【完結】致死量の愛を飲みほして【続編完結】

藤香いつき

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Chap.17 ロックンキャロルでワルツを

Chap.17 Sec.7

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 テーブルの上いっぱいに、豪勢な料理が美しく並べられている。ティアが望んでいた七面鳥やパイ、立食を考慮して小さく盛られたものもある。背後ではイシャンによるピアノの演奏と、アリアの歌声が響いていた。

「アリスさん、なんでも好きなものを言ってくださいね。 ロボがちゃんと食べやすく切り分けてくれますから、どんなものでも」

 メルウィンの言葉に、セトが「おう」真っ先に反応してオーダーしたものだから、珍しくメルウィンの叱責しっせきを受けていた。

「セトくんはさっき食べたんだからだめ!」
「あれは試作品だろ」
「せめてアリスさんが選んでからにして!」
「こんな沢山あるのにかっ?」

 ふたりの応酬おうしゅうの横で、ティアは乾杯のワインが残るグラスを傾けていた。グラスを離して、

「——さて、そんなセト君に問題です。いつものアリスちゃんと、今日のアリスちゃん、どこが違うでしょう?」
「はぁ?」

 反応を見せたセトが、ちらりと私を見る。ティアの方を向き直して、

「馬鹿にしてんのか。髪だろ」
「……髪型だけ?」
「服もドレスだろ?」
「……お顔は?」
「…………顔?」
「顔について、何かない?」
「顔は……普通に、顔だろ」
「………………」

 ティアが、とても可哀想なものを見る目をした。横から割り込むようにして入ってきたロキが、私の顔をのぞき込んで、

「へェ~、がっつりするとなかなか美人に見えるじゃん? メリハリついてるしパッとしてる。色気もあっていいねェ~? やっぱ化粧は偉大だなァ~」

 ……そうか、今日はティアではなくロボットがメイクをしてくれたのと、パーティ用だからか……ティアのときより、はっきりとメイク感がある。そんなロキも爪がメタリックの黒に染まっていて、ビカビカしていた。
 ロキの言葉にティアが、「……うん、ロキ君はよく見てるけど、僕の心理的に不正解」ため息をついた。すると、同じく割ってのぞき込んできたハオロンが、

「よぉ分からんけどぉ……アリスは普段から可愛いしの。まぁ、今日のきらきらした特別感も、うちは好きやわ」

 まぶたの辺りを見て感想を述べた。

「それ! 僕が求めてたの、それ! ロン君が正解!」

 ティアが拍手でもしそうな勢いで褒め称えた。いまだ食事の選択をできずにいる私を案じたメルウィンに「アリスさん、みんなのことは放っておいて大丈夫です。ティアくん以外のみんな、いちおう軽く食べてあるんです。だから、遠慮せずに選んでください」料理のテーブルを示されたので、空腹をどうにかするほうを優先して離脱した。

「はァ~? 化粧したほうが美人なのは当然じゃん。オレの何が不正解なワケ?」
「ロキ君は、ふつうに〈かわいい〉って言えないのかな? なにか悪い魔法にかかってるの?」
「サイキック様は魔法とか信じてンだ~? 夢見るガキだねェ~?」
「……そんな僕に頼ったのは、ロキ君だけどね」
「頼るほど役立ってねェじゃん」
「泣かせた君よりは活躍してるよ」
「——お前ら、やめとけよ。……つぅか、ウサギの顔は可愛いか? 思ったことねぇけど……」
「うわっ……セト君、最低だ……」
「最低やの、セト」
「ハオロンまでなんだよ……」

 七面鳥の表面がパリパリで美味おいしい。食べていると、こちらに振り返ったセトと目が合った。

「……まあ、眼が小動物っぽいなとは思うけど。どっちかっつぅと……綺麗だよな?」

 何かつぶやいた気がする。イシャンの演奏とアリアの歌声で聞こえてこないが、ティアとハオロンが呆気あっけにとられていた。

「……え? セト君、今なんて? もういっかい言ってくれる?」
「あぁ、あんたセトやないんか……」
「なんなんだよ、お前らは!」

 怒っているようなセトと対照的に、落ち着き払ったティアとハオロン。話から外れたのか、ロキはアリアを見ていた。歌声に耳を傾けているようにも見えた。

 アリアの燕尾服と蝶ネクタイは、光加減で白にも見えるシャンパンゴールド。それにターコイズブルーのシャツ。イシャンはシンプルな黒の燕尾服に、緋色のシャツ。細い黒のリボンを首許に着けているのと、シャツのデザインに優美なレースが使われていて……意外にも似合っていた。そんなふたりのアンサンブルが、心地よく耳に届いてくる。

 アリアの、低く、どこまでも澄みきった声。
 私の記憶にもある、厳粛な響きのキャロル。アリアから簡単に説明を受けたが、宗教的な言葉を含んでいるけれど、音楽として過去にも許されている、と。

 アリアの穏やかな声を見守るように、ピアノの優しい響きがホールを満たしていく。鍵盤けんばんが奏でる音はやわらかで、ロボットが鳴らしたときよりも、はかなく余韻を残した。聖なる夜、清らかな空、星のまたたきまでも、音にしたような。

「いしゃん……〈ぴあの〉が、じょうず」
「ぇ……ぁ、そうなんです。イシャンくんは、昔からピアノが上手で……アリアくんのオペラの伴奏を、よく、してました」
「……それは、ありあからも、きいたことがある」
「今夜は、久しぶりで、少しぎこちないですけど……もっともっと、上手ですよ」

 メルウィンの言葉に、イシャンの、硬い手の感触を思い出していた。いつも身につけている銃器に慣れたような、厚く硬い皮膚。恐怖を舞い起こす、あの感触が——ピアノを奏でるために厚くなったならば——すこしだけ、怖さが緩まるような気がした。

 離れたアリアと、視線が重なる。
 垂れた目尻は、ずっと哀しみを残している。

「……アリスさん? 大丈夫ですか?」
「……はい、だいじょうぶ」

 この胸を、抱きしめるような痛みは、なんだろうか。
 歌声に込められた、なにか深い想いが。
 胸の奥に残るさびしさに、優しく寄り添ってくれるような——。
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