払暁の魔獣使い フォルナ

小鳥葵

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解読

4.薬師達と水

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 ◆

 フォルナは、湿地の町へ着いた頃に意識を取り戻した。


「ん……ここは、どこ……? ま、じゅうは…………」

「湿地の町だ。もう守り手はいないから、安心して」


 フォルナはそれを聞くと、緊張が抜けたように安堵の顔になった。

 リュキ達が杖を持って町へ帰ると、それに気づいた住民達が門の前で迎えてくれていた。


「よくぞ……よくぞ、ご無事で、帰ってきてくださった」

 町人達は涙を流してフォルナ達の無事に喜ぶ者もいた。

「おぬしらのことを、我らは後世まで忘れはせぬ」

 町長は、泥に体が浸すまで頭を下げ続けた。


 完全に目が醒めたフォルナは、乗っていたグアナから身を乗り出した。

「水の国へ行ってきます! 必ず、民を連れて戻ってくるわ!」

 フォルナ達は町人達に手を振り、湿地の町を離れて水の国へ向かい始めた。


 ◆


「フォルナ、町で少し休まなくても良かったのか?」

「大丈夫よ。苦しんでいる町人の方々に比べれば、大したことないわ」

 フォルナの怪我は軽かったようで、すぐに本調子に戻ったようだ。

 フォルナは決意に満ちた顔で、リュキを見た。


「フォルナは、本当に優しいんだね……」

 ルルートは尊敬の眼差しを向けるが、フォルナは「そんなことはないわ」と即答した。


「私は……病の人を、救いたい。もう誰も、私の前で苦しませたくないだけよ」


 フォルナは遠い目で空を眺めた。

 空は進むにつれ、白色から淡い水色に変わってきていた。

 色は変われど夜の国の群青色から途切れずに、どこまでもつながっている。


「フォルナは、薬師なんだ」

 リュキが、ルルートに教えた。


「フォルナは、薬師なの!? 人を救えるって、すごいや……」

 ルルートはやがて考え込んだ。


「…………決めた!」

 フォルナは後ろのルルートに振り返る。


「ウチも、薬師になる! フォルナみたいに人を助けられるような力がほしいんだ!

お願いフォルナ! 薬師のこと、教えて、ください…………」

 聞いた二人は一瞬驚いた顔をしたが、ルルートの必死な顔を見てにっこりと微笑んだ。


「わかった。これから、薬についての知識を教えるわ。今日から、ルルは私の弟子よ!」

「いいのっ!? ありがとう、師匠!」

 ルルートはフォルナの承諾に嬉しすぎて、グアナを思いきり叩いてしまい、グアナは驚いて走り出した。


「きゃっ、グアナ、ごめんなさい。つい……あははっ」

 三人はその様子にひとしきり笑った。

「旅に薬師が二人もいれば、安心だな」

「ちょっと、調子にのって怪我しないでよね」

 フォルナが呆れた顔でリュキを見た。


「あと……フォルナ。聞きたいことがあるんだけどね、語りかけって、何?」

「そうか、ルルートには話していなかったな」

 フォルナは頷く。

「なぜだか知らないけれど、生まれた時から魔獣と心を通わせる力を持っているの。グアナ……ティメールは本来ならばとても気性が荒くてとても人を乗せることなんてできない。この力を持ってこそ一緒に旅が出来るのよ」

 ルルートはグアナの骨張った硬い背中に触った。足の動きに合わせて、中の筋肉が動くのが厚い皮膚を通して伝わってきた。

「それで、強く魔獣の心に訴えかけることができるのが……『語りかけ』よ。これを使うと、魔獣はよく言う事を聞く。……強制的に従わせることも、できるほどに強い力なの」」

「フォルナにそんな力が、あったんだ…………」

 いつの間にかフォルナの髪に潜り込んだクーが、髪の毛を齧っていた。


 ◆


 3人が進んでいると、ぬかるみは更に水気をもつようになってきた。

 そして小粒の水が天のどこからかパラパラと落ちてきて、フォルナ達の体を打ちつけ始めた。


「冷たい! 痛い!」

 彼らは持っていた布で体を覆い水を防いだ。

「これが、雨かしら…」

 遠くでは雨がまるで滝のように降り注ぎ、地に溜まった水が広大な川をつくっていた。


「これでは誰も通ることができなかったというのも頷けるわね……ルルート、杖を!」

「わかった」

 杖を背負い持っていたルルートが、天の方向に突き出した。


 すると雨の雫が杖へ落ち、宝玉が潤った…かと思うと、水を吸った地、雨降る空中問わず辺り全ての水が杖の宝玉に引き寄せられて、吸い込まれていく。

 川に近づくと、杖は眼下に広がった激流でさえすぐに吸い尽くしてしまった。

「川が通れるように、なった‥!」

 雨の水が杖の先端に流れて、天から地へ青の直線が描かれているようだった。 


「本当に、水を操る力があるんだな……!」

 フォルナ達は川があった場所も難なく進み、水の国へつながる道を打開した。

 二つの魔獣は、乾いた草木を踏み歩き続けた。


 ◆


「雨の勢いが弱まってきた……かも」

 杖の力で川を渡り終え、ルルートが頭上に掲げるのを止めてグアナの背に杖を置くと、雨が小降りになっているのがわかった。

「さっきと違って、水に触れても痛くなくなってるわ!」

 フォルナは指先に落ちた雫を見ながら言った。

「雨の勢いが弱まっているとすると、水の国は近いな。そして、君達二人が楽しみにしているものもすぐそこだね」

「楽しみに、してるもの…?」

 フォルナとルルートは顔を見合わせる。


「この丘の上だったら、見れるかもしれない」

 忘れている様子の二人に、リュキが楽しそうに呟いた。


 リュキの言葉通り、前の小高い丘を登ると……フォルナとルルートが待ち焦がれた情景が広がっていた。

「うわぁ…………!! 水が、いっぱい…………!!! これが、リュキの話してくれた広い水! さっきの川とも訳が違う! 遠くが見えないくらい、水しか見えない!!」

 二人は見たことがなく、頑張っても想像できなかった景色を眺め、顔を輝かせていた。

 ルルートは地上に降り立って、グアナの首を撫でた。

 オラムは眼科に広がる青が怖いのか、グアナに体をすり寄った。

「こんなものがあるなんて、私はずっと思いもよらなかったわ。……世界には、まだまだ知らないことがたくさんありそうね」

 フォルナはリュキに話した。

「そうだな……。旅の中でこんな美しいものを見るなんて、あの灼熱のような空の村で出会った頃は想像もしなかったな」

 リュキは、フォルナの顔を向く。

 一面の水を眺めるフォルナの瞳は、やはり美しかった。


 ◆


「水の国は、どっちの方角?」

「地図によると……水の、上にあるようだね」


「「み、水の上!?」」

 フォルナとルルートの声がはもる。

 まるで姉妹のようだとリュキは思った。


「その地図間違ってないわよね?」

「まさか」

「だとしたら、どうやって行くの? あの水を渡って……」


 ルルートが不安そうに言いかけたその時。

「あら? 見かけない顔ですね……あなた方は……?」

 一人の少女がフォルナ達を不思議そうに見つめて立っていた。
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