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Chap.6 赤と黒の饗宴
Chap.6 Sec.4
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もう関わりたくないと。
何度も思っているはずなのに、撤回させられるのは何故なのか。
時は戻り、
「セト君、遅すぎ」
食事を終えて私室に戻ろうとしたセトを待っていたのは、一足先に食堂を後にしたティアだった。
セトの私室のドアに寄り掛かっていた上体を起こして、理不尽で唐突なクレームをつけてくる。甘味を一切とらずに、これでもさっさと戻ってきたほうであるセトは、機嫌がよいとは決して言えない状態だった。口は開かなかったが細い目でティアを射抜き、無言の圧をかけた。
「こわっ——じゃなくて、ちょっと話したいことがあるんだけど……なか、入れてくれない?」
愛想笑いを浮かべるティアの頼み事を、セトはしばらく黙殺してみせたが、引きさがる気配がないので「なんの用だよ」低い声音で問い返した。
「それは中に入ったら話すから、ね?」
「今お前と話す気分じゃねぇんだよ」
「そう言わずにさ。……お願い」
ティアが上目遣いにしおらしく頼みこむと、早く部屋に入りたいセトは面倒になったのか、ティアの横をすり抜けてドアに手をかざした。
「え? ……僕も入っていい、のかな?」
セトの後に続いて、尋ねておきながら答えを待たずに、ティアも中へと入った。
黒とグレーで整えられた無彩色の部屋。機能だけを追求したインテリアはシンプルで、ゴシック様式とルネサンス様式を融合させた(といっても、模様替えで内装はたびたび変わっている)古城の雰囲気は欠片も残っていない。ティアに言わせれば、味気のないモダンな部屋。
壁や天井は防音に特化した黒の材質で覆われ、存在感のあるスピーカーが部屋の隅と天井にすえられている。使用の際には浮遊するのだろうか。今時分で有線というアナクロニズム。
部屋の中央には大きなベッドがあり、VR用の特殊なチェアが一部の壁ぎわを占拠している以外は目立った物がない。ちなみにバーチャルの深度レベルを最大にできるこのチェアは高額な物で、感染が拡がっていない数年前でも一般の家庭には普及していない。
セトはベッドへと腰掛け、ティアの方を見ずに「……で?」一応話を聞く気があることだけ表明した。
ソファがない部屋を見渡したティアは身の置き場所を持てあましたが、選択の余地はなく立ったままで口を開き、
「アリスちゃんの、ことなんだけど……」
あからさまに顔をしかめたセトに、ティアは乾いた笑いをこぼした。
「やだな、そんな顔しないで」
「あいつの話なら出てけ」
「わりと深刻な話だからさ。さっきの揉め事にも関わってくるし……」
「俺はもう関わりたくねぇんだよ」
「まってよ、そんな早計な判断しないで」
「早計じゃねぇよ。あいつ何も言わなかったろ。俺の助けは要らねぇって、結論出たじゃねぇか」
「や、だからね……そこなんだけどさ」
肩をすくめたティアは、目線を上に向けてわずかに躊躇する。ここに来た時点で決意はあったのだが、いざ口にするとなるとほんの少し迷いが生まれた。
「……セト君って、僕の言うこと、どこまで信じられる?」
「基本信じてねぇ」
「えっ……ひどいんだけど」
「お前ふさげすぎなんだよ。信用してほしかったら真面目に生きろ」
「……もしかして僕、説教されてる?」
捨てられた子犬のようにしょんぼりとして見せるティアは、白々しい。セトは一瞬追い出そうかと思った。その苛立ちをティアは素早く感知する。
「僕のことはさておき、あのね……信用のない僕が言うのもなんだけど……アリスちゃんさ、多分サクラさんに脅されてると思うんだよね」
「…………は?」
「——だよね。うん、わかってた。そういうリアクションがくるだろうなって」
ひとり納得したティアは、「ごめん、今のなし」急に踵を返して部屋を出て行こうとし、
「はっ? ——お、おいっ、待てよ! 言い逃げすんな!」
脊髄反射でベッドから立ち上がったセトが、ティアの肩をつかんで引きとめた。セトを振り返る前に、ティアはかすかに笑ったが、その笑みはすぐに消えた。
「え? ……なに?」
「何じゃねぇだろ! お前がなんだよ!」
「わ、セト君うるさい」
ティアの指摘を受けて、ぐっとセトが押し黙る。声のトーンを下げて、
「脅されてるって……なんだよ」
「……証拠はないんだけど、いい?」
「聴くから、話せ」
「……今日さ、セト君が眠ってるときに、サクラさんとアリスちゃんが話していてね……。僕は途中から聞いたんだけど、アリスちゃんのほうがかなりせっぱ詰まったようすで……おそらく、ここを出ていくって、そんな主張をサクラさんにしていたと思うんだよね……」
「………………」
「さっきさ、セト君言ったよね? 俺が引き止めたって。……つまりさ、アリスちゃんは自分から出ていくのをやめたわけじゃないんだよね? 大量の感染者に襲われる怖い目にあっておきながら、僕らのとこに戻る気はなかった……それも衝撃だけど。そのあとも逃げようとしたアリスちゃんを、セト君が連れ帰ったってことだよね?」
「…………ああ」
「うん、そこは別に責めてないから気にしないで。……それでね、そのあとにサクラさんに出ていくって言ってたんだよ。……でも、なんでまだ、ここにいると思う?」
「……サクラさんが、反対したのか?」
「話し方からして、反対してる感じじゃなかったんだよね。……僕が見るに、セト君の名前を出して、アリスちゃんに何かプレッシャーをかけてた」
「……は? 俺?」
「うん……もうね、ここから先は憶測でしかないんだけど……言わせてもらうよ?」
神妙な面持ちをしたティアは、セトを静かに見つめ、
「セト君をかばうために、残ることを決めたんだと思う」
セトは、時が止まったかのように絶句した。
ティアの言葉を正しく捉えきれなかったのか、捉えたうえで言葉を失ったのか。
長い沈黙を、ティアも崩すことなく、琥珀の眼をじっと見つめる。
ゆれる瞳の思考を追いかけ、横槍を入れることなく暗黙のままに。
すると、ゆれていた琥珀の眼が焦点を結び、
「……お前、それ、どういう意図で言ってんだ……?」
「意図はないよ……なんて言うのは無理があるよね?」
ティアはやりきれないというように息を吐き出し、口角だけで微笑う。
「罪の意識っていうのかな……アリスちゃんの表情がさ、どんどん人形みたいになってくの、耐えられなくなってきて……」
「………………」
「あの子、もともと浮世離れした感じでさ、どこか夢うつつみたいなところはあったけど。……それでも、美味しいもの食べたときとか、驚いたときは反応がしっかりあったよね?……なのに、ほんと見るたびに感情が弱くなってるんだよね……ああいう顔、昔よく見たよ。……自分で自分を洗脳してるんだ……何も感じない、平気だって。……ロキ君に抵抗したときは、正直言うとほっとしたくらいだし……——でも、きっともうそれもしない」
ティアの瞳が、セトを映してまばたく。
セトがどこまで信用したのか、ティアには判っている。ティアに対して手厳しいことを言っていても、セトは言葉のほとんどを素直に受け取ってくれる。それはティアにだけでなく、ハウスのなかの誰に対しても。
彼はもともと——優しいのだ。この優しいというのは、彼の根幹にある人懐こさと面倒見のよさをいっている。それについて、ティアは初対面のときに嫌がらせで彼の本性を暴き、把握している。
——だから、
「ね、セト君。……僕は別にね、あの子を救って逃げてほしいとか、そんな大それたことを君にさせたいわけじゃないんだよ」
「……それなら、なんでそんなこと俺に言うんだ……俺はもう、助ける気はねぇからな。名前を呼ばれたとしても、だ」
「うん……分かってる。ただ僕は、知っておいてほしいだけ。アリスちゃんは、もしかしたら……サクラさんに脅されてるんじゃないかってこと。それと、その脅しは——セト君に関係してる可能性があるってこと」
ティアの発言は、真実であれ虚偽であれ、サクラを信じるセトの意志を蝕む。
それすらも理解しながら、ティアがその託宣を彼に与えた理由は、正義感ではなく——おそらく、罪悪感を緩和するための罪滅ぼしに近い。
「俺は、サクラさんがそんなことする意味、分かんねぇ……」
「そうだね……それは僕もまだ、分からない。ある程度なら推測できなくもないけど、正しく解くには何か——情報が、僕の得ているものだけでは足りない気がする」
「……サクラさんだけじゃねぇよ」
「ん?」
「あいつ——ウサギも。俺が、脅迫材料になるとは思えねぇし」
「……そう? ま、僕の戯れ言は信じなくてもいいよ。でも、頭の隅においといてね?」
「なんだよそれ。ほんとに言い逃げじゃねぇか……お前の意図も読めねぇしよ」
「え、僕の意図は簡単でしょ?」
「はぁ? 全っ然わかんねぇよ」
声量の上がったセトに、ティアが曇りない笑顔を浮かべた。
「僕ひとりではどうにもできないから。せめてセト君も、アリスちゃんを見捨てないであげてね——ってことだよ」
他力本願なティアらしい心算に、セトは思わず嘆息しそうになった。
もう関わりたくなどないというのに。見捨てようとするたび、どうしてこう何度も撤回させられるような事態におちいるのか。しかも今回に限っては本人の泣き顔でなく、第三者による陰謀で。
「……嫌だ。俺はもう知らねぇ」
「うんうん、わかってる。とりあえずそういうことにしておこう」
「とりあえずってなんだ! 俺は何もしねぇからなっ」
「わかったってば。……ま、セト君はしばらくの間、大人しくしてたほうがいいかもね?」
「しばらくじゃねぇ。二度と、何もしねぇんだよ」
「え~? そんなこと言ってると、ロキ君に奪られちゃうよ?」
「なんでそこでロキが出てくるんだ……あんなやつよりお前だろ」
「あれ? アリスちゃんは俺のじゃないっていう否定待ちだったんだけど? ……もしかして、拾ったから俺のだって主張、本気だった?」
「………………」
「わ。それはびっくり」
「うるせぇ。別に変な意味じゃねぇよ」
「うん、他にどんな意味があるのかぜひ聞きたい」
「…………拾った以上、俺に責任があるとか、そういう感じで言ったんだよ。お前が思ってるような意味じゃねぇ」
「そう? ちなみに僕が思ってるような意味って?」
「……お前、話終わったなら早く出てけよ。いつまでいる気だ」
「あ、ごまかしたね?」
ティアの肩を押して、部屋から追い出そうとするセト。追い出しきる前に、手首のブレス端末が振動したことに気づいた。ティアも同じように意識を腕に向け、連絡を確認する。
——そして、
「ワイン!!」
ティアが発するには信じられない声量が、セトの鼓膜を貫くのだった。
何度も思っているはずなのに、撤回させられるのは何故なのか。
時は戻り、
「セト君、遅すぎ」
食事を終えて私室に戻ろうとしたセトを待っていたのは、一足先に食堂を後にしたティアだった。
セトの私室のドアに寄り掛かっていた上体を起こして、理不尽で唐突なクレームをつけてくる。甘味を一切とらずに、これでもさっさと戻ってきたほうであるセトは、機嫌がよいとは決して言えない状態だった。口は開かなかったが細い目でティアを射抜き、無言の圧をかけた。
「こわっ——じゃなくて、ちょっと話したいことがあるんだけど……なか、入れてくれない?」
愛想笑いを浮かべるティアの頼み事を、セトはしばらく黙殺してみせたが、引きさがる気配がないので「なんの用だよ」低い声音で問い返した。
「それは中に入ったら話すから、ね?」
「今お前と話す気分じゃねぇんだよ」
「そう言わずにさ。……お願い」
ティアが上目遣いにしおらしく頼みこむと、早く部屋に入りたいセトは面倒になったのか、ティアの横をすり抜けてドアに手をかざした。
「え? ……僕も入っていい、のかな?」
セトの後に続いて、尋ねておきながら答えを待たずに、ティアも中へと入った。
黒とグレーで整えられた無彩色の部屋。機能だけを追求したインテリアはシンプルで、ゴシック様式とルネサンス様式を融合させた(といっても、模様替えで内装はたびたび変わっている)古城の雰囲気は欠片も残っていない。ティアに言わせれば、味気のないモダンな部屋。
壁や天井は防音に特化した黒の材質で覆われ、存在感のあるスピーカーが部屋の隅と天井にすえられている。使用の際には浮遊するのだろうか。今時分で有線というアナクロニズム。
部屋の中央には大きなベッドがあり、VR用の特殊なチェアが一部の壁ぎわを占拠している以外は目立った物がない。ちなみにバーチャルの深度レベルを最大にできるこのチェアは高額な物で、感染が拡がっていない数年前でも一般の家庭には普及していない。
セトはベッドへと腰掛け、ティアの方を見ずに「……で?」一応話を聞く気があることだけ表明した。
ソファがない部屋を見渡したティアは身の置き場所を持てあましたが、選択の余地はなく立ったままで口を開き、
「アリスちゃんの、ことなんだけど……」
あからさまに顔をしかめたセトに、ティアは乾いた笑いをこぼした。
「やだな、そんな顔しないで」
「あいつの話なら出てけ」
「わりと深刻な話だからさ。さっきの揉め事にも関わってくるし……」
「俺はもう関わりたくねぇんだよ」
「まってよ、そんな早計な判断しないで」
「早計じゃねぇよ。あいつ何も言わなかったろ。俺の助けは要らねぇって、結論出たじゃねぇか」
「や、だからね……そこなんだけどさ」
肩をすくめたティアは、目線を上に向けてわずかに躊躇する。ここに来た時点で決意はあったのだが、いざ口にするとなるとほんの少し迷いが生まれた。
「……セト君って、僕の言うこと、どこまで信じられる?」
「基本信じてねぇ」
「えっ……ひどいんだけど」
「お前ふさげすぎなんだよ。信用してほしかったら真面目に生きろ」
「……もしかして僕、説教されてる?」
捨てられた子犬のようにしょんぼりとして見せるティアは、白々しい。セトは一瞬追い出そうかと思った。その苛立ちをティアは素早く感知する。
「僕のことはさておき、あのね……信用のない僕が言うのもなんだけど……アリスちゃんさ、多分サクラさんに脅されてると思うんだよね」
「…………は?」
「——だよね。うん、わかってた。そういうリアクションがくるだろうなって」
ひとり納得したティアは、「ごめん、今のなし」急に踵を返して部屋を出て行こうとし、
「はっ? ——お、おいっ、待てよ! 言い逃げすんな!」
脊髄反射でベッドから立ち上がったセトが、ティアの肩をつかんで引きとめた。セトを振り返る前に、ティアはかすかに笑ったが、その笑みはすぐに消えた。
「え? ……なに?」
「何じゃねぇだろ! お前がなんだよ!」
「わ、セト君うるさい」
ティアの指摘を受けて、ぐっとセトが押し黙る。声のトーンを下げて、
「脅されてるって……なんだよ」
「……証拠はないんだけど、いい?」
「聴くから、話せ」
「……今日さ、セト君が眠ってるときに、サクラさんとアリスちゃんが話していてね……。僕は途中から聞いたんだけど、アリスちゃんのほうがかなりせっぱ詰まったようすで……おそらく、ここを出ていくって、そんな主張をサクラさんにしていたと思うんだよね……」
「………………」
「さっきさ、セト君言ったよね? 俺が引き止めたって。……つまりさ、アリスちゃんは自分から出ていくのをやめたわけじゃないんだよね? 大量の感染者に襲われる怖い目にあっておきながら、僕らのとこに戻る気はなかった……それも衝撃だけど。そのあとも逃げようとしたアリスちゃんを、セト君が連れ帰ったってことだよね?」
「…………ああ」
「うん、そこは別に責めてないから気にしないで。……それでね、そのあとにサクラさんに出ていくって言ってたんだよ。……でも、なんでまだ、ここにいると思う?」
「……サクラさんが、反対したのか?」
「話し方からして、反対してる感じじゃなかったんだよね。……僕が見るに、セト君の名前を出して、アリスちゃんに何かプレッシャーをかけてた」
「……は? 俺?」
「うん……もうね、ここから先は憶測でしかないんだけど……言わせてもらうよ?」
神妙な面持ちをしたティアは、セトを静かに見つめ、
「セト君をかばうために、残ることを決めたんだと思う」
セトは、時が止まったかのように絶句した。
ティアの言葉を正しく捉えきれなかったのか、捉えたうえで言葉を失ったのか。
長い沈黙を、ティアも崩すことなく、琥珀の眼をじっと見つめる。
ゆれる瞳の思考を追いかけ、横槍を入れることなく暗黙のままに。
すると、ゆれていた琥珀の眼が焦点を結び、
「……お前、それ、どういう意図で言ってんだ……?」
「意図はないよ……なんて言うのは無理があるよね?」
ティアはやりきれないというように息を吐き出し、口角だけで微笑う。
「罪の意識っていうのかな……アリスちゃんの表情がさ、どんどん人形みたいになってくの、耐えられなくなってきて……」
「………………」
「あの子、もともと浮世離れした感じでさ、どこか夢うつつみたいなところはあったけど。……それでも、美味しいもの食べたときとか、驚いたときは反応がしっかりあったよね?……なのに、ほんと見るたびに感情が弱くなってるんだよね……ああいう顔、昔よく見たよ。……自分で自分を洗脳してるんだ……何も感じない、平気だって。……ロキ君に抵抗したときは、正直言うとほっとしたくらいだし……——でも、きっともうそれもしない」
ティアの瞳が、セトを映してまばたく。
セトがどこまで信用したのか、ティアには判っている。ティアに対して手厳しいことを言っていても、セトは言葉のほとんどを素直に受け取ってくれる。それはティアにだけでなく、ハウスのなかの誰に対しても。
彼はもともと——優しいのだ。この優しいというのは、彼の根幹にある人懐こさと面倒見のよさをいっている。それについて、ティアは初対面のときに嫌がらせで彼の本性を暴き、把握している。
——だから、
「ね、セト君。……僕は別にね、あの子を救って逃げてほしいとか、そんな大それたことを君にさせたいわけじゃないんだよ」
「……それなら、なんでそんなこと俺に言うんだ……俺はもう、助ける気はねぇからな。名前を呼ばれたとしても、だ」
「うん……分かってる。ただ僕は、知っておいてほしいだけ。アリスちゃんは、もしかしたら……サクラさんに脅されてるんじゃないかってこと。それと、その脅しは——セト君に関係してる可能性があるってこと」
ティアの発言は、真実であれ虚偽であれ、サクラを信じるセトの意志を蝕む。
それすらも理解しながら、ティアがその託宣を彼に与えた理由は、正義感ではなく——おそらく、罪悪感を緩和するための罪滅ぼしに近い。
「俺は、サクラさんがそんなことする意味、分かんねぇ……」
「そうだね……それは僕もまだ、分からない。ある程度なら推測できなくもないけど、正しく解くには何か——情報が、僕の得ているものだけでは足りない気がする」
「……サクラさんだけじゃねぇよ」
「ん?」
「あいつ——ウサギも。俺が、脅迫材料になるとは思えねぇし」
「……そう? ま、僕の戯れ言は信じなくてもいいよ。でも、頭の隅においといてね?」
「なんだよそれ。ほんとに言い逃げじゃねぇか……お前の意図も読めねぇしよ」
「え、僕の意図は簡単でしょ?」
「はぁ? 全っ然わかんねぇよ」
声量の上がったセトに、ティアが曇りない笑顔を浮かべた。
「僕ひとりではどうにもできないから。せめてセト君も、アリスちゃんを見捨てないであげてね——ってことだよ」
他力本願なティアらしい心算に、セトは思わず嘆息しそうになった。
もう関わりたくなどないというのに。見捨てようとするたび、どうしてこう何度も撤回させられるような事態におちいるのか。しかも今回に限っては本人の泣き顔でなく、第三者による陰謀で。
「……嫌だ。俺はもう知らねぇ」
「うんうん、わかってる。とりあえずそういうことにしておこう」
「とりあえずってなんだ! 俺は何もしねぇからなっ」
「わかったってば。……ま、セト君はしばらくの間、大人しくしてたほうがいいかもね?」
「しばらくじゃねぇ。二度と、何もしねぇんだよ」
「え~? そんなこと言ってると、ロキ君に奪られちゃうよ?」
「なんでそこでロキが出てくるんだ……あんなやつよりお前だろ」
「あれ? アリスちゃんは俺のじゃないっていう否定待ちだったんだけど? ……もしかして、拾ったから俺のだって主張、本気だった?」
「………………」
「わ。それはびっくり」
「うるせぇ。別に変な意味じゃねぇよ」
「うん、他にどんな意味があるのかぜひ聞きたい」
「…………拾った以上、俺に責任があるとか、そういう感じで言ったんだよ。お前が思ってるような意味じゃねぇ」
「そう? ちなみに僕が思ってるような意味って?」
「……お前、話終わったなら早く出てけよ。いつまでいる気だ」
「あ、ごまかしたね?」
ティアの肩を押して、部屋から追い出そうとするセト。追い出しきる前に、手首のブレス端末が振動したことに気づいた。ティアも同じように意識を腕に向け、連絡を確認する。
——そして、
「ワイン!!」
ティアが発するには信じられない声量が、セトの鼓膜を貫くのだった。
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