【完結】美容講座は呑みながら

藤香いつき

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極上のしずく

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 鏡をじっと見つめる。
 こんなにまじまじと自分の眼を観察したことはない。
 以前、目のふちにほっそり生えていたまつげ。それが、
 
「ほんとに育ってる……」
 
 朝晩の丹念な育成(?)によって、間違いなく1本1本の太さが増していた。
 
(すご……こんな目に見えて変わるもんか……)
 
 パチパチ。まばたきをして、右、左と顔を向けて長さを見てみる。長さに関しては(ものすごく伸びた)という実感はないが、(少し伸びたかも?)くらいの印象はある。
 目に見えて変化があるのは楽しい。
 肌も、美容液を導入してから透明感が出た気がする。
 
 “印象”、“気がする”。
 そんな曖昧あいまいな感覚でも、キレイを感じるのはテンションが上がる。
 
 そんな休日のおりに、宅配を告げるチャイムが鳴った。
 実家から送られてきたらしい、重く巨大な段ボール箱。
 
(またいっぱい入ってるな……)
 
 開けてみると、並ぶのは丁寧に包まれた日本酒の数々。
 レイコの実家は、こじんまりとしたすし屋で、近所の者が集まる居酒屋だった。
 父は口にしないが、レイコに地元に帰ってきてほしいらしく、その本心を込めて地元中心の日本酒が頻繁に送られてくる。
 だがしかし、この誘惑はかえって逆効果だった。無料ただで手に入るアルコールのおかげで、実家に帰る気などさらさらないレイコだった。
 
(今回は何かな~)
 
 にやにやしながら日本酒のラベルを確認していく。ぼん花垣はながき一筆啓上いっぴつけいじょう一本義いっぽんぎ
 
「——早瀬浦はやせうら!」
 
 大好きな日本酒も見つけて、鏡を見ていたときよりもテンション高く声をあげていた。
 
(今回はいつにもまして地元を推してくるな~?)
 
 彼氏と別れたと伝えたせいだろうか——。
 こちらは母に伝えただけなのだが、プライバシーはないらしい。
 詰め込まれた日本酒の最後は、いちばん大きな一升瓶いっしょうびんの箱。1.8リットル。
 
(一升瓶て。どんだけ呑むと思って。……ん? あれ、まさかこれ……)

 銘柄を確認した瞬間、ティアに連絡を入れていた。
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