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Chap.17 ロックンキャロルでワルツを
Chap.17 Sec.9
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「どォだった? かっこよかった? 惚れた? 惚れたよな?」
「ロキ、あんた鬱陶しいよ……?」
彼女へと絡み回っている長躯に、セトの口から自然とため息がもれた。
ウサギからロキを離そうとしているハオロンには、同意しかない。でかい図体で無駄に絡むな。怖がるかも知れないだろ。……言いたいが、もともとウサギはロキを怖がらない。今も「かっこよかった」愛想よく感想を返している。惚れた? に関する回答はない。
ご機嫌なロキの横で、ハオロンも喜んでいるかと思ったが……彼はどうも納得のいかない顔をしている。
「ねぇ、疑問なんやけどぉ……ロキの演奏、上手すぎんかぁ? 練習のとき、もっと下手やったがの……?」
「オレは本番に強いワケ。天才だからなァ~♪」
「えぇ~? ほやったら練習でも、もっとちゃんとやってくれたらよかったが……ロキも下手なんやぁって安心してたのに……初心者のうちだけ、めっちゃヘタクソなのが目立って嫌やったわ……」
「自意識過剰。そんな目立ってねェって」
ぼやいているハオロンは知らない。ロキのあの演奏はAIによるもので、セトのドラムに合わせて鳴らされたマシン合成の音になる。セトの耳はごまかせておらず、オーディエンスも(おそらく指の動きを見ていたイシャンとアリアにはバレているので)騙しきれていない。そんなロボを作る暇があったら練習しろよ。終わったら文句を言ってやろうと思っていたが、タイミングを逃した。
落ち込むハオロンに罪悪感でも覚えたのか、ロキがフォローっぽい声掛けをしている。貴重な光景だった。同じことを思っていそうなウサギは、思い出したようにこちらへと寄ってきて、「せとは、うたわない?」意外な質問を口にした。
「俺が? なんでだよ?」
「……せとも、むかし、うたってた」
「いや、俺は歌ってねぇよ。ドラムしかやってねぇ」
「でも……みた、よ? せとが、うたってる……えいぞう?」
「ん? ……ああ、そういや一度だけ歌ったかもな」
指摘されて、遠い記憶から浮かぶものがあった。なんで歌ったのだったか……理由を思い出そうとしたが分からない。考えていると、ロキが話に混ざってきた。
「なに? ウサちゃんはオレよりセトの歌がよかったわけ?」
「そんなこと、いってないよ」
「……ど~せ、ウサちゃんもセトの歌声のがスキなんだろ? 低くてかっこいいしなァ~?」
ロキは、誰かを羨む発言などあまりない。ロキの言葉に意表を突かれ、セトは眉を上げた。
「俺の声、そんないいか? 高音出ねぇし、あんま冴えねぇし……俺はお前のほうが好きだけどな? 裏声に変わるとこ聴いてると、けっこう胸にくる」
「………………」
素直に思うまま喋ると、ロキは唐突に表情を消した。褒め言葉なのに変な受け取り方をして、悪態でも返してくるのかと思いきや……ふいに、脈絡なくハオロンを小突いた。と、思ったが。ハオロンは機敏に身をずらし、そのせいで空を切ったロキの肘が後ろのロボに当たった。
「いってェ!」
「ばか、何やってんだよ」
ロキの理解不能な行動に突っこみつつ、ハオロンの顔に視線を下げる。スンっと澄ました顔で、ハオロンはロボにワインを頼んだ。もしかすると自分だけ上手く演奏できなかったのを根にもっているのかも知れない。
実に華麗な回避だったのと、肘を痛がるロキが(悪いけど)面白く。笑っていたセトは、彼女が自分を見ていることに気づいた。
「……なんだ?」
じっと見つめてくる瞳。なんとなしに緊張して——ティアが余計なこと言いやがったから——尋ねると、ウサギはこちらを見たまま、相好を崩し、
「わらうかお……はじめて」
ふわり、と。
やわらかく微笑むその顔に、世界が止まった。
周囲の音が遠ざかり、その唇から鳴った音の余韻だけが、優しく頭に響いて……
——彼女が笑った話を、誰かから聞くたびに。
勝手に苛立って——ざらついていた胸のうちが、あっさりと癒えるように。
胸に棲みついて吼えていた何かが、その口を噤んだ。
結ばれた視線の奥にある、黒い瞳には自分が映っていて、ほころぶ顔は穏やかで。
その笑顔のためなら、なんでも出来るような気がするほど——いとしい。
——それはね、恋だよ。
ティアの余計な言葉が、すとんと胸に落ちた。
(そうか。これが、)
——想像していたものとは違う。心臓を掴まれたように、胸が熱く痛む。痛くて苦しい。今すぐ、その肩に手を伸ばして抱きしめられないのが——その権利をもっていないことが——もどかしい。
こんなにも近いのに、恋しい。
「…………それは、俺のセリフだ」
かすかに言い返した言葉は、聞こえなかったのか。それとも聞こえたうえで分かっていないのか。
彼女は、やわらかい表情のまま首をかしげていた。
「ロキ、あんた鬱陶しいよ……?」
彼女へと絡み回っている長躯に、セトの口から自然とため息がもれた。
ウサギからロキを離そうとしているハオロンには、同意しかない。でかい図体で無駄に絡むな。怖がるかも知れないだろ。……言いたいが、もともとウサギはロキを怖がらない。今も「かっこよかった」愛想よく感想を返している。惚れた? に関する回答はない。
ご機嫌なロキの横で、ハオロンも喜んでいるかと思ったが……彼はどうも納得のいかない顔をしている。
「ねぇ、疑問なんやけどぉ……ロキの演奏、上手すぎんかぁ? 練習のとき、もっと下手やったがの……?」
「オレは本番に強いワケ。天才だからなァ~♪」
「えぇ~? ほやったら練習でも、もっとちゃんとやってくれたらよかったが……ロキも下手なんやぁって安心してたのに……初心者のうちだけ、めっちゃヘタクソなのが目立って嫌やったわ……」
「自意識過剰。そんな目立ってねェって」
ぼやいているハオロンは知らない。ロキのあの演奏はAIによるもので、セトのドラムに合わせて鳴らされたマシン合成の音になる。セトの耳はごまかせておらず、オーディエンスも(おそらく指の動きを見ていたイシャンとアリアにはバレているので)騙しきれていない。そんなロボを作る暇があったら練習しろよ。終わったら文句を言ってやろうと思っていたが、タイミングを逃した。
落ち込むハオロンに罪悪感でも覚えたのか、ロキがフォローっぽい声掛けをしている。貴重な光景だった。同じことを思っていそうなウサギは、思い出したようにこちらへと寄ってきて、「せとは、うたわない?」意外な質問を口にした。
「俺が? なんでだよ?」
「……せとも、むかし、うたってた」
「いや、俺は歌ってねぇよ。ドラムしかやってねぇ」
「でも……みた、よ? せとが、うたってる……えいぞう?」
「ん? ……ああ、そういや一度だけ歌ったかもな」
指摘されて、遠い記憶から浮かぶものがあった。なんで歌ったのだったか……理由を思い出そうとしたが分からない。考えていると、ロキが話に混ざってきた。
「なに? ウサちゃんはオレよりセトの歌がよかったわけ?」
「そんなこと、いってないよ」
「……ど~せ、ウサちゃんもセトの歌声のがスキなんだろ? 低くてかっこいいしなァ~?」
ロキは、誰かを羨む発言などあまりない。ロキの言葉に意表を突かれ、セトは眉を上げた。
「俺の声、そんないいか? 高音出ねぇし、あんま冴えねぇし……俺はお前のほうが好きだけどな? 裏声に変わるとこ聴いてると、けっこう胸にくる」
「………………」
素直に思うまま喋ると、ロキは唐突に表情を消した。褒め言葉なのに変な受け取り方をして、悪態でも返してくるのかと思いきや……ふいに、脈絡なくハオロンを小突いた。と、思ったが。ハオロンは機敏に身をずらし、そのせいで空を切ったロキの肘が後ろのロボに当たった。
「いってェ!」
「ばか、何やってんだよ」
ロキの理解不能な行動に突っこみつつ、ハオロンの顔に視線を下げる。スンっと澄ました顔で、ハオロンはロボにワインを頼んだ。もしかすると自分だけ上手く演奏できなかったのを根にもっているのかも知れない。
実に華麗な回避だったのと、肘を痛がるロキが(悪いけど)面白く。笑っていたセトは、彼女が自分を見ていることに気づいた。
「……なんだ?」
じっと見つめてくる瞳。なんとなしに緊張して——ティアが余計なこと言いやがったから——尋ねると、ウサギはこちらを見たまま、相好を崩し、
「わらうかお……はじめて」
ふわり、と。
やわらかく微笑むその顔に、世界が止まった。
周囲の音が遠ざかり、その唇から鳴った音の余韻だけが、優しく頭に響いて……
——彼女が笑った話を、誰かから聞くたびに。
勝手に苛立って——ざらついていた胸のうちが、あっさりと癒えるように。
胸に棲みついて吼えていた何かが、その口を噤んだ。
結ばれた視線の奥にある、黒い瞳には自分が映っていて、ほころぶ顔は穏やかで。
その笑顔のためなら、なんでも出来るような気がするほど——いとしい。
——それはね、恋だよ。
ティアの余計な言葉が、すとんと胸に落ちた。
(そうか。これが、)
——想像していたものとは違う。心臓を掴まれたように、胸が熱く痛む。痛くて苦しい。今すぐ、その肩に手を伸ばして抱きしめられないのが——その権利をもっていないことが——もどかしい。
こんなにも近いのに、恋しい。
「…………それは、俺のセリフだ」
かすかに言い返した言葉は、聞こえなかったのか。それとも聞こえたうえで分かっていないのか。
彼女は、やわらかい表情のまま首をかしげていた。
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