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第七節 〜遷(うつり)・初茜(はつあかね)〜
088 兵士のプリンシプル(原則)4
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85 86 87 88 は“遷”『最初の一時間』迄の、“ひと綴りの物語”です。《その4》
ご笑覧いただければ幸いです。
※注
黒い◆が人物の視点の変更の印です。
白い◇は場面展開、間が空いた印です。
―――――――――
「な、なんだよう。やめてくれよぅ」
おっと、怒りに駆れ撃ちすぎた。
軌道を変え、硬い床に激突した何匹かは下に落ちたが、三匹のカトンボが擁壁上に留まっている。死んでいるのかわからないが、動いてはいない。流石に目を回しているのか。でも横たわったカトンボの陰に隠れ、シヅキ達二人への襲撃は止まっていた。こちらは相変わらずだが。
僕らに襲い掛かるカトンボを半自動で片手盾で弾きながら、横たわるカトンボの魔晶石を打ち抜き泡と変えていく。シヅキ達二人と待機壕との経路は確保できたが、僕らとシヅキ達二人の間には魔晶石との射線が通らない一匹が残ったまま残っていた。
「気づいたか、シヅキにポーションを飲ませろ」
「な、なんでシヅキが倒れているんだ?」
コ、コイツ、とんでもないな「いいからポーションをの飲ませろ」
テッパチの端に再度弾丸を撃ち込み言うことを聞かせる。
「でも、き、気を失ってて飲ませられないよ」
コイツ……「いいから、口の中に流し込め、肺に入ったってそのまま溶けて血液に染み込む。体内に送り込めればいい。それが基本だろうが」
慌てて抱きかかえ、口に流し組む。でも変化はない。胴体突貫の余波で潰した右腕の治癒も始まらない。やはり心臓が止まっている。
心臓が止まっていれば幾ら治癒ポーションを飲ませても効き目は無い。血液が循環していないから。それはもう死んでいるから。たぶん、心臓は潰れている。
「何だよ、ポーション効かないじゃないかよ。腐ってんじゃないのか。ダメなのか、おいおい、息してないよ。息が止まってるよ! 死んじゃったんかよー!」
原因が叫んでいる。煩い。でもカトンボは寄ってこない。自分への恐怖ではないからだろう。今はいい。ただ煩いから黙ってろ。
……まだだ、直後なら、脳に損傷が起こる前に再び心臓を再稼働出来れば。その為の奥の手は有る。
“魔力的修復除細動”。
破損した心臓を自身の治癒能力に頼らない独自魔法陣章により直接修復させ、血液を流すポンプ機能を魔力的ショック波動にて正常なリズムまでもどす。血液に染み込んだ治癒ポーションを身体に強制的に廻す荒業だ。でも充分可能だ。
その為に個人々々のDNA情報を折り込んだワンオフの魔法陣章が組み込まれており、後はそこに魔力を流し込めばいい。実は兵站班のタクティカル・ベストのみに装備されている。
本当に時間がなくて、特に個々のDNAを解析して魔法陣章に写し込むのと、専用魔力源とをリンクさせるのが本当に難しいのだそうだ。言っている意味はほとんど全部不明だったが。何より、装備に組み込むのを躊躇したのは、チョットした倫理観かららしい。
「死者を蘇らせて、もう一度戦ってこいって、あんまりじゃね。まあ、最初に戦争行って殺してこいって命令するのも大概なんだけどね」
「クー!」
僕は“魔力充填ポーションの元であるシヅキ専用の子蜘蛛の個体名を明示し、緊急実行コマンドを叫ぶ「AED作動!」
いいよ、倫理感ぶっ壊れてても非人道的でも。生き返ってくれれば。
本当に厄災はやってくれる。
「な、なんでこんなところに虫が!」
シヅキの腰に張り付いていた子蜘蛛が擬態を解き、身体を這い、胸の所定の位置で魔力を発すればAEDの魔法は作動する。すごく簡単だった。
それを厄災が掴み投げ捨てた。全く持って、その後の展開もだが、出来の悪いコントを見ているようだった。
投げ捨てられた先が横たわるカトンボの頭部だった。気絶をしていたはずが、目の前に現れた自分の絶対的な殺戮対象である蜘蛛に、本能で目覚めたのか、四角く横に開く有機的な牙四本に噛み砕かれた。そのまま頭を上げ、僕らに向かって咆哮する。
実際、厄災の間に壁として立ちはだからなかったら、厄災の眉間に弾丸を撃ち込んでいた。だからといって、冷静になれたかと言えばそんな事はこれっぽっちも無かったが。
アサルトライフルから単発式の“投網”に持ち替えて引き金を絞る。至近距離で外すこともなく絡め取る、そのまま「付いてこい」ダッシュで距離を詰める。射手は僕の意図に気づいてくれたのか遅れずに従がってくれた。何気に優秀だった。最初からこれを強行してればよかった。
渾身のシールドバッシュをぶちかます。カトンボが吹っ飛んで落ちていく。
その勢いそのままで厄災の横っ面に足刀蹴りをかます。吹っ飛ぶ。不味い不味い。射手くん付いてきて。
ヤツに近寄る。良かった、まだ意識がある。意外と丈夫。これなら壊し甲斐がある。僕の足下の厄災の手足に弾丸を撃ち込み自由を奪う。最初の蹴りで顎をイワしたせいか、アウアウただ虫のように蠢く。
「選べ。このまま元の盾役として此処に残りカトンボと対峙し続けるか……」
気づいたが、顎が壊れてて喋れないんだ。僕はポーションをヤツの口に突っ込む。途端に治る。ムカッとする。完治するんだコイツは。
「お。俺が何をした。オレが悪いんじゃない。無理なんだよ、こんな無謀な戦争に連れ込んだ上が悪いんだ、俺は巻き込まれただけだ」
僕はアサルトの銃口を上げる。途端に踵を返して逃げようとする。僕は両足のアキレス腱と膝裏を撃ち潰す。
「残念。今オマエは兵士の原則を破った。味方を置いて逃げた敵前逃亡罪だ。喜べ、僕は最前線の最上級指揮官としてオマエの生死与奪権を得た。そしてありがとう。
オマエの選べる選択は二つ。個々で処刑されるか、シヅキを抱えて下の救急集中治療室に運びハムさんに後事を託すか」
「ハム? なんであの小僧が今」
僕はヤツの口に靴先を突っ込んで黙らせる。
「クソは喋るな。喋るとカトンボ共が寄ってくる。クソは黙って言うことを聞くか、このまま死ぬか。こんな具合に」
タクティカル・ベストの鳩尾に一発ブチ込む。ヤツの顔が苦痛で歪む。
「知ってるか、その上着は弾丸を三・四発撃ち込まれたぐらいじゃ死なないらしい、気絶するだけだ。でも計算では六発目でぶち抜かれて死ぬらしい。では実験しよう」
僕は鳩尾に二発目をブチ込む。三発目、四発目、時間を掛けて。五発目迄耐えた。さすが資質ナンバーワン。
最初はコイツをもう一度盾役に復帰させ。僕がシヅキを連れて行こうと思ったが、無理だと気づいた。僕も此処を離れる訳にはいかない。責任がある。コイツでは此処を支えきれない。
二の舞だ、遺憾ながらコイツしかいない。でも時間がない。それでも僕は何度も失敗した。失敗しすぎた。ここで、最後に失敗する訳にはいかない。絶対に。
ポーションでヤツを治療して起こす。あれ、折れた歯はそのままで治っていない。歯は欠損判断か。ちょうどいい。コイツが喋ると碌な事がない。僕は手足を撃ち潰す。そして先程と同じ鳩尾に一発。
「さて、今度は何発耐えられるかな。気絶した後、次に本当に目覚められるとは思わないことだな。では行くぞ」
ヤツの顔が恐怖に染まる。チョット気持ちいい。まあ、叫ばなければいいよ。
ポーションで治療して起こし、ヤッパリ手足を撃ち潰す。
「おはよう。僕の命令は絶対だ。僕の命令に背いたら今度は本当に殺す。背いて逃亡したなら何処にいようと見つけ出して殺す。
家族も殺す。オマエの周りの人間をすべて殺す。
では命令を改めて言い渡す。シヅキを抱えて下の救急集中治療室に運びハムさんに後事を託せ。
それ以上でもそれ以下でも他の行動はするな。余計なことはするな。シヅキを丁寧に扱え、生きている人間と同じように。そして素早く行なえ。全てを三分以内で行え、時間がないぞ」
脳組織が重篤な損傷を負う前に。
何でも卒なく熟すが全てが中途半端な器用貧乏な僕。子供の頃からそうだ。人間としても、ギルド兵士としても何処まで行っても二流のまま。それを『クソ判断力とナマイキ冷静さ』なる曖昧なものだけで班長にしやがった。そしてシヅキを付けてくれた。
その判断力も冷静さもやっぱり中途半端な二流だったのか。
……すみません。
しばらくして他の兵站班が駆けつけてくれた。皆大変な目にあったようで、憔悴した顔をしていた。僕の顔もそんなもんだろう。
「ここのユニットの盾役を代わってくれ。僕は総合的な運営管理に戻る。まだ、諦める訳にはいかないんだ。そして……シヅキは必ず戻る」
気づけば、最初の一日目の最初の一時間を超えていた。
―――――――――
お読み頂き、誠にありがとうございます。
よろしければ次話もお楽しみ頂ければ幸いです。
ご笑覧いただければ幸いです。
※注
黒い◆が人物の視点の変更の印です。
白い◇は場面展開、間が空いた印です。
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「な、なんだよう。やめてくれよぅ」
おっと、怒りに駆れ撃ちすぎた。
軌道を変え、硬い床に激突した何匹かは下に落ちたが、三匹のカトンボが擁壁上に留まっている。死んでいるのかわからないが、動いてはいない。流石に目を回しているのか。でも横たわったカトンボの陰に隠れ、シヅキ達二人への襲撃は止まっていた。こちらは相変わらずだが。
僕らに襲い掛かるカトンボを半自動で片手盾で弾きながら、横たわるカトンボの魔晶石を打ち抜き泡と変えていく。シヅキ達二人と待機壕との経路は確保できたが、僕らとシヅキ達二人の間には魔晶石との射線が通らない一匹が残ったまま残っていた。
「気づいたか、シヅキにポーションを飲ませろ」
「な、なんでシヅキが倒れているんだ?」
コ、コイツ、とんでもないな「いいからポーションをの飲ませろ」
テッパチの端に再度弾丸を撃ち込み言うことを聞かせる。
「でも、き、気を失ってて飲ませられないよ」
コイツ……「いいから、口の中に流し込め、肺に入ったってそのまま溶けて血液に染み込む。体内に送り込めればいい。それが基本だろうが」
慌てて抱きかかえ、口に流し組む。でも変化はない。胴体突貫の余波で潰した右腕の治癒も始まらない。やはり心臓が止まっている。
心臓が止まっていれば幾ら治癒ポーションを飲ませても効き目は無い。血液が循環していないから。それはもう死んでいるから。たぶん、心臓は潰れている。
「何だよ、ポーション効かないじゃないかよ。腐ってんじゃないのか。ダメなのか、おいおい、息してないよ。息が止まってるよ! 死んじゃったんかよー!」
原因が叫んでいる。煩い。でもカトンボは寄ってこない。自分への恐怖ではないからだろう。今はいい。ただ煩いから黙ってろ。
……まだだ、直後なら、脳に損傷が起こる前に再び心臓を再稼働出来れば。その為の奥の手は有る。
“魔力的修復除細動”。
破損した心臓を自身の治癒能力に頼らない独自魔法陣章により直接修復させ、血液を流すポンプ機能を魔力的ショック波動にて正常なリズムまでもどす。血液に染み込んだ治癒ポーションを身体に強制的に廻す荒業だ。でも充分可能だ。
その為に個人々々のDNA情報を折り込んだワンオフの魔法陣章が組み込まれており、後はそこに魔力を流し込めばいい。実は兵站班のタクティカル・ベストのみに装備されている。
本当に時間がなくて、特に個々のDNAを解析して魔法陣章に写し込むのと、専用魔力源とをリンクさせるのが本当に難しいのだそうだ。言っている意味はほとんど全部不明だったが。何より、装備に組み込むのを躊躇したのは、チョットした倫理観かららしい。
「死者を蘇らせて、もう一度戦ってこいって、あんまりじゃね。まあ、最初に戦争行って殺してこいって命令するのも大概なんだけどね」
「クー!」
僕は“魔力充填ポーションの元であるシヅキ専用の子蜘蛛の個体名を明示し、緊急実行コマンドを叫ぶ「AED作動!」
いいよ、倫理感ぶっ壊れてても非人道的でも。生き返ってくれれば。
本当に厄災はやってくれる。
「な、なんでこんなところに虫が!」
シヅキの腰に張り付いていた子蜘蛛が擬態を解き、身体を這い、胸の所定の位置で魔力を発すればAEDの魔法は作動する。すごく簡単だった。
それを厄災が掴み投げ捨てた。全く持って、その後の展開もだが、出来の悪いコントを見ているようだった。
投げ捨てられた先が横たわるカトンボの頭部だった。気絶をしていたはずが、目の前に現れた自分の絶対的な殺戮対象である蜘蛛に、本能で目覚めたのか、四角く横に開く有機的な牙四本に噛み砕かれた。そのまま頭を上げ、僕らに向かって咆哮する。
実際、厄災の間に壁として立ちはだからなかったら、厄災の眉間に弾丸を撃ち込んでいた。だからといって、冷静になれたかと言えばそんな事はこれっぽっちも無かったが。
アサルトライフルから単発式の“投網”に持ち替えて引き金を絞る。至近距離で外すこともなく絡め取る、そのまま「付いてこい」ダッシュで距離を詰める。射手は僕の意図に気づいてくれたのか遅れずに従がってくれた。何気に優秀だった。最初からこれを強行してればよかった。
渾身のシールドバッシュをぶちかます。カトンボが吹っ飛んで落ちていく。
その勢いそのままで厄災の横っ面に足刀蹴りをかます。吹っ飛ぶ。不味い不味い。射手くん付いてきて。
ヤツに近寄る。良かった、まだ意識がある。意外と丈夫。これなら壊し甲斐がある。僕の足下の厄災の手足に弾丸を撃ち込み自由を奪う。最初の蹴りで顎をイワしたせいか、アウアウただ虫のように蠢く。
「選べ。このまま元の盾役として此処に残りカトンボと対峙し続けるか……」
気づいたが、顎が壊れてて喋れないんだ。僕はポーションをヤツの口に突っ込む。途端に治る。ムカッとする。完治するんだコイツは。
「お。俺が何をした。オレが悪いんじゃない。無理なんだよ、こんな無謀な戦争に連れ込んだ上が悪いんだ、俺は巻き込まれただけだ」
僕はアサルトの銃口を上げる。途端に踵を返して逃げようとする。僕は両足のアキレス腱と膝裏を撃ち潰す。
「残念。今オマエは兵士の原則を破った。味方を置いて逃げた敵前逃亡罪だ。喜べ、僕は最前線の最上級指揮官としてオマエの生死与奪権を得た。そしてありがとう。
オマエの選べる選択は二つ。個々で処刑されるか、シヅキを抱えて下の救急集中治療室に運びハムさんに後事を託すか」
「ハム? なんであの小僧が今」
僕はヤツの口に靴先を突っ込んで黙らせる。
「クソは喋るな。喋るとカトンボ共が寄ってくる。クソは黙って言うことを聞くか、このまま死ぬか。こんな具合に」
タクティカル・ベストの鳩尾に一発ブチ込む。ヤツの顔が苦痛で歪む。
「知ってるか、その上着は弾丸を三・四発撃ち込まれたぐらいじゃ死なないらしい、気絶するだけだ。でも計算では六発目でぶち抜かれて死ぬらしい。では実験しよう」
僕は鳩尾に二発目をブチ込む。三発目、四発目、時間を掛けて。五発目迄耐えた。さすが資質ナンバーワン。
最初はコイツをもう一度盾役に復帰させ。僕がシヅキを連れて行こうと思ったが、無理だと気づいた。僕も此処を離れる訳にはいかない。責任がある。コイツでは此処を支えきれない。
二の舞だ、遺憾ながらコイツしかいない。でも時間がない。それでも僕は何度も失敗した。失敗しすぎた。ここで、最後に失敗する訳にはいかない。絶対に。
ポーションでヤツを治療して起こす。あれ、折れた歯はそのままで治っていない。歯は欠損判断か。ちょうどいい。コイツが喋ると碌な事がない。僕は手足を撃ち潰す。そして先程と同じ鳩尾に一発。
「さて、今度は何発耐えられるかな。気絶した後、次に本当に目覚められるとは思わないことだな。では行くぞ」
ヤツの顔が恐怖に染まる。チョット気持ちいい。まあ、叫ばなければいいよ。
ポーションで治療して起こし、ヤッパリ手足を撃ち潰す。
「おはよう。僕の命令は絶対だ。僕の命令に背いたら今度は本当に殺す。背いて逃亡したなら何処にいようと見つけ出して殺す。
家族も殺す。オマエの周りの人間をすべて殺す。
では命令を改めて言い渡す。シヅキを抱えて下の救急集中治療室に運びハムさんに後事を託せ。
それ以上でもそれ以下でも他の行動はするな。余計なことはするな。シヅキを丁寧に扱え、生きている人間と同じように。そして素早く行なえ。全てを三分以内で行え、時間がないぞ」
脳組織が重篤な損傷を負う前に。
何でも卒なく熟すが全てが中途半端な器用貧乏な僕。子供の頃からそうだ。人間としても、ギルド兵士としても何処まで行っても二流のまま。それを『クソ判断力とナマイキ冷静さ』なる曖昧なものだけで班長にしやがった。そしてシヅキを付けてくれた。
その判断力も冷静さもやっぱり中途半端な二流だったのか。
……すみません。
しばらくして他の兵站班が駆けつけてくれた。皆大変な目にあったようで、憔悴した顔をしていた。僕の顔もそんなもんだろう。
「ここのユニットの盾役を代わってくれ。僕は総合的な運営管理に戻る。まだ、諦める訳にはいかないんだ。そして……シヅキは必ず戻る」
気づけば、最初の一日目の最初の一時間を超えていた。
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