払暁の魔獣使い フォルナ

小鳥葵

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8.投げられた賽

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 ◆

「クレア様が地上の毒雨を浄化して、川は通れるようになったそうだわ! 湿地の町の人々も浄化された水を飲んで快方に向かっているって!」

「本当か!?」「ほんとう!?」

 宿屋の客室に駆けこんできたフォルナの話を聞いて、飲み物を楽しんでいたルルートとリュキは目を見開いた。


「良かった。これで病に苦しむことはなくなるね。……って、フォルナ。なぜ旅支度を始めているの?」

 フォルナは、普段身に着けている小さな鞄に食料を入れていた。


「あ、そうそう。ちょうど二人に話そうと思っていたところよ。私、少し湿地の町の人々の様子を見に行ってくるわ」

「ウ、ウチも、行く!」

 ルルートも立ち上がろうとしたが、フォルナは手で制止した。


「今回は私一人で大丈夫よ。容態を見て、すぐに帰ってくるわ。あ、薬草を採ってくる! そうすればルルートも薬の勉強ができるものね」

 ルルートは行きたそうだったが、フォルナに従うことにした。


「フォルナ、道中気をつけて。僕もついていきたい……ところだけど」

 リュキが心配そうに言った。

「ええ、もちろんわかってるわ。私にはグアナがいる。盗賊なんて木端微塵よ!」

 フォルナが拳を上げて、自信満々に言った。


「じゃあ、行ってくる! 食を3回もとる頃には帰ってくるわ!」

「行ってらっしゃーい」

 ルルートとリュキは手を振ったが、すぐに木の扉が閉まる音がした。

「行動が早い、そして優しいな」

「うん! ウチも、フォルナみたいな薬師になる!」


 ルルートはそう言うと、飲んでいた飲み物を見る。

 小さな店で買ったその飲み物は少ししょっぱく、果実の苦甘い味がした。

「これ、フォルナにも飲ませてあげたかったね。すごく美味しいのに」

「そうだな」

 ルルートとリュキは、それを飲み干した。


「あ、フォルナ、本を忘れているじゃないか」

 リュキが机に置き忘れた、フォルナの本を見つけた。

「もう、フォルナは慌てん坊だね」

「全くそうだ」


 リュキは本のページをめくる。

「これは何についての本なんだろうね」

「そうだな……」

 リュキがめくっていくと、小さい挿絵を見つけた。

「これは、海だと思うか、ルルー……」


 リュキがルルートを見ると、ルルートはいつの間にか机に突っ伏して寝ていた。

「もう寝たのか、早いな…………」


 リュキはページをさらにめくっていく。

 最後のページを見ると、隅の方に陽語で何か書かれているのが見えた。


「陽語か? ……掠れて、見えない、な…………」

 リュキは文字を見ようとするが、どうにも読めなかった。

「あれ、僕も、い、し、きが」

 リュキも数秒後には本を手に持ったまま意識を失った。


 二人は部屋にフォルナではない人影が入ってくる音がしても、起きる素振りを見せなかった。


 ◆


「きゃああああああっ!」

「うわぁぁっ! 助けてくれー!!!」

「なんだこれは!!」


 その村の住民は突然の来客に、驚き、悲鳴を上げ、泣きわめいていた。

 理由は一つ。

 来客は、得体の知れない「化け物」であった。

 「化け物」は、逃げ回る村人達に纏わりつき、蝕んでいく。


 立っている村人は少なくなっていた。

 村人達は追われ、隅の一点に集まり隠れた。

 彼らのうち一人が、力が抜けて座り込む。


「もう、だめだ……」

「立つんだ、テレム! まだ、希望は…………」

 父と思われる人物が彼の腕を掴もうとした時だった。


 「化け物」が、村人達を見つけて目の前に現れた。


 口の周りを赤く濡らした彼らは村人達を見つけて、大勢で迫ってくる。

 その様子にテレムの目からはとめどなく涙が溢れた。


「誰かぁぁぁぁぁぁっ!!! 助けてください!!」

 その時。

「化け物」の首が、横に飛んだ。

 首が次々に地に落ち、黒く染まっていく。


 村人達は茫然と、前を見た。

「あなた方は……」

 そこには淡く光る武器を手に構えた人間が立ちはだかっていた。


 ◆


 「…………ん、良く眠ったな……」

 リュキは、ゆっくりと目を開いた。

 しかしリュキがいたのは、海の上の宿屋ではなかった。


「あれ。ここはどこだ?」

 リュキは周囲を見渡す。

 とても暗くてよく見えないが、水の国の建築とは違う木のにおいがした。


 リュキは立とうとして、手が何かに触れた。

「うわっ!」「わわわ」

 何かは、もぞもぞと動く。

 声からすると、ルルートのようだ。


「まだ眠い、寝かせてよ……」

「ルルート。おい、ルルート、起きるんだ」


 リュキはルルートを揺り起こした。

「あ…………リュキ。おはよう」

「おはよう。……いや、そういうことじゃなくて」


 リュキはルルートの顔の位置を見つめながら、言った。

「ここ、どこだ?」

「え…………宿屋じゃないの」


 ルルートも周囲を見渡した音がした。

「あれ。ウチら、どこにいるの」

「どういうことだ」


 リュキが焦り、勢いよく立とうとすると手首が何かに引っかかった。

「……手首に何か繋がっているらしい」

 リュキが腕に触ると金属でできた鎖で手首がどこかに繋がれていて、ルルートがそれをふんずけていることがわかった。


「腰帯剣がないな。手袋も外されている」

「ウチのスカーフもない! なんでっ! ……耳飾りと、フォルナに買ってもらった物はあった。良かった」

 ルルートは耳飾りを触り、身なりを確かめた。


「なんでこんなことになったの……! あっ、フォルナ! フォルナはどこ!?」

「フォルナは看病しに行っただろう」

「あ…………そうだ」

 ルルートの声がしぼんでいくのがわかった。


「起きましたか」

 扉が開く音がして、光が差し込んだ。

 そこには見慣れない格好をした女性がいた。

 しかし、女性とは言っても声は男のようでとても低い。


「だ、誰だ!? なぜこんなことに…………」

「説明はあなた方が食べている間話します。さあ、お食べください」

 女性は跪き、食事を載せた木の盆を二人に差し出した。


「かつ食を地に置くことをお許しください。毒などの心配はご無用です。私が誓いをいたします」

 女性は一礼すると、自身の服からほのかな赤色に光る石を取り出した。

「それは、陽光石?」

「はい。よくご存知で。あなた様は宝石屋でございましたね」

「そうだが…………」


 女性が陽光石を部屋の隅々に置くと、部屋は明るくなった。

 辺りの様子がよく見えるようになる。

「生活に必要な設備は、全てこの部屋に配置してあります。ご自由にお使いください」


 女性がじっと見つめているので、リュキとルルートは顔を見合わせた。

「……食べるか」

 リュキが、食事に一口手をつけた。

 ルルートは不安そうにそれを見ている。

 しかしリュキが食べ続け、時間が経過してもリュキには何の変化も現れなかった。


「大丈夫そうだ」

 リュキがルルートを見て言った。

 ルルートは、恐る恐る食事を口にする。

 ルルートの口には、今までの町で食べたことが無い不思議な味が広がった。


「あ……美味しい、かも」


 ルルートが食べ始めたのを見ると、女性は説明しようと口を開いた。

「はじめまして、と言うべきでしょうか。私は、クノッタ・アレーシア。あなた方を、ずっと監視しておりました」

「むぐ!!」

 ルルートが食べながら体を震わせた。


「あなた方に危害など加えません。逆に、危険から守る目的でこちらに連行いたしました」

「危険から守る?」

「はい、アレン様」

「アレン様…………? 一体誰のこと? こっちはリュキだよ! まさか、人違い…………!?」


 ルルートがリュキの肩を思い切り引き寄せて、言った。

 しかし、クノッタは表情を崩さなかった。


「いいえ。人違いなどありません。先程手の甲を拝見いたしましたから」

「えっ…………」

 ルルートはリュキを見て、困惑した。

 リュキは食事の手を止めて、じっとクノッタを見つめていた。


「アレン様。事態は刻を争ったのです、ご存知でしたでしょうか。陽の国が水の国と地が繋がった瞬間、追っ手を伸ばしてきたのを」

「追っ手、だって…………?」

「はい。あなた様を取り押さえ、刑に処するためにゴレッツ・アトゥルが武装した兵を放ったのです」

「そんなっ」

 ルルートの顔が蒼白になった。

「そんなの……! というか、アレンって何? あ、わかった! リュキの名前って、実はリュキ・アレンだったってことか!」

 ルルートは自分で納得して手を打ったが、リュキは真面目な顔でルルートを振り返る。


「……リュキ?」

 ルルートは混乱したように、リュキを見つめた。

「違う。今まで隠してきて悪かった。…………僕は」


 リュキの言葉を聞いたルルートの目が、大きく見開かれた。
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