21 / 31
旅は道連れ
20
しおりを挟む
「こんなドラマみたいなことがあるなんてすごいね? 女優みたいな人生だね?」
どこかで聞いたことのあるセリフ。
部屋に戻って窓ぎわのイスに座っていた私は、ビール瓶を片手にティアを睨んだ。
手にするのは、黒川温泉限定の地ビール。味のある絵に惹かれて買った。『月夜の湯上がり美人』というダークラガーで、銘が私に似合っているかはさておき、香り豊かなコクとまろやかな風味が美味しい。飲みやすい黒ビール。
向かいの彼はコップに注いだペールエールを飲んでいる。『立ち姿湯上がり美人』らしい。すこし貰ったが、フルーティで程よい苦味。
この素敵な地ビールを、瓶のまま、かっくらいたくなった衝動の理由は……もちろんドラマみたいな再会のせいだった。
「……他人事だからって軽く笑ってるでしょ……ひどい……」
「えっ……もしかして、まだ引きずってたの……?」
「——引きずるでしょうよ! ……いや、そんな引きずってなかったけど……最近ふっきれてた、けども! 旅行先で、しかもセットで会ったら殺傷力高すぎるよね! どんな確率!? 宝くじ当たるより奇跡だよねっ?」
「………………」
ドンっと音を立てて、ビール瓶をテーブルに打ちつけた。ティアから何かフォローの返しがあるかと思ったのに、彼は伏目がちに沈黙して……
「……あのさ、冗談は抜きにして……ドラマでも奇跡でもなく、単にわざと合わせてきたんじゃないの?」
「はいっ?」
「……近くの観光地ならまだしも、ここ、九州だよ? そんな奇跡的に宿泊場所がかぶるなんてことある?」
「……いや、無いと思うから宝くじを例に出したわけで……」
「……レイちゃん、職場で旅行のこと話したんじゃないの?」
「なんで疑うの! してないよ!」
「ほんとに? 有休申請のときに喋ったとか……」
「してな——」
「………………」
「…………いや、してない」
「うん? 急に不審だよ?」
「……いや、ほんと喋ってはいない」
「喋っては?」
「………………」
「………………」
「……昼休みに、雑誌の記事を見ながら食べては……いた」
「……うん、それだよね?」
「………………」
「……宿泊する旅館のとこ、付箋でも貼ってたんでしょ?」
「……いや、旅館の記事を切り抜いて作りあげたファイルを眺めてた」
「全力でバラしてるね……でも、そこまでしてくれてありがとう……」
「どーいたしまして」
「………………」
「………………」
複雑な沈黙。
(わざと合わせてきたのだろうか……)
浮かび上がった疑念に、とりあえず、ビールを喉へと流した。
無言の私を気遣ってくれたのか、ティアが、
「ま、気にせず楽しもう? まだ明日も明後日もあるんだし」
「……そうだね」
私がうなずくと、ティアはほっとしたように笑って、フォローの言葉を。
「旅館が一緒だからって、そんなに遭遇するものでもないでしょ?」
どこかで聞いたことのあるセリフ。
部屋に戻って窓ぎわのイスに座っていた私は、ビール瓶を片手にティアを睨んだ。
手にするのは、黒川温泉限定の地ビール。味のある絵に惹かれて買った。『月夜の湯上がり美人』というダークラガーで、銘が私に似合っているかはさておき、香り豊かなコクとまろやかな風味が美味しい。飲みやすい黒ビール。
向かいの彼はコップに注いだペールエールを飲んでいる。『立ち姿湯上がり美人』らしい。すこし貰ったが、フルーティで程よい苦味。
この素敵な地ビールを、瓶のまま、かっくらいたくなった衝動の理由は……もちろんドラマみたいな再会のせいだった。
「……他人事だからって軽く笑ってるでしょ……ひどい……」
「えっ……もしかして、まだ引きずってたの……?」
「——引きずるでしょうよ! ……いや、そんな引きずってなかったけど……最近ふっきれてた、けども! 旅行先で、しかもセットで会ったら殺傷力高すぎるよね! どんな確率!? 宝くじ当たるより奇跡だよねっ?」
「………………」
ドンっと音を立てて、ビール瓶をテーブルに打ちつけた。ティアから何かフォローの返しがあるかと思ったのに、彼は伏目がちに沈黙して……
「……あのさ、冗談は抜きにして……ドラマでも奇跡でもなく、単にわざと合わせてきたんじゃないの?」
「はいっ?」
「……近くの観光地ならまだしも、ここ、九州だよ? そんな奇跡的に宿泊場所がかぶるなんてことある?」
「……いや、無いと思うから宝くじを例に出したわけで……」
「……レイちゃん、職場で旅行のこと話したんじゃないの?」
「なんで疑うの! してないよ!」
「ほんとに? 有休申請のときに喋ったとか……」
「してな——」
「………………」
「…………いや、してない」
「うん? 急に不審だよ?」
「……いや、ほんと喋ってはいない」
「喋っては?」
「………………」
「………………」
「……昼休みに、雑誌の記事を見ながら食べては……いた」
「……うん、それだよね?」
「………………」
「……宿泊する旅館のとこ、付箋でも貼ってたんでしょ?」
「……いや、旅館の記事を切り抜いて作りあげたファイルを眺めてた」
「全力でバラしてるね……でも、そこまでしてくれてありがとう……」
「どーいたしまして」
「………………」
「………………」
複雑な沈黙。
(わざと合わせてきたのだろうか……)
浮かび上がった疑念に、とりあえず、ビールを喉へと流した。
無言の私を気遣ってくれたのか、ティアが、
「ま、気にせず楽しもう? まだ明日も明後日もあるんだし」
「……そうだね」
私がうなずくと、ティアはほっとしたように笑って、フォローの言葉を。
「旅館が一緒だからって、そんなに遭遇するものでもないでしょ?」
61
あなたにおすすめの小説
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
Husband's secret (夫の秘密)
設楽理沙
ライト文芸
果たして・・
秘密などあったのだろうか!
むちゃくちゃ、1回投稿文が短いです。(^^ゞ💦アセアセ
10秒~30秒?
何気ない隠し事が、とんでもないことに繋がっていくこともあるんですね。
❦ イラストはAI生成画像 自作
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる