【完結】美容講座は呑みながら

藤香いつき

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まずはナイアシンアミド

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 マンションの最上階。といっても17階。
 今や、自由きままな一人暮らし。金曜日は特別。
 
 仕事から帰って、シャワーを浴びて、ゆるい服に着替えて。
 取り寄せのつまみを袋にいれたら、日本酒の瓶を抱えて家を出る。どれも保冷バッグに入れるほどじゃない。目的地はすぐ隣。

 ピーンポーン。
 ドア横のボタンを押せば、鍵の回る音。開かれたドアからのぞくのは、すっぴんでも美人、透きとおる肌の持ち主。白金の長い髪。

「ただいま、ティアくん」
 
 ふざけて『ただいま』なんて言ってみる。
 するとは、くすぐったそうに笑った。
 
「おかえり、レイちゃん。……ところで、それなに?」
「日本酒。富翁とみおう
「日本酒をかついでやってくるのって君くらいだよね?」
「ティアくんのうちって私以外に誰か来るの?」
「ううん、来ない」
「じゃあ何しても私しか例がないよね?」

 話しながら、靴をぬいで短い廊下を進む。同じマンションの3LDKタイプだけど、角部屋の彼の部屋は少し広い。リビングダイニングは無駄にひらけていて、一人暮らしには贅沢すぎる。言ってしまえば、一人で3LDKに住む私もだが。いやしかし、私は話が違う。
 
 オープンキッチンのカウンターに持参したつまみを並べると、ティアの好奇の目が向いた。
 
「なんの箱?」
「気になってお取り寄せしてみた、燻製くんせいもの」
「へぇ……なんて読むの?」
煙神えんじん。盛りつけは適当によろしくお願いします」
「この沢庵たくあんみたいなのは? 切ればいいの?」
「うん、適当に」
「こっちのは……海苔のり?」
「山わさび味のり。職場でもらって美味しかったから少し残しといたよ」
 
 ニコリと笑う顔が、「食べさし、ありがとう」首をかしげて嫌みっぽく感謝した。プラチナブロンドの髪がさらりと流れる。
 今日の彼はストレート、つやつやサラサラ。私はタオルドライした髪を適当にクリップでまとめていた。
 
 取り寄せのつまみを真空の袋から取り出して、ティアがわざわざ盛りつけてくれるのを見守りながら、ダイニングテーブルについた。ちょっとしたつまみはすでに用意されている。
 飲みすぎ防止のチェイサーとして、ミネラルウォーターをグラスにそそぐ。準備万端ばんたん
 わくわくして待っていると、ティアがつまみの載ったプレートを持ってこちらへ。SNS用の写真もちゃっかり撮ってから、向かい合うように席に着いた。
 持参した日本酒は、彼が用意した『ぐいみ』にそそがれる。脚のあるグラスも用意されているが、こちらはあとで。彼の好きなワイン用。
 
「1週間、お疲れさま」
「ティアくんも、お疲れさま」
「僕はのんびりしてたけどね?」

 くすっと可愛く笑う顔は、いつだって最高に綺麗だ。
 そんな笑顔を見つめながら、
 
「——かんぱい」
 
 ゆるりと始まる、ささやかな宴。
 今宵のは——さて、なんだろう?
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