【完結】美容講座は呑みながら

藤香いつき

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出会いは失恋の夜に

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「わるい! 別れてくれ!」
 
 この日、安井レイコは誕生日だった。
 めずらしく外食を希望してきた彼に、プロポーズだろうと思っていた彼女は、待ち合わせた居酒屋の個室でいきなり出された言葉にフリーズしていた。
 
 (居酒屋でプロポーズなんて、タイチらしいね)なんて言って、一生の笑い話にしようとしていたのに……なんだって?
 
「は、……え? なんの冗談?」

 シンプルな響き。おそらくまだ理解がいっていない。
 この時点で声に怒りは差していなかったと思うのだが、スライドした横のドアから現れた人間が、
 
「——まってください! 私が悪いんですっ」
 
 店員ではない。
 見慣れたツヤサラの茶髪ロング。なぜか職場の後輩が、彼へと駆け寄っていた。
 涙を浮かべる顔でこちらを振り返り、
 
「安井先輩、ごめんなさいっ」
「いや! みのりちゃんは悪くないよ。君の魅力にかれた俺が悪いんだ……」
「タイチくん……私をかばってくれるの……?」
「かばうも何も、君は何ひとつ悪くない」
「ううん、タイチくんを誘ったのは私だから……」
「君は相談にのってほしかっただけじゃないか。俺が酔った勢いで、君を帰したくないなんて無理を言ったから……」
「タイチくん……」
「みのりちゃん……」
 
(——まてまて。なんでそっちだけで勝手に恋愛ドラマ始めてんの?)
 
 呆然ぼうぜんとしてたせいでうっかり突っこみそうになったが、かろうじて止めた。
 見つめ合う二人に、現状は理解しつつあった。
 
「………………」
 
 口を挟めない空気。つやつやと光る彼女の髪がまぶしい。

——この女優、ぜったい整形してるよな。外見にばっかりお金かけて、むなしくないのかな? 本当に心がキレイなひとは、それが外見に出てくるのにさ。
 
(……って言って、美容にお金かけるの批判してたよね?)
 
 結婚資金を貯めてるから、無駄遣いはしたくない。
 そう言う彼のために、デートはいつも家の中。節約料理で良き妻アピールしてきたというのに……話が違う。
 髪の先までピカピカの彼女。まつげはどう見てもナチュラルじゃないし、爪もシンプルだけどネイルでキラキラしているし、身につけているネックレスもどこかで見たことのある……あ、ティファニーな気がする。
 
「……安井先輩、ほんとうにごめんなさい……」
 
 うるうると涙をたずさえた瞳より、それを囲むまつげがどこまで天然か気になっていた。
 長くクルンとカールした、お人形さんのような目許めもと
 歳下だから肌がみずみずしいのは仕方ないにしても……

 そっと落とした目で、スマホの黒い画面に映る自分を見た。最低限しかメイクしていない顔は、暗い画面にみすぼらしく見えて——むなしくなった。
 
 圧倒的な敗北感。
 やりきれない気持ちで文句は何も言えず、それでも変なプライドだけはあって、
 
「……みのりちゃんなら、仕方ないよね……」
 
 あはは、と。
 無理に笑って、居酒屋をあとにしていた。
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