半径1メートルだけの最強。

さよなきどり

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第九節 〜遷(うつり)・彼是(あれこれ)〜

111  クソエロガッパの出来損ない 3

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109 110 111 112 は“ひと綴りの物語”です。
クソエロガッパは必死こいて戦っています。
 《その3》
ご笑覧いただければ幸いです。
※注
白い◇は場面展開、間が空いた印です。
―――――――――
 それを壁際で這いつくばって、霞む視界で追いかけていた。


〈∮ 検索及び検証考察結果を報告。
 助かりましたね、止めを刺さずにハナ様の元に向われて。そうでなければ完全に“危険時緊急オートプレザ自動保全機能ヴェイション”は間に合いませんでした。ハナ様に感謝です。それと、わたしの“ルル”にも感謝してください。咄嗟にその身で受けて頭が爆散するのを防いでくれたのですから。ルルを頭の上に載せておいてよかったですね。
『御身の為ならば。でちゅ』
 と結論 ∮〉
 
……どうなって、いる。
 
〈∮ 検索及び検証考察結果を報告。
 女男爵バロネスは公彦を無視してハナ様のもとに向かい、いたぶっております。公彦よりもだいぶハナ様にご執心のようで。怖いですね、嫉妬でしょうか。ああ、まだ動けませんよ。流石に間をおかずの蘇生は身体に負担をかけ過ぎています。

 謝罪があります。
 執務机を破壊して部屋全体に及んでいた魔力減退領域デスフィールドは消滅しましたが、改めて女男爵バロネスの半径一メートル内に魔力素粒子アルカナの揺らぎを観測しました。その魔力素粒子アルカナは公彦のそれと全くの同質です。執務机の影響下の陰で隠していたんですね。執務机の側を離れなかったのはその為だったんですね、二重の仕掛けですね。中々に周到です。

 迂闊でした。自ら魔法を行使しての攻撃ではなく、バズーカ式の魔導具をわざわざ使っていたのも、最初の威力攻撃が身体を使った“蹴り”であったのもこれで納得できました。違和感の正体は隠していた公彦と同じ1m定限ルールだったのですね。

 ……良く理解していませんね? 公彦と女男爵バロネス両者の半径一メートルの領域が重なった範囲では双方の魔法攻撃は有効となるのです。要するに、1メートル内では魔法は消えず、打ち合いが出来るのです。
 同じ性質の魔力アルカヌムですから。ですので、“万有間構成力グラヴィテイション制御魔技法・フィネス・中級”の黒い盾も黒棒も公彦にダメージを与えることが可能だったのです。

 蛇足ですが“万有間構成力グラヴィテイション制御魔技法・フィネス・中級”の魔法はコスプレ服より放たれていました。発動時の“魔法陣”が本人からではなく、その服の中央から発現していましたから確かです。

 “コウイチ君”の能力を再現した服なのでしょう。何処どこまでの再現しているのか、流石に機能は限定的ではあると思いますが、今のところは充分にその効果を発揮しています。自慢するだけありますね。

 彼女の言う通り、この一週間は対“うつり”対策よりも、対ギルド対策よりも、この部屋とコスプレ服作成に当てていたのでしょう。魔法攻撃を無効化する対コウ・シーリーズ出来損ないイレギュラーの公彦対策の為に。
 と結論 ∮〉

 ヘッ、謝罪って、謝ってねーじゃねーか。何だ“違和感”って、“迂闊”でしただ。それメチャクチャ大事だったんじゃね。そこ間違えたら一番駄目なとこじゃね。やっぱり似非だな。

〈∮ 検索及び検証考察結果を報告。
 それはその通りだと思います。すいませんでした。
 ですが何ですか、相変わらずの公彦の為体ていらくは。人のことを非難できる立場ですか、まったく。

 どうしてそんなにダメなんですか? 全然魔力アルカナムを扱えてませんでしたよね。1m定限ルール以前の問題です。女男爵バロネスに謝って下さい。折角切り札として隠し持つような演出までしてくれたのに、切り札以前の問題じゃないですか。期待に答えてあげましょうよ。そしてコッチはそれを打ち破るのがお約束であり醍醐味じゃないですか。

……それが何ですかアレ、カッコつけて最後ベチャって。ツメが甘いんですよ。フルーツポンチのように甘い、激甘アマですよ。本当に出来損ないイレギュラーですか。
 廻すんですよ体内で。隅々まで行き渡らせグルングルン廻すんですよ。こんなのアニメや漫画じゃ定番でしょうが。やり方は“治癒”と同じです。それで解んないんならタヒね。
 と結論 ∮〉

 見事な逆ギレ。でも言い返せない。

〈∮ 検索及び検証考察結果を報告。
 おっと、グズグズしていると本当に死にますよ、ハナちゃん。
 公彦が再稼働できるまであと二百四十八秒。それまで女男爵《バロネス》が“トドメ”を刺す為に戻ってこないようにハナ様には頑張ってもらいましょう。その前に殺されなければ、よいですね。

 最後に愚痴を。
 “おほみたる誰か”に『頼れ』とは言っていませんよ。『使え』と教示きょうじしました。ハナ様の窮状は、やっぱりアナタの所為です。残念です。
 と結論 ∮〉


「私、貴女が嫌いよ。何処どこの“おほみたる誰か”でも、やっぱりこんなにムカつかせるのかな。特殊機能付き? 嫌過ぎる。

 ねえ、お嬢さん、ちょっと聞いていい。あなた最近になって前世の記憶を取り戻したんでしょ。どう思った? 不味いと思った? 東京に帰りたいって思った? 思わないわよね。あなた大国の高位貴族のお嬢さんなんでしょ? いいわね。知ってるわよ。あんたメチャクチャしてたそうじゃない。流行りの悪役令嬢ビンビンにキメてたそうじゃない。
 メイドをイジメちゃった? 弟をイジメちゃった? 攻略対象もイジメちゃうのかな? いいわね、好き勝手やれてて。異世界こっちでも生まれた時から贅沢放題・我儘放題。だから“おほみたる誰か”って大っ嫌いよ。

 私はね、落国の民アッシュの中でも底辺である放浪の民であるサキュバスよ。生まれたのは馬車の中。放浪ってロマンチックで聞こえはいいけど、実態は季節労働者だし物乞いよ。よく街でやらされたわ。欠けた茶碗を持たされて。幼女は稼ぎがいいからって、変態が多いからね。可愛くない私もそれなりに稼いだ。本当に変態が多いから。

 そんな時にオババに売られてギルド兵になった。最初は慣れなかったけど、人を殴るコツが分かって来てからは何とかね。まあ。お尻が毎日ヒリヒリするよりは幾分マシってだけだけど。
 もう一つわかったことはどこにでも変態っているのねってことね。ソイツは今はもう生きてないけど。人を殴る技術って大切だなって実感したわ。

 二十四歳の時に前世の記憶を取り戻したの。その時に何を考えたか判る? もっと前世で好き勝手してれば良かったって。だってアタシ、真面目で良い子だったのよ。それは言い過ぎだけど、生まれ変わってれはないんじゃない、天国の楽園へ直行とはオゴってないけど、流石にコレは酷いと思ったわ。私が何をしたのよって。だからね、“覚醒アレ”からは好き勝手にする事にしたの。

 そんな時にね、コウイチ君にナンパされたの。
『一緒に王都に行こうぜ』って。

 お嬢ちゃんはどうやってコウ・シリーズのハーレムナンバーワンをゲットしたの? やっぱ高級貴族の権力とお金で無理やり? ウチのナンバーワンがそうなのよね。それともお色気ムンムン『教えて上げる系』作戦で籠絡したの? ウチのナンバーツーが使った手だけど。どうなの? どうやったの? 教えてよお嬢ちゃん。まさか腕力? ありそうで引くわ。

 最初の頃は楽しかったなあ。いろんな事して遊んだな。お金もいっぱい稼いだ。それなのに。ハー、ドウシテコウナッタって気分よ。男爵にしてやるって言葉に騙された。

 生まれが悪いのよね。貴族なんて碌でも無いって知ってるのに。でもね、カースト社会のド底辺から男爵よ。キンキラ貴族様よ。本人はクズでもただ偉いのよ、私も身分だけで市井の皆さんを見下して虐げてあげたいたいじゃない。
 あら、不思議そうな顔してるわね。そうね、侯爵令嬢のお嬢様には解らないわよね。転生スタートが遅れた年増女には出来ることは少ないのよ。だから嫌いよ、身分が高いからって偉そうにしているヤツは。若いってだけでブイブイいわせてる奴は。

 だから話し終わってねーんだよ‼」

 俺が振るう背後からのテルミットの灼熱の剣を黒い棒で受け止められる。

「炎の剣なら、『化学反応』なら“万有間構成力グラヴィテイション制御魔技法・フィネス”は防げないと思ったか? ざーんねん、テルミット反応ってことは元はアルミと酸化鉄よね、それ、立派な物質よね。ちゃんと引力は持ってるわよね。弾けるほど大きくは無いけど。それにしても、G並みに丈夫ね。流石腐ってもコウ・シリーズって事かしら」

 驚いたことに黒い棒と灼熱の炎とは接触していなかった。僅かな隙間を開け拮抗していた。そした僕をG並みと称した女男爵バロネスも相当だった。テルミットは六千度を越える。その発生源に近寄っただけで生身の皮膚は保たない。現に女男爵バロネスの顔の皮膚も色を変え、ブクブクと泡を吹き湯が沸くように爛れ溶け出していくが、傍から全快し始めている。

「再生もそのコスプレの機能っすか? 自慢するだけは在りますね。まさかスリングショットバージョンとか在るんすか」

「ま、おませさんね、お望みならお見せしてもいいわよ」

「いやマジ引きますから勘弁してく下さいホントに」

「このクソエロガッパの出来損ないが!」

 鍔迫り合いでガチンコしている灼熱のテルミット剣の余波で僕自身も焼かれ傷つく。その光の陰でテルミットを予定通りに瞬時に変化させる。“万有間構成力グラヴィテイション制御魔技法・フィネス・中級”の女男爵バロネスが使っていた『黒い刀』に。

 瞬間、黒い稲妻が幾筋も互いの刃の拮抗点から放たれ、両者は物凄い力で弾かれる。剣鉈ナイフの“黒刀”を離さないようにするのが精一杯、着地した時、僕らは十メートルは離れていた。
 女男爵バロネスの瞳が驚愕に見開かれる。すいあせん、魔法陣を見たので盗みコピりました。似非が。



―――――――――
お読み頂き、誠にありがとうございます。
よろしければ次話もお楽しみ頂ければ幸いです。
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