【完結】致死量の愛を飲みほして【続編完結】

藤香いつき

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Chap.8 All in the golden night

Chap.8 Sec.3

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 さて、どう出るだろう。
 食堂の無駄に長い(きっと数年前は活用されていたのだろうけど今は間違いなく邪魔だと思う)テーブルの窓側に座って、ティアは彼女を待っていた。

——ね、アリスちゃんの検査っていつ終わるの?

 昨日から音沙汰おとさたない彼女の行方ゆくえにじりじりして、サクラへとしつこく絡んでいたティアであったが、タイミングよく現れたメルウィンによってやっと彼女の消息が知れた。とりあえず医務室にいたのは嘘でなかったらしい。この話すらも段々と怪しんでいたので、ハウス内にいたことには心からほっとした。

 もちろん、アリスさん回復したよ! なんていう具体的な会話はなかったけれど、調理室から姿を見せたメルウィンは喜色満面で、(もうさ、絶対アリスちゃん寝込んでたでしょ!)何も隠しきれていない。

——サクラさん、……医務室のアリスさんに、食事を届けるんだけど……僕が直接、持って行っていいかな?

 サクラに向けてそんなことを言うので、すかさず、「検査が終わったならこっちで一緒に食べようよ」と提案した。検査なんてちっとも信じていないので、彼女の姿を確認しないことには落ち着かない。

 そう、結局ティアは昨日から何も情報を得ることができていない。謎のお茶会のあとにロキの部屋へと行ってみたのだが、彼は出てこず、送信したメッセージも完全なるスルー。ミヅキを通して呼んでもらったが、

——ロキは通信を遮断しているよ。緊急なら呼ぶこともできるけど、どうする?

 緊急連絡の記録は多分サクラに確認される。よって諦め、わずかな確率に賭けてセトのほうへと連絡を取ってみたが、まさかのあちらも無視。メッセージもいまだに返信がない。……倒れてたりして。セトに限ってそれはないか。何よりミヅキが把握していないわけがない。

 思考の一割くらいで心配していると、そっちの行方不明者は、悩めるティアが待つ食堂にあっさりとやって来た。

「——セト君!」

 入り口から見えた金髪に驚いて声をかけると、なんだよと言いたげなわずらわしそうな表情がこちらに向いた。

「きみ、何してたの?」
「トラップの分析してた」
「トラップ?」
「外でやられたやつだよ。感染者に襲われたって言ったろ」
「あぁ、そうなんだ。……でも、それならさ、返信くらいしてよ。倒れてるかもって心配したのに……」
「はぁ? 倒れたら分かるだろが。俺の情報はほとんどオープンになってるんだしよ。お前と違って……つかお前はなんでロックしてんだ。邪魔だから外しとけ」
「……あれ? なんか僕が責められてる?」

 琥珀こはく色の眼ににらまれた。なぜ。どうも納得いかない。

 ティアとサクラは向かい合ってテーブルに着席していた。セトは廊下側を進み、サクラの横へと腰を下ろし、サクラに話しかける。

「データまとめたから、時間あるときに見てくれるか?」
「ああ、何か分かったか?」
「……いや、どこの誰がどういう理由でやったか、とかの確信はねぇけど……気になる点がいくつかあって。まぁ……見といてくれよ」
「今夜見ておこう」
「ん」

 会話するふたりを見ていて、ティアは違和感を覚えた。たいてい恐い顔のセトではあるが、サクラに対してはわりあい表情をやわらげて話すことが多いのに、なんだかよそよそしい。昨日森に行った理由を野性と判断して深く考えていなかったが、もしかすると……

 思考を遮って、食堂のドアが開いた。
 視線を流すと、入ってきたのはアリアと——

「アリスちゃん!」

 呼び声に気づいた彼女の顔が、微笑に似たほころびを見せた。(——あれ?)その表情にも激しい違和感が。いつもなら、こわばりのある頬が目立つのに。まだどこかうれいが残ってはいるが、ここまで警戒を解いた顔は初めて見る。
 アリアと連れ立ってこちら側に来た彼女をざっくりと見回すが、どこにも治療の跡は無い。

「アリスちゃん、元気? 大丈夫?」
「……だいじょうぶ」

 ティアは席を立ち上がりたかったが、彼女を怖がらせるかも知れないと思い、座ったまま微笑み返すだけにした。代わりにアリアへと声をかける。

「アリア君が、……検査、してくれたんだよね? どこも悪いとこなかった?」
「……はい。異常は見られませんでしたよ」
「そっか、よかった」

 何かあったのは間違いない。けれど、本人が想像よりもずっと元気そうで、しっかりと休めたみたいなので、今は追求しないことにした。

「メル君は、調理室に直接行ったのかな?」
「……めるうぃん、ごはん、……きれいに、かざる……する、って」
「うん、そうだね。盛り付けって大事だよね」

 アリアはティアからひとつ席を離して座った。ティアは彼女に真ん中に座るよう促そうとして、

「ロキ、あんた何してるんやって。そんなとこ居たらみんな邪魔やわ、はよ入って」

 ドアの方から、ハオロンの声が聞こえた。ついでに、ティアの中でほぼ犯人確定の容疑者の名も。
 入り口にいたのは、予想どおりロキとハオロン。その後ろにはイシャンも見える。ロキが入室を渋っていたのか、後ろのふたりは足止めされているようだった。
 ハオロンに背中を押されて、ためらいがちにロキは足を踏み出した。かと思うと、そこから先は、すたすたとした足取りでこちらにやって来る。こちらに——つまり、彼女の、前まで。

「……え、ちょっとロキ君……?」

 懸念をいだいて間に入ろうかと思ったが、彼女と向き合ったその顔を見て、思いとどまった。

 しん、と。
 不思議な沈黙が室内に広がった。
 ロキを見上げる彼女の顔は見えない。だが、ロキが小さく深呼吸したのが、ティアには分かった。

 叱られるのを覚悟する子供のような、その顔で。彼はいったい何を口にするのか。
 不謹慎ながら、とても興味深いと感じていた。
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