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ハロー・マイ・クラスメイツ
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「アイツら、なんで仲良くなってンの?」
ざらりとした声が、高圧的に尋ねた。
開いた窓から、外に目を向ける男子生徒。虹色に染まる髪。瞳の先にはヒナと壱正が歩いていた。ヒナたちは学園の図書館へと向かっている。
中等部の本校舎ではなく、別棟にあたる建物。2階の端が、現2Bの教室。放課後の教室に残っているのは、髪色が派手な3人組。
虹色の髪——琉夏の声に反応したのは、携帯ゲームに興じていた小柄なピンクヘア。
「ん~? なんの話?」
「転入生。急に他のヤツらと仲良くなってねェ~?」
「あぁ、喋ってたわ……」
「なんで?」
「壱正はクラス委員やし、サクラ先生に面倒みるよう言われたんじゃぁ?」
「うざ。教師のご機嫌取り……」
「壱正の悪口は言わんとき。ハヤトが怒るやろ」
「ハヤトはオレに怒んねェもん」
「いっつも怒ってるやろが」
教室には3人いる。しかし、会話はふたり。ノイズを感じる癖のある声と、訛りのある平坦な話し声。
机上に伏した金髪は眠っている。
「なァ~、ハヤト起こさねェ~?」
「別に寝かしといたらいいが。ハヤト、昨日は眠れんかったって言ってたし」
「それ、夕方に寝落ちして、起きたあとが眠れなかっただけじゃん?」
「またか……ハヤトは部屋に帰ったら寝落ちしかせんやん」
「そんでさァ、ブレス外して深夜に走ってたら、職員に注意受けたらし~よ」
「あほやな」
呆れの息を吐いたピンクヘアに、金髪が、のそり。
「……あ? 誰がアホって?」
鋭い目つき。寝ぼけ眼のせいか、精彩に欠ける低い声が問うた。
窓から手を離した琉夏が、明るく声をあげる。
「ハヤト起きた? 遊びに行こ」
「行かねぇ……金ねえっつったろ」
「俺が出すし」
「そんなん駄目だ」
「なんで? オレが遊びたいンだから、オレが出すのが正しくね?」
「正しくねぇ」
「えェ~?」
不満の声をもらす琉夏。
横の席で笑っていたピンクヘアが、ゲームをやめて席を立った。
「そうやったら、練習しよか。あれはタダやろ?」
窓枠に寄りかかる琉夏が、「ギター飽きた」長い手脚を伸ばして不満をこぼす。
「琉夏は曲でも作っとき」
「オレら、もう校内ライブ認められねェじゃん。曲の意味なくねェ~?」
「ほとぼり冷めたら許してもらえるやろ」
「どうかねェ~?」
話のあいまに、金髪も立ち上がった。スクールバッグを手に取る。
「……そうだな。練習でもするか」
「えェ~? 部活ならオレ、ハヤト待たずに帰ったンだけど?」
「待ってくれなんて誰も言ってねぇよ」
話しながら教室を出ようとする金髪を、ゆるりと琉夏が追う。
ピンクヘアもバッグにゲームを放り込み、帰りの準備を整えて、
「あ……ハヤトぉ! 制服おきっぱ!」
イスに掛けられていたブレザーを掴み、廊下を行く金髪を呼ぶ。
金髪は後方のドアから出て教室の横を過ぎ、前方のドアに差し掛かっていた。ワイシャツ1枚の自分の姿に気づいたらしく、「あぁ」
ピンクヘアは二人に追いつくと、ブレザーを手渡した。手渡す直前、金髪のワイシャツを眺めて不思議そうな顔をしたが、何も言わなかった。
「さんきゅー」
「ハヤト、あんた寒くないん?」
「今日は暑いだろ?」
「そうかぁ?」
受け取ったブレザーを着ることなく、金髪は腕に持ったまま。かと思いきや、荷物になるのが煩わしいのか、腕を通した。
帰路につくのではなく、3人は階段を上がっていく。彼らの所属する部は、ここの3階に仮部室を設けていた。
「なァ、ハヤト」
「あぁ?」
「転入生、目障りじゃね? 壱正に付き纏ってるらし~よ?」
「………………」
金髪に話しかける長身の琉夏を、ピンクヘアは横目に見上げる。琉夏の横顔は、新しいオモチャを見つけた子供みたいだった。
黙する金髪に対して、琉夏の唇はよく動く。
「ルイたちとも絡んでンじゃん? あっちは、まァ……どうでもい~けど。教室の真ん中に外部生がいるの、うぜェな~?」
外部生とは、高校から入学試験を通って桜統学園に入った生徒を意味する。中学から内部進学で高校にあがった生徒は、内部生となる。
ただし、これらのワードは差別的であると保護者から批判が出たため、表向きは遣われていない。
2Bの生徒は、ヒナ以外が内部生。これは歴代のBクラスから見ても異例な割合となる。通常のBクラスは平均的に半々であった。
「……座席は中央が空いてたからだろ」
金髪の応えに、琉夏は目を細めた。
「物理的な話だけじゃなくてさァ、2Bの中心が外部生になったら……うざいじゃん?」
「………………」
「オレ、外部生は全員Aクラに追放してェんだけど。……ハヤトも協力してくンない?」
廊下を進む。横並びではなく、ピンクヘアはすでに1歩下がった位置を歩いていた。まるで二人の会話は聞こえていないかのように、ひとり後ろを歩いている。
「どうやって協力しろっつぅんだよ」
「殴って脅す? チビだし簡単に言うこと聞くんじゃね?」
「……暴力はやめとけ」
「ハヤトが言うわけ?」
キャハハハっと、鼓膜を引っ掻く笑い声が廊下に響いた。愉しげな音は、静まりかえった廊下で反響している。
他の生徒の気配はない。だれひとり、いない。
歩き着いた部室のドアを開き、金髪は肩越しに琉夏を振り向いた。
「お前が追い出してぇなら好きにしろよ。——けど、退学したくなかったら、暴力はやめとけ。教師も二度は騙せねぇだろ」
「そ?」
「今の担任は前と違うしな」
「ふ~ん?」
会話に参加しないピンクヘアは、二人から遅れて、部室へと入った。ドラムセットに向かう金髪と目が合う。互いに無言。
金髪のほうが、先に目をそらした。
楽器を手にする。ドラムスティック、ギター、ベース。
それぞれが鳴らす音は重なることなく、部室を騒音で埋めていた。
ざらりとした声が、高圧的に尋ねた。
開いた窓から、外に目を向ける男子生徒。虹色に染まる髪。瞳の先にはヒナと壱正が歩いていた。ヒナたちは学園の図書館へと向かっている。
中等部の本校舎ではなく、別棟にあたる建物。2階の端が、現2Bの教室。放課後の教室に残っているのは、髪色が派手な3人組。
虹色の髪——琉夏の声に反応したのは、携帯ゲームに興じていた小柄なピンクヘア。
「ん~? なんの話?」
「転入生。急に他のヤツらと仲良くなってねェ~?」
「あぁ、喋ってたわ……」
「なんで?」
「壱正はクラス委員やし、サクラ先生に面倒みるよう言われたんじゃぁ?」
「うざ。教師のご機嫌取り……」
「壱正の悪口は言わんとき。ハヤトが怒るやろ」
「ハヤトはオレに怒んねェもん」
「いっつも怒ってるやろが」
教室には3人いる。しかし、会話はふたり。ノイズを感じる癖のある声と、訛りのある平坦な話し声。
机上に伏した金髪は眠っている。
「なァ~、ハヤト起こさねェ~?」
「別に寝かしといたらいいが。ハヤト、昨日は眠れんかったって言ってたし」
「それ、夕方に寝落ちして、起きたあとが眠れなかっただけじゃん?」
「またか……ハヤトは部屋に帰ったら寝落ちしかせんやん」
「そんでさァ、ブレス外して深夜に走ってたら、職員に注意受けたらし~よ」
「あほやな」
呆れの息を吐いたピンクヘアに、金髪が、のそり。
「……あ? 誰がアホって?」
鋭い目つき。寝ぼけ眼のせいか、精彩に欠ける低い声が問うた。
窓から手を離した琉夏が、明るく声をあげる。
「ハヤト起きた? 遊びに行こ」
「行かねぇ……金ねえっつったろ」
「俺が出すし」
「そんなん駄目だ」
「なんで? オレが遊びたいンだから、オレが出すのが正しくね?」
「正しくねぇ」
「えェ~?」
不満の声をもらす琉夏。
横の席で笑っていたピンクヘアが、ゲームをやめて席を立った。
「そうやったら、練習しよか。あれはタダやろ?」
窓枠に寄りかかる琉夏が、「ギター飽きた」長い手脚を伸ばして不満をこぼす。
「琉夏は曲でも作っとき」
「オレら、もう校内ライブ認められねェじゃん。曲の意味なくねェ~?」
「ほとぼり冷めたら許してもらえるやろ」
「どうかねェ~?」
話のあいまに、金髪も立ち上がった。スクールバッグを手に取る。
「……そうだな。練習でもするか」
「えェ~? 部活ならオレ、ハヤト待たずに帰ったンだけど?」
「待ってくれなんて誰も言ってねぇよ」
話しながら教室を出ようとする金髪を、ゆるりと琉夏が追う。
ピンクヘアもバッグにゲームを放り込み、帰りの準備を整えて、
「あ……ハヤトぉ! 制服おきっぱ!」
イスに掛けられていたブレザーを掴み、廊下を行く金髪を呼ぶ。
金髪は後方のドアから出て教室の横を過ぎ、前方のドアに差し掛かっていた。ワイシャツ1枚の自分の姿に気づいたらしく、「あぁ」
ピンクヘアは二人に追いつくと、ブレザーを手渡した。手渡す直前、金髪のワイシャツを眺めて不思議そうな顔をしたが、何も言わなかった。
「さんきゅー」
「ハヤト、あんた寒くないん?」
「今日は暑いだろ?」
「そうかぁ?」
受け取ったブレザーを着ることなく、金髪は腕に持ったまま。かと思いきや、荷物になるのが煩わしいのか、腕を通した。
帰路につくのではなく、3人は階段を上がっていく。彼らの所属する部は、ここの3階に仮部室を設けていた。
「なァ、ハヤト」
「あぁ?」
「転入生、目障りじゃね? 壱正に付き纏ってるらし~よ?」
「………………」
金髪に話しかける長身の琉夏を、ピンクヘアは横目に見上げる。琉夏の横顔は、新しいオモチャを見つけた子供みたいだった。
黙する金髪に対して、琉夏の唇はよく動く。
「ルイたちとも絡んでンじゃん? あっちは、まァ……どうでもい~けど。教室の真ん中に外部生がいるの、うぜェな~?」
外部生とは、高校から入学試験を通って桜統学園に入った生徒を意味する。中学から内部進学で高校にあがった生徒は、内部生となる。
ただし、これらのワードは差別的であると保護者から批判が出たため、表向きは遣われていない。
2Bの生徒は、ヒナ以外が内部生。これは歴代のBクラスから見ても異例な割合となる。通常のBクラスは平均的に半々であった。
「……座席は中央が空いてたからだろ」
金髪の応えに、琉夏は目を細めた。
「物理的な話だけじゃなくてさァ、2Bの中心が外部生になったら……うざいじゃん?」
「………………」
「オレ、外部生は全員Aクラに追放してェんだけど。……ハヤトも協力してくンない?」
廊下を進む。横並びではなく、ピンクヘアはすでに1歩下がった位置を歩いていた。まるで二人の会話は聞こえていないかのように、ひとり後ろを歩いている。
「どうやって協力しろっつぅんだよ」
「殴って脅す? チビだし簡単に言うこと聞くんじゃね?」
「……暴力はやめとけ」
「ハヤトが言うわけ?」
キャハハハっと、鼓膜を引っ掻く笑い声が廊下に響いた。愉しげな音は、静まりかえった廊下で反響している。
他の生徒の気配はない。だれひとり、いない。
歩き着いた部室のドアを開き、金髪は肩越しに琉夏を振り向いた。
「お前が追い出してぇなら好きにしろよ。——けど、退学したくなかったら、暴力はやめとけ。教師も二度は騙せねぇだろ」
「そ?」
「今の担任は前と違うしな」
「ふ~ん?」
会話に参加しないピンクヘアは、二人から遅れて、部室へと入った。ドラムセットに向かう金髪と目が合う。互いに無言。
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楽器を手にする。ドラムスティック、ギター、ベース。
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