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青春をうたおう
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突き抜けるような青空が、頭上に広がっている。
まぶしい陽光に手をかざして、ヒナは駆け抜ける風に目を細めた。
(屋上、人生で初めてだ……)
雲ひとつない快晴。早朝の陽射しが燦々と世界を照らしている。
じきに登校してくるのだろうが、生徒の気配がない学園は静寂で満たされていて、不思議な光景だった。
誰もいない広々とした学園の敷地を眺め、静かに昂る感情を胸に湧かせていると……
「あちぃ……」
「ハヤト、お前……おれの情緒を邪魔しやがって……」
横で「教室に戻りてぇ」とほざくハヤトへ、ヒナはじとりとした目を流した。
楽譜の入ったファイルでパタパタとあおぐハヤトの首筋は、すでに汗ばんでいる。
「いや、暑いだろ。情緒ってなんだよ」
「屋上は青春だろ? エモエモに浸るおれの『いとおかし』を返せっ」
「意味わかんねぇ」
こぜり合いを披露する二人に向けて、「あんたら何してるんやぁ? はよ並び~」竜星がゆるりと声を投げた。
撮影のためのカメラは学園の備品を借りた。麦とルイが画角を吟味している。
「ルイくん、ここでいいかな?」
「いいんじゃない? せっかくの青空だし、バックに使いたいよね」
ルイは青空と同色の日傘から顔をのぞかせて、麦の持つカメラの画面を確認した。
「君たち、並びのバランス悪いよ? 身長で揃えたら?」
「音程で揃えてンの」
ルイの指摘には琉夏が返した。
「撮影だけなんだから、なんでもいいでしょ?」
「……たしかに?」
ルイの指示に、中央から端が高くなっていくよう半円をえがく。
琉夏、ハヤト、ヒナ、竜星、壱正、ウタ。
ヒナが「おれは今から大きくなるから」唐突な言い訳をして、竜星から「うちもや」強い同調を受けていた。
「——サクラ先生、どう思いますか?」
三脚に固定したカメラの画面を、麦がサクラへと見せる。
立ち会いで見守っていたサクラは長躯を傾けて確認し、
「固定撮影か?」
「はい」
「動きがあったほうがいいだろうね」
「ぇ……」
サクラの意見に、撮影担当の麦とルイが顔を見合わせた。
「動きながら……?」
「あ、そっか。他校のショート動画は固定だったから、発想になかったけど……そうだよね。音が後入れなんだから、動きがあってもいいよね?」
「それって……たぶん、すごく難しい……よ?」
悩む麦とルイ。並んだ歌組は練習を始めている。
答えが見つけられない二人に、サクラが提案する。
「ドローンを使ってみるか?」
「ぁ……でも、今から申請すると時間が……」
「小型の物なら私が使用している準備室にある。取って来てあげよう」
「ぇ……いいんですか?」
「構わないよ」
「ありがとうございます」
「私がこの場を離れるのは、本来は認められていない。君たちを信用しているが……危険なことはしないようにね?」
「はいっ」
麦との会話を終えて屋上を後にしたサクラに、ヒナが気づいて首をかしげた。
「あれ? サクラ先生は?」
「撮影用のドローンを取って来てくれるって」
「ドローン……ショート動画なのに段々すごくなってきたな……」
ヒナの言葉に琉夏が笑った。
「こんだけ派手にやって落ちたら笑うなァ~?」
「そんな弱気なこと言うな! おれたちは優勝を目指してるんだ!」
「優勝~? それガチで言ってたワケ?」
「当然だろ。英理先輩との約束——」
ふつりと、ヒナが言葉を切った。不自然に途絶えた音の先を、クラスメイトたちは待ったが……ヒナはキリっとして、
「——よし、サクラ先生を待つあいだに固定撮影もしてみよう!」
急転換で呼びかけた。
ん?
疑問いっぱいのクラスメイトのなか、壱正は(副会長との取引は、参加だけでよかったのではないだろうか……?)思い当たるものを考えている。ハヤトだけが眉を寄せて微妙な表情をしていた。
「ほら、せーのっ」
強制的に始まる歌。
透きとおる青の空に、青い歌声が広がる。
屋上への階段をあがるサクラの耳には、幼さの残るハーモニーが届いていた。
「……優勝できるといいね」
彼にしては稀な独り言が、やわらかく密やかに唱えられた。
語りかけるような響きは、まるで——。
まぶしい陽光に手をかざして、ヒナは駆け抜ける風に目を細めた。
(屋上、人生で初めてだ……)
雲ひとつない快晴。早朝の陽射しが燦々と世界を照らしている。
じきに登校してくるのだろうが、生徒の気配がない学園は静寂で満たされていて、不思議な光景だった。
誰もいない広々とした学園の敷地を眺め、静かに昂る感情を胸に湧かせていると……
「あちぃ……」
「ハヤト、お前……おれの情緒を邪魔しやがって……」
横で「教室に戻りてぇ」とほざくハヤトへ、ヒナはじとりとした目を流した。
楽譜の入ったファイルでパタパタとあおぐハヤトの首筋は、すでに汗ばんでいる。
「いや、暑いだろ。情緒ってなんだよ」
「屋上は青春だろ? エモエモに浸るおれの『いとおかし』を返せっ」
「意味わかんねぇ」
こぜり合いを披露する二人に向けて、「あんたら何してるんやぁ? はよ並び~」竜星がゆるりと声を投げた。
撮影のためのカメラは学園の備品を借りた。麦とルイが画角を吟味している。
「ルイくん、ここでいいかな?」
「いいんじゃない? せっかくの青空だし、バックに使いたいよね」
ルイは青空と同色の日傘から顔をのぞかせて、麦の持つカメラの画面を確認した。
「君たち、並びのバランス悪いよ? 身長で揃えたら?」
「音程で揃えてンの」
ルイの指摘には琉夏が返した。
「撮影だけなんだから、なんでもいいでしょ?」
「……たしかに?」
ルイの指示に、中央から端が高くなっていくよう半円をえがく。
琉夏、ハヤト、ヒナ、竜星、壱正、ウタ。
ヒナが「おれは今から大きくなるから」唐突な言い訳をして、竜星から「うちもや」強い同調を受けていた。
「——サクラ先生、どう思いますか?」
三脚に固定したカメラの画面を、麦がサクラへと見せる。
立ち会いで見守っていたサクラは長躯を傾けて確認し、
「固定撮影か?」
「はい」
「動きがあったほうがいいだろうね」
「ぇ……」
サクラの意見に、撮影担当の麦とルイが顔を見合わせた。
「動きながら……?」
「あ、そっか。他校のショート動画は固定だったから、発想になかったけど……そうだよね。音が後入れなんだから、動きがあってもいいよね?」
「それって……たぶん、すごく難しい……よ?」
悩む麦とルイ。並んだ歌組は練習を始めている。
答えが見つけられない二人に、サクラが提案する。
「ドローンを使ってみるか?」
「ぁ……でも、今から申請すると時間が……」
「小型の物なら私が使用している準備室にある。取って来てあげよう」
「ぇ……いいんですか?」
「構わないよ」
「ありがとうございます」
「私がこの場を離れるのは、本来は認められていない。君たちを信用しているが……危険なことはしないようにね?」
「はいっ」
麦との会話を終えて屋上を後にしたサクラに、ヒナが気づいて首をかしげた。
「あれ? サクラ先生は?」
「撮影用のドローンを取って来てくれるって」
「ドローン……ショート動画なのに段々すごくなってきたな……」
ヒナの言葉に琉夏が笑った。
「こんだけ派手にやって落ちたら笑うなァ~?」
「そんな弱気なこと言うな! おれたちは優勝を目指してるんだ!」
「優勝~? それガチで言ってたワケ?」
「当然だろ。英理先輩との約束——」
ふつりと、ヒナが言葉を切った。不自然に途絶えた音の先を、クラスメイトたちは待ったが……ヒナはキリっとして、
「——よし、サクラ先生を待つあいだに固定撮影もしてみよう!」
急転換で呼びかけた。
ん?
疑問いっぱいのクラスメイトのなか、壱正は(副会長との取引は、参加だけでよかったのではないだろうか……?)思い当たるものを考えている。ハヤトだけが眉を寄せて微妙な表情をしていた。
「ほら、せーのっ」
強制的に始まる歌。
透きとおる青の空に、青い歌声が広がる。
屋上への階段をあがるサクラの耳には、幼さの残るハーモニーが届いていた。
「……優勝できるといいね」
彼にしては稀な独り言が、やわらかく密やかに唱えられた。
語りかけるような響きは、まるで——。
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