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Chap.4 剣戟の宴
Chap.4 Sec.11
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「ムカつきますね」
いくつもの映像が周囲に浮かび上がる部屋で、その呟きは平坦な響きを生んだ。
アトランティスの一部の住人に向け、今夜のパーティを呼びかけ終えたモルガンは、中央のイスにギシリと背を預ける。映像はAIによって取捨選択され、普段では見かけない状態を中心に流されている。
モルガンは後ろに立つユーグを振り返ることなく、端の方に浮いていた映像に横目を投げ、
「あの程度じゃ効果薄いしなぁ……。それを言い訳にヤっちまうかと思ったが……マジメか。あれセトじゃねぇぞ?」
「頭のどっか切り取られたんじゃないすか?」
「あ~ヴァシリエフならやってるかもなぁ……」
「前のに戻せないんすかね」
「前のが扱いにくいだろ」
「……でも、こっちのセトはムカつくんで」
「そうかぁ?」
「……ドリンク、あっさり飲んだんすよ」
ユーグの声は、そこでワントーン下がり、
「警戒なし、信用してます感が——うざい」
吐き捨てた言葉に、モルガンは声をこぼして笑った。
「そう言ってやるな? もとからセトのほうは俺らに気ぃ許してたぞ」
「昔と同じ感じでいるのがムカつくんすよ」
「あぁ、なるほどなぁ……」
「……ウサギ、セトの前で壊したらダメすか?」
「やめておけ。今は手が足りてねぇだろ。セトを怒らすより、ここにいるメリットを出して喜ばしてやれよ」
「……セトが喜ぶもんなんて知らないんすけど」
「俺も浮かばねぇなぁ……?」
「いっそウサギにクスリ入れればよかったんじゃないすか?」
「あのクソマジメ状態じゃヤらねぇだろ。——あぁ、いや、そうか?」
「?」
ユーグの適当な意見にひらめくものがあったのか、モルガンは唇を曲げた。
「可愛いウサギなら、喜んで食いつくかも知んねぇなぁ……?」
「………………」
何か策を思いついている。禍々しい空気に、ユーグは目を細めた。
「……もしかして、モルガンさんはウサギのがムカつきます?」
「あんなのにムカつきゃしねぇよ……ただの弱っちい女じゃねぇか?」
「そうすね。……あの頭悪そうな話し方、聞いててだるいっす。弱者アピにしてもあざとすぎません? あれに騙されるセトはなんすか」
「あれが素だ。共通語を知らねぇらしい」
「は、まじすか?」
「どこの人間か知らねぇが……ウサギのほうは役立たねぇだろなぁ……」
「ほんとセトのためだけの燃料すね。——あ、ペットか」
嘲笑の顔が、ユーグを振り返った。
「飼い主には、ペットの分も働いてもらわねぇとなぁ?」
多種多様な映像のなか、暗く威圧的な笑顔が浮かび上がっている。
ユーグはその顔を見返しながら、
「……パーティのメンツ、あれもなんか意図あるんすか?」
「大した意味はねぇ。セトに昔から好意的なやつだけ呼んだんだよ。長くいてもらうんだ、ここに愛着もってもらわねぇとな」
「オトモダチが必要なやつでした?」
「情に搦め捕られるやつだろ?」
「あぁ、っぽいすね」
納得したユーグから目を離して、モルガンは映像のセトを捉えた。
「せいぜい歓迎してやるさ、ヴァシリエフの天才様をな」
悪意の声は、今は届かずとも。
影となり、確かに忍び寄っている。
いくつもの映像が周囲に浮かび上がる部屋で、その呟きは平坦な響きを生んだ。
アトランティスの一部の住人に向け、今夜のパーティを呼びかけ終えたモルガンは、中央のイスにギシリと背を預ける。映像はAIによって取捨選択され、普段では見かけない状態を中心に流されている。
モルガンは後ろに立つユーグを振り返ることなく、端の方に浮いていた映像に横目を投げ、
「あの程度じゃ効果薄いしなぁ……。それを言い訳にヤっちまうかと思ったが……マジメか。あれセトじゃねぇぞ?」
「頭のどっか切り取られたんじゃないすか?」
「あ~ヴァシリエフならやってるかもなぁ……」
「前のに戻せないんすかね」
「前のが扱いにくいだろ」
「……でも、こっちのセトはムカつくんで」
「そうかぁ?」
「……ドリンク、あっさり飲んだんすよ」
ユーグの声は、そこでワントーン下がり、
「警戒なし、信用してます感が——うざい」
吐き捨てた言葉に、モルガンは声をこぼして笑った。
「そう言ってやるな? もとからセトのほうは俺らに気ぃ許してたぞ」
「昔と同じ感じでいるのがムカつくんすよ」
「あぁ、なるほどなぁ……」
「……ウサギ、セトの前で壊したらダメすか?」
「やめておけ。今は手が足りてねぇだろ。セトを怒らすより、ここにいるメリットを出して喜ばしてやれよ」
「……セトが喜ぶもんなんて知らないんすけど」
「俺も浮かばねぇなぁ……?」
「いっそウサギにクスリ入れればよかったんじゃないすか?」
「あのクソマジメ状態じゃヤらねぇだろ。——あぁ、いや、そうか?」
「?」
ユーグの適当な意見にひらめくものがあったのか、モルガンは唇を曲げた。
「可愛いウサギなら、喜んで食いつくかも知んねぇなぁ……?」
「………………」
何か策を思いついている。禍々しい空気に、ユーグは目を細めた。
「……もしかして、モルガンさんはウサギのがムカつきます?」
「あんなのにムカつきゃしねぇよ……ただの弱っちい女じゃねぇか?」
「そうすね。……あの頭悪そうな話し方、聞いててだるいっす。弱者アピにしてもあざとすぎません? あれに騙されるセトはなんすか」
「あれが素だ。共通語を知らねぇらしい」
「は、まじすか?」
「どこの人間か知らねぇが……ウサギのほうは役立たねぇだろなぁ……」
「ほんとセトのためだけの燃料すね。——あ、ペットか」
嘲笑の顔が、ユーグを振り返った。
「飼い主には、ペットの分も働いてもらわねぇとなぁ?」
多種多様な映像のなか、暗く威圧的な笑顔が浮かび上がっている。
ユーグはその顔を見返しながら、
「……パーティのメンツ、あれもなんか意図あるんすか?」
「大した意味はねぇ。セトに昔から好意的なやつだけ呼んだんだよ。長くいてもらうんだ、ここに愛着もってもらわねぇとな」
「オトモダチが必要なやつでした?」
「情に搦め捕られるやつだろ?」
「あぁ、っぽいすね」
納得したユーグから目を離して、モルガンは映像のセトを捉えた。
「せいぜい歓迎してやるさ、ヴァシリエフの天才様をな」
悪意の声は、今は届かずとも。
影となり、確かに忍び寄っている。
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