異世界修行の旅

甲斐源氏

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犬耳族の兄妹

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 武器屋で刀を手に入れた後、中央広場に向かった。中央広場にはいろんな屋台の店があるからだ。


「それにしてもお腹空いちゃったな~。屋台で何を買おうかな~。」


 屋台を見て回っていると、お菓子を売っている店、指輪のような宝飾品を売っている店、魔石を売っている店、花を売っている店、様々な店があった。すると、肉の焼ける香ばしい匂いがする屋台があった。僕は列に並んで順番が来るのを待つことにした。


「おじさん。肉串を1本ちょうだい。」

「まいど!銅貨5枚だよ。」


 肉串を受け取ってベンチに座って食べ始めると、僕の方をチラチラと見てくる男の子がいた。頭から耳が出ている。犬耳族の男の子だ。どうやら相当お腹が空いているようだ。僕は再び列に並んで肉串をもう1本買うことにした。


「おじさん。肉串をもう1本ちょうだい。」

「はいよ。」


 僕は受け取った肉串を犬耳族の男の子のところに持っていった。


「どうぞ。」

「いいの?」

「いいよ。お腹空いてるんでしょ?」

「僕はいいんだ。それより、これ持って帰っていい?」

「食べないの?」

「うん、待ってる人がいるから。」


 男の子が肉串を持って走り始めると、人相の悪い男にぶつかって肉串を地面に落としてしまった。


「あっ!!!」

「てめぇ!服が汚れちまったじゃねぇか!どうしてくれるんだ!」

「ごめんなさい。」

「謝って済むわけねぇだろう!この服を弁償しろよ!そうだな~。金貨1枚にまけておいてやるよ!」

「そんなお金はありません。」

「だったら奴隷になって金を作ればいいだろ!来い!」

「家に病気の妹がいるんです!勘弁してください!」

「そんなこと知るかよ!」


 今までの僕なら見て見ぬふりをしただろう。でも今は違う。


「謝っているじゃないですか。許してあげてくださいよ。」

「てめぇには関係ないだろ!すっこんでろ!」


 周りを見ると見物人が集まってきている。


「許してもらえないというなら・・・・」


 僕が力を使おうとすると群衆の中からジョニー隊長達がやってきた。


「この騒ぎはどうしたんだ?」

「このガキが俺の服を汚したんでさ~。」

「本当か?」

「はい。でも謝っても許してもらえなくて。」

「当たり前だろ!」


 そこで説明しようと僕が前に出た。するとジョニー隊長も僕に気が付いたようだ。


「ユリウス様。どうしたんですか?」

「お役目ご苦労様です。確かに彼があの人の服を汚しました。彼がいくら謝っても聞く耳を持たずに、奴隷商に売ろうとしたんです。」

「それは本当ですか?」

「はい。」

「なんでそんなガキの言うことを信じるんだ!」

「無礼だぞ!こちらは辺境伯様のご子息ユリウス様だ!」

「えっ?!」


 僕が辺境伯の子どもだと分かった瞬間、見物人達も驚いたようだ。まあ、平民の服を着ているんだから驚くのも無理はない。人相の悪い男の態度も急変した。


「こりゃあどうも。よく見れば大した汚れじゃなさそうです。お金は結構ですから。じゃあ、俺はこれで」


 結局、男は弁償金を要求もせず足早に立ち去った。それを見て犬耳族の男の子が僕に必死にお礼を言ってきた。


「辺境伯様のご子息とは知りませんでした。申し訳ありませんでした。このご恩は一生忘れません。」

「いいんだよ。それより妹がいるんでしょ?肉串を持っていこうよ。僕も君の妹に会ってみたいし。」

「でも、落としちゃったから。」


 男の子が地面に落ちた肉串を残念そうに見た。


「ちょっと待ってて!」


 僕は再び屋台に行って肉串を10本買った。ちょっと多いかもしれないが、二人ならこのぐらい食べられるだろう。


「ありがとうございます。」

「いいよ。それより急ごうか。」

「はい。」


 家に向かう途中、僕は男の子といろいろ話をした。


「君の名前はなんていうの?」

「ジョンです。」

「妹さんは?」

「ポメです。」

「でも、どうして二人だけで暮らしてるの?」

「2か月前に両親が流行り病で死んでしまって、家賃が払えず追い出されたんです。」

「もしかして、それからずっと二人で暮らしてきたの?」

「はい。」

「食べ物はどうしてたの?」

「森に行って果物をとってきたり、残飯をあさったり、親切な人に恵んでもらったり……」


 ジョンが歩きながら泣き始めた。


「僕がもっとしっかりしていればポメが病気になんかならなかったのに……」

「ジョンのせいじゃないよ。君達のことを見て見ぬふりをしていた大人達がいけないんだ。」


 ジョンの話を聞いて僕は今までの自分のことを思い出した。


“僕も同じだ。困っている人がいても何もしなかった。でも、それじゃダメなんだ!”


 向かった先は街のはずれにあり、とても家と呼べるようなものではなかった。崩れかかった廃屋で天井も半分しかなく、壁からも風が入るような建物だ。そこに犬耳族の少女が寝ていた。


「ポメ。大丈夫か?」

「うん。遅かったね。」

「いろいろあったからさ。ほら、食べろ!」


 ジョンが肉串を前に出したが、ポメは受け取らなかった。


「どうしたんだ?」

「もう食べられないみたい。ありがとう。お兄ちゃん食べて。」


 相当弱っているようだ。ご馳走を前にしても食べられないでいる。


「ちょっといいかな。」


 僕はポメの体に手を当てて体の状態を確認した。


『エグザミネーション』


 すると、栄養失調状態でかなり衰弱しているのがわかった。


「ポメちゃん。もう大丈夫だから。ちょっと体が熱くなるけど我慢してね。」


 ジョニー隊長が驚いた様子だったが、それを無視して僕は治癒魔法を唱えた。


『リカバリー』


 魔法を唱えると掌が熱くなり、神々しい光が放たれた。その光がポメの身体を包み込んでいく。だが、この魔法は結構辛い。自分自身も対象と同じ痛みや苦しみを感じるのだ。


“もう少し!もう少しだ!”


 すると目の前で寝ていたポメの顔色がどんどん良くなってきた。そしてポメが体を起こした。


「不思議!どこも痛くない!」


 ポメが僕を見た。


「お兄ちゃんは天使様なの?」

「違うよ。」

「ありがとう。お兄ちゃん。」

「ポメちゃんが元気になってよかったよ。」


 ジョニー隊長は何が起こったのか理解できない様子だった。


「一体どういうことですか?ユリウス様。」

「治癒魔法をかけたんだよ。」

「まさか?!治癒魔法は司教にしか使えない魔法ですよ!それに、ここまで完璧に治す治癒魔法など聞いたことがありません。」

「そうなの?でも使えたよ。」


 ジョニー隊長はその後も呆然としていた。元気になった妹を見て、ジョンが必死にお礼を言ってきた。


「ありがとうございます!ありがとうございます!お礼は何もできないけど!何でもします!言ってください!」


 この兄妹をこのままここに置いておくわけにはいかない。また病気になるかもしれないし、下手をすれば犯罪に巻き込まれる可能性だってある。ジョニー隊長も僕と同じことを考えたようだ。


「ユリウス様。どうでしょう。この者達を屋敷で働かせては。」

「そうだね。父上と母上にお願いしてみるよ。」

「それがよろしいかと思います。」


 屋敷に帰るまでに二人といろいろと話した。ジョンは8歳で、ポメは5歳だ。


「ジョン。ポメ。これから君達を僕の家に連れていくけど、何か仕事をしてもらうよ。」

「はい。大丈夫です。」

「私も大丈夫です。」


 ジョンが心配そうに言ってきた。


「辺境伯様は本当に僕達のようなものを働かせてくれるでしょうか?」


 ジョンが気にしているのは種族のことだろう。


「父上も母上も優しいから大丈夫さ。もしかしてジョンは獣人族であることを気にしてるんじゃない?」

「はい。」

「やっぱりそうか~。でもさ~。人族も獣人族も神様が作ったんだよね。だから本当はみんな兄弟みたいなものなんだよ。」


 僕達の話をジョニー隊長が真剣に聞いていた。僕は屋敷に戻った後、父と母に2人のことを説明して辺境伯屋敷で働けるようにお願いした。


「どうですか?父上。」

「あなた。いいんじゃないですか?私は賛成よ。やっぱりユーリちゃんは優しいわね。」

「わかった。ならば執事のヨハンを呼べ。ヨハンに二人を預けることにしよう。」

「ありがとうございます。父上!母上!」


 その日からジョンとポメは屋敷で一緒に生活することになった。ジョンは庭仕事、ポメはメイド見習いだ。そして父上の執務室では、ジョニー隊長が父上と母上にいろいろと説明していた。


「ユリウス様がポメに手をかざして魔法を唱えると、神々しい光がポメの体を包み込んだんです。そして物も食べられないほどに衰弱していたポメが元気になったのです。」

「そうか。恐らくユリウスは司教しか使えない治癒魔法を使ったんだな。」

「はい。ユリウス様もそうおっしゃっていました。」

「さすがはユーリちゃんね。」


 さらにジョニー隊長が続けた。


「それと、ユリウス様が帰りに気になることをおっしゃっていました。」

「どんなことだ?」

「はい。」

「人族も獣人族もどちらも神様が作った兄弟だと。」

「ほ~。そんなことを言っていたか。」

「はい。」


 父上が母上を見た。母上もニコニコしながらうなずいていた。


「ご苦労だったな。」

「いいえ。それにしても・・・もしかしたらユリウス様は使徒様ではないでしょうか?」

「どうかな。本人にもわからないだろうさ。このことは内密にな。」

「はい。」


 ジョニー隊長が去ったあと、父上と母上が僕の話をしていた。


「あなた。やはりユーリちゃんは使徒様か勇者様なんじゃないかしら?」

「そうかもしれんな。だが、ユリウスが私達の子であることに違いない。見守ってやろうじゃないか。」

「そうですね。」
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