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Interlude 鏡に映る、さかしまの国
すべては黄金の夜に
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【All in the golden night】
chap.8 sec.11
ぎゅっ——と。
身体に掛かった違和感に、セトはハッと目を開けた。獣が危機を察知するような、本能的な目覚めであったが、周囲に異常はない。
(どこだ、ここ)
多少の混乱はあったが、答えはすぐに導き出された。ティアの私室、ベッドを囲むような天蓋が、一部だけ開かれた状態で掛かっていた。状況を把握したセトが、ふと自分の身体に回された腕の存在に気づいた。隣を向くと——彼女が、すぐそばに。
「な——」
——なにしてんだ!
狼狽の声は、かろうじて抑え込まれる。薄明かりのなか、セトの視界に入った彼女の目は閉じられていた。
だが、セトの動揺を拾って、その瞳はぼんやりと開かれ、
「…………う?」
とろんとした、眠たげな声が——いや、違う。これは、もしや、酔っている……?
明瞭さを得ない反応に、セトはシーツの中で身を引きながら、小声で、
「(お前ら! 俺が眠ってる間にどんだけ呑んだんだよ!)」
「………………」
「(……おい、聞いてるか?)」
セトの説教は響いていないらしい。彼女の眼は据わっていて、あまり理解していないようすでセトへとすり寄った。
『さむい……』
なにか。セトには聞き取れない言語でつぶやいたが、当然伝わらない。身をさげるセトの努力を無に帰して、隙間を埋めようと距離を詰めた彼女が、セトの胸板にすべり込んだ。体温の高いセトで暖を取る彼女の行為は、図らずしもセトの理性をかき崩していく。
彼女の唇からこぼれた音を、私を見て? と。推測してしまったのも問題だった。彼女の言葉は単語や文法の未熟さから、大いなる誤ちを生むことがある——が、今回は単にセトの思い違いだ。寝ぼけて発した言語が、別のものであるという可能性が抜けていた。動揺のせいだろう。
かろうじて残る理性で、
「(……離れねぇと襲うぞ)」
警告したが、宣言に近い。
反応を待たずに、セトの手が彼女の身体を捕らえる。ベッドからわずかに身を起こして、自分の身体の下に彼女を閉じ籠めるように覆い被さった。
ぼやん、とした彼女の顔に、何事かと、ほんのすこし驚きが差した。しかし、それ以上のリアクションはない。自分を見下ろす暗い金の眼に、恐れることもなかった。
「せと……?」
ほのかに微笑むような表情が、最後の理性を吹き飛ばす。かすれた呼び声は、セトの口腔に呑み込まれた。アルコールと幸福薬の掛け合わせで、彼女の頭から恐怖が取り払われ、高揚感だけが残っていることを——セトは知らない。
重なるキスは、甘く柔らか。
拒む意思のない唇が、セトを優しく受け止める。
角度を変えて、何度も重ねながら奥へと進んでいくと、求めるような舌先と出会った。拒絶なく、いっそ求められることは——初めてではない。
出会った最初の夜に、彼女がみずから自分を選んだと——セトは誤解したままだった。
長いくちづけのなかで、セトの手が彼女の身体をまさぐっていく。手触りのよいワンピースの布地が擦れるのを、彼女は心地よく感じていた。
ふと、離れた唇を彼女の耳に寄せ、熱い息をこぼし、
——もう、止めても無理だからな。
小さな宣告とともに、ワンピースの裾をたくし上げた。しっとりとした肌に、大きな掌が吸いつく。慈しむように撫で動く手に、彼女が身を震わせた。セトの耳には、彼女の甘い吐息の音まで、はっきりと届いた。
——官能の音色。声に混ざる響きは、“もっと”、と。拒絶とは真逆の意思を帯びている。
ためらう必要を失った指先が、下着の中へと入り込み、深い場所へと沈んでいく。うるおいに満ちた粘膜もまた抵抗なく、奥へと誘い込んだ。ゆるく動く指に合わせて、セトの唇が彼女の首筋を吸い上げ、いっそう潤んでいく内部に、——もう挿れてしまってもいいだろうか——逸る気持ちが、無意識に指の動きを強めた。もてあましていた親指で、表面の突起を擦りあげてしまって、
「やあっ——」
甲高い嬌声に、思わずセトは身体を支えていた腕を肘のみに切り替えて、空いた掌でその口を覆っていた。
「(ばかっ、声がでけぇ!)」
忘れかけていたが、ここはティアの部屋。それはつまり——当人もいることになる。
ひやりとした思いで背後を振り返ったが、天蓋で半分以上が隠れているせいか、ティアの姿は捜せない。うっすらと耳に届く音から、ソファで眠っているような気はするが……。
どうするべきか。考えながら戻した目の下で、大人しく口を塞がれたままじっとしている彼女の目が、うるりと濡れている。止められる気がしない。
背後の様子をうかがいつつ、「(声、抑えとけよ)」いちおう彼女にも注意したが、口を押さえた状態で再開した。再開——というより、新たに挿入した、が正しい。すでに指は抜いていて、指を戻すのではなく、ボトムスから取り出した自身で埋めていった。ティアがいきなり起きる可能性も考慮して、衣服はどちらも身につけたまま。これなら、ぎり、ごまかせる……はず。
大きな手の下で、くぐもった声が出た。腰を沈めるセトも、彼女の首に唇を合わせて吐息の音を噛みころす。……そうしていると、なめらかな首筋に咬みついてしまいたくなる。これがどういう衝動か、セトにもよく分からない。幼少の頃から、どうしても抑えきれない凶暴な心の動きがあって、それがひらめくたびに、抑えてきたつもりではあるが……
彼女のきめ細やかな肌は、その抑制をたやすく取っ払おうとしてくる。誘惑とは、こういうことだろうか——。
咬みつくことは、しなかった。
最初の刺激に慣れてしまうと、更なる刺激を求めて腰を動かしたい欲望に駆られたが、塞いだ口は苦しげで、あまり激しくできそうにない。そろりと塞ぐ力を緩めると、息をつく音が鳴った。
セトが腰を動かすと、その唇からは声がもれる。ティアが起きるのも時間の問題では。
「(お前……声、もう少し我慢できねぇ?)」
セトの囁きに、彼女のほうは理由をよく分かっていない感じながらも、唇にぐっと力を入れた。しかし、中を突くと「ん、ん、ん」……出てくる。喉の奥から、自然と鳴る甘い声に——セトも困惑する。絶対にバレる。このままやれば、確実に起きる。
(これ、生殺しじゃねぇか……? いっそバレる勢いでやっちまうか……)
そんなふざけた思考を展開させる。
しかし、人として問題だらけのセトであったが、どうにか残っていたまっとうな倫理観で、なんとか思いとどまった。
途中でやめてしまったことについて彼女から不満が出るかと期待し、あわよくば自室に誘おうというセトの思惑は、叶わなかった。
セトが服を整えているあいだに、彼女のほうは、すやりと眠りに落ちていた。温まったシーツと身体で、心地よさそうに。
(……まじか)
圧倒的な彼女の睡眠欲に、セトはしばらく呆然としていた。
chap.8 sec.11
ぎゅっ——と。
身体に掛かった違和感に、セトはハッと目を開けた。獣が危機を察知するような、本能的な目覚めであったが、周囲に異常はない。
(どこだ、ここ)
多少の混乱はあったが、答えはすぐに導き出された。ティアの私室、ベッドを囲むような天蓋が、一部だけ開かれた状態で掛かっていた。状況を把握したセトが、ふと自分の身体に回された腕の存在に気づいた。隣を向くと——彼女が、すぐそばに。
「な——」
——なにしてんだ!
狼狽の声は、かろうじて抑え込まれる。薄明かりのなか、セトの視界に入った彼女の目は閉じられていた。
だが、セトの動揺を拾って、その瞳はぼんやりと開かれ、
「…………う?」
とろんとした、眠たげな声が——いや、違う。これは、もしや、酔っている……?
明瞭さを得ない反応に、セトはシーツの中で身を引きながら、小声で、
「(お前ら! 俺が眠ってる間にどんだけ呑んだんだよ!)」
「………………」
「(……おい、聞いてるか?)」
セトの説教は響いていないらしい。彼女の眼は据わっていて、あまり理解していないようすでセトへとすり寄った。
『さむい……』
なにか。セトには聞き取れない言語でつぶやいたが、当然伝わらない。身をさげるセトの努力を無に帰して、隙間を埋めようと距離を詰めた彼女が、セトの胸板にすべり込んだ。体温の高いセトで暖を取る彼女の行為は、図らずしもセトの理性をかき崩していく。
彼女の唇からこぼれた音を、私を見て? と。推測してしまったのも問題だった。彼女の言葉は単語や文法の未熟さから、大いなる誤ちを生むことがある——が、今回は単にセトの思い違いだ。寝ぼけて発した言語が、別のものであるという可能性が抜けていた。動揺のせいだろう。
かろうじて残る理性で、
「(……離れねぇと襲うぞ)」
警告したが、宣言に近い。
反応を待たずに、セトの手が彼女の身体を捕らえる。ベッドからわずかに身を起こして、自分の身体の下に彼女を閉じ籠めるように覆い被さった。
ぼやん、とした彼女の顔に、何事かと、ほんのすこし驚きが差した。しかし、それ以上のリアクションはない。自分を見下ろす暗い金の眼に、恐れることもなかった。
「せと……?」
ほのかに微笑むような表情が、最後の理性を吹き飛ばす。かすれた呼び声は、セトの口腔に呑み込まれた。アルコールと幸福薬の掛け合わせで、彼女の頭から恐怖が取り払われ、高揚感だけが残っていることを——セトは知らない。
重なるキスは、甘く柔らか。
拒む意思のない唇が、セトを優しく受け止める。
角度を変えて、何度も重ねながら奥へと進んでいくと、求めるような舌先と出会った。拒絶なく、いっそ求められることは——初めてではない。
出会った最初の夜に、彼女がみずから自分を選んだと——セトは誤解したままだった。
長いくちづけのなかで、セトの手が彼女の身体をまさぐっていく。手触りのよいワンピースの布地が擦れるのを、彼女は心地よく感じていた。
ふと、離れた唇を彼女の耳に寄せ、熱い息をこぼし、
——もう、止めても無理だからな。
小さな宣告とともに、ワンピースの裾をたくし上げた。しっとりとした肌に、大きな掌が吸いつく。慈しむように撫で動く手に、彼女が身を震わせた。セトの耳には、彼女の甘い吐息の音まで、はっきりと届いた。
——官能の音色。声に混ざる響きは、“もっと”、と。拒絶とは真逆の意思を帯びている。
ためらう必要を失った指先が、下着の中へと入り込み、深い場所へと沈んでいく。うるおいに満ちた粘膜もまた抵抗なく、奥へと誘い込んだ。ゆるく動く指に合わせて、セトの唇が彼女の首筋を吸い上げ、いっそう潤んでいく内部に、——もう挿れてしまってもいいだろうか——逸る気持ちが、無意識に指の動きを強めた。もてあましていた親指で、表面の突起を擦りあげてしまって、
「やあっ——」
甲高い嬌声に、思わずセトは身体を支えていた腕を肘のみに切り替えて、空いた掌でその口を覆っていた。
「(ばかっ、声がでけぇ!)」
忘れかけていたが、ここはティアの部屋。それはつまり——当人もいることになる。
ひやりとした思いで背後を振り返ったが、天蓋で半分以上が隠れているせいか、ティアの姿は捜せない。うっすらと耳に届く音から、ソファで眠っているような気はするが……。
どうするべきか。考えながら戻した目の下で、大人しく口を塞がれたままじっとしている彼女の目が、うるりと濡れている。止められる気がしない。
背後の様子をうかがいつつ、「(声、抑えとけよ)」いちおう彼女にも注意したが、口を押さえた状態で再開した。再開——というより、新たに挿入した、が正しい。すでに指は抜いていて、指を戻すのではなく、ボトムスから取り出した自身で埋めていった。ティアがいきなり起きる可能性も考慮して、衣服はどちらも身につけたまま。これなら、ぎり、ごまかせる……はず。
大きな手の下で、くぐもった声が出た。腰を沈めるセトも、彼女の首に唇を合わせて吐息の音を噛みころす。……そうしていると、なめらかな首筋に咬みついてしまいたくなる。これがどういう衝動か、セトにもよく分からない。幼少の頃から、どうしても抑えきれない凶暴な心の動きがあって、それがひらめくたびに、抑えてきたつもりではあるが……
彼女のきめ細やかな肌は、その抑制をたやすく取っ払おうとしてくる。誘惑とは、こういうことだろうか——。
咬みつくことは、しなかった。
最初の刺激に慣れてしまうと、更なる刺激を求めて腰を動かしたい欲望に駆られたが、塞いだ口は苦しげで、あまり激しくできそうにない。そろりと塞ぐ力を緩めると、息をつく音が鳴った。
セトが腰を動かすと、その唇からは声がもれる。ティアが起きるのも時間の問題では。
「(お前……声、もう少し我慢できねぇ?)」
セトの囁きに、彼女のほうは理由をよく分かっていない感じながらも、唇にぐっと力を入れた。しかし、中を突くと「ん、ん、ん」……出てくる。喉の奥から、自然と鳴る甘い声に——セトも困惑する。絶対にバレる。このままやれば、確実に起きる。
(これ、生殺しじゃねぇか……? いっそバレる勢いでやっちまうか……)
そんなふざけた思考を展開させる。
しかし、人として問題だらけのセトであったが、どうにか残っていたまっとうな倫理観で、なんとか思いとどまった。
途中でやめてしまったことについて彼女から不満が出るかと期待し、あわよくば自室に誘おうというセトの思惑は、叶わなかった。
セトが服を整えているあいだに、彼女のほうは、すやりと眠りに落ちていた。温まったシーツと身体で、心地よさそうに。
(……まじか)
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