【完結】致死量の愛を飲みほして【続編完結】

藤香いつき

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Chap.17 ロックンキャロルでワルツを

Chap.17 Sec.4

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 ——むかしむかし、あるところに、ひとりの王様がいました。
 その王様は、とても賢く、悪い魔法にもかからない、すばらしい魔力の持ち主でした。
 そんな王様のもと、異国から嫁いできた王妃さまが、ひとりの男の子を産みます。王様そっくりのその王子は、王様の力を余すところなく受け継いでいて、1歳を過ぎるころには、ほかの子供とは明らかに違いました。周囲の大人たちが驚くほど賢いのは、もちろんのこと。悪い魔法にかからないという特別な能力も、きちんとあるのです。
 あまりにも優れたその王子に、国の大臣たちは、こう考えました。

——王様の子が増えれば、この国はもっと強大な国となるのではないか?

 しかし、大臣たちは、更なる世継ぎを産むよう、王妃様を急かすようなことはありませんでした。彼らは、人が子を産むまでにかかる年月を考え、別の方法を思いついたのです。

——を募ろう。

 王様が優秀なのは、人々も知っていましたから、を出してしまえば、どこの誰とも分からぬ者が集まってしまいます。敵対する可能性のある者たちを避けるためにも、大臣たちは慎重に声をかけていきました。ある者は、軍の指揮官に。ある者は、町の権力者に。ある者は——当時、人々を魅了していた、預言者に。声を掛けられた女性たちは、喜んで引き受けました。男性の場合は、自分の妻や娘を差し出しました。
 
 こうして、たくさんの王子が生まれたのです。姫はおらず、王子のみ。王子たちは、一堂にお城に集められ、食堂の長テーブルをいっぱいに埋めるほどでした。——ただ、ひとりだけ。預言者の子だけは、彼らの信者にはばまれて、お城に引き取ることはできませんでしたが……。

 たくさんの王子を迎えたお城は、彼らの教育に力を入れ、彼らもまた、望みどおりにすくすくと育っていきました。
 王国は、すばらしい未来を手に入れたかのように見えました。

 王国に暗い影が差したのは……第一王子が20歳を迎えた年の冬のこと。乾ききった冷たい風が、国に悪いものを運んできたのです。その悪いものは、おそろしい病魔でした。人々は次々と倒れ、とりわけ幼い子供と老人たちは、真っ先に倒れていきました。その病魔は姿が見えず、王様は戦うこともできず、誰も救うことができません。無力な王様に、大臣たちは……病魔に立ち向かうのではなく、お城から逃げていってしまいました。皆に見放され、絶望して、みずから命を絶ったのか……王様と王妃様は、そのときに命を落としたと言われています。真実は、今では誰にも分かりません。

 さて、これほどの厄災やくさいに見舞われた王国でしたが、お城にはまだ、残された王子たちがいました。彼らは特別な魔力がありましたから、病魔に倒されることもありません。ほとんどの王子たちは、自分の真の家族を案じて出て行ってしまいましたが……それでも、行き場のない7人の王子が残りました。ひとり歳上の第一王子は、不安そうな弟たちを見て、こう誓ったのでしょう。

——私が、護ろう。

 王のくらいを継ぎ、彼らの君主として、王国を治めることにしました。治めるといっても、国の人々の多くは亡くなっていましたから……彼らは、お城を護りながら、城下のまちを見て回ることしかできません。それでも、救われる者たちは大勢いました。

 そんななか、彼らのお城には、行方ゆくえの知れなかった預言者の息子がやってきます。信者たちも病魔に倒されていたため、その青年は、ひとりきりだったのです。

——行き場所がないのです。どうかここに置いてください。

 ……これほど健気けなげに頼んだのかどうか。そのあたりは定かではありませんが、新たな王は、住まうことを許してくれました。

 新たなる王と、7人の王子たち。7人の王子のうち、ほとんどは、新たなる王にとても従順。とくに、狼のような王子と、寡黙かもくな王子が。料理が得意な王子も、病魔を倒すための研究をおこなう王子も、素直です。しかし、背の高い王子は、問題を起こしてばかり。預言者の息子は閉じこもりがちで、皆との交流を避けました。……おや? 王子が、あとひとり足りませんね? ……あぁ、じつは、ひとりだけ……魔力のもたない王子がいたのです。その王子だけ、小さく、歳も離れていました。異国から嫁いでいた王妃が、新たなる王——第一王子のあと、長い時をあけて産んだ子です。異国の血のせいか、ひどく幼く見える彼を——じっさい、歳も5つ6つ離れていたので——兄の王子たちは、とても可愛がりました。なにより、遅く生まれたせいか魔力をもたないすえの王子は、護らなければならない存在でしたから……新たなる王も、兄の王子たちも、過保護にならざるをえませんでした。

 しばらくは、穏やかな日々が過ぎていきます。ときおり、けんかもありましたが……愛くるしい末の王子がいるおかげで、お城は平和でした。

 そんな、ある日のことです。
 お城に、助けを求める者たちが現れました。病魔に呪われ、今にも倒れそうな仲間を連れた、流浪るろうの民たちです。新たなる王は、末の王子へと呪いの影響が及ぶのを恐れ、入城を拒みました。しかし、末の王子は、こう言うのです。

——兄さん、彼らを助けてあげて。兄さんたちなら、呪いを解いてあげられるかもしれない。

 末の王子に強く願われ、新たなる王は、流浪の民たちを受け入れました。お城に住まう条件として、彼らに命じます。

——城の5階へは、決して行かないように。

 末の王子を隔離した5階へと、流浪の民たちが行くことのないよう、扉には厳重な鍵が掛けられました。
 ……ですが、この鍵には、ひとつ問題があったのです。5階へと行くための外側は厳重で、もちろん、流浪の民が開けることはできません。しかし、中にいる末の王子は……魔力の代わりに、鍵を開けるのがとても得意な子だったのです。内側から開けることは、まばたきをするくらい簡単でした。そのため、彼は……ある夜、なぜか……流浪の民のひとりを、5階へと招き入れてしまいます。誰にも内緒で。その流浪の民は、呪いを受けていない者のはずでしたから、末の王子も、油断したのかもしれません。
 ——しかし、その流浪の民は、悪魔の手先だったのです。大切に護られていた末の王子へと、じかに呪いをかけました。とても、強力な呪いを。解くことのできない、永遠とわの呪いを。
 ……そうして、末の王子は……この夜、死神の手を取ることを選びました。このとき、末の王子は、どう思ったのか。呪いで狂ってしまうことを怖がったのか、呪われた自分のことで、兄弟たちの手がわずらわされることを恐れたのか……すべては、闇のなか。
 残された、新たなる王と兄の王子たちもまた、絶望の闇へと落とされました。

 暗く、冷たい日々です。末の王子をうしなった彼らは、人々を救う気力も失いました。その頃には、人々も、新たなる王に頼ることなく——自分たちの力で、この暗い世を生きるすべを身につけていたのもあり——お城は、長らく閉ざされることとなります。

 寒い冬が終え、季節がめぐり……そのあいだに、もうひとり。行方が分からなくなっていた、元気いっぱいの王子が帰ってきて……また、寒い季節の足音が聞こえてきたころ。
 心の傷が、ほんのすこしでも癒えつつあった狼の王子は、散歩の途中で、道に迷ったひとりのお姫様を見つけました。もとより、迷子の動物を連れ帰りがちな彼。当然、放っておくこともできずに、閉ざされたお城へと連れて帰ってしまいます。“兄弟ではない者を、城に入れるべからず”——という、お城の決まりを無視して。

——新たなる王は、怒って受け入れないかもしれないぞ。

 そう思った狼の王子は、お姫様をどこか安全な地へ連れて行こうかとも考えていましたが……なぜか、新たなる王は、入城を許したのです。
 ひょっとすると、新たなる王は——絶望の闇に落ちたこのお城から、王子たちを救い出したかったのかもしれません。真の愛のキスは、どんな絶望の闇もはらうと、昔から言い伝えられていましたから。
 ——物語とは、じつに勝手なものですね。迷い込んだお姫様のキスが、王子の誰かに効くのかどうか——そんなことよりも、お姫様の心を無視した、ひどく勝手な希望です。ただ、新たなる王にとっては、“キス”も“人工呼吸”も、価値は変わりません。自分の兄弟である王子たちを、ひとりでも救えるなら……お姫様の心など、どうでもよかったのです。

 かくしてお城にとらわれた、可哀想なお姫様。新たなる王は、おとぎ話の魔王へと、おのれの配役を定めます。騎士ナイトに魔法遣い、それから引っかき回しトリックスター。ほかにも魔物はたくさん。
 ととのった舞台の上で、魔王が導く物語が始まります。しかしながら、物語のお姫様は、騎士ナイトに護られることをとしません。お姫様の気質を、魔王は捉え違えていました。
 お姫様は、護られるよりも——護りたいと願うひとでした。

 ……さてさて、この物語の結末は、どうなるのでしょう?

 今夜はここまで。
 続きをぜひ、お楽しみに。
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