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Chap.14 純白は手折りましょう
Chap.14 Sec.4
しおりを挟む「シャワーなんてしなくていいけど?」
特徴的なノイズ混じりの声が、夜の砂漠をえがく室内に響いた。シャワールームへ移動しようとしていた彼女は、ゆるりと振り返る。暗い背景にライトアップされたピラミッドを背負い、目許には困ったようすを見せて、
「きょうは、たくさん、あるいたから……」
「別に気になんねェよ?」
「……わたしは、きになる」
「オレは、気にしない」
丸く大きなベッドに腰を下ろしていたロキは、彼女の手を引いた。ふたりの目線は並んでいる。彼女はシャワールームに未練があるようだったが、諦めたようにロキへと顔を寄せた。ふたつの影が結びつき、ベッドの上へと落ちていく。
唇から、頬へ。頬をたどって、まぶたに触れて。キスに埋められる意識の裏側で、筋張った指が器用に動き、はだけた服のあいだから胸を優しく包みこむ。甘やかな愛撫から察するに、ロキの機嫌はよい。昼間に彼が見せた、わずかな苛立ちは、みじんも無い。
「……ろき、」
「なに?」
「わたし、しゃわー、してない……」
「知ってるけど?」
「だから……きになる……」
「オレは気にしないって言ったじゃん」
「…………わたしが、なめる……?」
目を泳がせながらの提案に、ロキはクスリと唇の端を上げた。応えることなく、色彩あふれる頭が胸元に下りていく。彼の赤い唇が、胸の先端をやわらかく捕らえると、彼女の唇は吐息を耐えるように閉ざされた。長い舌が、ぬるりと纏わりつく感触に、身体が震える。優しくされるほど、それは官能を帯びて、彼女の精神を追い詰めていく。自分は本当に望んでいないのか、どうか——あいまいになっていく。
長い指は、さらさらと肌を撫で、思い惑う心を嘲笑うように煽った。脚の付け根に向けて、そこを狙いながらも、焦らすような動きで。布越しに指先でなぞられると、自然と腰が動き、彼女の頬が恥じらいに染まった。
「……声、出さねェつもり?」
「………………」
「あのさァ~? 強情な態度とってると、むしろ……崩してやりたくなンだけど?」
目を合わせたロキが、意地悪く唇を曲げた。赤い舌が、歯列から誘うようにのぞいている。眉を八の字にした彼女の困り顔を、ロキは気にかけることなく、その長い指を下着の中へと滑らせた。ぬる、と。濡れた感触に、指先が障りなくうごめく。入り口だけ。はっきりとした刺激は、与えない。
小さな唇から、荒い吐息が落ちると、ロキは彼女の耳に口を寄せ、
「ウサギちゃん、——いれていい?」
とびきり甘い音を、響かせた。
ぞくっと背筋に走る感覚を、耐えきってから、間近で反応を見ていたロキの目を見つめて、
「……ひとつ、おねがいが、ある」
絞り出すような、かすれた声に、ロキの目が細められた。
「は? ……また? ウサちゃんさァ、1回するごとに交換条件いけると思ってねェ?」
拍子抜けしたように空気が変わる。ロキのあきれた目つきに、彼女は控えめながらも、頼む機会は今と心得ているのか退くことなく、「……だめ?」小さく問いかけた。
「お願いってなに? 治癒フィルムなら何枚でもあげるけど」
「……しらべる、したい。ぶれすたんまつで……しらべる、できるように、してほしい」
「ミヅキに訊けばいいじゃん」
「……じぶんで、しらべたい」
「何を?」
「…………それの、ことばが、わからない」
ロキが言語を切り替えた。
『それなら、こっちで言ってみて』
『…………毒』
『……どく?』
『そう』
『そんな物を調べたいの?』
『……死に至る毒について……調べたい』
『だれか毒殺するの?』
極端な質問に、彼女が勢いよく首を振った。
『しないよ。……私は、ただ……毒の種類と、それを飲んだ場合どうなるか……それから、毒を中和する方法を調べたいだけ……』
『そんなことなら、おれが教えてあげるから、おれにきいて』
『…………調べられるようには、してもらえない?』
『条件が見合ってない。ここのデータベースにアクセスできるようにするなら、もう少しいい条件を出してもらわないと納得いかない』
『いい条件って、たとえば……?』
『日中の時間を、全部おれにちょうだい』
『……それは、困る……』
『なら、だめ』
簡潔な返答で締めくくるつもりなのか、ロキは触れていた脚のあいだに下半身を割り込ませると、入り口に自身をあてがった。潤滑液をまとうように、ぬるぬると動かし、その感触に彼女が腰を引くが、逃がすまいと腰を手で押さえ込んだ。
「いれてい~い?」
「……わたしのおねがいは……?」
「…………じゃ、毒についてのみ。それ関連のデータだけ、ウサちゃんの端末に入れてあげるから……それでいい?」
「ありがとう」
「……オレに訊けばいいのに」
「……ろきは、……ドク? を……いっぱい、しってる……?」
「毒薬でも毒素でも、データベースの情報はなんでも知ってる」
「……じゃあ、ろきに、きこう……かな……?」
「なんでも教えてあげるけど……あとで」
「——ん」
あとで、と。悪戯な微笑で囁いたロキの腰が、深く沈んだ。色香のにじむ声と吐息が、抑えきれずにこぼれる。——互いに。
深く、深く、奥まで入り込んでくる存在感に逃げようとしても、抱きしめるように体に回された腕が許さない。額に、くちづけが落とされる。前髪の生えぎわに合わさった唇が、熱い吐息を掛ける。手荒に抱きそうな雰囲気をもっていながら、私室でのロキはひどく優しい。さながら恋人のように肌を触れ合わせる。彼女の反応を見ながら内壁を擦りあげ、「これ、スキ?」彼女の水気を帯びた瞳が自分に向くと、「なか……吸い付いてくる」満足げに笑った。
「身体は素直で可愛いンだけどねェ~?」
「……ろきは、いじわるい」
「そ? こんなに優しいのに」
ちゅっと音を立てて、まぶたにくちづける。彼女のささやかな反抗を、ロキは軽やかに往なした。本当に機嫌がよいらしい。
腰が強く動くと、会話は途絶える。じゃれるようなロキの瞳にも、野性がよぎった。遠くのピラミッドは意識から消えて、世界にふたりきり——そんな錯覚に陥る。似た者どうし、むなしさを埋め合う行為。身体に生まれる熱は——今だけ。
「ウサギちゃん、可愛いこと言ってよ」
「…………あいしてる」
「へたくそ」
ロキの悪態に、彼女の目線が、ふわりと考えるように流れた。
答えを見つけた双眸が、ロキを捉えて、
「いつも、やさしくしてくれて……ありがとう」
——ふ、と。ロキの目に困惑が浮かび、視線がずれる。口の中で「意地悪いって言ったくせに、嫌みじゃん」憎まれ口をたたいたが、それは明瞭さを得なかった。代わりに自身を深く進めて、まるで何事もなかったかのように、
「可愛く声出すまでやるから、覚悟して」
「……いじわるい……」
軽快な笑い声が、部屋に響いた。
それはすぐに消えて、熱い吐息へと変わりゆく——。
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