ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ

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第02話 世界一平和な逆襲(後)

12.別の正義

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「……総理、あなたがネイルド共和国大統領を脅してミサイルを撃たせようとした証拠があります。……今回はやり過ぎでは? 俺が止めなければ世界大戦になっていたんですよ?」
「フン、そこまでは指示してないよ。奴らが勝手にそう流れていっただけだ」

 総理は横柄に腕を組み、居直った。そこまで意図していたのは見え見えだ。しかし実際書面には「戦争せよ」とは書かれていない。

「それでも、自国にミサイルを撃たせるという指示がまず大問題です。国家反逆罪に外患誘致罪。終身刑は確定ですよ」
「……」

 総理は面倒臭そうに視線を外し、これ見よがしにため息をつく。

「その証拠とやら、ちゃんと目を通したのかね?」
「一応は。……一部理解不能な点もありますが」

 総理からの指示は不可解だった。

 ウィルクトリアを狙えとは確かに書いてある。だが正確な目標はここ、総理官邸。そしてできる限り小規模なミサイルを使用せよという記述もある。なぜわざわざ彼は自分の居場所をターゲットにさせたのか。少し嫌な予感がしている。

「官邸からは人払いをしておいたよ。実はガス漏れが起きたことにして周囲を立ち入り禁止にしたんだ。君は玄関からやって来ないから気づかなかっただろう? 一応報道規制もしたんだがね、君が騒ぎを起こしてくれたから不要だったよ、ハハ」
「なぜそんなことを……?」
「私が、私一人が、この一件の責任を取るためだ」

 仮にネイルド共和国が本当にミサイルを撃ったとして、そしてそれをヴァンが叩き落とさなかったとしても、犠牲になったのは総理だけだった。……そんな筋書きになる。

「私が死ぬか投獄されるかすれば、どの道この指示書は公表される手筈になっていたんだ。そこに書かれているのは、後継を作らないというヴァン・スナキアの蛮行を止めるために命懸けの計略を打ったという一人の政治家の物語だよ」
「……」

 スナキア家の滅亡危機。しかしヴァン・スナキアは居直っている。その国難に対処するためにはもはやまともなやり方は通用せず、大胆な手を打つしかなかった。そしてせめてもの責任に自分の命のみを危険に晒した。……彼はそう主張するのだろう。

「私を政界から消したとしても、私の支持者はかえって勢いづくだろう。さらに、国家元首が命を捨てようとするほど現状に危機感を抱いていたという事実は、国民を大いに動揺させる。このままヴァン・スナキアの好きにさせてはいけないのだと、そんな考えが頭を過ぎる。……君はそれで得するかい?」

 ……まったく、大したものだ。ただでは転ばない。

 自国の未来のために命を捧げる。確かに支持者の胸を打つだろう。総理の罪を公表すればかえって一部の国民を総理寄りに傾けてしまい、ヴァンがせっかく成し遂げた功績が陰ることになる。

 ヴァンにとっては他国の戦力損耗の件だけが世間を飛び交ってくれた方が都合が良かった。そして総理から公表することもなさそうだ。世論を操作するのと引き換えに地位を失い、一生を刑務所で過ごすことになるのはベストな結果ではあるまい。

 この指示書は二人の利害の一致によって闇に葬られるようにデザインされている。敵ながらあっぱれと言う他ない。

「……しかしそこまでしますかね、総理。自分が死ぬパターンや投獄されるパターンまで用意していたとは……」

 彼は自分の命にも地位にもこだわらず、この国をこの国のまま維持しようとしている。もはや何重かも分からないほど複雑な計画を考案してまで。その妙な熱意には頭が下がるとすら言っていいかもしれない。

「私なりに信念があるんだよ」

 総理は得意げに鼻を鳴らした。

「君が私をどう思っているのか知らないがね、私だって平和を愛しているんだよ。今日だって君が全て未遂で済ませてくれたことについては感謝しているくらいだ」

 皮肉や強がりではないと、ヴァンは直感した。彼は普段の人を食ったようなニヤケ顔はせず、ただただ真摯にヴァンの目を見つめていた。

「君はこの国が変われば世界が平和になるというがね、私はとてもそう思えない。多少こちらが反省の色を見せたところで、ウィルクトリアに三百年間に渡って虐げられてきた国々から憎しみが消えることはないよ」
「……」
「我々が他国から財産を吸い上げているのも三百年前の世界大戦の恨みが動機だ。あの卑怯で悲惨な戦争のな」

 ウィルクトリアが横暴な振る舞いをするに至ったのは、それなりの理由がある。

 正確には三百二十六年前。北と南は壮絶な争いを繰り広げていた。ウィルクトリアは平和主義を訴え、どちらの陣営にも与しなかった。

 しかし、大海の孤島という立地に目をつけられた。両陣営は海上の拠点欲しさにウィルクトリアを奪い合うように蹂躙し、実に人口の六割もの人々が殺されたのだ。ルーダス・スナキアがファクターへと覚醒するという奇跡が起こらなければ間違いなく滅びていただろう。

「……しかし総理、やりすぎた仕返しのせいであの”終末の雨”が起きたんです。もはやどちらが悪いなんて論じる意味はありません。憎しみの連鎖を止めなければまた悲劇が起こります」

 ヴァンは懇願する。

「もうやめましょう、総理。”終末の雨”で唯一の肉親である父を失った俺からの頼みです」
「……」

 この連鎖は最後に被害を受けた者が相手を許すまで止まらない。ヴァンはその役を担おうとしている。

「……私は君より現実主義だ。どうあろうと人間から憎しみという感情が消えることはない。それを受け入れた上で平和を目指すんだ。スナキア家という強大な力によって全ての憎しみに強制的に蓋をする。それで戦いを未然に防ぐ。それが一番だ。それこそが唯一の世界平和なんだよ」
「……あなたにも正義はあるというわけですか」

 方法が違うだけで目指すものはヴァンと同じ、平和だった。そしてヴァンは、彼の主張を根底から否定するような言葉を持っていなかった。世界が憎しみに包まれているのは紛れもない事実なのだ。

「ハハ、私の命一つで実現するなら安いものだろう?」

 総理は平然と笑った。彼には並はずれた使命感、行動力、決断力がある。だからこそ怖い。もし彼がヴァンに後継が「できない」のだと知ったら、スナキア家はもう消えると知ってしまったら、きっと彼は他国を全て滅ぼすという決断を下すだろう。合理的に、強い意思で。

 だが、目標が同じだというのなら────、

「……我々はもっと上手く付き合えないもんですかね」

 ヴァンは苦笑しながらポツリと漏らした。

「ハハ、敵すら愛そうとするのは君の悪い癖だよ」
「愛しているのは妻だけですよ」
「そこが実に厄介だねぇ……。愛妻家の君のことだ。どうせ誘拐だってでっち上げなんだろう?」

 敵対していた相手と友好関係を築く。この国が今後やらなければならないことだ。それは確かに困難だが、やり遂げればきっと悪くないものだと感じるはずだ。ヴァンはそう信じている。

「……ヴァン君。これで勝ったと思わないことだね。君はウィルクトリア軍の強さを示した。それがどんなリスクを生むか気づいていないわけではあるまい」
「……」

 ヴァンはスナキア家抜きでも成立する国を目指すことを国民に同意させるために、軍がヴァンに代わって国防を果たせると示さなければならなかった。軍に力を与えなければならなかった。だが、

「軍が本当に君の代わりになるのであれば、、という未来もあり得るのだよ」

 根拠をスナキア家から軍に切り替え、現体制を維持する。それは最悪の未来だ。

「……だからこそ、あなたの失脚は必須なんですよ総理」

 鍛えた軍は真っ当な政権に預けなければならない。それができなければ、本日ヴァンがやり遂げたことは絶望の始まりへと転じてしまう。本当の勝負はこれからだ。

「……そろそろ失礼しますね。世界の総攻撃を受けなければならないので」
「そうかい。まあほどほどに相手してやってくれ」

 ヴァンは総理に背中を向け、確認する。

「次は選挙で勝負ですね」
「いや、その前に色々仕掛けるよ。方法はまたじっくり考える」
「あーそーですか」

 ヴァンはこれ見よがしにうんざりした表情を見せつけ、公海上にテレポートした。


 ────全世界からの集中ミサイル攻撃は、特筆すべきことは何もないまま呆気なく終了した。予定通り世界はヴァンの思うままに動き、攻撃の術を消耗し尽くした。その間ヴァンは暇で暇でたまらず、度重なる分身ですっかり頭が疲れてしまったことも相まって、妻たちの笑顔ばかり思い浮かべていた。
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