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火に渦巻くは歴史の咎
ep.48 家族のために……
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窮屈な荷台の中で目を覚ました参加者たちは眩しい朝日を浴びながら下車。待っていた別の案内人たちによってどこかへ連れていかれた。当然センリやサンパツも例外ではない。
重厚な扉をくぐった先には見渡す限りの豪華な食事が用意されていた。お腹が空いている参加者たちは一斉に群がり、奪い合うようにして貪っている。
「おいっ、俺たちも行かないとっ!」
このままだとなくなってしまう、とサンパツは慌てて走っていった。
「……まるで最後の食事だな」
その光景に違和感を覚えながらもセンリはゆっくりと歩み寄って腹ごしらえをした。
みんな元々は貧民街の出、普段は質素な食事しか取っていないせいか、用意されていた御馳走はあっという間になくなった。
参加者たちはたらふく飲み食いしてその場に腰を下ろしたり横になったりしている。
「おい、お前たち。出番だ」
奥の扉が開いて恰幅の良い男が出てきた。早くこっちへ来いと手で参加者を急かす。
いよいよ一発逆転の催しものが始まると理解した彼らはのそのそと立ち上がって扉脇にいるその男の指示に従った。
扉の先は広大な庭で周囲に高い柵が張り巡らされていた。目に付くのは貴族の見物席と思われる磨かれた石床の舞台。
案内人によって境界線が引かれており、それを越えて参加者が向こう側に行くことはできない。
そうしている間に今回のお客様がやってきた。10人ほどの男女で平均年齢は高め。その誰もがゆとりのある表情をしていた。両脇に護衛の者たちを従えている。中には魔術師らしき者もいて帽子を目深に被っている。
彼らは専用のふかふかした椅子に腰を下ろす。真ん中の大きな椅子には誰も座らず空席のまま案内人が手を叩いて合図を出した。すると参加者たちが一斉に挙手。我こそが最初に金の切符を手にすると鼻息を荒くしている。
最後列で手を挙げ必死に訴えるサンパツと何もせず冷ややかな目で見つめるセンリ。
案内人がその中から適当にまず1人を選んだ。当選した男がガッツポーズをしてお客様の前へと連れだされる。
一礼した男は彼らの前で情熱的な舞を披露した。幼少から磨き上げたというそれは上々の出来でまずまずの評価を得た。乾いた拍手のあとに舞台から男へと金銭の入った革袋が放り投げられた。
「あ、ありがとうございます!」
男はそれらを拾い、嬉しそうな顔でうしろへと下がった。
順調な出だしに参加者はさらに活気付く。売り込みの台詞を吐いたり背伸びをしたり飛び跳ねたりと少しでも注目を浴びるためにみな必死。
「よっしゃー!」
運良く選ばれた次の挑戦者が前へ出る。彼が披露したのは歌。イグニアの民謡で枯れた火が再び燃え盛るというもの。選択は良かったが、その歌唱力は酷い出来だった。
不満げな様子の客席。1人が近くの護衛に耳打ちをする。すると護衛の男は舞台から降りてスタスタと一直線に挑戦者のほうへ。
てっきり金銭入りの革袋をもらえると思った彼は笑みを浮かべて両手を前へ。しかし、鞘から抜かれた剣を見た途端にその笑みは恐怖へと変わった。
「――ああああああああああああああァッ!」
抜き身の刃はためらいなく挑戦者の両手を斬って落とした。傷口から血が吹き出し、彼は叫びながら地面でのたうちまわる。
それを見たお客様がたはご満悦な顔でゲラゲラと笑った。舞台から放たれる投げ銭が地面にばら撒かれる。
「あっ……あっ……」
男は激痛をこらえてせめてそれだけでも回収しようとするが、両手がないので上手く硬貨を掴むことができない。
その様子を見てより一層の醜悪な笑いが起こった。
目の前の光景にさきほどまで活気付いていた参加者たちの口が閉ざされる。しんと静まりかえる中で案内人が次の挑戦者を求めるが、当然今までのように手は挙がらない。
そうすると案内人は適当に1人を選びだした。その女は生贄にでも選ばれたかのように唇をわなわなと震わせながら立ち尽くしていた。
「早く来い」
その一言で女はビクッとして急ぎお客様たちの前に立った。
女は低級の光魔術を行使した芸を披露したが、押し潰されるような恐怖からところどころ失敗してしまう。それでも謝りながら最後までやりきった。
舞台上、女のお客様から耳打ちが入って、護衛の男が彼女のもとへ遣わされた。彼の手には鞭が握られている。
女は後ずさりしたが、男がそれを許さない。踏み込んで鞭を大きく振り上げた。情け容赦なしの一打が女の顔面に直撃する。フッと意識が飛んで戻ってくる次の瞬間には次の鞭が飛んでくる。
無抵抗の人間をひたすら鞭打ちにする光景は参加者に第二の衝撃を与えた。指示を出した女のお客様は満足げに手を叩いていた。
これが一発逆転のからくり。一攫千金を夢見るには貴族の掌の上で踊らされ、相応の代償を支払わなければならない。
センリは予期していたのか冷静で、サンパツは心底震え上がっていた。
生贄という名の挑戦者が無作為に選ばれていく。ある者は最低の芸を披露したことで首を斬り落とされ、またある者はこの状況下でも最高のパフォーマンスを見せて大金を手にした。
天国と地獄。くっきりと分かれる勝敗に待ちの参加者の精神状態はよろしくない。家族のためにやってきたサンパツも今では人混みに身を縮めて選ばれないようにしている。
未挑戦の参加者が減っていく中、運悪く見つかったサンパツが選ばれてしまった。
「あっ……」
頭が真っ白になってしまったのかサンパツは返事もなく立ち尽くしている。
「おい」とセンリが声をかけると、
「ま、まだ、死にたくない……。な、なあ、誰か代わりに行ってくれないか……?」
サンパツは震える声で周りに訴えた。周りは何も言わずに目を背ける。
「何のために来たんだ、お前は」センリが問いかける。
「か、家族のために……」
「なら選択しろ。行くのか、退くのか」
「…………」
考えるサンパツ。それに追い打ちをかける前方からの「早くしろ」という声。急かされた彼はとうとう意を決した。
「……もしも俺に何かあったらその時は頼む。後生だ」
「馬鹿か。やつらから大金もぎ取って帰ってくればいい話だろ」
最初から後ろ向きなサンパツをセンリは馬鹿馬鹿しいと一蹴。
「そ、そうだな……」
すでに負け顔だったサンパツはハッとして気持ちを切り替えた。そして退屈に飢えたお客様たちのもとへ向かった。
舞台の前に立つ。サンパツの目には彼らが悪魔のように見えている。しかし喜ばすことができればちゃんとした見返りがある。貧困から脱出できるだけの価値あるものが。
サンパツは大きく深呼吸をして口もとに手を当てた。変わった手つきのそれは指笛で、みながそれに気づく頃には美しい音色が風の流れに乗っていた。
澄んだ小川のせせらぎを思わせる入りから、急に森の奥へ、獣が疾走する。木々の合間を縫って、開けたその先は切り立った崖。そこから何の躊躇もなく飛び下りて、眼下に広がる荘厳な世界の有り様をまざまざと見せつけた。
サンパツが手を解く。幻惑の魔術でも使っているかのような表現に富んだ音色はその場にいる者にひと時の夢を見せた。
程度の低い芸には情け容赦のないお客様たちもそれには文句なし。あのセンリでさえも目を閉じて聴き入っていた珠玉の芸事だった。
「あの……ど、どうでしょうか……?」
おそるおそるサンパツが問うと、返事代わりに舞台上からたくさんの革袋が放り投げられた。目の前に落ちた革袋を拾い、閉じ紐を解いてみると、中にはぎっしりと金銭が詰まっていた。
サンパツの顔がパッと輝く。周囲に散らばっている革袋を全て拾い集めてからみんなのもとへ戻ってきた。
一発逆転の大金を得た勝者を参加者たちは尊敬の眼差しで迎え入れた。凄惨な結末だけではないことに希望を見て今一度みんなの士気が高まる。
ちょうどその時だった。遅れて到着した最後の客人が舞台の袖から姿を現した。
「ほう……」
その顔をセンリは知っていた。国王への言葉遣いを咎めたあの大臣だった。彼は空席だった中央の大きな椅子に腰を下ろして団扇を手に取り、汗だくの顔をあおぐ。
重厚な扉をくぐった先には見渡す限りの豪華な食事が用意されていた。お腹が空いている参加者たちは一斉に群がり、奪い合うようにして貪っている。
「おいっ、俺たちも行かないとっ!」
このままだとなくなってしまう、とサンパツは慌てて走っていった。
「……まるで最後の食事だな」
その光景に違和感を覚えながらもセンリはゆっくりと歩み寄って腹ごしらえをした。
みんな元々は貧民街の出、普段は質素な食事しか取っていないせいか、用意されていた御馳走はあっという間になくなった。
参加者たちはたらふく飲み食いしてその場に腰を下ろしたり横になったりしている。
「おい、お前たち。出番だ」
奥の扉が開いて恰幅の良い男が出てきた。早くこっちへ来いと手で参加者を急かす。
いよいよ一発逆転の催しものが始まると理解した彼らはのそのそと立ち上がって扉脇にいるその男の指示に従った。
扉の先は広大な庭で周囲に高い柵が張り巡らされていた。目に付くのは貴族の見物席と思われる磨かれた石床の舞台。
案内人によって境界線が引かれており、それを越えて参加者が向こう側に行くことはできない。
そうしている間に今回のお客様がやってきた。10人ほどの男女で平均年齢は高め。その誰もがゆとりのある表情をしていた。両脇に護衛の者たちを従えている。中には魔術師らしき者もいて帽子を目深に被っている。
彼らは専用のふかふかした椅子に腰を下ろす。真ん中の大きな椅子には誰も座らず空席のまま案内人が手を叩いて合図を出した。すると参加者たちが一斉に挙手。我こそが最初に金の切符を手にすると鼻息を荒くしている。
最後列で手を挙げ必死に訴えるサンパツと何もせず冷ややかな目で見つめるセンリ。
案内人がその中から適当にまず1人を選んだ。当選した男がガッツポーズをしてお客様の前へと連れだされる。
一礼した男は彼らの前で情熱的な舞を披露した。幼少から磨き上げたというそれは上々の出来でまずまずの評価を得た。乾いた拍手のあとに舞台から男へと金銭の入った革袋が放り投げられた。
「あ、ありがとうございます!」
男はそれらを拾い、嬉しそうな顔でうしろへと下がった。
順調な出だしに参加者はさらに活気付く。売り込みの台詞を吐いたり背伸びをしたり飛び跳ねたりと少しでも注目を浴びるためにみな必死。
「よっしゃー!」
運良く選ばれた次の挑戦者が前へ出る。彼が披露したのは歌。イグニアの民謡で枯れた火が再び燃え盛るというもの。選択は良かったが、その歌唱力は酷い出来だった。
不満げな様子の客席。1人が近くの護衛に耳打ちをする。すると護衛の男は舞台から降りてスタスタと一直線に挑戦者のほうへ。
てっきり金銭入りの革袋をもらえると思った彼は笑みを浮かべて両手を前へ。しかし、鞘から抜かれた剣を見た途端にその笑みは恐怖へと変わった。
「――ああああああああああああああァッ!」
抜き身の刃はためらいなく挑戦者の両手を斬って落とした。傷口から血が吹き出し、彼は叫びながら地面でのたうちまわる。
それを見たお客様がたはご満悦な顔でゲラゲラと笑った。舞台から放たれる投げ銭が地面にばら撒かれる。
「あっ……あっ……」
男は激痛をこらえてせめてそれだけでも回収しようとするが、両手がないので上手く硬貨を掴むことができない。
その様子を見てより一層の醜悪な笑いが起こった。
目の前の光景にさきほどまで活気付いていた参加者たちの口が閉ざされる。しんと静まりかえる中で案内人が次の挑戦者を求めるが、当然今までのように手は挙がらない。
そうすると案内人は適当に1人を選びだした。その女は生贄にでも選ばれたかのように唇をわなわなと震わせながら立ち尽くしていた。
「早く来い」
その一言で女はビクッとして急ぎお客様たちの前に立った。
女は低級の光魔術を行使した芸を披露したが、押し潰されるような恐怖からところどころ失敗してしまう。それでも謝りながら最後までやりきった。
舞台上、女のお客様から耳打ちが入って、護衛の男が彼女のもとへ遣わされた。彼の手には鞭が握られている。
女は後ずさりしたが、男がそれを許さない。踏み込んで鞭を大きく振り上げた。情け容赦なしの一打が女の顔面に直撃する。フッと意識が飛んで戻ってくる次の瞬間には次の鞭が飛んでくる。
無抵抗の人間をひたすら鞭打ちにする光景は参加者に第二の衝撃を与えた。指示を出した女のお客様は満足げに手を叩いていた。
これが一発逆転のからくり。一攫千金を夢見るには貴族の掌の上で踊らされ、相応の代償を支払わなければならない。
センリは予期していたのか冷静で、サンパツは心底震え上がっていた。
生贄という名の挑戦者が無作為に選ばれていく。ある者は最低の芸を披露したことで首を斬り落とされ、またある者はこの状況下でも最高のパフォーマンスを見せて大金を手にした。
天国と地獄。くっきりと分かれる勝敗に待ちの参加者の精神状態はよろしくない。家族のためにやってきたサンパツも今では人混みに身を縮めて選ばれないようにしている。
未挑戦の参加者が減っていく中、運悪く見つかったサンパツが選ばれてしまった。
「あっ……」
頭が真っ白になってしまったのかサンパツは返事もなく立ち尽くしている。
「おい」とセンリが声をかけると、
「ま、まだ、死にたくない……。な、なあ、誰か代わりに行ってくれないか……?」
サンパツは震える声で周りに訴えた。周りは何も言わずに目を背ける。
「何のために来たんだ、お前は」センリが問いかける。
「か、家族のために……」
「なら選択しろ。行くのか、退くのか」
「…………」
考えるサンパツ。それに追い打ちをかける前方からの「早くしろ」という声。急かされた彼はとうとう意を決した。
「……もしも俺に何かあったらその時は頼む。後生だ」
「馬鹿か。やつらから大金もぎ取って帰ってくればいい話だろ」
最初から後ろ向きなサンパツをセンリは馬鹿馬鹿しいと一蹴。
「そ、そうだな……」
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舞台の前に立つ。サンパツの目には彼らが悪魔のように見えている。しかし喜ばすことができればちゃんとした見返りがある。貧困から脱出できるだけの価値あるものが。
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サンパツが手を解く。幻惑の魔術でも使っているかのような表現に富んだ音色はその場にいる者にひと時の夢を見せた。
程度の低い芸には情け容赦のないお客様たちもそれには文句なし。あのセンリでさえも目を閉じて聴き入っていた珠玉の芸事だった。
「あの……ど、どうでしょうか……?」
おそるおそるサンパツが問うと、返事代わりに舞台上からたくさんの革袋が放り投げられた。目の前に落ちた革袋を拾い、閉じ紐を解いてみると、中にはぎっしりと金銭が詰まっていた。
サンパツの顔がパッと輝く。周囲に散らばっている革袋を全て拾い集めてからみんなのもとへ戻ってきた。
一発逆転の大金を得た勝者を参加者たちは尊敬の眼差しで迎え入れた。凄惨な結末だけではないことに希望を見て今一度みんなの士気が高まる。
ちょうどその時だった。遅れて到着した最後の客人が舞台の袖から姿を現した。
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