最強聖騎士の息子と魔女の器

一ノ清永遠

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第1章 始まりの章

金欠冒険者と腹ペコ魔導師

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「アルフ! お前が強いのはその家柄のせいだ」


  そんな風に理不尽な罵りを受けていた頃はまだ、アルフは幸せだったんだと思っていた。
  子供同士のオモチャの剣を使ったチャンバラごっこに明け暮れていた頃は、彼は無敗を誇っていた。
  子供だったからなのか、自分が強いとそのチャンバラごっこはたまらなく楽しかった。
  強いから自由で、強いから他の子供を圧倒できた。
  

「お前が強いのはその家柄のせいだ」


  そんな理不尽な罵りも、アルフにとっては弱いヤツの捨て台詞だった。
  毎日肉と豆のスープが飲めるから強いんだ、だからお前は力が強いんだと言われていた。
  アルフは子供だからそれを飲まないヤツが悪いし、それを子供に飲ませない大人が悪いんだ。 そう思っていた。

◆◆◆◆◆◆◆


「オニオンスープもまぁ、悪くないな」
「あと100G上乗せすれば肉のスープが飲めるぜ、一応ある程度は金もってんだろ? アルフ」
「派手に使ってたら、いつか破滅するだろ」
「肉のスープ飲むのが派手……ねぇ」

  そんな風に考えていたアルフ・アークブラッドも、今じゃ貧乏な冒険者をやっている。
  本日の昼飯はナッツ入りのパンにアンチョビとバター、それに加えてオニオンスープだ。
  幼い頃に食べていた豪華ディナーに比べたら天と地の差だが、はっきり言ってこういった飯も悪くない。
  悪くないのはマスターの腕によるものだ、俺の懐事情を察していつも俺が出せる金額分だけで旨い料理を出してくれる。
  アルフは身動きが取りやすい傷の少ないハーフプレートの上に、小物の出し入れがしやすいジャケットを羽織っている。
  髪はダークブラウンにダークブルーの瞳、実年齢の20よりも老けて見えるが顔立ちは割と整っているがアンチョビを乗せたパンを食べる表情は暗い……というよりは、生気を感じられない表情をしている。
  

「オニオンスープも良いけどよ、たまにはガーリックライスとかポークソテーも食ってくれよな」
「実入りのいい仕事があったらな、ゴミ拾いやら落し物探しじゃあこれが限界だよ」
「魔物退治でもやりゃあ良いじゃねえか、アンタの身体つきを見るにそこそこの使い手だったんだろ?」

  冒険者にとって、最もポピュラーな仕事は魔物退治だ。
  冒険者は常に魔物に命を狙われる死と隣り合わせの稼業だ。
  魔物と渡り合える腕の持ち主ならば、下手な商売をやるよりも稼げる仕事と言えるだろう。
  実際、アルフは小さい頃からチャンバラは得意だし親父から手ほどきを受けて並大抵の騎士ならば複数人がかりで相手でも負けない程の剣の使い手になったと言える……しかし……。


「うぅ……」


  扉の開閉音と共に、か細い声が聞こえてきた。
  アルフもただならぬ雰囲気を感じ取り無意識に腰にかけているショートソードに意識を向ける。
  そして、振り返ると黒く茶色く煤けたような汚れの白いローブを身に纏った小柄な人間がヨロヨロと歩いてくる。


(こりゃあ、病人か怪我人か……? 倒れるよな)


  テーブルが適当に並んでいるこの店で転んでしまったら下手をしたら大事になると思い、アルフは席を立ってそのローブの人間が倒れるタイミングで抱える。
  

「どうかしましたか?」


  これでもアルフは元は騎士の訓練を受けた人間なので、応急処置や必要最低限の治癒系魔導術は心得ている。
  本格的な治療となったら、治療院へと連れて行く必要があるが……。


「お、お……お腹……空い……」


ぐぎゅるるるる……


  白いローブを身に纏った人間はどうやら腹を空かせているらしく、盛大に腹の音を鳴らす。
  テーブル席からこちらをジロジロ眺めていた人間達は興味をなくしたのか、アルフと白ローブへ視線を向けなくなる。
  薄情な連中だとアルフは思いながらも、アルフは見慣れたものに気がつく。


「ん?」


  白ローブが首から下げている球体型のアクセサリー、これは宮廷魔導師などが見せびらかすように装備しているエレメントリアクターだ。
  エレメントリアクターは魔導を行使する際に、高度なエレメントコードを形成する必要があるがそれをサポートするためのアクセサリーだ。
  非常に高価な品物であり、下級魔導術や中級魔導術しか扱えない下っ端魔導師には不要な代物だ。
  そのエレメントリアクターを持ち歩いているという事は、こいつは相当の使い手という事になる。


「なぁ、アンタ……魔導は得意か?」
「なんで? それより私、お腹が空いちゃって」


腹を空かせて意識が朦朧としている白ローブはかろうじて返事をする。


「飯奢るからさ、俺の仕事を手伝ってくれないか?」


◆◆◆◆◆◆◆


  白ローブの人間、というよりこの少女は凄まじい食欲だった。
  相当腹を空かせていたのか、美味そうにスープを啜っている。
  アルフが飲みたくても飲めない肉のスープだ。
  アルフは彼女の事を知るためにいろいろ質問をぶつけると、思いの外素直に回答が返ってきた。
  彼女の名前はリオナ・ストレイル、今年で16歳になったらしい。
  ストレイルは母方の姓であり、父とは折り合いが悪くて家を出てきたのだという。
  優秀な魔導師の証であるエレメントリアクターを持っているのは魔導の実技試験で優秀な成績を収めたから。
  治癒系から攻撃系、色んなジャンルの魔導が得意らしくて苦手な分野は特に無い。
  金が無いのは金の稼ぎ方が分からなかったから、らしい。
  店にやってきた時はフードを被っていたので、性別はイマイチ分かりづらかったが言葉遣いや声や顔から察するに女性で間違い無いだろうとアルフは判断した。
  アルフの全財産は約4000Gで今日の昼の食事代はパンとバターとアンチョビとオニオンスープで300Gで済ませるはずだった。
  寝床は適当な旅の宿でも選べば100Gもかからずに休む事が出来るだろう。
  なので、一人分の食事くらいは奢る事が出来たはずなのだが……。


「おかわり!」
「ちょ、ちょっと待った!!」


  リオナはポークソテー、海鮮サラダ、パンケーキ、カレーライス、ライスヌードル、更に肉茶漬けを注文していった。
  ここまででメニュー代金はゆうに2000Gは超えている。


「どうかしました?」
「俺の財布事情も考えてくれるか……? ここまで食べられると、流石に払いきれなくなる」
「えっ!? それは困りますね」
「まぁ、腹を空かせているんだろうし、飯を奢るって言ったのは俺だしな。 約束通り支払わせてもらうよ」
「ありがとうございます! もうかれこれ朝から何も食べていなくて……」
「……朝、食ったのか」


  恐ろしい燃費の悪さだとアルフは心の中で思ったが、16歳というと食べ盛りの年頃だ。
  これから仕事で協力して貰うのだから、これは必要最低限の礼儀というものだと無理やり納得させる。
  

◆◆◆◆◆◆◆


  『仕事』の話は村の集会場でする事にした、あの食堂で話していると次々に食べ物を注文されそうで気を揉んでしまい落ち着いて話が出来ないと考えたからだ。
  村の集会場にも冒険者向けの『仕事』の話は転がっている。
  冒険者ギルドの詰所の方が、仕事量は多いだろうが集会場は自治体の保有物……即ち、公的機関と直結しているのでこちらの方が比較的安全だ。
  冒険者はその性質上、善人ばかりとは言いがたいというか冒険者の界隈はどうしても治安が悪い。
  当たり前のように犯罪に手を染める者がいたりするし、冒険者になる事自体が自体市民権を投げ捨てるようなもので犯罪に利用されることも少なくない。
  なので、16歳の『子供』を連れて冒険者ギルドへ行く事はアルフの良心が咎めた。


「ブレードボア……」


  リオナがブレードボアの手配書のポスターを眺めてながら呟く。
  ブレードボアは穀物や野菜農家の天敵だ、奴らは力任せに突進するだけでなく邪魔な障害物は強引に破壊するため放っておくと家をメチャクチャにされてしまう。
  しかし、魔物の中でもそこまで強い部類ではないので初心者にはいい相手かもしれない。


「ブレードボアか、いいかもしれないな」
「アルフさん! ブレードボアって食べられますか?」
「……は? そりゃまあ、食べられるけども」
「やった! それじゃあ、ブレードボア討伐にしましょう!!」
「まぁ、悪くない判断だとは思うけど……あれだけ食べた後に、食欲優先でターゲット選ぶのか?」
「はい!!」


  迷いの無い返事だ。
  実際、ブレードボアは捨てるところの無い優秀な食材でもある。


「そんじゃ、被害が多いっていう穀物農家に向かおうか。主に被害に遭うのは夜だって話だしな」
「どこにあるんですか?」
「この村の郊外らしい、結構デカい農場だって話だ」
「農場……!! もしかしたら、ご飯奢ってくれるかも!!」
「……食べ物の事ばっかりだな」
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