Betrayed Heroes -裏切られし勇者の末裔は腐敗世界を破壊し叛く-

砂糖かえで

文字の大きさ
60 / 84
火に渦巻くは歴史の咎

ep.47 変わった名だな

しおりを挟む
 始め住民からは刺々しい奇異の目を向けられたが、腕の木札に目がいくや否や目を丸くして落ち着いた態度へと早変わりした。

 時折、通行人が自然に接近して腕の木札が本物かどうか確認していたが、当の本人は意に介さず、といった様子で。

「なあ、そこの兄ちゃん」
「…………」
「あんただよ、あんた。黒髪の」

 センリはふと足を止めたが「なんか買ってくれよ」と言われたことで客引きと確信。無視して進む。が、

「な、なあ、待ってくれよ!」

 男が立ち塞がった。歳はセンリよりも少し下くらいだろう。

「邪魔だ、どけ。それとも秘宝の在り処を示した地図でも売ってくれるのか?」
「ああ、悪い。俺ここ生まれで両親も早くに亡くなってるから、そういう語りぐさみたいなやつないんだわ」
「なら何を売れる?」
「俺自身さ。体は鍛えてるから使い走りでも護衛でもなんでもいけるぜ」
「馬鹿馬鹿しい。聞いて損した」
「た、頼むよ! 子供も生まれたばかりなんだ!」

 すがりつく男を振り払ってセンリは先へ進む。後方で落ち込む男が嘆く。

「はあ……やっぱり一発逆転に賭けるしかないか」
「一発逆転……?」

 賭博の話だと思ったセンリは気になって振り返る。その反応から男のほうはセンリが同じく困窮している仲間だと思った。

「なんだあんたもこっち側だったのか。ならそう言ってくれよ」

 男は気さくな態度で再び歩み寄ってくる。

「そうさ。この貧しさから抜け出す一発逆転の方法があるのさ」
「興味あるな」

 持ち金のほとんどを古書の購入に回しているので常に金欠気味。なおかつ賭博を好むセンリがこの話を逃すわけはなかった。

「ここじゃ大きな声で話せねえから、とりあえず俺の家に来いよ」
「いいだろう」

 男に誘われてセンリは彼の自宅へと赴いた。

「ただいまー」

 そこは徒歩数分の街区内にある今にも倒壊しそうなあばら屋だった。その中から男の妻が現れた。

「おかえりなさい」そう話す彼女は男よりも若い。
「ただいま」
「うしろの方は?」
「ああ、こいつは俺の連れだ」

 そう言って家の中に入っていく男。取り残されたセンリに男の妻が声をかける。

「あの、どうぞ中へ。狭いですが」
「邪魔する」

 彼女の言う通り家の中は狭かった。廊下は1人分の幅しかなく、ところどころに隙間があり、そこから風が流れ込んでくる。雨風の雨だけならどうにかこうにか凌げるだろうか。

 雰囲気的に居間と呼べる場所に男はいた。椅子に座ってくつろいでいる。

「とりあえず座れよ」

 そう勧める彼に対して、

「名前くらい名乗ったらどうだ」

 センリは立ったまま言葉を返した。

「ああ! すっかり忘れてた。悪かったな。ここにいるやつみんな顔馴染みだからいちいち名前を聞く習慣がないんだ。俺の名前はサンパツ」
「変わった名だな」
「父ちゃんも爺ちゃんもその前もずっと同じ名前さ。なんでも初代が勇者様の髪を切ったとかで名付けてもらったらしいけど。意味はよく分からん」
「確かにな」

 意味は分からないがセンリはその名前に不思議と親しみを感じていた。

「――で、そっちは?」
「センリ」
「ふーん。あんたも変わった名前だな。……っと、例の話だったな。えっと」

 ちょうどその時、赤子の泣き声が聞こえてきた。奥からサンパツの妻が赤子をあやしながらやってくる。それを今にも折れそうな一家の大黒柱が一瞥して。

「……このまませこせこと働いてもきっと一生こんな暮らしだ。だから怪しくても一発逆転の話にはもう飛びつくしかないんだよ」
「その様子じゃ何の援助もないみたいだな」
「俺たちみたいな非正規民には国からの助けもないし、地区外に出ても正規民のやつらに石を投げられるだけさ。まともな仕事になんかありつけやしねえ」
「だいたいの事情は分かった。そろそろ本題に入れ」

 急かされてサンパツはばつが悪そうに頭をかいた。

「悪い。つい愚痴っちまった。その一発逆転の賭けってのはいわゆる貴族の隠れ娯楽だ。貧困区から人を集めて催しものをやる。もしもそこで楽しませることができたら大量の投げ銭がもらえるって話だ。誰も戻ってこられないって不気味な噂もあるけどな」
「趣味の悪い娯楽だな」
「だけどもうそれしかないからな。俺は行くぞ。なんたって出発は今晩だからな」
「今晩、か」
「お前はどうする? そっちも金には困ってるんだろ?」

 金に困窮した仲間だと思われているセンリは彼に問いかけられる。

「……その醜い面を拝みに行ってみようじゃないか」

 もはや金への興味というより、どんな顔をした連中がそんな遊びをおこなっているのかのほうが気になって仕方がないセンリ。

「よっしゃ! なら今晩ここに来てくれ」

 サンパツは古びた紙の切れ端に描いた簡素な地図をセンリに手渡した。

「あなた、本当に行くつもりなの……?」

 サンパツの妻は心配そうにしていた。言葉の節々から行ってほしくないことが伝わってくる。

「ああ。ちょっくら行ってたらふく稼いでくるよ。お前とこの子のためにも」

 妻子の前で見せた彼の笑顔は第三者のセンリでも分かるほどに無理をしていた。

 ###

 その晩。地図を頼りにセンリが集合場所まで行くと、サンパツが待っていた。闇に紛れていてその姿ははっきりしない。

 区内にまともな明かりはほとんどないので肉眼の慣れが必要だ。

「こっちだ」

 そんなことは日常茶飯事なのかサンパツは気にも留めず先へ進んでいく。ぬかるんだ地面のピチャピチャという音だけが周囲に響いて、不気味さを醸し出している。

 雫のような灯火が揺らめいて見えた。

「あれだ」サンパツが少し振り返る。

 よく見れば大勢の人々が並んでいて、その奥には迎えの馬車があった。

「さて、魔が出るか蛇が出るか」

 闇夜に浮かぶ馬車の呼び込み灯は大口を開けて餌を待つ化け物の目のようで、そこへ伸びる人間行列はさながら自らを食してもらうべく歩んでいるように見えた。

 順番がやってくるや否や焦った様子の案内人が2人を押し込むようにして空いている馬車の荷台に詰め込んだ。中にはすでに人がいるのでぎゅうぎゅう詰めだ。座れるだけマシと考えたほうがいいかもしれない。

 天井から垂れ下がった小型のランタン。ようやく互いの顔が判別できるほどの明るさの中でセンリが鋭い殺意を放つと周囲から人が離れていった。お気楽なサンパツを除いては。

「なんだかお前の周り空いてるな」

 ちょっとした幸運が起きた程度にしか思っていないサンパツはセンリの隣で幸先が良いと嬉しそうにしていた。

 ほどなくして馬車が動き始めた。破けた覆い布の隙間から変わりゆく景色が見える。性急に街を離れていく様子は夜逃げのようで。案内人の雰囲気からも察するにこの娯楽が危ない橋を渡る、世間からもひた隠しにしたいものであるということは明白だった。

「……どこまで行くんだろうな」サンパツが呟く。
「さあな。だが夜明けまでには着くだろう。いくらお忍びでも遠すぎると不便だからな」

 センリの言う通り馬車は夜明けの直前まで走り続けて目的地に到着した。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる

静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】 【複数サイトでランキング入り】 追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語 主人公フライ。 仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。 フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。 外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。 しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。 そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。 「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」 最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。 仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。 そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。 そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。 一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。 イラスト 卯月凪沙様より

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】 【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】 ~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。

異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~

松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。 異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。 「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。 だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。 牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。 やがて彼は知らされる。 その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。 金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、 戦闘より掃除が多い異世界ライフ。 ──これは、汚れと戦いながら世界を救う、 笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!?〜

沢田美
ファンタジー
かつて“異世界”で魔王を討伐し、八年にわたる冒険を終えた青年・ユキヒロ。 数々の死線を乗り越え、勇者として讃えられた彼が帰ってきたのは、元の日本――高校卒業すらしていない、現実世界だった。

勇者パーティーを追放された俺は辺境の地で魔王に拾われて後継者として育てられる~魔王から教わった美学でメロメロにしてスローライフを満喫する~

一ノ瀬 彩音
ファンタジー
主人公は、勇者パーティーを追放されて辺境の地へと追放される。 そこで出会った魔族の少女と仲良くなり、彼女と共にスローライフを送ることになる。 しかし、ある日突然現れた魔王によって、俺は後継者として育てられることになる。 そして、俺の元には次々と美少女達が集まってくるのだった……。

処理中です...