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Chap.5 The Bubble-Like Honeymoon
Chap.5 Sec.14
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ハオロンは珍しく戸惑っていた。
案内された場所は、ゲートを越えてすぐの建物内。訪問者に対応するための空間は2階の高さにあり、ゲートを開くことなく、ゲート横にある隠しドアからエレベータのように上がって、ここまでやって来ていた。
窓からは外が見える。薄暗い通りに感染者がうろついている。
ゲートを越える前は、(フライングカーやドローンなら侵入可能)と見ていたが、本拠地であろうと思われる潟湖上にたどり着く前に撃ち落とされる。侵入してすぐに内部を進むとしても、こう感染者が多いとなると……隠密に進むのは難しいかも知れない。
やるなら——本気で。
戦争を覚悟して、攻めなければ。
……などと物騒なことを考えていたわけだが、案内されたテーブルセットで、座っているロキと向き合う相手は、
「ひさしぶりだね? ロキは、ずっとヴァシリエフハウスにいたの?」
「ま~ね。カシちゃんは?」
「私は……」
ロキと話す彼女は、カシと名乗った。
メルウィンの色みを淡くしたみたいな女性。ハオロンと違って重めの三つ編みを片側から前に流している。穏やかそうな性格で、体格も普通。攻撃力は低め。
そんな外見からの分析よりも気になるのは、ロキとの関係。かなり親しい仲だったように見える……。
ロキと向かい合うカシの斜め後ろには、もうひとり。
「……カシちゃん、まずいよ。こんな勝手なことしてるのがバレたら……」
そわそわと落ち着かない女性。カシよりも細身だが筋肉がある。アサルトライフルを下げているが構えてはいない。ハオロンも立っているので、構えるまでの時間があれば先に撃てる。
ジェシーと名乗った彼女は、たびたびカシに耳打ちしている。受け取るカシのほうは眉を下げて「ごめんね」と謝るだけで、ハオロンたちを追い返す気はないらしい。
「セトとウサギのこと、もうちょい訊いていい?」
本題に入ったロキに、カシは困った顔をした。
「……うん」
「海上都市に捕まってるってどォゆうこと?」
「……捕まっては、いないよ。たぶんアトランティスで暮らしてる、って意味だから……」
「先にウサギが行ったのを迎えに行った——って言ってたけど?」
「……ウサギちゃんが、ここから逃げてアトランティスに行っちゃったの。それを、セトくんが迎えに行った……私たちが知ってるのは、そこまで」
「モルガンは誰? 海上都市の人間?」
「……よそのコミュニティの個人情報を話すのは、本当はダメなんだけど……私が言わなくても、ロキの知り合いだから……」
「オレの知り合いって——バンドの?」
「うん、そう。ベースのひとで……今はアトランティスのリーダーなんだよ」
「アイツがなんでセトを捕まえンの?」
「……捕まえてないと思うよ?」
「目ェ逸らさないで、オレのほう見て言ってよ」
「………………」
「カシちゃん、なんか知ってるよな? なんでごまかすわけ?」
「……モルガンは、前から、セトくんとロキを欲しがってたから……」
「欲しがるってなに? オレらそんな好かれてねェよ?」
「……そうかな。モルガンは、二人のこと、気に入ってたと思うよ。でも、一番は……戦力として、欲しがってたみたい。ロキが、アプリのシェイプシフターやトリックスターを作った“ロキ”だって知ったみたいで……あっ、私が話したんじゃないよっ?」
「疑ってねェよ?」
「……うん。……それで、なんでか分からないけど、ヴァシリエフの子供だって、もともと知ってて……最近、アトランティスはシステム管理のコたちが抜けちゃったから、欲しがってたの」
「その話だと、必要なのはオレっぽくねェ? なんでセトが捕まってンの?」
「……捕まっては、ないと思う。モルガンは……そんなことは、しないよ」
「そ? オレの知ってるモルガンはエグいんだけど?」
「………………」
「オレを引き抜くのが目的なら、セトを捕まえてハウスに脅しかける気なんじゃねェの?」
「……でも、そっちに何も来てないんだよね? だったら平和に過ごしてるんだよ。セトくん、ヴァシリエフは出たって言ってたし……アトランティスを気に入ったんじゃないかな?」
ロキは、ハオロンに首を回した。
「——どォ思う?」
「……分からん。ありすが海上都市に逃げた理由が分からんわ。最初の説明で、ここに攫われて来たありすを、セトが助けに来た——ってゆう話も、あんま分かってないんやけどぉ……いま訊いても誰も分からんし。ほやけど、セトとここで合流したのに、ありす、なんで逃げ出したんや?」
「さァ~? セトが鬱陶しいから逃げたくなったンじゃねェ?」
「……なんで海上都市?」
「そこだよなァ~? 海上都市の話はウサギも知ってンのに、意図的に行くかねェ?」
「……行かんわ。ありすは、行かん。セトを置いて……自分だけ逃げるなんて、せんやろ」
「断言はできなくね?」
「……うちは断言してもいいよ?」
「………………」
ハオロンとロキが話している奥で、カシとジェシーも話していた。
「ねぇねぇ、私いま気づいた。シーロンくんもヴァシリエフのコっぽくない? ID詐称されてない?」
「……みたいだね。でも、歳が……」
「……ねぇ、やめようよ。もう追い出そうよ。男を入れて揉めたばっかじゃん。私、ジゼルに負担かけたくな——」
部屋のドアが開いたのは、そのときだった。
案内された場所は、ゲートを越えてすぐの建物内。訪問者に対応するための空間は2階の高さにあり、ゲートを開くことなく、ゲート横にある隠しドアからエレベータのように上がって、ここまでやって来ていた。
窓からは外が見える。薄暗い通りに感染者がうろついている。
ゲートを越える前は、(フライングカーやドローンなら侵入可能)と見ていたが、本拠地であろうと思われる潟湖上にたどり着く前に撃ち落とされる。侵入してすぐに内部を進むとしても、こう感染者が多いとなると……隠密に進むのは難しいかも知れない。
やるなら——本気で。
戦争を覚悟して、攻めなければ。
……などと物騒なことを考えていたわけだが、案内されたテーブルセットで、座っているロキと向き合う相手は、
「ひさしぶりだね? ロキは、ずっとヴァシリエフハウスにいたの?」
「ま~ね。カシちゃんは?」
「私は……」
ロキと話す彼女は、カシと名乗った。
メルウィンの色みを淡くしたみたいな女性。ハオロンと違って重めの三つ編みを片側から前に流している。穏やかそうな性格で、体格も普通。攻撃力は低め。
そんな外見からの分析よりも気になるのは、ロキとの関係。かなり親しい仲だったように見える……。
ロキと向かい合うカシの斜め後ろには、もうひとり。
「……カシちゃん、まずいよ。こんな勝手なことしてるのがバレたら……」
そわそわと落ち着かない女性。カシよりも細身だが筋肉がある。アサルトライフルを下げているが構えてはいない。ハオロンも立っているので、構えるまでの時間があれば先に撃てる。
ジェシーと名乗った彼女は、たびたびカシに耳打ちしている。受け取るカシのほうは眉を下げて「ごめんね」と謝るだけで、ハオロンたちを追い返す気はないらしい。
「セトとウサギのこと、もうちょい訊いていい?」
本題に入ったロキに、カシは困った顔をした。
「……うん」
「海上都市に捕まってるってどォゆうこと?」
「……捕まっては、いないよ。たぶんアトランティスで暮らしてる、って意味だから……」
「先にウサギが行ったのを迎えに行った——って言ってたけど?」
「……ウサギちゃんが、ここから逃げてアトランティスに行っちゃったの。それを、セトくんが迎えに行った……私たちが知ってるのは、そこまで」
「モルガンは誰? 海上都市の人間?」
「……よそのコミュニティの個人情報を話すのは、本当はダメなんだけど……私が言わなくても、ロキの知り合いだから……」
「オレの知り合いって——バンドの?」
「うん、そう。ベースのひとで……今はアトランティスのリーダーなんだよ」
「アイツがなんでセトを捕まえンの?」
「……捕まえてないと思うよ?」
「目ェ逸らさないで、オレのほう見て言ってよ」
「………………」
「カシちゃん、なんか知ってるよな? なんでごまかすわけ?」
「……モルガンは、前から、セトくんとロキを欲しがってたから……」
「欲しがるってなに? オレらそんな好かれてねェよ?」
「……そうかな。モルガンは、二人のこと、気に入ってたと思うよ。でも、一番は……戦力として、欲しがってたみたい。ロキが、アプリのシェイプシフターやトリックスターを作った“ロキ”だって知ったみたいで……あっ、私が話したんじゃないよっ?」
「疑ってねェよ?」
「……うん。……それで、なんでか分からないけど、ヴァシリエフの子供だって、もともと知ってて……最近、アトランティスはシステム管理のコたちが抜けちゃったから、欲しがってたの」
「その話だと、必要なのはオレっぽくねェ? なんでセトが捕まってンの?」
「……捕まっては、ないと思う。モルガンは……そんなことは、しないよ」
「そ? オレの知ってるモルガンはエグいんだけど?」
「………………」
「オレを引き抜くのが目的なら、セトを捕まえてハウスに脅しかける気なんじゃねェの?」
「……でも、そっちに何も来てないんだよね? だったら平和に過ごしてるんだよ。セトくん、ヴァシリエフは出たって言ってたし……アトランティスを気に入ったんじゃないかな?」
ロキは、ハオロンに首を回した。
「——どォ思う?」
「……分からん。ありすが海上都市に逃げた理由が分からんわ。最初の説明で、ここに攫われて来たありすを、セトが助けに来た——ってゆう話も、あんま分かってないんやけどぉ……いま訊いても誰も分からんし。ほやけど、セトとここで合流したのに、ありす、なんで逃げ出したんや?」
「さァ~? セトが鬱陶しいから逃げたくなったンじゃねェ?」
「……なんで海上都市?」
「そこだよなァ~? 海上都市の話はウサギも知ってンのに、意図的に行くかねェ?」
「……行かんわ。ありすは、行かん。セトを置いて……自分だけ逃げるなんて、せんやろ」
「断言はできなくね?」
「……うちは断言してもいいよ?」
「………………」
ハオロンとロキが話している奥で、カシとジェシーも話していた。
「ねぇねぇ、私いま気づいた。シーロンくんもヴァシリエフのコっぽくない? ID詐称されてない?」
「……みたいだね。でも、歳が……」
「……ねぇ、やめようよ。もう追い出そうよ。男を入れて揉めたばっかじゃん。私、ジゼルに負担かけたくな——」
部屋のドアが開いたのは、そのときだった。
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