【完結】おれたちはサクラ色の青春

藤香いつき

文字の大きさ
47 / 79
青春をうたおう

05_Track08.wav

しおりを挟む
 突き抜けるような青空が、頭上に広がっている。
 まぶしい陽光に手をかざして、ヒナは駆け抜ける風に目を細めた。
 
(屋上、人生で初めてだ……)
 
 雲ひとつない快晴。早朝の陽射ひざしが燦々さんさんと世界を照らしている。
 じきに登校してくるのだろうが、生徒の気配がない学園は静寂で満たされていて、不思議な光景だった。
 誰もいない広々とした学園の敷地を眺め、静かにたかぶる感情を胸に湧かせていると……
 
「あちぃ……」
「ハヤト、お前……おれの情緒を邪魔しやがって……」

 横で「教室に戻りてぇ」とほざくハヤトへ、ヒナはじとりとした目を流した。
 楽譜の入ったファイルでパタパタとあおぐハヤトの首筋は、すでに汗ばんでいる。
 
「いや、暑いだろ。情緒ってなんだよ」
「屋上は青春だろ? エモエモに浸るおれの『いとおかし』を返せっ」
「意味わかんねぇ」
 
 こぜり合いを披露する二人に向けて、「あんたら何してるんやぁ? はよ並び~」竜星がゆるりと声を投げた。
 撮影のためのカメラは学園の備品を借りた。麦とルイが画角を吟味ぎんみしている。
 
「ルイくん、ここでいいかな?」
「いいんじゃない? せっかくの青空だし、バックに使いたいよね」
 
 ルイは青空と同色の日傘から顔をのぞかせて、麦の持つカメラの画面を確認した。

「君たち、並びのバランス悪いよ? 身長で揃えたら?」
「音程で揃えてンの」
 
 ルイの指摘には琉夏が返した。

「撮影だけなんだから、なんでもいいでしょ?」
「……たしかに?」
 
 ルイの指示に、中央から端が高くなっていくよう半円をえがく。
 琉夏、ハヤト、ヒナ、竜星、壱正、ウタ。
 ヒナが「おれは今から大きくなるから」唐突な言い訳をして、竜星から「うちもや」強い同調を受けていた。
 
「——サクラ先生、どう思いますか?」
 
 三脚に固定したカメラの画面を、麦がサクラへと見せる。
 立ち会いで見守っていたサクラは長躯ちょうくを傾けて確認し、
 
「固定撮影か?」
「はい」
「動きがあったほうがいいだろうね」
「ぇ……」

 サクラの意見に、撮影担当の麦とルイが顔を見合わせた。
 
「動きながら……?」
「あ、そっか。他校のショート動画は固定だったから、発想になかったけど……そうだよね。音が後入れなんだから、動きがあってもいいよね?」
「それって……たぶん、すごく難しい……よ?」

 悩む麦とルイ。並んだ歌組は練習を始めている。
 答えが見つけられない二人に、サクラが提案する。
 
「ドローンを使ってみるか?」
「ぁ……でも、今から申請すると時間が……」
「小型の物なら私が使用している準備室にある。取って来てあげよう」
「ぇ……いいんですか?」
「構わないよ」
「ありがとうございます」
「私がこの場を離れるのは、本来は認められていない。君たちを信用しているが……危険なことはしないようにね?」
「はいっ」
 
 麦との会話を終えて屋上を後にしたサクラに、ヒナが気づいて首をかしげた。
 
「あれ? サクラ先生は?」
「撮影用のドローンを取って来てくれるって」
「ドローン……ショート動画なのに段々すごくなってきたな……」

 ヒナの言葉に琉夏が笑った。
 
「こんだけ派手にやって落ちたら笑うなァ~?」
「そんな弱気なこと言うな! おれたちは優勝を目指してるんだ!」
「優勝~? それガチで言ってたワケ?」
「当然だろ。英理先輩との約束——」
 
 ふつりと、ヒナが言葉を切った。不自然に途絶えた音の先を、クラスメイトたちは待ったが……ヒナはキリっとして、
 
「——よし、サクラ先生を待つあいだに固定撮影もしてみよう!」
 
 急転換で呼びかけた。

 ん?
 疑問いっぱいのクラスメイトのなか、壱正は(副会長との取引は、参加だけでよかったのではないだろうか……?)思い当たるものを考えている。ハヤトだけが眉を寄せて微妙な表情をしていた。
 
「ほら、せーのっ」
 
 強制的に始まる歌。
 透きとおる青の空に、青い歌声が広がる。
 
 屋上への階段をあがるサクラの耳には、幼さの残るハーモニーが届いていた。
 
「……優勝できるといいね」
 
 彼にしてはまれな独り言が、やわらかく密やかに唱えられた。
 語りかけるような響きは、まるで——。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

失恋中なのに隣の幼馴染が僕をかまってきてウザいんですけど?

さいとう みさき
青春
雄太(ゆうた)は勇気を振り絞ってその思いを彼女に告げる。 しかしあっさりと玉砕。 クールビューティーで知られる彼女は皆が憧れる存在だった。 しかしそんな雄太が落ち込んでいる所を、幼馴染たちが寄ってたかってからかってくる。 そんな幼馴染の三大女神と呼ばれる彼女たちに今日も翻弄される雄太だったのだが…… 病み上がりなんで、こんなのです。 プロット無し、山なし、谷なし、落ちもなしです。

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

after the rain

ノデミチ
青春
雨の日、彼女はウチに来た。 で、友達のライン、あっという間に超えた。 そんな、ボーイ ミーツ ガール の物語。 カクヨムで先行掲載した作品です、

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

処理中です...