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Chap.15 A Mad T-Party
Chap.15 Sec.12
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「——まって!」
ひらりと、白い何かが、セトとイシャンのあいだに躍り出た。
一瞬それは、ミヅキの立体投影かと思われた。しかし、長い白髪が作り出した軌跡と、攻撃に転じようとしていたセトの耳に届いた声が——
「——ティアっ?」
驚きの声が、その名を呼ぶ。場に揃っていた全員が、思いがけない闖入者に驚愕していた。
白い治療着に、まだ血の気が薄い陶器のような肌。攻撃の勢いを殺したセトだったが、迫力に負けたのか風圧なのか、ティアの身体はくらりと傾き、倒れそうになったところをイシャンが受け止めていた。
「……まったく……君らは血の気が多いんだから……」
半笑いのような声で、色の薄い唇が文句の音を響かせる。イシャンの手を頼りに体勢をととのえたティアに、セトがハッとして、
「お前! 大丈夫なのかっ?」
「わ……うるさい……」
あわてて手を伸ばしたセトから、ティアがふらりと一歩さがった。
「頭に響くから……セト君、静かにできるかな……」
「お、おぅ、わりぃ……」
こめかみを押さえるティアに、たじろいで距離をとったセトだったが、背後から「いや、イシャンやるンじゃなかったの?」ロキに鋭く突っこまれた。
そうだった、と。ティアからイシャンに意識を向けるセトに、イシャンは戸惑いの目を返した。あいだのティアが、セトの行く手を邪魔するように両手を広げ、
「ね、暴力は、だめだよ?」
「ティア、そこをどけ。今うまく話してる暇ねぇんだよ」
「僕らに話す時間がないなんて、僕は思わないな……人間なんだから、話し合おうよ。なにより……兄弟なんだから。力で解決しようとすれば、それは、絶対に傷が残る。身体じゃないよ? 心の傷だよ」
「……お前は知らねぇだろうけど。お前が眠ってるあいだに、いろいろあったんだよ」
「うん、わかってる。すこし前に意識は戻ってたからね、ミヅキ君に状況を教えてもらったんだ……食堂の、魔女裁判も見たよ」
「……なら、俺がやろうとしてることも、分かってんだろ」
「うん、だから、こうして急いで飛び出してきたわけなんだよね?」
「——は?」
セトの後ろで、不意を突こうと構えていたロキに、ティアが強い目を送った。「やめてね? 僕、病みあがりだから」ロキは、手にかけていた腰のバトンから指を離すことはなかったが、軽く吐息をこぼした。
「……なァ、これ、ど~すんの?」
「俺に訊くのかよ……」
完全に出端をくじかれた、ふたり。
イシャンは状況を読み取ろうと考えているようだが、理解が及んでいない。そんな彼らの膠着状態を分かったうえで、ティアは困ったように微笑んだ。
「お願いだから、けんかはしないで。……君たちが、アリスちゃんを助けたいのも分かってる。……アリスちゃんは、サクラさんに囚われてるのかな? それなら、サクラさんに話をしにいこうよ」
「……話して通じる状態か? 今のサクラさんが、俺らの話をまともに聞いてくれんのか?」
「——これは、僕が被害者だ。裁判なんて要求しないし、アリスちゃんが犯人かどうかも……僕が、自分で判断する。文句は言わせない。……だって、つらい思いをしたのは、僕だからね?」
「………………」
真っ白な顔は、まだ本調子ではないのが見て取れる。セトは踏み込めない。ティアの言葉に、最後の希望を託して——サクラと話すべきだと感じていた。
「……わかった。ティア、お前からサクラさんに連絡してくれるか?」
「うん、まかせて」
にこりと、やわらかく唇を曲げたティアは、力尽きたようによろめいた。背後にいたイシャンが腕を伸ばしたため、倒れることはなかったが……気持ち悪いのか、頭が痛いのか、苦しげに眉を寄せて崩れるように膝を折った。
「お、おいっ! ティア!」
ティアは、吐き気を抑えようとしているのか、胸に手を重ねた。その姿は、祈りを捧げる信仰者に似ていた。
苦しみのなか、小さなうめき声の奥で、何かを唱える。
「サクラさんは……あの子を試験してるんだ……」
声にならないそれは、誰の耳にも届かない。
——サクラさんは、ずっと、試してたんだ。
あの子がセト君を裏切らないかどうか。セト君を託すに足る人間かどうか。
それから——セト君のことも、試してた。サクラに歯向かうほど、あの子を信じられるのかどうか。
愛の試験——言葉にすると、陳腐すぎる。人が、神様の試練みたいなことをやってる。
「……さいあくだね……」
まぶたを閉じたまま、ティアは嘲笑った。
サクラではなく、昔の自分を。
神様のまねごとをしていた、自分自身を。
ひらりと、白い何かが、セトとイシャンのあいだに躍り出た。
一瞬それは、ミヅキの立体投影かと思われた。しかし、長い白髪が作り出した軌跡と、攻撃に転じようとしていたセトの耳に届いた声が——
「——ティアっ?」
驚きの声が、その名を呼ぶ。場に揃っていた全員が、思いがけない闖入者に驚愕していた。
白い治療着に、まだ血の気が薄い陶器のような肌。攻撃の勢いを殺したセトだったが、迫力に負けたのか風圧なのか、ティアの身体はくらりと傾き、倒れそうになったところをイシャンが受け止めていた。
「……まったく……君らは血の気が多いんだから……」
半笑いのような声で、色の薄い唇が文句の音を響かせる。イシャンの手を頼りに体勢をととのえたティアに、セトがハッとして、
「お前! 大丈夫なのかっ?」
「わ……うるさい……」
あわてて手を伸ばしたセトから、ティアがふらりと一歩さがった。
「頭に響くから……セト君、静かにできるかな……」
「お、おぅ、わりぃ……」
こめかみを押さえるティアに、たじろいで距離をとったセトだったが、背後から「いや、イシャンやるンじゃなかったの?」ロキに鋭く突っこまれた。
そうだった、と。ティアからイシャンに意識を向けるセトに、イシャンは戸惑いの目を返した。あいだのティアが、セトの行く手を邪魔するように両手を広げ、
「ね、暴力は、だめだよ?」
「ティア、そこをどけ。今うまく話してる暇ねぇんだよ」
「僕らに話す時間がないなんて、僕は思わないな……人間なんだから、話し合おうよ。なにより……兄弟なんだから。力で解決しようとすれば、それは、絶対に傷が残る。身体じゃないよ? 心の傷だよ」
「……お前は知らねぇだろうけど。お前が眠ってるあいだに、いろいろあったんだよ」
「うん、わかってる。すこし前に意識は戻ってたからね、ミヅキ君に状況を教えてもらったんだ……食堂の、魔女裁判も見たよ」
「……なら、俺がやろうとしてることも、分かってんだろ」
「うん、だから、こうして急いで飛び出してきたわけなんだよね?」
「——は?」
セトの後ろで、不意を突こうと構えていたロキに、ティアが強い目を送った。「やめてね? 僕、病みあがりだから」ロキは、手にかけていた腰のバトンから指を離すことはなかったが、軽く吐息をこぼした。
「……なァ、これ、ど~すんの?」
「俺に訊くのかよ……」
完全に出端をくじかれた、ふたり。
イシャンは状況を読み取ろうと考えているようだが、理解が及んでいない。そんな彼らの膠着状態を分かったうえで、ティアは困ったように微笑んだ。
「お願いだから、けんかはしないで。……君たちが、アリスちゃんを助けたいのも分かってる。……アリスちゃんは、サクラさんに囚われてるのかな? それなら、サクラさんに話をしにいこうよ」
「……話して通じる状態か? 今のサクラさんが、俺らの話をまともに聞いてくれんのか?」
「——これは、僕が被害者だ。裁判なんて要求しないし、アリスちゃんが犯人かどうかも……僕が、自分で判断する。文句は言わせない。……だって、つらい思いをしたのは、僕だからね?」
「………………」
真っ白な顔は、まだ本調子ではないのが見て取れる。セトは踏み込めない。ティアの言葉に、最後の希望を託して——サクラと話すべきだと感じていた。
「……わかった。ティア、お前からサクラさんに連絡してくれるか?」
「うん、まかせて」
にこりと、やわらかく唇を曲げたティアは、力尽きたようによろめいた。背後にいたイシャンが腕を伸ばしたため、倒れることはなかったが……気持ち悪いのか、頭が痛いのか、苦しげに眉を寄せて崩れるように膝を折った。
「お、おいっ! ティア!」
ティアは、吐き気を抑えようとしているのか、胸に手を重ねた。その姿は、祈りを捧げる信仰者に似ていた。
苦しみのなか、小さなうめき声の奥で、何かを唱える。
「サクラさんは……あの子を試験してるんだ……」
声にならないそれは、誰の耳にも届かない。
——サクラさんは、ずっと、試してたんだ。
あの子がセト君を裏切らないかどうか。セト君を託すに足る人間かどうか。
それから——セト君のことも、試してた。サクラに歯向かうほど、あの子を信じられるのかどうか。
愛の試験——言葉にすると、陳腐すぎる。人が、神様の試練みたいなことをやってる。
「……さいあくだね……」
まぶたを閉じたまま、ティアは嘲笑った。
サクラではなく、昔の自分を。
神様のまねごとをしていた、自分自身を。
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