ゾンビ転生〜パンデミック〜

不死隊見習い

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Season3

勇者ーSiriusー2

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 アルタイルの後光が消え去るとうずくまる俺の下にやってきてしゃがみ、顔を覗き込む。

ーーあんた……本物のアルタイルなのか……

「あー、どうなんだろうな。なんていうか半分正解で半分はずれだ」

ーー……やはり俺の妄想か……

「それも否定できないな。説明するのが難しいんだがお前が見ている俺の姿はお前の想像する“アルタイル”だ。だが俺自身は“アルタイル”そのものだ」

ーー……は?

「えーとだからお前の魂の衰弱にお前に流れる血が……いや、まあ俺の血でもあるんだけど。とにかく俺たちに流れる血を触媒にお前自身が俺を精神世界に呼び出したわけだ。あっ、もちろん俺は本物の“アルタイル”そのものではないぞ。いや違うな、やっぱり俺は本物の“アルタイル”と言っていいのかもしれない。……はぁ、こういう難しい話はデネブの方が得意なんだがな」

ーー……

 やはり理解できない。怪訝な目でアルタイルを名乗る男を見ていると目が合ってしまった。男は気まずそうな顔をすると立ち上がり俺の横腹を足で小突く。

「てかいつまで寝てんだ!!お前のご先祖の前だぞ!!」

 立とうにも何度も何度も小突かれる。俺はその足を腕で何とか制し、立ち上がった。


ーーええと、つまり貴方は俺が無意識に呼び出し、俺に流れる貴方自身の血から作り出されたと……

「まあ、そういうことだ。本物の“アルタイル”と思ってもらって構わないぞ」

 正直、目の前のこの男をご先祖だとは信じたくない。

「しかし、殺風景な場所だな……お前、さては暗い性格だな」

 ご先祖は見渡す限りの闇を見て言う。そんなことを言われても好きでこんな場所にいるわけではない。

ーー……俺にどうしろと?

「ここはお前の精神世界だぞ。風景なんかお前の想像でなんとでもなる。そうだな……ガラクシアの近くに小高い丘があるだろう。町全体を見渡せる。そこに連れてってくれ」

 俺はご先祖の要望通りの風景を想像すると辺りの闇は晴れ、一面の青空と海、山々が現れた。遠くにはガラクシアを一望することができる。この丘から見る風景は俺も気に入っていて時間があればよく通っていた。

「久しぶりだな……」

 ご先祖は丘の上に一本だけ生えた大木に語りかけるとその木陰に腰掛け、側に生えた月光花をいじりながら遠い目でガラクシアを眺めた。

「おお、見違える様に発展しているが存外何も変わらぬようだな」

ーー……嫌味ですか

「いや、褒めているんだ。お前もこっちに座れ」

 ご先祖の言う通りに俺も隣に腰掛ける。

「千年の時を経てもここからの景色は美しい。よく城から抜け出してここに来てはデネブに連れ戻されて叱られていたよ」

ーー……デネブは……

「分かっているよ。それでもかつては友だった」

 二人の間にしばらくの沈黙が流れる。

「……何か話すことはないのか」

ーー……は?

「こういう時は何か話すものだろう」

ーー……何かと言われても……

「俺は言ってしまえばお前より千歳年上の父親みたいなものだ。こういう時の話題は人生相談だろう。俺は息子達からなかなか頼られていたのだぞ」

 ご先祖は自慢気な顔をする。

ーー……ご先祖は外の様子はご存知で?

「ああ、お前の血から読み取ったよ。なかなか大変そうじゃないか」

ーー……俺は貴方の、勇者アルタイルの子孫として人々を守る義務がある。だが俺は弱く、愚かだった。俺のせいで何人も人が……仲間が死んでいった。所詮俺は貴方みたいな勇者じゃなかったんだ

「そりゃそうだろう」

 ご先祖は呆れた声で言う。別に同情の言葉を期待していたわけではないが予想外の返答に俺も間抜けな顔になっていたと思う。

「俺は俺、お前はお前だ。“勇者アルタイル”なんて俺一人で十分なんだよ」

 ご先祖はそう言うと空を眺めた。そこにはいつか俺が見たであろう雲が流れている。

ーーしかし、俺が貴方だったら皆んな死んでいなかったでしょう

「それはないな」

 ご先祖は言い切る。

「今はどう語られているか知らないが俺も手の届く距離で何人も死んだのを見てきた。だがその度に落ち込んで自分を責める暇はなかった」

 どこか寂しそうな、しかし達観した目で視線をガラクシアの向こうの海に移した。

「人なんてのはさ、勝手に生きて勝手に死ぬものだよ。お前が気に病むことはない」

ーー!!なんて無責任な!!

 ご先祖の発言に俺は語気を荒げて立ち上がる。しかしご先祖はゆったりとした空気のまま、まだ海の向こうを眺めていた。

「別に忘れろとは言っていないよ。でも仲間達も勝手にお前を信頼していたわけだろう。それにお前が勝手に応えようとしとした。それが失敗したとしても恨まれる筋合いは無いと思うが」

ーー……

 ご先祖は話しながらゆっくりと立ち上がる。

「例え彼らが恨んでいたとしても進み続け、まだ救える者を救い続けなければならない。一度そう決めたならな」

 勇者アルタイルは俺の胸に拳を当てる。

「“勇者アルタイル”ならそうするが……“勇者シリウス”はどうだ?」

 その言葉に俺の胸の中の物が全て吹き飛んでいくのを感じた。

ーー……俺は弱いから……貴方とは違って失った者を切り捨てて進むことなんてできない……

 アルタイルはただ俺の話を黙って聞く。

ーーだから俺は……俺を信じてくれた全部を背負う。何度押しつぶされても、這いつくばってでも前に進んでいきます。

 その言葉を聞き、アルタイルは安心した様な優しい顔で俺を見た。
 すると、俺の目の前が輝いたかと思うと目の前に俺の剣ダーインスレイブが現れる。俺は迷うことなくその柄を手にする。

「もう落とすなよ」

 ご先祖が言い終わると俺のご先祖の体と周りの風景は次第に薄くなっていった。
 ご先祖はまだ話したい様で早口で捲し立てた。

「えーとそうだな後は……こまめに墓参りをしてくれよ。後、父親は大事にな。それからもし子供が生まれたら後継者はよく考えておけよ。死んでから大変なことになるからな。それと……」

 ご先祖はこれまで以上に真剣な眼差しで俺を見やる。

「デネブを頼む」

 そして俺の心の中のアルタイルはどこかへ消え去った。




「!!!なんだ!!」

 アイリーンを壁に押さえつけていたビルは背後から生まれたただならない気配に振り返る。
 そこには心折れたはずのシリウスが立っていた。
 ビルはすぐさま渾身の力で大斧を振り下す。しかしその攻撃は片手で持つ剣一本で止められた。

「お前……どうして……」

 驚愕の表情を浮かべるビルは急いで距離を取ると態勢を直し、彼の素質タレントである狂戦士バーサーカーを発動し再び斧を振り下ろす。
 
 しかし先ほどの数倍は高威力の攻撃も同じように片手一本で受け止められてしまった。

狂戦士バーサーカー……こんな感じかな」

 シリウスの顔を見たビルはさらに驚愕することになる。その瞳は狂戦士バーサーカー状態の彼同様妖しく紅く光っていた。
 恐怖を覚えたビルは再び後退して距離を取る。

「お前……私の狂戦士バーサーカーをどうやって」

 素質タレントとは一部を除いて結局は生まれながらに魔法が刻み込まれていて、それを手足を動かす様に発動できるに過ぎない。それはつまり同様の素質タレントを魔法でそのまま再現することが可能であることを意味する。もちろん、それは並大抵にできることではない。
 シリウスは生まれながらの素質タレントは持ち得ないが天性の絶大な魔力量と血の滲む努力で身につけた魔力操作の精密さが素質タレントの再現などという神業を実現させたのだ。

「ふざけるなふざけるな……こんなことがあっていいわけないだろう!!」

 ビルは狂戦士バーサーカーの強度をさらに強めていく。するとその体はさらに肥大化していき3mはある部屋の天井まで達していた。

「ゔぉぉぉぉぉぉぉぉ」

 理性は完全に失ったようで獣のような雄叫びを上げるとシリウスに大斧の猛攻を浴びせる。
 シリウスはその姿に物怖じる気配は一切なく、ただ飛び交う羽虫を払うようにやはり片手だけでいなしていく。

「もう終わりにしよう……昇りゆく龍シュタイゲン・ドラッヘ……」

 剣に魔力を込めて一気に解放すると、魔力の塊が天を飛ぶ龍のようにビルの巨体を宙に放り投げた。

「ぐうぅ……くそっ、何故だ……何故力を取り戻せた」

 シリウスが加減をしたのかビルは辛うじて命を保っていた。しかし全身の筋繊維はボロボロでもう動くことはできないだろう。

「アイリーン、遅れてすまない」

 シリウスは壁に叩きつけられ、負傷している彼女の下へ向かうとその傷を治癒した。

「シリウスさん……よかったぁ!!」

 アイリーンはボロボロと涙を流すとシリウスに抱きついた。シリウスも心配をさせた詫びからか彼女の頭を撫で安心させる。

「うわぁ!!なんだお前らは!!やめろ、来るな!!」

 突然、ビルの叫び声が響く。いつの間にか部屋に侵入していた数体のゾンビが倒れたビルを取り囲むと飢えを満たすようにその肉体を捕食し始めた。

「ここはやばそうだ。行こう」

 シリウスは剣を握りしめ、アイリーンの手を引く。

「もう何も失いやしない」
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