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Chap.17 ロックンキャロルでワルツを
Chap.17 Sec.8
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空間に溶け込むように歌が終わった。ぱちぱちぱち。食事のプレートをテーブルに載せて拍手を送っているところ……拍手が、少ない。私、メルウィン、ティアの3人のみだった。あれ? と思って周りを見ると、ピアノとツリーがある方ではなく、背後の閉められた扉の前に、いつだったか映像で見たドラムセットが……
《——じゃ、次はこっちだから。ウサギちゃんは、オレだけ見てて》
エレキギターを下げ、マイクスタンドを掴んだロキが、口角を上げて挑発ぎみに笑った。ドラムセットの奥にいたセトが、ロキに細い目を送り、ギターを持ったハオロンが——いや、たしかあれはベースだ。ロキに説明を受けたが、弦が太くて本数が少ないらしい——セトと同じように、あきれがちな目を送っている。でも、ハオロンのほうは心なしか嬉しそう。
燕尾服の上を脱いでいたセトが、手にしたスティックを鳴らす。スタートの合図。
——ビリビリとしたギターの音が、鳴り響いた。
「うわっ、場違いもいいとこだね……」
隣に並ぶように寄ってきていたティアが、ロキのギターに苦笑をもらした。機械のエフェクトが掛かった、耳を刺すような音。つい今しがたまで響いていた、アリアの歌声とは真反対。抱きしめてくれるような優しさはなくて、追い立てるような、心臓をせき立てる騒がしい音。
セトが鳴らす低いビートと、表層に広がる細かなリズム。スティックの動きが速い。ギターとドラムに対して、ハオロンのベースはシンプルで……ちょっと、簡単そうに見える。
騒音に、ロキの歌声が混ざった。
「——あれ? ロキ君って意外とうまいんだね?」
ロキの歌を聴くのは初めてらしいティアが、褒め言葉に近い発言をした。メルウィンが、
「昔、歌っていて……ロキくん、人気あったみたいだよ?」
「そうなの? 僕てっきり……彼らは、もっと不真面目なロックバンドだと思ってたよ」
「……まじめでは、なかったと思う……」
「メル君、きみ、フォローしたいのか貶したいのかどっち?」
ティアが笑って尋ねると、メルウィンは眉を八の字にして首をかしげた。
「でも、ロキくん……歌いながらギターも弾いていて、すごいね?」
メルウィンの言葉どおり、掻き鳴らされるギターの音はスピードも音の数も異常だ。正確に弾きながら歌うのは至難のわざに見える。メルウィンと一緒にロキを眺めていて……ティアが、私の横でくすくすと笑っていることに意識を引っ張られた。
「……てぃあ、どうかしたの?」
「うん、ちょっとね……」
隠しきれない笑みを噛み殺すように、唇を閉じる。私の目が離れないからか、ティアは観念したように、前を向いたまま私にだけ届く声で、
「……魔法をね、かけたんだよ」
「……?」
「魔法遣いは、結局、お姫様にはかけなかったんだけど……狼の王子にだけ、ちょっとしたイタズラで、魔法をかけたんだ」
「おおかみ……」
「——そう、狼の王子にだけ、ね」
意味ありげな横目が、ウィンクを落とした。言葉が示唆するものを考えようとしたが、そのとき——
ジャンッ。
ひときわ大きなシンバルの音が頭に響いた。びっくりして、視線をティアからドラムの方に。
ロキの歌声が止まって、たぶん曲の間奏だと思う切り替えのようなタイミングで、セトが激しくドラムを叩き始めた。足が踏み鳴らす低いビートが心臓を叩き、スティックが奏でるハイスピードな音が、雷のように心を震わせる。激しい音のあいまに、跳ね上がるようにしてスティックが高く宙を舞っては戻ってくる。それは、ときおり掌の上で、くるくるっとバトンのように回された。ジャグリングみたい。セトの手に操られたスティックが、音を生みながら華麗に踊っている。
「わぁ! セトくん、すごいですねっ?」
「はい、とても——すごい!」
メルウィンと感動していると、隣のティアが、顔をそらして……なぜか、耐えられないといったように笑っていた。ふふふふふ。手の甲で唇を隠しているけれど、あまり意味がないくらい盛大に笑っている。
「……てぃあ?」
「あっ、気にしないで。だめだめ、僕じゃなくてセト君を見てて!」
よく分からない。けれども、気にしないでと言われたのと、セトのドラムを見たいとは思うので——前を向いた。ぱちっと、深く光る金の眼と、視線が合わさった。すぐにそらされたが。
これほどすごいパフォーマンスをしたのだから、もっと誇らしげな顔をしてもいいと思う。しかし、不思議なことに、横を向いたセトは、ばつが悪そうな顔をしていた。
《——じゃ、次はこっちだから。ウサギちゃんは、オレだけ見てて》
エレキギターを下げ、マイクスタンドを掴んだロキが、口角を上げて挑発ぎみに笑った。ドラムセットの奥にいたセトが、ロキに細い目を送り、ギターを持ったハオロンが——いや、たしかあれはベースだ。ロキに説明を受けたが、弦が太くて本数が少ないらしい——セトと同じように、あきれがちな目を送っている。でも、ハオロンのほうは心なしか嬉しそう。
燕尾服の上を脱いでいたセトが、手にしたスティックを鳴らす。スタートの合図。
——ビリビリとしたギターの音が、鳴り響いた。
「うわっ、場違いもいいとこだね……」
隣に並ぶように寄ってきていたティアが、ロキのギターに苦笑をもらした。機械のエフェクトが掛かった、耳を刺すような音。つい今しがたまで響いていた、アリアの歌声とは真反対。抱きしめてくれるような優しさはなくて、追い立てるような、心臓をせき立てる騒がしい音。
セトが鳴らす低いビートと、表層に広がる細かなリズム。スティックの動きが速い。ギターとドラムに対して、ハオロンのベースはシンプルで……ちょっと、簡単そうに見える。
騒音に、ロキの歌声が混ざった。
「——あれ? ロキ君って意外とうまいんだね?」
ロキの歌を聴くのは初めてらしいティアが、褒め言葉に近い発言をした。メルウィンが、
「昔、歌っていて……ロキくん、人気あったみたいだよ?」
「そうなの? 僕てっきり……彼らは、もっと不真面目なロックバンドだと思ってたよ」
「……まじめでは、なかったと思う……」
「メル君、きみ、フォローしたいのか貶したいのかどっち?」
ティアが笑って尋ねると、メルウィンは眉を八の字にして首をかしげた。
「でも、ロキくん……歌いながらギターも弾いていて、すごいね?」
メルウィンの言葉どおり、掻き鳴らされるギターの音はスピードも音の数も異常だ。正確に弾きながら歌うのは至難のわざに見える。メルウィンと一緒にロキを眺めていて……ティアが、私の横でくすくすと笑っていることに意識を引っ張られた。
「……てぃあ、どうかしたの?」
「うん、ちょっとね……」
隠しきれない笑みを噛み殺すように、唇を閉じる。私の目が離れないからか、ティアは観念したように、前を向いたまま私にだけ届く声で、
「……魔法をね、かけたんだよ」
「……?」
「魔法遣いは、結局、お姫様にはかけなかったんだけど……狼の王子にだけ、ちょっとしたイタズラで、魔法をかけたんだ」
「おおかみ……」
「——そう、狼の王子にだけ、ね」
意味ありげな横目が、ウィンクを落とした。言葉が示唆するものを考えようとしたが、そのとき——
ジャンッ。
ひときわ大きなシンバルの音が頭に響いた。びっくりして、視線をティアからドラムの方に。
ロキの歌声が止まって、たぶん曲の間奏だと思う切り替えのようなタイミングで、セトが激しくドラムを叩き始めた。足が踏み鳴らす低いビートが心臓を叩き、スティックが奏でるハイスピードな音が、雷のように心を震わせる。激しい音のあいまに、跳ね上がるようにしてスティックが高く宙を舞っては戻ってくる。それは、ときおり掌の上で、くるくるっとバトンのように回された。ジャグリングみたい。セトの手に操られたスティックが、音を生みながら華麗に踊っている。
「わぁ! セトくん、すごいですねっ?」
「はい、とても——すごい!」
メルウィンと感動していると、隣のティアが、顔をそらして……なぜか、耐えられないといったように笑っていた。ふふふふふ。手の甲で唇を隠しているけれど、あまり意味がないくらい盛大に笑っている。
「……てぃあ?」
「あっ、気にしないで。だめだめ、僕じゃなくてセト君を見てて!」
よく分からない。けれども、気にしないでと言われたのと、セトのドラムを見たいとは思うので——前を向いた。ぱちっと、深く光る金の眼と、視線が合わさった。すぐにそらされたが。
これほどすごいパフォーマンスをしたのだから、もっと誇らしげな顔をしてもいいと思う。しかし、不思議なことに、横を向いたセトは、ばつが悪そうな顔をしていた。
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