半径1メートルだけの最強。

さよなきどり

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第五節 〜ギルド、さまざまないろ〜

050 ジョーカーを押し付け合い、

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VS 赤鬼ゲート決着です。 そして“誰か”が顕現します。
平伏せ、下民共! です。
ご笑覧いただければ幸いです。
※注
黒い◆が人物の視点の変更の印です。
白い◇は場面展開、間が空いた印です。
―――――――――

 此処ここまでならまだ、なんとかなった。
 最悪で決定的なのが。


 小さなズレはそのまま回収される事はなく、形を変え何時いつ迄もズレ続け、双方を行き来する。ジョーカーババを押し付け合い、最後に手に残った方が敗者だ。

 経験と練度とは即ち負を逆に正に転嫁する業。
 互いがすれ違い振り返ってゲートは上段からの振り落とし、対、僕は下段からの擦り上げ。
 
 ゲートの振り落としは僕が“斥力”で弾いた分の力を筋肉の最大値で反発に転換し、反転の理論で勢いを増幅させる。
 今まで培った経験と練度が無意識に殺傷という最適解を導き、結果、棍棒の速度は囲を。少なくとも、想定より数センチは振り下げてしまう。

 反対に僕の擦り上げの剣は勢いを弾いた分だけ減速。素人だし、“斥力”の連続使用でエネルギーの収支が合わなくなりマイナス側に振る。
 一拍の遅延。僕の剣は防御に。結果は無防備な頭を晒す。かち割りコース一直線。

ジョーカーババを弾き抜かせてしまったのは僕。
ジョーカーババを手元に残してしまったのはゲート。
どっちだろうか。

「あ、不味い。タイミング最悪じゃね」
 流石に脳髄ぶち撒きからの回復魔法での生き返り復帰はやってみないとわからないけど、ちょっと自信ない。詰んだかも。

 赤鬼も自分の振り落としが危険な速度であり、間に合わない事を悟り、驚愕に顔を歪める。だからアレほど言ってたじゃん。ちゃんと寸止めしてくれるんだろうねって。それを今更。


 僕の頭が弾け飛ぶ直前、頭と5ミリを残して棍棒が空中で止まっていた。その棍棒には四方八方から何十と伸ばされ絡まった純白の糸に絡みつかれ、それが結果、棍棒の勢いを止め、その場に縫い止めていた。

 何だ? でも空中に縫い止めた糸が蜘蛛、それも“花魁蜘蛛クイーン”の白糸だと。見間違えるはずがない。これはアノ糸だと俺は理解する。
 理解した瞬間、背中に雷撃の如く悪寒が走り、周りを見回す。先ほどまではギルド兵が囲っていた筈が、今は無数の蜘蛛、蜘蛛、蜘蛛、見回す限り隙間なく蜘蛛が僕らを取り囲んでいた。
“忌溜まりの深森”で受けた恐怖と苦痛と屈辱が俺を錯乱させる。錯乱の中でただ思うこと。ハナは? サチは? 二人の姿を探す。いない。

 いない?!

 体の芯が急激に冷却し、逆に感情が制御出来ない程に急上昇する。リミッターが外れるカチリと鳴る音が響く。

〈 ∮ 検索及び検証考察結果を報告
 “魔王”顕現します。
 と結論 ∮ 〉

 剣鉈ナイフより伸びた魔力素粒子アルカナの刃を“具現化”にシフト、アルミニウム粉末と酸化鉄を常に放出し続ける事でテルミット燃焼爆発状態を常に維持する摂氏六千度の刀身を出現させる。

 赤鬼の棍棒に絡みついた蜘蛛糸を棍棒共に両断する。
 バチバチと五月蝿い、白濁する光り輝く剣を振り上げ、
「蜘蛛ごときが我を愚弄するか」
 今、振り落とす。

 俺の体に抱きつく何か。
「ハム君、私は此処ここにいるよ。落ち着いて、大丈夫だから。大丈夫だよ」

「……ああ、ハナ、そこに居たのか。心配したぞ、大丈夫か?」

「私は大丈夫だよ。サッちゃんも」

「そうか、安心したよ」
 そのまま僕は気を失った。
 約束の十秒が切れたんだ。

 僕とハナを囲むこの地ギルドに住まう無数の蜘蛛、蜘蛛、蜘蛛、見回す限り隙間なく蜘蛛が僕らを取り囲んで、こうべを垂れていた。

 『我らは悠久の契りにより、我が主、魔王様に忠誠を誓う者なり』

 意識のない僕の頭に響いていた。いつまでも。

 だから、聞こえません聞いてません。

 ◆ (『委員長系ギル長』の視点です)

 小僧が喋っていた内容は、まぁその通りだし、とった行動だってこちら側の者が仕出かした事の結果であり、逆に謝罪すべき事ではあるのだけど……。いくら何でも小僧、ムカつくんだよ。
 あの尊大であまりにも上からの物言い。もっとこう、角が立たない言い方ってモノがあるだろうが。逆に煽ってるとしか思えない。

 ほら、の憎々しげな眼差し。これから共闘していかなくては成らないというのに……。まずい。不味いと思いながらもやっぱりムカツク。

 そんな時にの令嬢が小僧とゲートの試合を宣言した。
 まずい、不味いよ。これからは協力して“うつり”に対応していかなければならないのに。それなのに達は拳を振り揚げて叫び、ゲートと小僧の周りを囲み始める。何故か私も叫びながら拳を振り揚げていた。

「ぶっ倒せゲート!」
 叫んでいた。すごく気分が高揚していた。

 ふと、例の令嬢の顔が視界の端に映る。
 それは慈愛と、悪戯っ子とが混ざり合った、不思議な笑みを浮かべていた。直ぐに人影に隠れて見えなくなったが、目で追って離せなくなるほど蠱惑的ではあった。


 掌を握り込む。
 一見するとゲートが有利。となるが本当にそうだろうか。何より、あれ程に真剣に戦いに集中した顔を久しく見せていなかったゲートが。
 何よりあのスピード、ゲートのマックスだ。驚くほど速いが、長くは続かないのに。加えてトップスピードから棍棒を地面に叩きつけ瓦礫を飛ばす技はゲートの最上級の決め手だ。
 決して綺麗な技ではなく卑怯な搦手だと、あまり使いたがらないのに、連発している。出し惜しみはしない気なゲート。そしてその全てをなし、戦闘を続けていられる小僧。

 最初はただのエキシビションだったはずなのに。
 アッ、まただ、小僧のあり得ない動き。一瞬だが目が追うのと反対の方向に瞬間移動する。ほんの僅かだけど、でも。

 間違いなく押しているのはゲート。追い込まれているのは小僧。それは間違いないのに、何かを必死で手繰り寄せようと、相手には決して渡しはしないと足掻く様があまりにも苦しそうで、見ているこっち迄が息が詰まる。ゲート、頑張って……。

 瞬間、ゲートと小僧の体がブレる。目で追えない。
 火花だけが散る。
 ゲートと小僧がもう一段速度を上げたんだ。決めにきた。


 意識が一瞬だが混濁する。
 えッ、何が起こった? 視界に茶色の壁が半分だけそびえている。違う、これは地面だ。砂が頬を噛む感覚。私は倒れている? 起きあがろうとするが背中と頭を強く押し付けられ動かす事さえ出来ない。
 何とか視線だけを上げ周りを確認する。蜘蛛だ。蜘蛛? 無数の蜘蛛、蜘蛛、蜘蛛、見回す限り隙間なく純白銀色な蜘蛛が私達を取り囲んで、制圧していた。蜘蛛達に押しつぶされ、埋没している。なんで?

 前方で爆発的な光が発生する。直視はしてないのに視界一杯が眩しさで白濁する。そして、熱い! 肌に刺さる重く鋭い大量の熱量を感じる。

 私の白銀だけで満ちた視界の前を細く綺麗な足が駆け抜ける。

「ハム君、私は此処ここにいるよ。落ち着いて、大丈夫だから。大丈夫だよ」

「……ああ、ハナ、そこに居たのか。心配したぞ、大丈夫か?」

 そして頭の中に響く、数多くの声が重なったおごそかなつづり。

 我らは悠久の契りにより、魔王様に忠誠を誓う者なり。


 しばらくして“花魁蜘蛛クイーン”の群れは私達の背から降り、静々と自らの居住場所であるギルドを囲む壁の中に消えていく。それを私達は黙って見送るしかなかった。だって、こんな事、何が起こったの? 分からない。

 元々、この地は“花魁蜘蛛クイーン”と人間が共存する“地”だった。
 ギルドを囲む壁は厚み3メトル、どのような仕組みでれ程迄の堅牢性が維持されているのか不思議ではあるが、内部は空洞になっており、蜘蛛の住処となっている。
 元々壁があり、蜘蛛が住んでいた。
高架鉄軌道とギルドの壁、どちらが先に建造されたかは不明だが、ほぼ同年代と考えられている。

 遥か昔、の地が国として成り立つ以前の、今は忘れられた御伽噺。

 一匹の“花魁蜘蛛クイーン”と一人の落国の民アッシュが至り、糸を採取する術を伝え、人々の日々の糧とした。やがて蜘蛛も増え、人も増え、共存体が街となった。

 元々壁があってちょうど良いと蜘蛛が住まったのか、はてさて蜘蛛の為に壁を造ったのか。それは分からないし問題じゃない。
 壁が囲んだ敷地をキルドとして独立した地であると、歴代の土地の領主に或る時は戦で、或る時は経済で屈服させ、蜘蛛を守り、人々は発展していった。そして今に至る。

 それがの街と我ギルドの成り立ちだ。
 大陸のギルドはの街から始まった。街の名前はサガン、元々は『サーガ』と呼ばれていた。“ありのままを述べる”という意味らしい。


 ◇

 気を失っていたのは僅かな時間、似非大賢者様が算出した三分よりは短いと思う。身体崩壊から、治癒魔法での完治までの時間だ。でも気を失うとは聞いてなかったけどな。
 そんな事より大事なのは目を閉じていた三分弱で随分と変わってるって事だ。

 まず第一は僕がハナの膝枕で空を眺めているってこと。
 それはまぁいいや。

 ?! よくない!
 慌てて頭を上げようとする僕をハナがそっと押しとどめる。
「だってその顔!」

「大丈夫だよ。大丈夫。何時ものことでしょ? それに直ぐにハム君が治してくれるでしょ」

 僕は震える腕を伸ばし、そっと、ハナの顔半分、目の横から頬にかけての焼け爛れ、崩れたそれを掌で覆うように触れる。
「ごめんな、痛いよな」

 そう、僕がパニックってテルミット状態を維持する魔剣を出現させたせいだ。そりゃ六千度が側にあれば触れてなくても火傷ぐらいする。よくぞ溶けて無くならなかったとも思う。
「何時ものことだよ。気にしないで」
 ハナの手が、僕の伸ばした手を包む。

 “溜まりの深森”を抜けた。抜けたのだけれども、僕もハナもサチも全て無傷でって訳じゃ勿論ない。腕が半分千切れるなんて事もあった。それが時たまではなく日常だった。そうだ、何時もの事だ。わかってはいるが、到底慣れない。
「ごめんよ」

 あの時、ハナとサチの姿が見えない事にひどく焦ってしまった。赤鬼と戦闘中であったが、あんなに多くの蜘蛛の接近を許してしまった事に少なからず驚きを隠せない。今思えば、殺気とか、こちらを排除するべき“敵”認定された時のヒリヒリ感が希薄だったように感じる。それとは別の……蜘蛛?
 そうだ蜘蛛だ! あの蜘蛛は何処に行った? って、そもそもあの蜘蛛はなんだったんだ?



―――――――――
お読み頂き、誠にありがとうございます。
よろしければ次話もお楽しみ頂ければ幸いです。

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