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Chap.6 赤と黒の饗宴
Chap.6 Sec.6
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「遅かったね、どうかしたの?」
物騒な空気を払拭すべく、ティアは積極的に明るい声をあげた。
遅れて現れたサクラの後ろには、イシャンも見えていた。ふたりが室内に入ると、1階からついて来たのか、ロボット2台と大型のワゴンが無音でするすると滑り込み、細長いデキャンタに入った美しい緋色の飲み物を見せつける。自然と心が躍ったが、表情に出していいだろうか。もう出てしまっている気もする。
サクラが苦笑をこぼした。
「ロボにワインを開けさせたら、メルウィンが悲鳴をあげてな。古い物は時間をおいてから開栓してくれと……あまりに泣くものだから、用意を任せたんだよ」
「なるほど……だからオードブルまであるんだ。瓶からの移し替えも、メル君がしてくれたの?」
「澱を取り除いたらしい。香りが飛ぶと騒ぎながら、随分と時間をかけてやっていたよ……飲まないというのに、律儀なものだな」
「……あ、そっか。メル君は呑めないんだったね」
「賭け事も遠慮するそうだ」
サクラの言葉に、彼女を捕まえたままのロキがハオロンを小突いた。
「お子ちゃまは偉いねェ~? ハオロンも見習えばァ?」
「お子ちゃまって……あんたとうちら1歳しか変わらんけどぉ……賭け事はありすの順番決めるだけやし? もともとの法律でいうなら、この国とうちの出身、どっちでも飲酒可能やし、なんも問題ないわ」
「ホントに?」
「うち、信用ないか?」
「信用は日々の積み重ね、らし~から」
「どっかで聞いたセリフやの」
鼻で笑い返すハオロンは、「これ、もう飲んでいいんかぁ?」おもむろにワゴンへと近寄った。便乗してティアも、
「僕も飲みたい! ……ちなみにこれ、なんなの? メル君の話からすると、熟成された高級ワインなんだよね?」
サクラは止めることなくワゴンの前を空けてくれた。ワゴンの上のオードブルはひとつひとつがつまみやすく、繊細な華やかさで盛られている。あり合わせでここまで仕上げられるメルウィンの才能はもっと褒めたたえられてもいいと思うが、如何せんここの住人たちはこういうものに疎い。ロボットやマシンで代用できることを、手間暇かけてやる意味が分からないのだろう。
ハオロンの希望に応えたロボットが、薄いグラスにワインを注いで差し出した。受け取った彼はティアの方を見て不敵に笑い、
「ブラインドで当てよさ。うちが勝ったら、明日ゲームに付き合っての?」
「えっ? そんなテクニック僕にないよ!?」
「心配せんでいいよ、うちにもないし」
「えぇっ?」
ならばその自信はどこからくるのか。強気なハオロンは笑いながらサクラを振り返った。
「乾杯するかぁ? ありすの歓迎会やしの」
「……歓迎、か」
「違うんか?」
「お前がそう思うなら、乾杯すればいいんじゃないか?」
「じゃ、やろさ。ほらみんな、グラス持っての」
こういうとき、ハオロンの屈託がない性格はずるい。こっちなんてずっと、視界の端にいるセトの様子が気になって素直にワインへと気持ちをもっていけない。
サクラが来た時点で立ち上がっていたセトは、隣に来たイシャンと会話していた。お前もカードすんのか? 何か支障があるか? いやべつに。そんな感じのやりとりだと思われる。
ロボットが手渡すグラスが全員に——もちろん、彼女にも——回ったのを確認したハオロンが、「ん? アリアはぁ?」今さらな疑問に言及した。サクラが、
「アリアなら試験データを見ている。今夜は研究をしたいらしい」
「真面目やの。……ほらロキ、見習わんと」
「オレの専門じゃねェし。……まァ、感染を止めたいとも思わねェけど?」
「ロキ、そういうとこやわ。あんたが火種になりやすいの」
「エ~? そォゆうこと言う? ハオロンも同類なクセに?」
「……ほやの。うちも、他人なんてどうでもいいわ」
ふ、と。
ハオロンの頬に惨虐な引き攣りが生まれた。初めて見る彼の一面に身体が震えたが、ティアがまばたきした一瞬のうちに、それは跡形もなく消え失せていた。
「さ、乾杯しよか」
——そんな質問するってことは、うちについてもよぉ知らんみたいやの?
天真爛漫な笑顔に、ハオロンがもらしていたセリフが重なる。
(……僕は彼らのこと、ほんとうに知らないみたいだ。……いまだ、何も)
ティアはこのハウスに来てから、延々と無為な時間を過ごしている。かといって外の世界には戻れないし、戻りたくない。可能ならばもう誰のことも頭に入れずに生きていこうと……思っているのだけれど。
「いいかぁ? ——乾杯!」
明朗なハオロンの声に、息の合わない面々が自由に杯を上げた。
ロキは「ハァイ」
サクラは「乾杯」
セトとイシャンは無言で。
空気を読んだティアは、「乾杯」きちんと目礼しておいた。ハオロンとサクラのみにだが。
皆が口をつけるなか、ハオロンはグラスを持って戸惑っている彼女の手を取り、目の高さに掲げるよう促す。薄いグラスを傷めないよう、そっと自身の物を重ね、すずやかな歓迎の音を鳴らした。
「ヴァシリエフハウスにようこそ、ありす」
ほほえみは優しい。
しかしティアはもう、その笑顔を真っ向から受け取ることはできない。
目をつむって、口に広がるワインに集中する。シルクのようになめらかな舌触りのそれが、ティアの胸に広がる不安を包み隠していく。
最初のアロマに感じたのは、四季折々の花を集めて作った優美なブーケ。けれども口にしたあとの余韻に、どこか懐かしさを覚えた。
——迷宮のようなローズガーデンの片隅で泣いている、ちいさな自分。しおれた花のちり塚で、抱えきれない哀しみを吐き出しながら、自分自身を見失っている。
(……あぁ、嫌な記憶だな)
ありとあらゆる芳香を集めて搾り落とした極上の雫は、罪悪感と交錯しながら、複雑で長い余情を胸に落とした。
「……なんやろ、なんのワインか全然分からんわ」
彼女とグラスを交わしたハオロンは遅れてひとくち飲んだが、正体をつかめなかったらしく、グラスを光に透かして考えこむように見つめている。夜が深まるに連れて照明の色みがオレンジに変化しているため、ワインの色は判断しにくい。あかね色の液体が、光を通して輝いている。
「あんま渋くねェし、けっこうイケる。これ、大したワインじゃねェかもよ?」
ロキのグラスは空になった。(いやいやもっと味わって飲んで)なんて思っていても言わない。
セトはグラスのなかに鼻先を入れて香りを確かめ、なぜか厭な顔をした。何が浮かんだのだろう。
隣のイシャンはグラスに入ったワインの縁を眺めている。彼はワインの正体を知っているかと思ったが、その様子からするとどうやら知らないらしい。
彼女はというと、まわりに合わせてワインを少し口にしていたが、よく分からずに皆の様子をうかがっていた。彼女は今までにワインを飲んだことがあるのだろうか。
「メルウィンが絶叫したんやろぉ? なら相当なワインやが」
ロキに反論するハオロン。横から「絶叫はしてねぇだろ」セトが口を挟んだ。
「つぅか……これ、あれだな……」
「セト分かるんかぁっ?」
「いや、なんも分かんねぇけど……なんつぅか、ティアみてぇな香りで……飲む気が起きねぇ」
急な流れ弾が。
「あぁ! 確かにティアやわ! 満開のお花畑をぉ、新品の革靴で歩いてそうな感じやの」
「はァ? 何言ってンのアンタら……」
「…………分かる」
「ほやろ? イシャンも分かるやろ? ロキ、なんで分からんのやって」
ひらめいたようにテンションを上げたハオロンだが、意見の出どころはセトである。当事者のセトは対照的に低いテンションで、グラスのなかの液体をくるくると回し香りを飛ばそうとしていた。その程度で飛びきるはずないとは思うが、なんて罰当たりな。
ハオロンがこちらを向いた。
「ティアはなんか分かったかぁ?」
「……や、全然わかんない。僕、ワインなんてハウスに来てからしか飲んだことないし……見当もつかないよ」
「そぉなんか? ほやったら、うちの勝ちでいい? ティアっぽいって、的を射てるやろ?」
「えっ! それはちょっと待って!」
そんな乱暴な決着があるだろうか。ティアの心を読んだように、「俺の意見だろ」セトが援護してくれたが、ハオロンは可愛らしい頬でツンと受け流した。
今出ている情報をかき集めて考える。人を撃ち殺すゲームなんて絶対にやりたくない。
「……とりあえずブルゴーニュワインでしょ? ……香りが尋常じゃないから、僕が絶対に飲んだことのない超高級ワイン……ヴィンテージは分からないけど、かなり熟成が進んでる……」
ちらりとサクラを見てカンニングする。いつのまにかブラインドテイスティングに参加している全員を楽しそうに眺め、ひとりワインを飲み続けている。ティアと目が合うと、甘くほほえんだ。あの顔はもう2択だ。ティアが欲しがっていたどちらか。
「……まさか、ロマネ・コンティ……?」
口にしておきながら、背筋がひやりとした。いやまさか、まさかまさか。
皆の視線を受けたサクラが、「如何にも」さらりと古めかしく肯定する。衝撃から、一同が——サクラと彼女をのぞいて——手許のグラスに目を向けた。しんとした沈黙に、全員の心が一致したのがわかった。
「……マジか」
最初に口を開いたのは、ロキ。
「分かんねェな……こんなん1本で、バーチャルマシンと同じ値段すンの? 最低価格で? ……ありえねェ」
イシャンは考えながら、ぽつりと、
「これは……開けても、よかったのだろうか……?」
ハオロンは驚愕のあまり引いている。
「保存庫から出して、てきとうに開けたんやろ……? こういうのって数週間前から立てとくって話やが……ちょっとサクラさん、何やってるんやって……」
サクラ贔屓のセトは、余計なことは言わずに「メルウィンが泣いた理由、分かったな」しれっと締めくくった。
グラスを傾けたサクラが、残っていたスカーレットの液体を飲み干して、一言。
「綺麗に整ったワインだが、私は好みではないな」
もう何も——言葉が出てこない。
ロキが隣の彼女に「これど~思う? 美味い?」味を尋ねると、彼女は迷いつつ首を縦に振ったが、
『香水みたい……』
絶対に美味しいとは言っていない独り言を唱えていた。
物騒な空気を払拭すべく、ティアは積極的に明るい声をあげた。
遅れて現れたサクラの後ろには、イシャンも見えていた。ふたりが室内に入ると、1階からついて来たのか、ロボット2台と大型のワゴンが無音でするすると滑り込み、細長いデキャンタに入った美しい緋色の飲み物を見せつける。自然と心が躍ったが、表情に出していいだろうか。もう出てしまっている気もする。
サクラが苦笑をこぼした。
「ロボにワインを開けさせたら、メルウィンが悲鳴をあげてな。古い物は時間をおいてから開栓してくれと……あまりに泣くものだから、用意を任せたんだよ」
「なるほど……だからオードブルまであるんだ。瓶からの移し替えも、メル君がしてくれたの?」
「澱を取り除いたらしい。香りが飛ぶと騒ぎながら、随分と時間をかけてやっていたよ……飲まないというのに、律儀なものだな」
「……あ、そっか。メル君は呑めないんだったね」
「賭け事も遠慮するそうだ」
サクラの言葉に、彼女を捕まえたままのロキがハオロンを小突いた。
「お子ちゃまは偉いねェ~? ハオロンも見習えばァ?」
「お子ちゃまって……あんたとうちら1歳しか変わらんけどぉ……賭け事はありすの順番決めるだけやし? もともとの法律でいうなら、この国とうちの出身、どっちでも飲酒可能やし、なんも問題ないわ」
「ホントに?」
「うち、信用ないか?」
「信用は日々の積み重ね、らし~から」
「どっかで聞いたセリフやの」
鼻で笑い返すハオロンは、「これ、もう飲んでいいんかぁ?」おもむろにワゴンへと近寄った。便乗してティアも、
「僕も飲みたい! ……ちなみにこれ、なんなの? メル君の話からすると、熟成された高級ワインなんだよね?」
サクラは止めることなくワゴンの前を空けてくれた。ワゴンの上のオードブルはひとつひとつがつまみやすく、繊細な華やかさで盛られている。あり合わせでここまで仕上げられるメルウィンの才能はもっと褒めたたえられてもいいと思うが、如何せんここの住人たちはこういうものに疎い。ロボットやマシンで代用できることを、手間暇かけてやる意味が分からないのだろう。
ハオロンの希望に応えたロボットが、薄いグラスにワインを注いで差し出した。受け取った彼はティアの方を見て不敵に笑い、
「ブラインドで当てよさ。うちが勝ったら、明日ゲームに付き合っての?」
「えっ? そんなテクニック僕にないよ!?」
「心配せんでいいよ、うちにもないし」
「えぇっ?」
ならばその自信はどこからくるのか。強気なハオロンは笑いながらサクラを振り返った。
「乾杯するかぁ? ありすの歓迎会やしの」
「……歓迎、か」
「違うんか?」
「お前がそう思うなら、乾杯すればいいんじゃないか?」
「じゃ、やろさ。ほらみんな、グラス持っての」
こういうとき、ハオロンの屈託がない性格はずるい。こっちなんてずっと、視界の端にいるセトの様子が気になって素直にワインへと気持ちをもっていけない。
サクラが来た時点で立ち上がっていたセトは、隣に来たイシャンと会話していた。お前もカードすんのか? 何か支障があるか? いやべつに。そんな感じのやりとりだと思われる。
ロボットが手渡すグラスが全員に——もちろん、彼女にも——回ったのを確認したハオロンが、「ん? アリアはぁ?」今さらな疑問に言及した。サクラが、
「アリアなら試験データを見ている。今夜は研究をしたいらしい」
「真面目やの。……ほらロキ、見習わんと」
「オレの専門じゃねェし。……まァ、感染を止めたいとも思わねェけど?」
「ロキ、そういうとこやわ。あんたが火種になりやすいの」
「エ~? そォゆうこと言う? ハオロンも同類なクセに?」
「……ほやの。うちも、他人なんてどうでもいいわ」
ふ、と。
ハオロンの頬に惨虐な引き攣りが生まれた。初めて見る彼の一面に身体が震えたが、ティアがまばたきした一瞬のうちに、それは跡形もなく消え失せていた。
「さ、乾杯しよか」
——そんな質問するってことは、うちについてもよぉ知らんみたいやの?
天真爛漫な笑顔に、ハオロンがもらしていたセリフが重なる。
(……僕は彼らのこと、ほんとうに知らないみたいだ。……いまだ、何も)
ティアはこのハウスに来てから、延々と無為な時間を過ごしている。かといって外の世界には戻れないし、戻りたくない。可能ならばもう誰のことも頭に入れずに生きていこうと……思っているのだけれど。
「いいかぁ? ——乾杯!」
明朗なハオロンの声に、息の合わない面々が自由に杯を上げた。
ロキは「ハァイ」
サクラは「乾杯」
セトとイシャンは無言で。
空気を読んだティアは、「乾杯」きちんと目礼しておいた。ハオロンとサクラのみにだが。
皆が口をつけるなか、ハオロンはグラスを持って戸惑っている彼女の手を取り、目の高さに掲げるよう促す。薄いグラスを傷めないよう、そっと自身の物を重ね、すずやかな歓迎の音を鳴らした。
「ヴァシリエフハウスにようこそ、ありす」
ほほえみは優しい。
しかしティアはもう、その笑顔を真っ向から受け取ることはできない。
目をつむって、口に広がるワインに集中する。シルクのようになめらかな舌触りのそれが、ティアの胸に広がる不安を包み隠していく。
最初のアロマに感じたのは、四季折々の花を集めて作った優美なブーケ。けれども口にしたあとの余韻に、どこか懐かしさを覚えた。
——迷宮のようなローズガーデンの片隅で泣いている、ちいさな自分。しおれた花のちり塚で、抱えきれない哀しみを吐き出しながら、自分自身を見失っている。
(……あぁ、嫌な記憶だな)
ありとあらゆる芳香を集めて搾り落とした極上の雫は、罪悪感と交錯しながら、複雑で長い余情を胸に落とした。
「……なんやろ、なんのワインか全然分からんわ」
彼女とグラスを交わしたハオロンは遅れてひとくち飲んだが、正体をつかめなかったらしく、グラスを光に透かして考えこむように見つめている。夜が深まるに連れて照明の色みがオレンジに変化しているため、ワインの色は判断しにくい。あかね色の液体が、光を通して輝いている。
「あんま渋くねェし、けっこうイケる。これ、大したワインじゃねェかもよ?」
ロキのグラスは空になった。(いやいやもっと味わって飲んで)なんて思っていても言わない。
セトはグラスのなかに鼻先を入れて香りを確かめ、なぜか厭な顔をした。何が浮かんだのだろう。
隣のイシャンはグラスに入ったワインの縁を眺めている。彼はワインの正体を知っているかと思ったが、その様子からするとどうやら知らないらしい。
彼女はというと、まわりに合わせてワインを少し口にしていたが、よく分からずに皆の様子をうかがっていた。彼女は今までにワインを飲んだことがあるのだろうか。
「メルウィンが絶叫したんやろぉ? なら相当なワインやが」
ロキに反論するハオロン。横から「絶叫はしてねぇだろ」セトが口を挟んだ。
「つぅか……これ、あれだな……」
「セト分かるんかぁっ?」
「いや、なんも分かんねぇけど……なんつぅか、ティアみてぇな香りで……飲む気が起きねぇ」
急な流れ弾が。
「あぁ! 確かにティアやわ! 満開のお花畑をぉ、新品の革靴で歩いてそうな感じやの」
「はァ? 何言ってンのアンタら……」
「…………分かる」
「ほやろ? イシャンも分かるやろ? ロキ、なんで分からんのやって」
ひらめいたようにテンションを上げたハオロンだが、意見の出どころはセトである。当事者のセトは対照的に低いテンションで、グラスのなかの液体をくるくると回し香りを飛ばそうとしていた。その程度で飛びきるはずないとは思うが、なんて罰当たりな。
ハオロンがこちらを向いた。
「ティアはなんか分かったかぁ?」
「……や、全然わかんない。僕、ワインなんてハウスに来てからしか飲んだことないし……見当もつかないよ」
「そぉなんか? ほやったら、うちの勝ちでいい? ティアっぽいって、的を射てるやろ?」
「えっ! それはちょっと待って!」
そんな乱暴な決着があるだろうか。ティアの心を読んだように、「俺の意見だろ」セトが援護してくれたが、ハオロンは可愛らしい頬でツンと受け流した。
今出ている情報をかき集めて考える。人を撃ち殺すゲームなんて絶対にやりたくない。
「……とりあえずブルゴーニュワインでしょ? ……香りが尋常じゃないから、僕が絶対に飲んだことのない超高級ワイン……ヴィンテージは分からないけど、かなり熟成が進んでる……」
ちらりとサクラを見てカンニングする。いつのまにかブラインドテイスティングに参加している全員を楽しそうに眺め、ひとりワインを飲み続けている。ティアと目が合うと、甘くほほえんだ。あの顔はもう2択だ。ティアが欲しがっていたどちらか。
「……まさか、ロマネ・コンティ……?」
口にしておきながら、背筋がひやりとした。いやまさか、まさかまさか。
皆の視線を受けたサクラが、「如何にも」さらりと古めかしく肯定する。衝撃から、一同が——サクラと彼女をのぞいて——手許のグラスに目を向けた。しんとした沈黙に、全員の心が一致したのがわかった。
「……マジか」
最初に口を開いたのは、ロキ。
「分かんねェな……こんなん1本で、バーチャルマシンと同じ値段すンの? 最低価格で? ……ありえねェ」
イシャンは考えながら、ぽつりと、
「これは……開けても、よかったのだろうか……?」
ハオロンは驚愕のあまり引いている。
「保存庫から出して、てきとうに開けたんやろ……? こういうのって数週間前から立てとくって話やが……ちょっとサクラさん、何やってるんやって……」
サクラ贔屓のセトは、余計なことは言わずに「メルウィンが泣いた理由、分かったな」しれっと締めくくった。
グラスを傾けたサクラが、残っていたスカーレットの液体を飲み干して、一言。
「綺麗に整ったワインだが、私は好みではないな」
もう何も——言葉が出てこない。
ロキが隣の彼女に「これど~思う? 美味い?」味を尋ねると、彼女は迷いつつ首を縦に振ったが、
『香水みたい……』
絶対に美味しいとは言っていない独り言を唱えていた。
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