【完結】美容講座は呑みながら

藤香いつき

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旅は道連れ

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 ここ連日の睡眠はたっぷり。
 道中のおやつも完備。珈琲コーヒーは家で淹れてタンブラーに詰めてきた。かんぺき。
 
「いざ出発!」
「レイちゃん、いま夜だからね? ご近所迷惑だからね?」
 
 スーツケースのカラカラ音をエントランスに響かせてきたティアは、レンタカーのトランクに詰め込んで助手席に座った。
 
「思ってたより座り心地いいね?」
 
 ティアの感想に「でしょ?」と返す。レンタルしたのは普通車。長距離で長く座っているのを考慮し、シートが柔らかいものにした。軽に比べると、スピードを出したときの安定感もある。
 
 一般道から高速に上がって、一気にハイスピード。
 隣のティアの様子をうかがう。こちらを見る彼と目が合った。
 
「うん? なに?」
「……いや、ティアくんのことだから、スピード出したら怖がるかなぁって……」
「そんなにスピード出てる? あんまり分からないよ?」

 安定感のある車効果か。ティアは持参したらしいミネラルウォーターのボトルにのんびりと口をつけていた。
 車や建物のライトに満たされた明るい夜道を進みながら、レイコは口を開いた。
 
「……前に、運転しない女の子を乗せて高速走ったときにさぁ、」
「うん?」
「『高速こわい! 車が爆発しそう!』って言われて……いや、映画の見すぎ! って突っこんだことがあったの。……だから、勝手にティアくんもそっちタイプの反応だと思ってた」
「あはは、そんな心配してないよ。レイちゃんは運転うまいって言ってたでしょ?」
「まあね。ゴールド免許だよ」
「ゴールド免許ってなに?」
「無事故・無違反の優良運転者ってこと」
「すごいの?」
「いや、分かんない」

 ジャンクションで、分岐を左に。カーナビの音声案内があるので、地図を覚える必要もない。
 平日夜の高速道路は、太陽のまぶしさもなく、車の数も少なく、とても走りやすい。
 
 隣に横目を投げる。
 窓の外を眺めるティアの白い肌に、周囲の明かりが流れていくのが綺麗だった。
 肌を隠さずにいられるこの状態を、ティアはどんなふうに感じているのだろう。
 
「……わくわくするね」
 
 ぽつりと。疑問に答えてくれたかのような、つぶやき。
 こちらに流れようとしたティアの視線を察して、ぱっと前を向いた。
 
「ティアくん、眠くない? 眠たかったら寝ていいよ?」
「全然。すごくえてる。深夜に出掛けてるせいかな?」
「ああ、わかる。非日常な感じ、楽しくなるよね」
「うん。旅行先も楽しみだけど……どこかへ行く“過程”がこんなに楽しいのは、初めてだね」
「………………」
 
 隣で微笑む気配がする。
 その空気と彼の言葉に、胸に達成感が湧く。
 まだ旅行は始まったばかりだけど……
 
「ティアくん、」
「うん?」
「美味しいもの、たくさん食べようね!」
「うん、温泉も忘れずにね? キレイになって帰ろうね?」
「……鋭意努力します」
 
 車内には、ティアのあきれた笑い声が響いていた。
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