ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ

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第06話 ざまあみろ、ウィルクトリア(過去編)

08.共に生きる

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 食卓に並べられた温かい料理たち。

「ジル、ど、どうして……?」
「え?」
「働かなくたっていいんだぞ? 使用人として残したつもりじゃ……」
「やらせてください! 父にご飯を作っていたので、ある程度ならできます!」

 ジルーナは自信満々に袖を捲った。昨夜まで泣きじゃくっていたというのに、驚いたことに笑顔すら見せた。

 空元気だろうか。同じく唯一の肉親を失ったヴァンの手前だからと、無理に明るく振る舞おうとしているのかもしれない。

「ジル、大丈夫なのか?」

 ヴァンの問いかけにジルーナは一瞬目を見開き、申し訳なさそうに首の後ろを撫でていた。

「……平気です。あ、もちろんまだ悲しいですけど、今朝起きたら昨日より体が軽かったんです。どうしてかなって考えたんですけど……、ヴァン様のおかげでした」
「……?」
「私が泣いていたのは多分、二つ理由があったんです。父を失ったことと、一人になってしまったこと。でも一つはヴァン様が解決してくれましたから」

 彼女は改ってペコリと頭を下げた。ヴァンが放った「君と俺で二人」という言葉が、彼女の痛みを和らげていたようだ。

「……そうか。じゃあ俺も一つは解決だな。君のおかげだ」
「そ、そんな……」

 同じ立場の人間が居ることが彼女の救いになったらしい。それはヴァンも同じだった。ヴァンは自分で言ったのだ。俺たちは一人じゃないのだと。孤独ではないのだと。

 ヴァンの中で一つの願望が芽生えた。小さい頃から家のため・国のためと些細なことでも願いを口にするのを控えてきたヴァンにとって、それを彼女に伝えるのは勇気が必要だった。

 だけど、どうしても言いたかった。

「ジル、君さえ良ければ、本当にここに残ってくれないか?」
「え……?」

 彼女にはそばに居てほしい。ジルーナはヴァンと同じこの国の歪みの被害者だ。この国を生まれ変わらせる様を、隣で見ていてほしかった。

「俺はこれからやらなきゃいけないことが沢山ある。正直言って、支えてくれる人が居た方がありがたいはありがたい」
「やらなきゃいけないこと……?」
「この国に健全な体制を作る。そして世界との和睦を果たすんだ。もうあんな悲劇が起こらないよう──」

 まだ言い切らない内にジルーナが身を乗り出して、目を輝かせていた。

「私に手伝わせてください! ヴァン様がいつでも力を発揮できるように、私がヴァン様を支えます!」

 ジルーナも胸に期するものがあるのだろう。あまりの前のめりさにヴァンは面食らった。その反応で照れくさくなったのか、ジルーナは顔を伏せてエプロンにできたシワを払う。

「でも、私がここに居座るなんて……、可能なんですか? ヴァン様も私も、その……」

 子どもが子どもを引き取るなんて変な話だ。一工夫必要になる。

「架空の人物を作ってジルの保護者になってもらおう。手筈は整えておく」

 細かいことを言えば諸々問題はあるが、今のヴァンならある程度の無茶は通せる。

「一応周囲には内緒にしてくれ。給料はちゃんと払うが、使用人として働くというより自分が生活するついでに少し俺の分もやってくれるくらいの感覚でいい。君も学校があるだろうし無理のない範囲でな」
「は、はい。色々お手間かけて申し訳ありません」
「いいんだ。君に居場所を作れるなら俺も嬉しい」
「ヴァン様……」

 ジルーナの尻尾が力なく揺れ、猫耳の先が垂れ下がる。ビースティアという種族は感情が尻尾と猫耳に現れるらしい。愛らしくてつい口元が緩みそうになる。

 かと思いきや、突然猫耳がピンと立った。

「あ! ヴァン様、ご飯召し上がってください!」
「あ、そうだったな。ありがとう、頂くよ」

 ヴァンは促されるまま着席し、スプーンとフォークを手に取った。しかしその様子を立ったまま見守っているジルーナが気になり再び立ち上がった。

「君の分もあるんだろ? 一緒に食べよう」
「え? で、でも……」
「いいから」

 ヴァンは対面の椅子を引いて強引に彼女を座らせる。変に遠慮されたくなかった。彼女とは主従関係を結んだんじゃない。共にこの国に立ち向かう相棒になって欲しいのだ。

「いただきます」
「は、はい」

 ジルーナの不安そうな視線を受けながらスープを一口啜る。心の底から温められるような安心する味だった。

「美味しい……」

 感想が自然と口から漏れた。これから家に帰るたびこのご飯が待っていると思うと救われる。

「本当ですか⁉︎ ありがとうございます!」

 ジルーナは誇らしげに胸を張ったあと、自分でもスープを一口。なかなかやるじゃん私とばかりに満足げに頷いていた。気丈な人だ。まだ辛いはずなのに、これだけ明るく……。

「ヴァン様、それで、具体的にはこれから何をしていくんですか? 私にできることはあるでしょうか?」

 回答に詰まる。どこまで事情を話していいものか。……共に戦ってくれる相手だ。できるだけ誠意ある説明をしよう。

「目標は改革と和平を目指す政府を樹立することだ」
「ってことは、ヴァン様が総理を目指すんですか?」
「いや……、スナキア家の党首には被選挙権がないんだ。権力の集中を防ぐって名目でな」

 つくづく思う。自分は国家の奴隷だと。政権を握られている以上このルールを書き換えることもできまい。だが、戦い方はある。

「ジル、まずはこれを君に知っておいてもらいたい。今の政府は、俺が反抗的な態度を取れば世界を滅ぼすつもりだ」
「えぇ……⁉︎」

 ジルは両手で口を覆った。絶対に秘密にと言い添えると、彼女は無言でうんうん頷いた。

「そのせいで話がややこしくなる。本当は無理矢理にでも他国に恨まれる原因である賠償金の請求を止めたいところなんだが……、他国を利用できないのであればさっさと消してしまおうと考えるだろう」
「そんな……」
「回り道だが、この国を変えるには民主主義的な方法を取らなきゃいけないんだ」

 国民の意識を変えることから。しかし、その道は険しい。

「だが、現状この国には働く場所すらない。働いて自分の稼ぎで暮らすという生活を実現可能なものにしない限り国民はついてこないと思う」

 この国にある職は軍、警察、消防などファクターが魔法を活かして働くものが中心だ。公務員や国防上他国民には任せられない業務を担う企業もあるが枠は少なく、他は趣味感覚で経営されている小規模な企業くらいで雇用を生みづらい。

 政府には対策を打つ気も企業や人材を育てる意思もない。むしろ労働など下賎な他国民の役割だと喧伝し、その価値観は国民に深く浸透している。

「困ったものですね……。ヴァン様ばかりを働かせているというのに……」

 ジルーナは不満そうに頬を膨らませる。俺はその表情に救われた。分かってくれる相手がいるだけで随分心が軽くなるものだ。

「国内企業が育つ土壌を整えて雇用を産む。そして経済発展と共に段階的に搾取を減らしていく。その先にやっと他国との和解がある。……現実的にはそういう順番になる」

 回りくどくて歯痒い。ジルーナに平和な世界を見せてあげられるまで一体どれほど時間がかかるか。

「ヴァン様が国の人たちに訴えればきっとみんな変わってくれると思います! ヴァン様は英雄ですから!」
「そうだといいんだけどな」

 ヴァンは照れ臭くなり、誤魔化すようにスープを一気飲みした。

「……でも、俺の方針を発表するのもまだ早計だ。俺が和解を望む姿は外国から『白旗を挙げた』と見られる恐れがある。付け入る隙があると判断されたら再撃を受けるかもしれない」
「そんな……」

 諸外国の敵意は凄まじい。この国には外国人労働者が大勢いるにも関わらずミサイルを撃ち込んできたくらいだ。どんな犠牲を払ってでもウィルクトリアを更地にするという強い覚悟を感じる。わずかな隙も見せるべきではない。

 何より、────ヴァンは今力を失っている。

 少しでもリスクは避けなくては。またあの規模の攻撃が来たらヴァンには逃げることすらできないし、国民は全滅する。……これはジルーナには言えないな。不安にさせたくない。

「しばらくは修行に専念して圧倒的な力をつける。戦争を起こすのがバカらしくなるくらいにな。表立って動くのはその後だ」

 皮肉なものだが、世界を平和にするためには世界を蹂躙できるほどの強さを備えることが前提になる。当面は失った力を取り戻すことに集中しなくては。さらに、

「政府や国民を納得させ動かせるだけの知識も必要だ。十二歳の俺が何を言っても、世間知らずのガキが吠えているだけだと思われるかもしれないからな」

 事実自分はまだ自分が何を知らないのかも知らないほど未熟だ。説得力を身につけるまで勉学にも励まなければならない。

「そうだな……三年、三年間で国を動かすに足る人間になる。ジルにはしばらく待たせてしまうが……」
「い、いえ。逆にたった三年で足りるんですか?」
「ああ、俺には分身魔法がある」

 幸いにしてヴァンは世間と時間の流れが違う。分身を十人使いこなすことができれば三年は実質三十年だ。

 一つだけネックになるとしたら──、

「三年間ほとんど常に分身していることになると思う。あれは消耗が激しい。君にはいつも大量の食事を用意してもらわないといけなくなる。あ、いや、自分でもなるべくなんとかするが」
「任せてください!」

 ジルーナは自分にできることを見つけたのが嬉しいらしく、声を弾ませていた。

「ありがとう。……あ、そうだ。これは言っておかないと。俺はキノコが食べられないんだ」
「え?」
「す、好き嫌いじゃないぞ。アレルギーなんだ」

 ヴァンが釈明すると、彼女は堪えきれないとばかりに頬を緩ませた。

「……フフ、何だか、ヴァン様の弱い部分を初めて見つけた気がします」

 ジルーナは目を細めてくしゃっと笑った。ヴァンは急に恥ずかしくなって思わず目を逸らす。だが、こんな風に笑う彼女がずっとそばにいてくれるなら、きっと何があっても乗り越えられる。
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