半径1メートルだけの最強。

さよなきどり

文字の大きさ
42 / 129
第四節 〜ギルド〜

042 わかってないのは、わたしかぁ。

しおりを挟む
“遷《うつり》”ってなに? 
魔王って、アッシュって?……のお話しです。
やっぱり大変なんです。大人は何かと。

 
 ◆ 引き続き『ギルド長』の視点です。
―――――――――

 それが千年前。その後に徐々に新たな勢力が生まれ、混沌 カオスから長い年月を経て小さな勢力が生まれ、今の各国家に繋がる。
 その初めから落国の民アッシュは見続けていた。魔王討伐戦、その後の人々の滅びと復活を。


 落国の民アッシュは冒険者ギルドを立ち上げ、魔晶石の収集から魔導具用の原動力の供給、そして造幣、中央銀行業務とその職種を増やしながらその黎明期より各国の設立に携わる事となる。
 その事実を、大陸の人間種は知らない。いや、知っていたとしても認めない。落国の民アッシュだから。

 現在、如何いかにしてこの地に“花魁蜘蛛クイーン”が大量に生息する事となり、それをキマイラが二年に一度だけ大量に群れ襲ってくるのか、その理由は解かっていない。
 しかしながら、弱いキマイラが強いネームドに群れて襲う理は一千年の昔の対魔王戦争の時代からそれは変わらない。そう“システム”に組み込まれていると。多くの“システム”が壊れている現在であったとして。

 可笑しな事に、現況、“システム”が何を示す言葉なのか、どんな意味があるのかは伝わっていない。誰にも。
 言葉だけが残っている。失われた古の言葉。一般では魔法行使の際の呪文に僅かに残っているのみとなっている。皆、意味も分からずに使っているが。

 嘗ての“遷《うつり》”は決して怖いイベントではなかったと言う。逆にほふった“カトンボ”から採取する大量の素材で街は潤うほどで、晩秋に行う豊穣の祭りの終幕としてのイベント扱いだったらしい。
 古い時代では正しく楽しく、明るい、お祭りだった。伝承では。

 嘗ての豊穣の祭りは秋分から最初のカトンボ”襲来の一匹が現れる迄の期間の事を謂う。最初のカトンボから九日後にスタンピートは始まり、朝から晩までの三日間続く。人々は八日間でカトンボ撃退の準備を整え、手に手にカトンボ撃退の絶対武器“羽竜落とし”を携え、その年最後の天からの恵みに感謝し、街の繁栄と守護を誓った。
 今は違う。

 年々“溜まりの深森”からの魔物襲来の回数と強さが倍増した。特に豊穣祭の時期をピークとして。なにより、決定的だったのが肝心の古代尊遺物レリクトである“筒様保持式実包射出魔導兵装一型羽竜落とし”がある年を境に急に謎の動作不能故障が増え、その数を減らし続けた事にある。単純に壊れて、修理も出来ないまま破棄され続けた。そしてある年に“花魁蜘蛛クイーン”は勿論、防衛にあたった人に死人が出てしまった。そしてその数はやはり年を経る毎に増え続けた。
 何より決定的な瑕疵は、の街にアノ男爵が新領主として転封してきた事に始まる。


 今では収穫祭を行うことはない。ただ怯えるだけ。 
 最初の一匹が現れると同時に一般の住民は持てるだけの食糧を抱え、街から逃げ出す。それまでは余分な、持って行けない食糧、魔物肉を街中で一斉に焼き、これから始まる逃避行に備えた体力の補充に専念する。加えて今年こそ全てを失うかもしれない恐怖をその身に抱えて。

 現在、実在する筒様保持式実包射出魔導兵装一型羽竜落としはたったの六十一丁のみ。かつてはギルドだけではなく、街の男衆の大半に行き渡るほどの数が揃っていたと伝えられているが、今は見る影もない。
 私が街のギルド長に就任する四年前には既に男爵に高架高速鉄軌道駅機能及び運航諸事管理運営権を奪われ、その防衛の為として、そのうち五十丁を奪われている。手元には十一丁。いや、昨年二丁が壊れ、現在は九丁のみとなった。

 そんな街の立て直しという建前で私は派遣されてきた。元“総会頭付き警護部実働部隊長”だった“赤鬼ゲート”と共に。しかしもう出来る事は何もなかった。
 最初からだけど。元“中央銀行局 財務金融統括副頭取 兼 紙幣変換事業実行責任部長”であった私では。

 元の総会頭の改革事業の中核として、れから不足していくであろう魔晶石製の硬貨から、より利便性且つ大量生産可能な紙幣への変換事業を行なっていたが、新総会頭により改革は破棄され、改革派ど真ん中だった邪魔な私は閑職へと追いやられ、流れ流され、今が辺境国家の一地方のギルド支部のその末端であるこの街のギルド長だ。
 色々諦めるには時間が掛かったが、今は“ギルド長”の仕事を気に入っている。嘗て誇った独立性と双方不介入の誓いも失い、今では地元領主様の顔色を伺わなくては遣って行けない迄に腐っていたとしても。多分、“赤鬼ゲート”も。
 諸問題諸々だが、れももうすぐ終わりになる。
 残念だが。ひどく残念だが。


「おい、能なし魔物屋ギルド、聞いているのか? ほんとにお気楽でいいよな、壁の外で魔物を狩ってればいいんだからよ」
 と、立番の衛士が私に向かいニタニタ顔で私を蔑んでいた。
 私はゆっくり顔を向けてソイツを見る。何を言っているの?

 落ちてきた“カトンボ”に直撃された者は居なかった。でも“それ”は未だ生きていた。でも動かない。虫の息と侮り止めを刺そうと不用意に近づいた幾人かが突然の“それ”の逆襲により一瞬で薙ぎ倒された。
 死に至った者は皆無であったものの、全員がなにがしらの怪我を負ったと言う。魔物は死の一歩手前が一番手強く厄介だ。そんな、魔物を狩ることを生業とする者なら当然の常識だったが、領兵は知らなかったらしい。さもありなん。

「おい、解ってるのか? お前らが勝手に“カトンボ”を落としたせいで俺の同僚は足を千切られたんだぞ。まあ、そいつは普段からムカつくヤツだったから結果オーライだけどな。ざまあ無いよな、ウッケヘフェッヘフェッヘフェッヘフェッヘ」

 ちょっと待って、本当に何を言っているの? ちなみに最後のカタカナ擬音はコイツの笑い声で、なんというか、すごく残念になっている。黙ってただ立っていれば……、最初から残念だったわね。いまさらか。

 そんなことよりも、この男……本当にわかっていないのか? この街が今まさに“遷”うつりに入ろうとしているって事を。
 そもそも“遷”うつりに関係なく街壁を超えて侵入してきた魔物は見つけ次第の討伐が鉄則だ。冒険者も衛士も騎士も領兵も市民も関係なく。それが空を飛んで来たとしても。落とせるなら落とす。見逃していたのは空を飛ぶ相手に対し、単に落とす手段がなかったからだ。

 でも、ああ、なるほど。
 口の横から漏れるような変な声で笑う領主子飼いの衛士の顔を見て納得する。まぁ、そうなんだろうな。
 わかってないかぁ、そうなんだな。

 わかってないのは、わたしかぁ。

 何が可笑しいのかまだ変な声で笑っている衛士から意識を外し、改めて視線を正面に向ける。それにしても、なんて美しい館なのだろうか。
『ゴリョウカク』とか『ザンゴウ』とか謎の機能を持たせた要塞であると領主は私に自慢していたが、下から仰ぎ見るそれは、厳しさより白く輝く数基の尖塔が聳える、ただただ美しい宮殿だった。
 領主様はゲスでゲロだが、美的感覚だけは秀逸だ。昔から。

 今は傾き落ちつつある夕日に照らされ、紅く染まろうとしている。群青と深藍色のグラデーションの空に縁取られて。まるで夢の世界のよう。……夢の世界か。

 目の前の美しい夢の世界を形造るのに、いくら掛かっているんだろうか。魔物狩って“魔晶石”をどれ位を掻き集めれば、或いは“蜘蛛の糸”をどれ程に紡げばいいんだろうか。
 加えてゲロゲス男爵はこの館を二年弱で建設した。尋常ならざる速さだった。
 税金も跳ね上がった……。

 あの小僧ならどうするだろう……。

 なんだ?
 正面の“美しき夢の世界”を眺めながら唐突に『小僧なら』との問いが浮かんだ自分自身に本心で驚く。何故なぜだ? なぜそんな愚問が。
 そしてイラつく。唐突に猛烈に。



―――――――――
お読み頂き、誠にありがとうございます。
よろしければ次話もお楽しみ頂ければ幸いです。

毎日更新しています。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

事務仕事しかできない無能?いいえ、空間支配スキルです。~勇者パーティの事務員として整理整頓していたら、いつの間にか銅像が立っていました~

水月
恋愛
「在庫整理しかできない無能は不要だ」 第一王子から、晩餐会の場で婚約破棄と国外追放を告げられた公爵令嬢ユズハ。 彼女のギフト【在庫整理】は、荷物の整理しかできないハズレスキルだと蔑まれていた。 だが、彼女は知っていた。 その真価は、指定空間内のあらゆる物質の最適化であることを。 追放先で出会った要領の悪い勇者パーティに対し、ユズハは事務的に、かつ冷徹に最適化を開始する。 「勇者様、右腕の筋肉配置を効率化しました」 「魔王の心臓、少し左にずらしておきましたね」 戦場を、兵站を、さらには魔王の命までをも在庫として処理し続けた結果、彼女はいつしか魔王討伐勇者パーティの一人として、威圧感溢れる銅像にまでなってしまう。 効率を愛する事務屋令嬢は、自分を捨てた国を不良債権として切り捨て、再出発する。

ペット(老猫)と異世界転生

童貞騎士
ファンタジー
老いた飼猫と暮らす独りの会社員が神の手違いで…なんて事はなく災害に巻き込まれてこの世を去る。そして天界で神様と会い、世知辛い神様事情を聞かされて、なんとなく飼猫と共に異世界転生。使命もなく、ノルマの無い異世界転生に平凡を望む彼はほのぼののんびりと異世界を飼猫と共に楽しんでいく。なお、ペットの猫が龍とタメ張れる程のバケモノになっていることは知らない模様。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

愚者による愚行と愚策の結果……《完結》

アーエル
ファンタジー
その愚者は無知だった。 それが転落の始まり……ではなかった。 本当の愚者は誰だったのか。 誰を相手にしていたのか。 後悔は……してもし足りない。 全13話 ‪☆他社でも公開します

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

【完結】私が愛されるのを見ていなさい

芹澤紗凪
恋愛
虐げられた少女の、最も残酷で最も華麗な復讐劇。(全6話の予定) 公爵家で、天使の仮面を被った義理の妹、ララフィーナに全てを奪われたディディアラ。 絶望の淵で、彼女は一族に伝わる「血縁者の姿と入れ替わる」という特殊能力に目覚める。 ディディアラは、憎き義妹と入れ替わることを決意。 完璧な令嬢として振る舞いながら、自分を陥れた者たちを内側から崩壊させていく。  立場と顔が入れ替わった二人の少女が織りなす、壮絶なダークファンタジー。

処理中です...