異世界修行の旅

甲斐源氏

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大精霊

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 次の街アグリシティに近づくにつれて、荒れ果てた畑が目に入ってきた。野菜どころか雑草すらほとんど生えていない。畑の土は乾燥してひび割れている。


「酷いわね。」

「水が足りてないんだよ。」

「この近くに川はないんでしょうか?」

「どうかな~。でも、この様子だと川の水も干上がってるんじゃないかな。」

「これじゃ食事が期待できないにゃ!」


 そのまま馬車は街に入った。街の中も閑散としている。


「ユリウス殿。この街の状態は異常です。何かあったんでしょうか?」

「大司教様。オレ達で少し調べてみます。その前に、今日宿泊する宿に行きましょう。」

「お願いします。」


 宿に行った後、オレ達は街に出て冒険者ギルドへ行った。ギルドの中も閑散としている。


「何か御用ですか?」


 受付の女性が声をかけてきた。


「ちょっと聞きたいんですけど。」

「なにかしら。」

「この街の畑がひどい有様なんだけど、何かあったんですか?」


 受付の女性が話しづらそうにしていると、奥から先輩らしき女性がやってきた。


「アンリ!正直に教えてあげればいいじゃない!」

「で、でも・・・」

「いいわ!私が教えてあげる。実は教皇様がお亡くなりになった後、川の上流にある湖に祀られていたウンディーネ様の石像を教会の連中が壊したのよ。そしたら、雨が降らなくなって湖も干上がってしまってこの有様よ。」


 サニーが怒った口調で言った。


「何でそんなことをしたの!」

「知らないわよ!ただ、教会の連中は『アテナ様に不敬だ!』、『崇拝するのはアテナ様だけにしろ!』とか、『恨むならアテナ様を恨め!』とか言って、まるでこの有様をアテナ様のせいにするような言い方をしていたわ。」


 アテナ様を最高神とする教会が、なぜアテナ様を貶めるようなことをするのか理解できなかった。


「そのウンディーネ様の石像はどこにあったんですか?」

「川の上流に湖があって、その東側に祀られていたんだけどね。もう何もないわよ。」

「ひどすぎるわ!ユーリ!」

「ユリウス様。私も許せません。」

「許せないにゃ!」

「大司教様に報告して、湖に様子を見に行こうか。」

「うん。」

 
 グレゴリー大司教にギルドで聞いた話をしたところ、大司教も自らウンディーネの像があった場所に出向いてお詫びを言いたいと言ってきた。そこで、全員で湖まで行くことにした。ただ、道が細かったり険しい場所があるため馬車は利用できない。


「大丈夫ですか?大司教様。」

「ありがとうございます。これでも若いころは聖騎士をしていましたから、足腰には自信がありますので。」


 グレゴリー大司教の言葉の通り、息を切らすこともなかった。むしろ兵士達の方が大変そうだ。当たり前だが20キロ近い装備を身につけているのだから無理もない。


「着きましたよ。多分ここが湖ですね。」

「水がないにゃ!」

「本当!湖なのに水がありません!」

「ユーリ!なんか嫌な感じがするんだけど。」


 確かに湖には全く水がない。それにサニーが言った通り湖の東側から嫌な空気が漂ってくる。


「大司教様。オレ達の後についてきてください。カーリーさん達は大司教様の周りを固めてください。」

「わかりました。」


 石像があった場所に行くと、祠は完全に破壊され、石像も粉々に砕かれていた。それだけではない。どうやら闇魔法による結界がはられているようだった。


「ここだわ!物凄く嫌な感覚がしてきたのは。」

「闇魔法で何か結界を張ってるみたいだ。」

「解除できるの?」

「やってみるよ。」


 オレは精神を集中させて魔法を放った。


『ディスペル』


 すると、張られていた結界が黒い巨大な蜘蛛のような姿となって、苦しむように悶えながら消えていった。その様子を大司教達は息を飲んで見守っていた。


「祠や石像はどうするの?」

「もう一度作るにゃ!」

「ミーア!私達にそんな時間はないでしょ!」


 ソフィアの言う通りだ。作り直している時間はない。そこでオレは元通りにする魔法を思い浮かべていた。


「魔法でやってみるよ。」

「えっ?!そんなことできるの?」

「わからないさ。でも、このままってわけにはいかないだろ。」

『リストア』


 すると崩れていた祠がどんどん復元されていく。それにしてもかなり魔力を使う魔法だ。結構きつい。オレの苦しそうな様子をソフィア達が心配そうに見ている。


「ユーリ!もう少しよ!頑張って!」


そして粉々になっていた石像も元の姿を取り戻した。その様子を見ていて驚いたのは大司教達だ。


「ユリウス様。今のは魔法なんですか?」

「はい。復元魔法です。元の状態に戻す魔法ですよ。」

「そんな魔法があるなんて聞いたことがありませんよ。」

「カーリーさんが知らないのも無理ないと思います。学園の図書室にも書かれていないような魔法ですから。」

「やはり大司教様がおっしゃったとおり、ユリウス様はアテナ様の……」


 カーリーが言いかけた時、石像から眩しい光が放たれた。そして、石像の中から水色の髪をした絶世の美女である水の大精霊ウンディーネが姿を現した。オレ達もグレゴリー大司教達も全員が平伏して頭を下げた、


「皆さんどうぞ立ち上がってください。私は水の大精霊ウンディーネです。石像を直していただいて感謝します。」


 ウンディーネがオレを見てニコリと笑った。


「お待ちしていましたよ。ユリウス君。」

「どうしてオレの名前を?」

「だって精霊界でユリウス君のことを知らない者はいませんよ。みんなあなたに会いたがっているんだから。フッフッフッ」


 大精霊達がどんな話をしているかは知らないが、きっとアテナ様から伝わっているのだろう。いきなりウンディーネがオレのことを話したので大司教達も驚いている。


「あの~、お願いがあるんですけど。」

「わかってるわ。この湖の水でしょ?闇の魔力で私の力を封じられていたのよ。でも、もう大丈夫よ。」


 ウンディーネが両手を広げると地面からボコボコと水が湧きだしてきた。そして、湖の水は川へと流れ出した。


「これで畑の水は何とかなると思うけど、土にも栄養が足りてないわよ。ノームとドライアドも呼んだ方がよさそうね。」


 ウンディーネが目をつむって何かをつぶやくと、地面が光りだしてたくましい男性と緑の髪の美女が現れた。


「大地の大精霊のノームと緑の大精霊のドライアドよ。」

「オレは……」

「知ってるわ。ユリウス君でしょ?」

「そなたがユリウスか~!なるほど噂どおりの男のようだな。」

「えっ?!噂ですか?」


 するとウンディーネが二人に言った。


「おしゃべりより先に街の畑を何とかしてちょうだい。」

「わかったわ。」

「任せろ!」


 ノームとドライアドの姿が薄くなり、光の粒子となってその場からいなくなった。そしてウンディーネの身体も薄くなっていく。


「困ったことがあったらまたいつでも呼んでちょうだい。じゃあ、またね。」

「ありがとうございました。」


 大精霊達がいなくなった後、グレゴリー大司教がオレのところにやってきた。


「これでユリウス殿がアテナ様の使徒様であることは間違いなくなりましたね。」

「そうなんですかね? オレには自覚がないんですけど。」


 するとカーリーが笑いながら言った。


「ユリウス様。あれだけのことをしておきながら、その気取らないところがさすがです。」


 なぜかサニーとソフィアとミーアは怒っているようだ。


「ユーリ!あなた鼻の下が伸びてたわよ。」

「えっ?!」

「そうですよ!確かにウンディーネ様もドライアド様も美人でしたけど、ユリウス様には私達がいることを忘れないでくださいね。」

「そうにゃ!私達だっていつか大人になるにゃ!」

「確かに美人だとは思ったけど。でも別にオレはサニーやソフィアやミーアの方が魅力的だと思うけどな~。」


 どうやら3人の怒りモードはオレの一言で解除されたようだ。


「さて、街まで戻ろうか。街の教会の連中を何とかしないとまた壊されるからさ。」

「そうね。」

「畑の様子も見たいですよね。」

「お野菜を食べるにゃ!」


 川を下って街まで戻ると、街の外の畑に大勢の人達が集まっていた。荒れ果てていた畑が緑に染まり、様々な野菜が実をつけていたのだ。


「アテナ様だ!きっとアテナ様が俺達のためにやってくれたんだ!」

「おお、神よ!感謝申し上げます!」


 みんなが胸の前で手を合わせていた。だが、門の方から教会の人間らしき男達がやってきた。


「どけ!どけ!」

「これは一体どういうことだ?!」
  

 すると司教らしき男がみんなに言った。


「みんな騙されるな!これはアテナの仕業じゃない!これは罠だ!」
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