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Chap.3 鏡の国の
Chap.3 Sec.2
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結論からいうと、カレーライス(みたいなもの)はあまり美味しくなかった。
把握できないほど添加されたスパイスはいい匂いだったが、食べてみると刺激的すぎて違和感が強く、舌がヒリリと痛くなった。単に辛すぎるというわけではなく、ルーの部分にコクもないし、黄色いライスのほうはパサパサとした食感でなんの味もない。前日の食事が美味しかったのもあって、機械食はお腹が空いていれば美味しいかも? 程度の味だった。
どういう仕組みで作られたのか分からないが、2・3分で出来あがるのだから、味にケチをつけず技術を評価するべきなのかも知れない。あるいはカレーがハズレだっただけなのかも。
斜め前で黙々と食べるセトは、味について気にしていないようだった。一度食事の途中で立ち上がり水を取りに行ったのだが、帰ってきたあと私を見て停止し、再びキッチンへの道のりを往復したかと思うと、私の目の前にもひとつ水の入ったコップを置いてくれた。私自身とくに何か促したわけではない、と思う。彼は始終無言のままだった。
「おはよ~」
やわらかな声が聞こえて顔をあげると、プラチナブロンドを緩くひとつにまとめた——ティアだった。目が合うと、にこりと微笑まれる。昨夜のことが頭によぎって、かっと顔に熱が集まった。
ティアはそんな私のことは気にせず、じとりとした目を向けているセトの横に座った。
「お前、遅ぇよ……今からじゃどこも行けねぇだろ」
「え~? ……だって眠くって。もうこの辺りはよくない? そろそろハウスに帰ろうよ」
「まあ、そうだな。人も感染者も全然いねぇし。めぼしいもんもねぇな」
「僕もちょっと散策したけどさ……遺体もないよね?」
「そういや見ねぇな」
「掃除ロボットか何か、オートで動いてるのかも」
「死体はゴミかよ」
「僕に言われても」
ふたりの流暢な応酬を聞きながら、セトがいつのまにか食べ終わっていたことにハッとして、残り少ないカレーを胃に流し込んだ。急いで飲み込んだせいか尖ったスパイスの風味に喉が痛み、コップを手に取って水を飲む。すると、セトの視線が私に流れた。
「……辛かったか?」
ぶっきらぼうに、何かを尋ねた。目線からすると私に訊いたのだとは思うが、推測できず私は問いかけるようにティアへと視線を向けた。
「それ辛いか? って。からい。う~ん……ちょっと寝起きで伝え方が浮かばないや。パス」
ぽんっとセトの肩をティアが叩いた。
「は?」
「僕はお茶でも淹れよっと。アリスちゃんも、飲む?」
ティアがティーカップを傾ける仕草をした。お茶どう? これに類似するフレーズはそろそろジェスチャーなしでも聞き取れそう。
「はい」
「うん。セト君は?」
「俺は珈琲」
「え、それは自分で淹れてね?」
「前から思ってたけどよ、お前なんで紅茶専門なんだよ」
キッチンに向かったティアに続いて、セトも食器を持ち、立ち上がった。食べ終わっていた私の食器にもおもむろに手を伸ばし、一緒に片付けようとしている。
『これは私が……』
遠慮して食器を押さえたが、強制的に取りあげられた。せめてコップだけでもと思ったのに、大きな手で自身のと2つを難なく持ち、
「ついでだ」
「……アリガトウ」
感謝を述べると、変なものでも見るみたいな顔をされる。そういえば以前も、ありがとうと伝えたときに微妙な顔をされた。なにか間違った言い方をしているのだろうか。
戸惑う私から目をそらして、セトもキッチンへと行ってしまった。くすんだ金髪を見つめながら、
(何もしないほうが居心地がわるい……)
ひどく勝手なことを思い、ふたりが戻るのを静かに待っていた。
把握できないほど添加されたスパイスはいい匂いだったが、食べてみると刺激的すぎて違和感が強く、舌がヒリリと痛くなった。単に辛すぎるというわけではなく、ルーの部分にコクもないし、黄色いライスのほうはパサパサとした食感でなんの味もない。前日の食事が美味しかったのもあって、機械食はお腹が空いていれば美味しいかも? 程度の味だった。
どういう仕組みで作られたのか分からないが、2・3分で出来あがるのだから、味にケチをつけず技術を評価するべきなのかも知れない。あるいはカレーがハズレだっただけなのかも。
斜め前で黙々と食べるセトは、味について気にしていないようだった。一度食事の途中で立ち上がり水を取りに行ったのだが、帰ってきたあと私を見て停止し、再びキッチンへの道のりを往復したかと思うと、私の目の前にもひとつ水の入ったコップを置いてくれた。私自身とくに何か促したわけではない、と思う。彼は始終無言のままだった。
「おはよ~」
やわらかな声が聞こえて顔をあげると、プラチナブロンドを緩くひとつにまとめた——ティアだった。目が合うと、にこりと微笑まれる。昨夜のことが頭によぎって、かっと顔に熱が集まった。
ティアはそんな私のことは気にせず、じとりとした目を向けているセトの横に座った。
「お前、遅ぇよ……今からじゃどこも行けねぇだろ」
「え~? ……だって眠くって。もうこの辺りはよくない? そろそろハウスに帰ろうよ」
「まあ、そうだな。人も感染者も全然いねぇし。めぼしいもんもねぇな」
「僕もちょっと散策したけどさ……遺体もないよね?」
「そういや見ねぇな」
「掃除ロボットか何か、オートで動いてるのかも」
「死体はゴミかよ」
「僕に言われても」
ふたりの流暢な応酬を聞きながら、セトがいつのまにか食べ終わっていたことにハッとして、残り少ないカレーを胃に流し込んだ。急いで飲み込んだせいか尖ったスパイスの風味に喉が痛み、コップを手に取って水を飲む。すると、セトの視線が私に流れた。
「……辛かったか?」
ぶっきらぼうに、何かを尋ねた。目線からすると私に訊いたのだとは思うが、推測できず私は問いかけるようにティアへと視線を向けた。
「それ辛いか? って。からい。う~ん……ちょっと寝起きで伝え方が浮かばないや。パス」
ぽんっとセトの肩をティアが叩いた。
「は?」
「僕はお茶でも淹れよっと。アリスちゃんも、飲む?」
ティアがティーカップを傾ける仕草をした。お茶どう? これに類似するフレーズはそろそろジェスチャーなしでも聞き取れそう。
「はい」
「うん。セト君は?」
「俺は珈琲」
「え、それは自分で淹れてね?」
「前から思ってたけどよ、お前なんで紅茶専門なんだよ」
キッチンに向かったティアに続いて、セトも食器を持ち、立ち上がった。食べ終わっていた私の食器にもおもむろに手を伸ばし、一緒に片付けようとしている。
『これは私が……』
遠慮して食器を押さえたが、強制的に取りあげられた。せめてコップだけでもと思ったのに、大きな手で自身のと2つを難なく持ち、
「ついでだ」
「……アリガトウ」
感謝を述べると、変なものでも見るみたいな顔をされる。そういえば以前も、ありがとうと伝えたときに微妙な顔をされた。なにか間違った言い方をしているのだろうか。
戸惑う私から目をそらして、セトもキッチンへと行ってしまった。くすんだ金髪を見つめながら、
(何もしないほうが居心地がわるい……)
ひどく勝手なことを思い、ふたりが戻るのを静かに待っていた。
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