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旅は道連れ
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「おはよぉう……」
ゆるんっとした声で起きて来たティアは、首を回して明るい部屋を眺めた。
先に起きていた私に向けて、
「あれ? レイちゃんひとり?」
「みのりちゃんならとっくに帰ったよ?」
「そうなんだ……」
ティアはベッド横にあったペットボトルに手を伸ばし、常温のミネラルウォーターを口に含んだ。浴衣がすこし崩れていて、隙がある感じがめずらしい。
コップに移すことなく、直接ボトルに口をつけて飲む姿を見ていると、飲み口から唇を離したティアは吐息をこぼした。
「僕、後半記憶ないんだけど……何もしてないよね?」
「ティアくんなら早い段階で寝てたよ」
「え? やっぱり?」
「前カノと現カノを残して眠れるあたり、すごい神経してるよね」
あはは、っと軽く笑われる。
「酔ってたから話せたけど、シラフだったら修羅場だよ」
「そっかぁ……」
「安くておすすめのヘアサロン、教えてもらったけども」
「……そういうとこ、レイちゃん、したたかだよね?」
帰る用意をしていた私の近くまでやってくると、ティアはそばのイスに腰掛けた。
「ほんと言うとね……元彼さんと一緒で、切り捨ててもよかったんだよ」
「(切り捨てるって表現えぐいな)」
「……でも、あのコはレイちゃんと職場も同じだし、ちょっと共感できるとこもあったし……なにより、僕の容姿について批判してこなかったから……」
「……批判っていうか、私やみのりちゃんからしたら、ティアくんめっちゃキレイだからね?」
「そう?」
「そう」
「…………じつはさ、」
「?」
「僕、美容系の情報をSNSで載せてるって言ったよね?」
「うん、知ってるよ? 頑なにアカウント教えてくれないやつでしょ?」
「…………あれね、僕が男性って言ってないんだよ」
「えっ、そうなの?」
手が止まる。余っていたアメニティを、ちゃっかりポーチにしまっていたところ。
ティアは困り顔の眉に、唇だけ笑っていた。
「昔から肌が弱くて、いろいろ試してきたから……その情報を少しでも誰かに届けようかなって、そう思ったのがきっかけでね? ……でも、男性からの情報だと……偏見もたれるかも……なんて、思っちゃって」
「………………」
「あのコも、あんまり気にしてなかったね。ふつうに美容のこと訊いてきたから。……目的があるひとは、気にしないのかも。僕のSNSを見てくれてるフォロワーのひとたちも、僕の性別より、発信してきた情報が大事なのかな……って。肌が弱くて苦労した話とか、そっちに共感してくれてるのかもって……思ったよ」
「……うん、ティアくんは綺麗だよ。綺麗に性別は関係ないよ」
「そうだね」
やわらかく微笑む彼の顔に、笑顔を返した。
「……というわけで、ティアくんも起きたし、最後の温泉に行きますか?」
「えっ、最後なの?」
「? ……朝食とったらチェックアウトだよ?」
「立ち寄り湯、もう一個くらい行こうよ。昨日パンフレット見てて、気になるとこ見つけたんだ」
にこにことパンフレットを掲げてくるティアに、
「……今夜、私は徹夜で運転やねん」
「すごいね、イケメンだね」
「雑いリアクション! 大変さ分かってないなっ!?」
「分かってる分かってる。お礼に、この貸切温泉は僕が奢ろう」
「奢り……」
「湯あがりのカフェもおまけしてあげるよ」
「……帰りの道中、仮眠しますね」
「うん、どうぞ」
(遠慮がなくなってきたな……)
そんなふうに思ったが、レイコもティアの家で遠慮なくやっているので……
(お互い様か)
苦笑をこぼして、交渉を了承した。
ゆるんっとした声で起きて来たティアは、首を回して明るい部屋を眺めた。
先に起きていた私に向けて、
「あれ? レイちゃんひとり?」
「みのりちゃんならとっくに帰ったよ?」
「そうなんだ……」
ティアはベッド横にあったペットボトルに手を伸ばし、常温のミネラルウォーターを口に含んだ。浴衣がすこし崩れていて、隙がある感じがめずらしい。
コップに移すことなく、直接ボトルに口をつけて飲む姿を見ていると、飲み口から唇を離したティアは吐息をこぼした。
「僕、後半記憶ないんだけど……何もしてないよね?」
「ティアくんなら早い段階で寝てたよ」
「え? やっぱり?」
「前カノと現カノを残して眠れるあたり、すごい神経してるよね」
あはは、っと軽く笑われる。
「酔ってたから話せたけど、シラフだったら修羅場だよ」
「そっかぁ……」
「安くておすすめのヘアサロン、教えてもらったけども」
「……そういうとこ、レイちゃん、したたかだよね?」
帰る用意をしていた私の近くまでやってくると、ティアはそばのイスに腰掛けた。
「ほんと言うとね……元彼さんと一緒で、切り捨ててもよかったんだよ」
「(切り捨てるって表現えぐいな)」
「……でも、あのコはレイちゃんと職場も同じだし、ちょっと共感できるとこもあったし……なにより、僕の容姿について批判してこなかったから……」
「……批判っていうか、私やみのりちゃんからしたら、ティアくんめっちゃキレイだからね?」
「そう?」
「そう」
「…………じつはさ、」
「?」
「僕、美容系の情報をSNSで載せてるって言ったよね?」
「うん、知ってるよ? 頑なにアカウント教えてくれないやつでしょ?」
「…………あれね、僕が男性って言ってないんだよ」
「えっ、そうなの?」
手が止まる。余っていたアメニティを、ちゃっかりポーチにしまっていたところ。
ティアは困り顔の眉に、唇だけ笑っていた。
「昔から肌が弱くて、いろいろ試してきたから……その情報を少しでも誰かに届けようかなって、そう思ったのがきっかけでね? ……でも、男性からの情報だと……偏見もたれるかも……なんて、思っちゃって」
「………………」
「あのコも、あんまり気にしてなかったね。ふつうに美容のこと訊いてきたから。……目的があるひとは、気にしないのかも。僕のSNSを見てくれてるフォロワーのひとたちも、僕の性別より、発信してきた情報が大事なのかな……って。肌が弱くて苦労した話とか、そっちに共感してくれてるのかもって……思ったよ」
「……うん、ティアくんは綺麗だよ。綺麗に性別は関係ないよ」
「そうだね」
やわらかく微笑む彼の顔に、笑顔を返した。
「……というわけで、ティアくんも起きたし、最後の温泉に行きますか?」
「えっ、最後なの?」
「? ……朝食とったらチェックアウトだよ?」
「立ち寄り湯、もう一個くらい行こうよ。昨日パンフレット見てて、気になるとこ見つけたんだ」
にこにことパンフレットを掲げてくるティアに、
「……今夜、私は徹夜で運転やねん」
「すごいね、イケメンだね」
「雑いリアクション! 大変さ分かってないなっ!?」
「分かってる分かってる。お礼に、この貸切温泉は僕が奢ろう」
「奢り……」
「湯あがりのカフェもおまけしてあげるよ」
「……帰りの道中、仮眠しますね」
「うん、どうぞ」
(遠慮がなくなってきたな……)
そんなふうに思ったが、レイコもティアの家で遠慮なくやっているので……
(お互い様か)
苦笑をこぼして、交渉を了承した。
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