【完結】おれたちはサクラ色の青春

藤香いつき

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ハロー・マイ・クラスメイツ

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 サクラの話は、1限の授業を丸々つぶした。
 
「説教くそなげェじゃん……」
 
 うなだれた頬を机にくっつけて、琉夏が文句を吐き出す。
 
「うちらが嘘ついたの、バレてるんやろか?」
 
 ピンクヘアは両手で頬杖をついている。
 
「いやー? おれはバレてないと信じたいなぁ……」
 
 ヒナは、窓に寄り掛かりながら肩をすくめた。
 
「………………」
「………………」
「………………」
 
 沈黙。治安の悪い島で、真っ先に反応したのは琉夏だった。
 
「はっ? てめェなんで当然のように加わってンだよ!」
「……え?」
 
 座っているカミヤハヤトの横で、ヒナは外の桜を見ようと窓を開けた。
 ガタッと派手にイスを鳴らして立ち上がった琉夏。背の高い彼を見上げて、ヒナは白々と首をかしげる。
 
「なんでって……おれ、お前らの新しいボスだし?」
「何言ってンの? アンタ弱かったじゃん」
「あれ? 琉夏くんひょっとして、ルール忘れちゃった?」
「は?」
「降参したほうが負け——って決めたよな?」
「ハヤトも降参してねェんだから、決着してねェよな?」
「いやいや、カミヤハヤトは降参したよ?」
「——は」
 
 ヒナは、座っていたカミヤハヤトの肩へ親しげに腕を回した。普段の琉夏をマネして、ニヤニヤと。
 
「カミヤハヤトは朝、おれのとこび入れに来たもん。参りました、ごめんなさいって。なー?」
 
 カミヤハヤトに向けて同意を促す。近くなったヒナから鬱陶しげに顔を離そうとしているが、カミヤハヤトも否定せず。
 唖然あぜんとする琉夏の口が半開きで、ちょっとスッキリ。
 
「え……コイツが言ってンの、嘘だよな? ハヤト?」
「………………」
 
 琉夏が足を折ってカミヤハヤトの机にすがる。悪役みたいに高笑いしてやりたいところを抑えて、ふふふふくらいの笑いでヒナは自席に戻っていく。
 と、その前に。ピンクヘアから制服の裾を掴まれた。
 
「ねえ、新ボスさん」
「ん? なに?」
「せっかくやで、自己紹介しよか。うち、羽尾はお 竜星りゅうせい。よろしくぅ」
「登録名、『竜星』だよな? 竜星って呼んでいい?」
「どぉぞ。うちは、ボスって呼んだらいいんか?」
「いや、絶対やめて。恥ずかしくてしぬ」
「そんならぁ……ヒナで、いい?」
「うん、ヒナで。よろしく、竜星」

 互いに、ニコッ。ピンクヘアな竜星との間に遺恨はない。
 自席に戻ろうとしたが、振り向いていた壱正が目に入った。
 
「あっ、壱正きいて! 琉夏たちとのトラブル、片付いたんだ!」
「………………」
「……あ、れ? どうした? なんか、怒ってる?」

 満面の笑みで駆け寄ったヒナ。
 しかし、壱正の眉はギュッと険しい。理由を考えて……思いついた。
 
「無関係の説教に巻き込んでごめんな……?」
「そんなことは、どうでもいい。無駄な時間ではなかった。勉強になる点もあった」
「……お、おぅ。そっか? 真面目だな?」
「——それよりも、ヒナも喧嘩をしたということだろうか?」
「えっ……いや、そっ……そうじゃなくて、おれは巻き込まれただけだから……?」
 
 背後から、「先に転入生がハヤトをぶっ飛ばすって言いましたァ~」琉夏の密告が。
 
「ばか琉夏! おれの言うこと聞くって約束だろ!」
「内緒にしとけなんて言われてねェし」
「そういうの揚げ足取りって言うんだ!」

 やいやい言い争っていると、壱正が「何も片付いていないように思う……」低く呟いた。加えて、
 
「ヒナのほうが暴力で解決しようとしたのだろうか……?」
「えっ、ちがうよ壱正! おれそんな野蛮やばんな感じじゃない。おれが望んだのは紳士なやつ。手袋投げつける感じの——あれだ、決闘! カミヤハヤトはガチ腕折りに来たけど、おれは全然そんなことする気なかったし!」
 
 懸命に弁明していると、今度はカミヤハヤトの声で「いや、お前はしょぱなから股間蹴りに来ただろ」
 
 おれの背には、ボスを裏切るやつしかいないのか。
 
「………………」
「………………」
 
 唇を山なりに引き結んで、壱正と見つめ合う。
 お前なら分かってくれるよな? の気持ちを、瞳に込める。
 
「……私は、暴力で解決しようとする者と、交流したくない」
「そんなっ!」
 
 ぷいっと顔を背けた壱正に縋りつく。壱正はわざわざ耳栓をつけ、ヒナの言い訳を遮断した。
 
「きゃはははは!」
「笑うな、琉夏!」
 
 むかつく笑い声に命令するが、琉夏は聞きやしない。
 仕方なく別のやつを繰り出すことにする。
 
「いけ、カミヤハヤト! 琉夏を黙らせるんだ!」
「うるせぇよ」
「お前くらいはおれの言うこと聞くべきだろっ?」
「……つぅか、いちいちフルネームで呼ぶな」
「いけ、ハヤト! 琉夏を黙らせろ!」
「………………」
「あっ、無視すんな!」
 
 騒がしい群れを左手に。ミルクティーブラウンの長髪が、さらりと揺れる。
 騒音を聞き流していたルイは、吐息をこぼしつつ麦たちと話していた。
 
「ヒナくんは、あっちのボスになったの? ご愁傷しゅうしょうさまだね?」
「……ボスというより、猛獣もうじゅう使いみたいだね……」
「言い得て妙ですね」

 感想を語り合う3人の声は、教室に満ちるにぎわいに重なる。
 2限の授業のために戻ってきたサクラが、騒々しい教室のようすに、
 
「これほど反省が見えないとは、予想だにしなかったね。私から全員に課題を出そうか?」
 
 ひどく綺麗な微笑を見せ、対する全員が速やかに黙した。
 
(2Bのボスは、サクラ先生だな……)
 
 クラスメイトの心が一致した、初めての瞬間だった。
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