【完結】美容講座は呑みながら

藤香いつき

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旅は道連れ

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「こんなドラマみたいなことがあるなんてすごいね? 女優みたいな人生だね?」

 どこかで聞いたことのあるセリフ。
 部屋に戻って窓ぎわのイスに座っていた私は、ビール瓶を片手にティアを睨んだ。
 
 手にするのは、黒川温泉限定の地ビール。味のある絵にかれて買った。『月夜の湯上がり美人』というダークラガーで、めいが私に似合っているかはさておき、香り豊かなコクとまろやかな風味が美味しい。飲みやすい黒ビール。
 向かいの彼はコップに注いだペールエールを飲んでいる。『立ち姿湯上がり美人』らしい。すこし貰ったが、フルーティで程よい苦味。
 この素敵な地ビールを、瓶のまま、かっくらいたくなった衝動の理由は……もちろん再会のせいだった。
 
「……他人事ひとごとだからって軽く笑ってるでしょ……ひどい……」
「えっ……もしかして、まだ引きずってたの……?」
「——引きずるでしょうよ! ……いや、そんな引きずってなかったけど……最近ふっきれてた、けども! 旅行先で、しかもセットで会ったら殺傷力高すぎるよね! どんな確率!? 宝くじ当たるより奇跡だよねっ?」
「………………」

 ドンっと音を立てて、ビール瓶をテーブルに打ちつけた。ティアから何かフォローの返しがあるかと思ったのに、彼は伏目がちに沈黙して……
 
「……あのさ、冗談は抜きにして……ドラマでも奇跡でもなく、単にわざと合わせてきたんじゃないの?」
「はいっ?」
「……近くの観光地ならまだしも、ここ、九州だよ? そんな奇跡的に宿泊場所がかぶるなんてことある?」
「……いや、無いと思うから宝くじを例に出したわけで……」
「……レイちゃん、職場で旅行のこと話したんじゃないの?」
「なんで疑うの! してないよ!」
「ほんとに? 有休申請のときにしゃべったとか……」
「してな——」
「………………」
「…………いや、してない」
「うん? 急に不審だよ?」
「……いや、ほんと喋ってはいない」
「喋って?」
「………………」
「………………」
「……昼休みに、雑誌の記事を見ながら食べては……いた」
「……うん、それだよね?」
「………………」
「……宿泊する旅館のとこ、付箋ふせんでも貼ってたんでしょ?」
「……いや、旅館の記事を切り抜いて作りあげたファイルを眺めてた」
「全力でバラしてるね……でも、そこまでしてくれてありがとう……」
「どーいたしまして」
「………………」
「………………」
 
 複雑な沈黙。

(わざと合わせてきたのだろうか……)

 浮かび上がった疑念に、とりあえず、ビールを喉へと流した。
 無言の私を気遣ってくれたのか、ティアが、
 
「ま、気にせず楽しもう? まだ明日も明後日もあるんだし」
「……そうだね」
 
 私がうなずくと、ティアはほっとしたように笑って、フォローの言葉を。
 
「旅館が一緒だからって、そんなに遭遇するものでもないでしょ?」
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