19 / 31
旅は道連れ
18
しおりを挟む
平日なせいか温泉街の人はまばらだった。
軽く食事をして、(軽く呑んで、)予約していた貸切風呂に寄って……
「レイちゃん、あっち向いてる?」
「向いてるって。しつこいな……なんで私が疑われてるの?」
山の中の自然あふれる露天風呂。二人で入るには大きすぎて、10人は余裕で入れる。周りがきっちり囲われているのと東屋のような屋根を見て、絶対ここにしようと決めていた。
それぞれの端で反対方向を見ていた。私の視界から見える緑は爽やかで、湯はさらりと柔らかい。
「いい湯だなぁ~」
「レイちゃん……おじいちゃんみたいな言い方……」
「ばあさんや、今日のお昼は何かな?」
「食べて呑んだとこでしょ。……というか、レイちゃん元気だね? 眠くないの?」
「言われると眠い……まあ、このあと宿に戻って少し寝るし……」
「そうだね、ゆっくり休んで。僕も一緒にお昼寝しよかな?」
「……身体のほうは大丈夫?」
「うん。イケメンなおじいちゃんが配慮してくれたから、ほんと全然へいき」
「よかった。……温泉街もさ、ティアくん、あまり目立ってなかったよね?」
「きみが、いかついサングラス掛けてるせいじゃない? みんなそっちに目が行きがち」
「調子乗ったらあんな感じになっちゃったんだよね」
「どう調子乗ったらああなるの……?」
あつい。ざばりと湯を波立たせて立ち上がった。
「——のぼせてきた。先に着替えのとこ借りるね?」
「どうぞ。スキンケア用品もあるから、好きに使って」
「助かるー」
「……レイちゃん、なにひとつ持ってきてないの、なんで?」
「立ち寄り湯だし、荷物になるし、いいかなって」
「………………」
「ティアくんに借りたらいいかなって思っちゃったよね」
「……ま、いいんだけどね。旅行の計画(相談なく勝手に)全部やってくれたし」
「あれ? なんか感謝の奥に別の感情が……?」
「日中用の美容液、つけておいてね?」
「え、もう寝るよ?」
「……じゃ、化粧水と美容液と乳液とクリーム」
「多い多い。最大2個にして」
「これが最小限だよ。がんばって」
「えーっ」
タオルで肌から水を浚い、着やすいワンピースをまとった。宿の浴衣は使用していない。
言われたとおりにスキンケアを——すこし省いて——終えてから、ティアに知らせた。
交代制。意外に男女でも問題なく温泉旅行ができている。
(今回の旅行、我ながら完璧だなー)
——などと、油断していた。
昼寝のあとに、想像していたのとは全く違う問題が待っていようとは……。
軽く食事をして、(軽く呑んで、)予約していた貸切風呂に寄って……
「レイちゃん、あっち向いてる?」
「向いてるって。しつこいな……なんで私が疑われてるの?」
山の中の自然あふれる露天風呂。二人で入るには大きすぎて、10人は余裕で入れる。周りがきっちり囲われているのと東屋のような屋根を見て、絶対ここにしようと決めていた。
それぞれの端で反対方向を見ていた。私の視界から見える緑は爽やかで、湯はさらりと柔らかい。
「いい湯だなぁ~」
「レイちゃん……おじいちゃんみたいな言い方……」
「ばあさんや、今日のお昼は何かな?」
「食べて呑んだとこでしょ。……というか、レイちゃん元気だね? 眠くないの?」
「言われると眠い……まあ、このあと宿に戻って少し寝るし……」
「そうだね、ゆっくり休んで。僕も一緒にお昼寝しよかな?」
「……身体のほうは大丈夫?」
「うん。イケメンなおじいちゃんが配慮してくれたから、ほんと全然へいき」
「よかった。……温泉街もさ、ティアくん、あまり目立ってなかったよね?」
「きみが、いかついサングラス掛けてるせいじゃない? みんなそっちに目が行きがち」
「調子乗ったらあんな感じになっちゃったんだよね」
「どう調子乗ったらああなるの……?」
あつい。ざばりと湯を波立たせて立ち上がった。
「——のぼせてきた。先に着替えのとこ借りるね?」
「どうぞ。スキンケア用品もあるから、好きに使って」
「助かるー」
「……レイちゃん、なにひとつ持ってきてないの、なんで?」
「立ち寄り湯だし、荷物になるし、いいかなって」
「………………」
「ティアくんに借りたらいいかなって思っちゃったよね」
「……ま、いいんだけどね。旅行の計画(相談なく勝手に)全部やってくれたし」
「あれ? なんか感謝の奥に別の感情が……?」
「日中用の美容液、つけておいてね?」
「え、もう寝るよ?」
「……じゃ、化粧水と美容液と乳液とクリーム」
「多い多い。最大2個にして」
「これが最小限だよ。がんばって」
「えーっ」
タオルで肌から水を浚い、着やすいワンピースをまとった。宿の浴衣は使用していない。
言われたとおりにスキンケアを——すこし省いて——終えてから、ティアに知らせた。
交代制。意外に男女でも問題なく温泉旅行ができている。
(今回の旅行、我ながら完璧だなー)
——などと、油断していた。
昼寝のあとに、想像していたのとは全く違う問題が待っていようとは……。
62
あなたにおすすめの小説
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
Husband's secret (夫の秘密)
設楽理沙
ライト文芸
果たして・・
秘密などあったのだろうか!
むちゃくちゃ、1回投稿文が短いです。(^^ゞ💦アセアセ
10秒~30秒?
何気ない隠し事が、とんでもないことに繋がっていくこともあるんですね。
❦ イラストはAI生成画像 自作
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる