた剣だし(宝飾は全部街に入る際に渡して無いし)、“魔法の鞄”はロックが掛けられている為に諦めて放り投げた。おいおい、大事に扱ってくれよ、壊れたらどうする。なにせ換金できる魔晶石がそれなりの量が入っているんだから。パンツが買えなくなる。
……脱出時には“魔法の鞄”だけでも回収しないとな。“中折れ剣”は……まあ、如何でもいいか。
(酷いです、ご主人さま!)
あっ、久々に喋った。
さて、如何なることやら。
(ねえ、聞いてますご主人)
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よろしければ次話もお楽しみ頂ければ幸いです。
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