【完結】美容講座は呑みながら

藤香いつき

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旅は道連れ

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 平日なせいか温泉街の人はまばらだった。
 軽く食事をして、(軽く呑んで、)予約していた貸切風呂に寄って……
 
「レイちゃん、あっち向いてる?」
「向いてるって。しつこいな……なんで私が疑われてるの?」
 
 山の中の自然あふれる露天風呂。二人で入るには大きすぎて、10人は余裕で入れる。周りがきっちり囲われているのと東屋あずまやのような屋根を見て、絶対ここにしようと決めていた。
 それぞれの端で反対方向を見ていた。私の視界から見える緑は爽やかで、湯はさらりと柔らかい。
 
「いい湯だなぁ~」
「レイちゃん……おじいちゃんみたいな言い方……」
「ばあさんや、今日のお昼は何かな?」
「食べて呑んだとこでしょ。……というか、レイちゃん元気だね? 眠くないの?」
「言われると眠い……まあ、このあと宿に戻って少し寝るし……」
「そうだね、ゆっくり休んで。僕も一緒にお昼寝しよかな?」
「……身体のほうは大丈夫?」
「うん。イケメンなおじいちゃんが配慮してくれたから、ほんと全然へいき」
「よかった。……温泉街もさ、ティアくん、あまり目立ってなかったよね?」
「きみが、いかついサングラス掛けてるせいじゃない? みんなそっちに目が行きがち」
「調子乗ったらあんな感じになっちゃったんだよね」
「どう調子乗ったらああなるの……?」

 あつい。ざばりと湯を波立たせて立ち上がった。
 
「——のぼせてきた。先に着替えのとこ借りるね?」
「どうぞ。スキンケア用品もあるから、好きに使って」
「助かるー」
「……レイちゃん、なにひとつ持ってきてないの、なんで?」
「立ち寄り湯だし、荷物になるし、いいかなって」
「………………」
「ティアくんに借りたらいいかなって思っちゃったよね」
「……ま、いいんだけどね。旅行の計画(相談なく勝手に)全部やってくれたし」
「あれ? なんか感謝の奥に別の感情が……?」
「日中用の美容液、つけておいてね?」
「え、もう寝るよ?」
「……じゃ、化粧水と美容液と乳液とクリーム」
「多い多い。最大2個にして」
「これが最小限だよ。がんばって」
「えーっ」
 
 タオルで肌から水をさらい、着やすいワンピースをまとった。宿の浴衣は使用していない。
 言われたとおりにスキンケアを——すこし省いて——終えてから、ティアに知らせた。
 
 交代制。意外に男女でも問題なく温泉旅行ができている。
 
(今回の旅行、我ながら完璧だなー)
 
 ——などと、油断していた。
 昼寝のあとに、想像していたのとは全く違う問題が待っていようとは……。
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