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第八節 〜遷(うつり)・夜夜中(よるよるなか)〜
101 二百五十 対 七十 〈4〉
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98 99 100 101 は“ひと綴りの物語”です。
《その4》
傭兵団の団長オッサンって、見かけによらず技工派なんです。
ご笑覧いただければ幸いです。
※注
黒い◆が人物の視点の変更の印です。
白い◇は場面展開、間が空いた印です。
―――――――――
一人は僕を、もう一人はオッサンを狙っている。本職の狙撃手は高所からが鉄則。
唸りを上げ僕へ迫るの物理の矢。投擲は僕を狙った者の方が早かった。盾でも防げるが敢えて身体をずらす。軌道修正した。やっぱり本職か。到来する矢は改めて軟性金剛石盾に任せ、手にしていた矢を投げる。迎え撃つのではなく、オッサンに狙いを定めている方に。オッサンを助けるのは業腹だが。立腹だけど。人数が減るのはもっと不味いから。
一メートルを超えれば当然のこと軌道操作などの干渉は不可能だが、一メートル以内なら初速を限界まで上げる事は出来る。オッサンの“針”の魔法はコピー済み。ピッチングマシーンのように空気を回転させて弾き飛ばす魔法だけなら可能。行け!
弾かれた矢は空気を切り裂き、一瞬でも亜音速に達したのか短いソニックウェーブを発生させた。ビヨンビヨン頭がブレてありえない蛇の軌道で狙いは大きくハズレれ、敵の頭上の壁に当たって砕けた。大音響が響く。やっぱり当たんないか。でもそれでいい。驚いて矢を落とし、一時中断に成功した。
オッサンのことだから気づいてはいただろうが、赤鎧の斬り合い中じゃ対処は不可能と見ての行動だった。だからあとは。
盾に刺さった矢を抜き、オッサン目掛け先程よりも更に初速限界突破増し増しで、殺意も思いっ切り増々で投げる。死んでしまえ!
残念な事に矢はオッサンには当たらずにやっぱり逸れたが、オッサンと赤鎧は一時中断を余儀なくされ一旦離れる。そのスキにオッサンの手元がキラリと光った。
手元を離れた三本の針のうち二本は右の踊り場の狙撃手に向かい、残る一本は遠く左の踊り場の最後の敵の一人、二十五人目に向かう。
右は一人の身体の何処かに吸い込まれ、もう一人は避けた。流石に遠隔操作は無理だったらしい。もう赤鎧と斬り合いを再開してるから。
好き者同士はこれだから。左は遠くで良くわからないが倒れている。完全な不意打ちになっていた、か?
眉間に刺さったままの最初の矢は正面、階柱の陰の魔法攻撃陣に投擲。当然外れる。大音響と共に柱の角が爆ぜる。
僕はその間に空を飛んでいた。嘘、“万有間構成力制御魔技法”と“蜘蛛糸ワイヤーアクション”のコンビ技です。
重力を反発させる斥力を脚力に乗せ、太い柱の腹を三度垂直に蹴り飛び上がり、一度高度を稼ぐと遠方の天井へ狙い腰の子蜘蛛から糸を射出、支点とし、あとは空中ブランコの要領で二階踊り場でオッサンが撃ち漏らした、重要だから二度言うけど、オッサンが失敗して撃ち漏らした狙撃手の元に降り立ちそのまま弾丸を打ち込み無力化した。
もう一人も生きていた。物理的に軽量の針は急所を少しでも外すと完全無力化は出来ないようだ。制圧弾を撃ち込む。
あとはオッサンに始末される前にこの二人の狙撃手は回収したい。兵隊の鹵獲は無理である事は重々承知しているが、何と言っても“使える”。
普通の良い処の出の騎士様はこんな“投擲”など、それも陰からこっそりなどと下品で姑息な真似はしない。敵にしたら一番厄介なんだけどな。たぶんだが、男爵が“今後の事を考えて独自に集めた”のだろう。
元傭兵や冒険者なら超絶待遇でワンチャンあるかも。資金は潤沢だ。こっちにはリアル造幣局が付いてる。
ギルドも“今後の事を考えれば”拒否はしないはずだ。
そんな一考察をしている僕の背に炎弾と物理の矢が迫る。ウザい。ちょっとまってて。
僕は再びワイヤーアクションで空中に躍り出る。まずは左踊り場の狙撃手を見に行く。死んだふりをされてあとで狙撃なんて洒落にならんし、やっぱり後でスカウトしたい。
空中をブランコ中の僕に再び炎弾と物理の矢が迫る。ちょっとまっててって言ったじゃん。
軟性金剛石の盾、早急に更新しよう。軟すぎ。矢が刺さったままのブランコはちょっとカッコ悪すぎ。
靭性を保たせたままで軟性と硬性を自在に変えられる魔法陣回路は亜次元の疑似脳で既に完成済み。ダイヤモンドとは全く異なる謎物質になってしまったが、ビバ魔法。想像力が大事なんだと改めて感じる。
でも真っ当な生物の進化も結局は突然変異が多いと言うし。硬性と靭性の違いを理解してるのも元世界の知識だし、至極真っ当なのだと納得してもらう。
◆ (『サチ』の視点です)
私は建物の陰からハム殿達が突入して行くのを見送る。あれは背中を押されていた? まあいいか。
私も続いて突入したいが、諦めている。私が男爵領主の大姉様に会いたいのはただの我儘だ、それに会って何を話せばいいのか。いや違うな。会って話して、返ってくる答えが怖い。知りたくない。そして、その答えも既に知っている。そこからは何処へも辿り着けない事も。
なら、私がするべきは主様を連れて無事にこの館から抜け出ることだ。
「下ろして、サッちゃん」
「主様」
「その呼び名は嫌いよ」
と、私の腕の中から降り立ち。
「ほんと、ハム君たら腰が定まってないんだから。あれしきの事でオタオタしちゃって、手間が掛かるったら」
それでもバランスを崩し私の腕にしがみつき、歯をガチガチ震わせながら笑い「さて、次はサッちゃんの番ね。行くわよ」
“火縄銃モドキ” を杖代わりに覚束無い足元取りで歩き出す。領主の館に向かって。
「主様」
「だからその呼び名は嫌いなんだってば、もう」
「エリエル様、私は……」
「……それでもだよ、サッちゃん。今は何処へも辿り着けなくとも、そこからしか歩き始められない事もあるんだ」
◆ (『主人公の視点に戻ります)
足裏を天井に貼り付け、逆さに立つ。蜘蛛糸のワイヤーアクションで。散々に刺してくれた矢は五本。残数ゼロなのかもう飛んでくることはなく、自身も魔法攻撃に移行している。
三人の魔法攻撃は間隔が空き始め、息も絶え絶えだが、威力の衰えは見えない。素直に感嘆する。たぶん魔法特化なのだろう。スカウトしたいけど無理だろう。プライドが高そうだ。いい家の匂いがする。ではここらで退場願おう。
五本の矢を順番に初速限界突破増し増しで弾き飛ばす。投擲はしない。腕を伸ばし銃身の代わりとし、狙いを付けて一本一本軌道を修正しながら撃つ。空気を裂くソニックウェーブと爆裂音が響く。
うん、全く当たらない。やっぱりビヨンビヨン波打つ。酷いのだと二メートルも離れている。
何がいけないんだ? 矢が悪いんだな。柔く軽すぎ。
夢の遠距離攻撃なのに。
と、ハナとサチが戦闘範囲の裏に隠れながら裏の階段にたどり着き、登り始めているのを発見。振り返ったハナと目が合う。ニカッと笑った。足元をふらつかせながら。サチはもう前しか見えてないって顔をしている。
あの馬ッ鹿共。
僕は後を追うべく、早々に片を付けるために魔法特化三人組の元に降り立ち、短銃型“魔法の杖”を構える。ノルマを熟そう。
背後に嫌な風切り音と裂帛の気合。靭性金剛石の盾を背後に展開。三人組の方にも同じく展開。双方共甲高い音と共に剣での袈裟懸けと刺突を弾く。
時間差で背後からもう一人。銃撃。避けられた。この距離で。いつの間にか囲まれている。ちょっと待って、ノルマはひとり三人までだろ。
“7人”を見ると、未だ一人も欠けてはいないようだが、余裕はなさそう。息が荒い。そんななか、例の古参の傭兵が二メートル超えのゴリマッチョと鍔迫り合いをしながら僕を見て、頭を下げる。全然済まなそうに見えない顔で。一人だけ全然余裕あるじゃん。相手一人だけじゃん。
円を描き囲んだ五人が一斉に剣を水平に構え、剣先を前に僕に突っ込んでくる。
靭性金剛石壁の軟度を上げ、硬度を下げる。五本の剣が展開した全周展開の壁に刺さる。そのまま軟度を下げ、硬度を上げる。壁に剣を飲み込んだまま体を回転させる。
態勢を崩す者。吹っ飛ばされる者。剣を離す者。今度こそ銃撃。それでも新たな二人は避ける。魔法三人組は無力化に成功。避けられない超接近戦の間合いで戦うしかない。それを察知して巧みに距離を取られる。
数度の攻防で相手が手を変えてきた。結果、宙に浮いている靭性金剛石盾が邪魔になり始める。自らの盾でも自分の銃弾が通過する事なんてなく当然弾いてしまう。それが判かったのか、敵自らが盾の陰に隠れる事で逆に僕を翻弄する。透過率は高いが、完全に透明ではない。
半透明な盾はその度に盾を顕現・消失と切り替えて対処しようとするが、相手はそこを狙いすまし突いて刃を振るってくる。それでも、今の僕の技量では盾を完全に消して戦うことは躊躇われた。
盾の顕現・消失のコントロールが徐々に乱雑となり、反応が遅れだす。僕に傷が増える。戦闘中では致命的な深手しか治す余裕はなく、軽度だと思っていた数多くの傷が体力を徐々に削っていく。
新たに一人加わる。盾を消失させ、銃口で追う。相手の身体がブレて的を外される。消した盾の隙を突いて隠れていた他の者の剣が僕の脇腹を深く抉る。盾を出現させ追撃を防ぐ。銃口で追う。相手の身体がブレて盾の陰に隠れる。斜め後方の盾の死角から剣が水平に突き出される。銃口を向けるが既に敵はいない。腿に鋭い痛みが走る。
正直言って当たる気がしなくなってきた。完全に読まれてる。イイように弄ばれてる。技の練度と経験の差だろうか。それを出されると完全に積むな。
〈∮ 検索及び検証考察結果を報告、
銃口を向ける予備動作だけで悟られています。それでも亜音速の弾速であれば何処かに当たるはずですが、決定的な原因は引き金を絞る際に数コンマ何秒か間が空く事です。……躊躇していますか?
と結論 ∮〉
いい加減当たれよ。クソが!
ハナとサチを追いかけるにはもう少し時間が掛かりそうだ。
―――――――――
お読み頂き、誠にありがとうございます。
よろしければ次話もお楽しみ頂ければ幸いです。
《その4》
傭兵団の団長オッサンって、見かけによらず技工派なんです。
ご笑覧いただければ幸いです。
※注
黒い◆が人物の視点の変更の印です。
白い◇は場面展開、間が空いた印です。
―――――――――
一人は僕を、もう一人はオッサンを狙っている。本職の狙撃手は高所からが鉄則。
唸りを上げ僕へ迫るの物理の矢。投擲は僕を狙った者の方が早かった。盾でも防げるが敢えて身体をずらす。軌道修正した。やっぱり本職か。到来する矢は改めて軟性金剛石盾に任せ、手にしていた矢を投げる。迎え撃つのではなく、オッサンに狙いを定めている方に。オッサンを助けるのは業腹だが。立腹だけど。人数が減るのはもっと不味いから。
一メートルを超えれば当然のこと軌道操作などの干渉は不可能だが、一メートル以内なら初速を限界まで上げる事は出来る。オッサンの“針”の魔法はコピー済み。ピッチングマシーンのように空気を回転させて弾き飛ばす魔法だけなら可能。行け!
弾かれた矢は空気を切り裂き、一瞬でも亜音速に達したのか短いソニックウェーブを発生させた。ビヨンビヨン頭がブレてありえない蛇の軌道で狙いは大きくハズレれ、敵の頭上の壁に当たって砕けた。大音響が響く。やっぱり当たんないか。でもそれでいい。驚いて矢を落とし、一時中断に成功した。
オッサンのことだから気づいてはいただろうが、赤鎧の斬り合い中じゃ対処は不可能と見ての行動だった。だからあとは。
盾に刺さった矢を抜き、オッサン目掛け先程よりも更に初速限界突破増し増しで、殺意も思いっ切り増々で投げる。死んでしまえ!
残念な事に矢はオッサンには当たらずにやっぱり逸れたが、オッサンと赤鎧は一時中断を余儀なくされ一旦離れる。そのスキにオッサンの手元がキラリと光った。
手元を離れた三本の針のうち二本は右の踊り場の狙撃手に向かい、残る一本は遠く左の踊り場の最後の敵の一人、二十五人目に向かう。
右は一人の身体の何処かに吸い込まれ、もう一人は避けた。流石に遠隔操作は無理だったらしい。もう赤鎧と斬り合いを再開してるから。
好き者同士はこれだから。左は遠くで良くわからないが倒れている。完全な不意打ちになっていた、か?
眉間に刺さったままの最初の矢は正面、階柱の陰の魔法攻撃陣に投擲。当然外れる。大音響と共に柱の角が爆ぜる。
僕はその間に空を飛んでいた。嘘、“万有間構成力制御魔技法”と“蜘蛛糸ワイヤーアクション”のコンビ技です。
重力を反発させる斥力を脚力に乗せ、太い柱の腹を三度垂直に蹴り飛び上がり、一度高度を稼ぐと遠方の天井へ狙い腰の子蜘蛛から糸を射出、支点とし、あとは空中ブランコの要領で二階踊り場でオッサンが撃ち漏らした、重要だから二度言うけど、オッサンが失敗して撃ち漏らした狙撃手の元に降り立ちそのまま弾丸を打ち込み無力化した。
もう一人も生きていた。物理的に軽量の針は急所を少しでも外すと完全無力化は出来ないようだ。制圧弾を撃ち込む。
あとはオッサンに始末される前にこの二人の狙撃手は回収したい。兵隊の鹵獲は無理である事は重々承知しているが、何と言っても“使える”。
普通の良い処の出の騎士様はこんな“投擲”など、それも陰からこっそりなどと下品で姑息な真似はしない。敵にしたら一番厄介なんだけどな。たぶんだが、男爵が“今後の事を考えて独自に集めた”のだろう。
元傭兵や冒険者なら超絶待遇でワンチャンあるかも。資金は潤沢だ。こっちにはリアル造幣局が付いてる。
ギルドも“今後の事を考えれば”拒否はしないはずだ。
そんな一考察をしている僕の背に炎弾と物理の矢が迫る。ウザい。ちょっとまってて。
僕は再びワイヤーアクションで空中に躍り出る。まずは左踊り場の狙撃手を見に行く。死んだふりをされてあとで狙撃なんて洒落にならんし、やっぱり後でスカウトしたい。
空中をブランコ中の僕に再び炎弾と物理の矢が迫る。ちょっとまっててって言ったじゃん。
軟性金剛石の盾、早急に更新しよう。軟すぎ。矢が刺さったままのブランコはちょっとカッコ悪すぎ。
靭性を保たせたままで軟性と硬性を自在に変えられる魔法陣回路は亜次元の疑似脳で既に完成済み。ダイヤモンドとは全く異なる謎物質になってしまったが、ビバ魔法。想像力が大事なんだと改めて感じる。
でも真っ当な生物の進化も結局は突然変異が多いと言うし。硬性と靭性の違いを理解してるのも元世界の知識だし、至極真っ当なのだと納得してもらう。
◆ (『サチ』の視点です)
私は建物の陰からハム殿達が突入して行くのを見送る。あれは背中を押されていた? まあいいか。
私も続いて突入したいが、諦めている。私が男爵領主の大姉様に会いたいのはただの我儘だ、それに会って何を話せばいいのか。いや違うな。会って話して、返ってくる答えが怖い。知りたくない。そして、その答えも既に知っている。そこからは何処へも辿り着けない事も。
なら、私がするべきは主様を連れて無事にこの館から抜け出ることだ。
「下ろして、サッちゃん」
「主様」
「その呼び名は嫌いよ」
と、私の腕の中から降り立ち。
「ほんと、ハム君たら腰が定まってないんだから。あれしきの事でオタオタしちゃって、手間が掛かるったら」
それでもバランスを崩し私の腕にしがみつき、歯をガチガチ震わせながら笑い「さて、次はサッちゃんの番ね。行くわよ」
“火縄銃モドキ” を杖代わりに覚束無い足元取りで歩き出す。領主の館に向かって。
「主様」
「だからその呼び名は嫌いなんだってば、もう」
「エリエル様、私は……」
「……それでもだよ、サッちゃん。今は何処へも辿り着けなくとも、そこからしか歩き始められない事もあるんだ」
◆ (『主人公の視点に戻ります)
足裏を天井に貼り付け、逆さに立つ。蜘蛛糸のワイヤーアクションで。散々に刺してくれた矢は五本。残数ゼロなのかもう飛んでくることはなく、自身も魔法攻撃に移行している。
三人の魔法攻撃は間隔が空き始め、息も絶え絶えだが、威力の衰えは見えない。素直に感嘆する。たぶん魔法特化なのだろう。スカウトしたいけど無理だろう。プライドが高そうだ。いい家の匂いがする。ではここらで退場願おう。
五本の矢を順番に初速限界突破増し増しで弾き飛ばす。投擲はしない。腕を伸ばし銃身の代わりとし、狙いを付けて一本一本軌道を修正しながら撃つ。空気を裂くソニックウェーブと爆裂音が響く。
うん、全く当たらない。やっぱりビヨンビヨン波打つ。酷いのだと二メートルも離れている。
何がいけないんだ? 矢が悪いんだな。柔く軽すぎ。
夢の遠距離攻撃なのに。
と、ハナとサチが戦闘範囲の裏に隠れながら裏の階段にたどり着き、登り始めているのを発見。振り返ったハナと目が合う。ニカッと笑った。足元をふらつかせながら。サチはもう前しか見えてないって顔をしている。
あの馬ッ鹿共。
僕は後を追うべく、早々に片を付けるために魔法特化三人組の元に降り立ち、短銃型“魔法の杖”を構える。ノルマを熟そう。
背後に嫌な風切り音と裂帛の気合。靭性金剛石の盾を背後に展開。三人組の方にも同じく展開。双方共甲高い音と共に剣での袈裟懸けと刺突を弾く。
時間差で背後からもう一人。銃撃。避けられた。この距離で。いつの間にか囲まれている。ちょっと待って、ノルマはひとり三人までだろ。
“7人”を見ると、未だ一人も欠けてはいないようだが、余裕はなさそう。息が荒い。そんななか、例の古参の傭兵が二メートル超えのゴリマッチョと鍔迫り合いをしながら僕を見て、頭を下げる。全然済まなそうに見えない顔で。一人だけ全然余裕あるじゃん。相手一人だけじゃん。
円を描き囲んだ五人が一斉に剣を水平に構え、剣先を前に僕に突っ込んでくる。
靭性金剛石壁の軟度を上げ、硬度を下げる。五本の剣が展開した全周展開の壁に刺さる。そのまま軟度を下げ、硬度を上げる。壁に剣を飲み込んだまま体を回転させる。
態勢を崩す者。吹っ飛ばされる者。剣を離す者。今度こそ銃撃。それでも新たな二人は避ける。魔法三人組は無力化に成功。避けられない超接近戦の間合いで戦うしかない。それを察知して巧みに距離を取られる。
数度の攻防で相手が手を変えてきた。結果、宙に浮いている靭性金剛石盾が邪魔になり始める。自らの盾でも自分の銃弾が通過する事なんてなく当然弾いてしまう。それが判かったのか、敵自らが盾の陰に隠れる事で逆に僕を翻弄する。透過率は高いが、完全に透明ではない。
半透明な盾はその度に盾を顕現・消失と切り替えて対処しようとするが、相手はそこを狙いすまし突いて刃を振るってくる。それでも、今の僕の技量では盾を完全に消して戦うことは躊躇われた。
盾の顕現・消失のコントロールが徐々に乱雑となり、反応が遅れだす。僕に傷が増える。戦闘中では致命的な深手しか治す余裕はなく、軽度だと思っていた数多くの傷が体力を徐々に削っていく。
新たに一人加わる。盾を消失させ、銃口で追う。相手の身体がブレて的を外される。消した盾の隙を突いて隠れていた他の者の剣が僕の脇腹を深く抉る。盾を出現させ追撃を防ぐ。銃口で追う。相手の身体がブレて盾の陰に隠れる。斜め後方の盾の死角から剣が水平に突き出される。銃口を向けるが既に敵はいない。腿に鋭い痛みが走る。
正直言って当たる気がしなくなってきた。完全に読まれてる。イイように弄ばれてる。技の練度と経験の差だろうか。それを出されると完全に積むな。
〈∮ 検索及び検証考察結果を報告、
銃口を向ける予備動作だけで悟られています。それでも亜音速の弾速であれば何処かに当たるはずですが、決定的な原因は引き金を絞る際に数コンマ何秒か間が空く事です。……躊躇していますか?
と結論 ∮〉
いい加減当たれよ。クソが!
ハナとサチを追いかけるにはもう少し時間が掛かりそうだ。
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藤谷 要
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サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
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