117 / 117
第08話 絡みつく変態の魔の手
16.かっこよかったよ、お姉ちゃん
しおりを挟む
***
「そんでな! ミオ姉が言ったんだ! 『さあ、早く行って!』って!」
スナキア家共用キッチン。
忙しなく働いているシュリルワとヒューネットに構いもせず、ユウノはミオの勇姿を嬉々として語っていた。食べ放題でお腹が満たされているため、料理の匂いを間近で受けてもビーストモードの心配はない。
「財布をグッて押し付けてさ! すっげえピンチなのにずっと冷静でさ! 格好良かったんだぜ!」
お姉ちゃんに守ってもらい、お腹いっぱい食べさせてもらい、ユウノにとって大満足の一日となったらしい。
シュリルワは手際良くにんじんを千切りしながらユウノの話を聞いていた。
「アイツは修羅場くぐってるですからね。ピンチのときだけは頼りになるです」
シュリルワはまるで自分のことのように誇らしげに微笑み、ミオが秘密通路で死ぬほど凹んでいた姿を思い出してさらに笑った。無事名誉挽回できたようで何よりだ。
「元スパイなんだもんな。そんなの格好良すぎるぜ……!」
ヒューネットがお鍋を取り出しながら頷いて同意を示す。
「ミオすっごい似合うよねっ。”元スパイ”って言葉っ。やっぱピチピチの黒いスーツ着てたのかなっ?」
「フフ、かえって目立つですそんなの。アイツエッロい身体してるですし」
「へへっ、明日スパイだったときの話いっぱい教えてもらうんだ!」
笑顔いっぱいのユウノ。シュリルワは調理を進めながら顎で二階を指す。
「明日と言わず今聞きに行ったらどうです? ちやほやしてやったら喜ぶですよ?」
見せ場を作れて大喜びしているはずだ。きっと今後二週間くらいはドヤ顔し続けるだろう。シュリルワに対して「私の方がお姉さんだからね」としつこく主張してくるだろうが、今回ばかりは素直に肯定するつもりだ。
「んー、それが『今日はやることがある』って言われちゃってさ」
「やること?」
「よくわかんねぇんだけど、『まずはレポートから片付けてから』とかなんとか……。車で迎えに来てくれたときから様子がおかしかったんだよな。ずーっとぶつぶつ何か言ってたし」
「んー……?」
────噂をすれば、廊下からヒタヒタと弱々しい足音。ミオ本人がキッチンに現れた。
「あ、ミオ。お疲れです。話聞いたですよ」
シュリルワはどうぞ自慢話をしてくれとパスを出してみる。しかしミオの表情は曇っており、髪がぐしゃぐしゃになっていた。
「レポート……終わったわ……ヴァンさんに悪いからかなり加減しておいてあげたわぁ……」
「な、何言ってるです……?」
訳のわからないことを掠れた声で漏らす。どうも様子がおかしい。きっと余程のピンチで疲れたのだろうと思い、シュリルワはユウノに提言してみる。
「ユウノ。やっぱりデステニーランドはミオを連れてったらどうです? シュリとはまた今度行くです」
「あ、いいか? でもミオ姉絶叫系ダメなんだよな……」
ユウノは困ったように後頭部をかいた。終わり良しとはいえ今日は趣味が合わないばかりにお互い損をしてしまったのだ。同じことは繰り返したくないだろう。
しかし遠慮がちなユウノをよそに、ミオはユウノの両肩を力強く掴み、血走った目を真っ直ぐ向けて宣言した。
「絶叫系くらい平気よ……! もう何も怖いものなんてないわぁ……!」
「お、おう……?」
決死の形相にユウノは眉根を寄せて困惑していた。事情は分からないが、ミオとユウノの趣味が合わないという問題は若干解決したらしい。
ミオは静々とシンクに近寄り、か細い声でシュリルワに尋ねた。
「シュリちゃん。……エルちゃんがどこにいるか知らない? お部屋にいなかったのよ」
「エル……? あぁ……!」
エルリアの名前を聞き、シュリルワの中で全てが繋がった。車、検問、エルリアが車の中に隠していたという恐ろしい物品。
「……そりゃあとんでもないピンチなはずです」
「あ、聞いてるの? ちびっ子たちには絶対内緒よ……!」
「も、もちろんです。口が裂けても言えんです」
二人が小声で確認し合うのを、横でヒューネットが不思議そうに聞いていた。きっと真相を知ったらひっくり返って数日寝込むくらいのショックを受けるだろう。
そして、さりげなくシュリルワを「ちびっ子たち」から外したミオの言葉に、シュリルワはようやく分かったかと鼻を鳴らした。お姉さんチームの一員として、チームメイトに密告する。
「エルはさっき作業着着てたです。お部屋をリフォームするとか何とか」
ぜひあの変態にはお灸を据えてもらわねばならない。「怒ると超怖い」と噂のミオの力、存分に発揮してもらおう。
「リフォーム……じゃあ……床下ね……!」
ミオは目当てをつけ、よろよろとキッチンを去っていった。
────一分後、エルリアの悲鳴がキッチンにも届いた。
「そんでな! ミオ姉が言ったんだ! 『さあ、早く行って!』って!」
スナキア家共用キッチン。
忙しなく働いているシュリルワとヒューネットに構いもせず、ユウノはミオの勇姿を嬉々として語っていた。食べ放題でお腹が満たされているため、料理の匂いを間近で受けてもビーストモードの心配はない。
「財布をグッて押し付けてさ! すっげえピンチなのにずっと冷静でさ! 格好良かったんだぜ!」
お姉ちゃんに守ってもらい、お腹いっぱい食べさせてもらい、ユウノにとって大満足の一日となったらしい。
シュリルワは手際良くにんじんを千切りしながらユウノの話を聞いていた。
「アイツは修羅場くぐってるですからね。ピンチのときだけは頼りになるです」
シュリルワはまるで自分のことのように誇らしげに微笑み、ミオが秘密通路で死ぬほど凹んでいた姿を思い出してさらに笑った。無事名誉挽回できたようで何よりだ。
「元スパイなんだもんな。そんなの格好良すぎるぜ……!」
ヒューネットがお鍋を取り出しながら頷いて同意を示す。
「ミオすっごい似合うよねっ。”元スパイ”って言葉っ。やっぱピチピチの黒いスーツ着てたのかなっ?」
「フフ、かえって目立つですそんなの。アイツエッロい身体してるですし」
「へへっ、明日スパイだったときの話いっぱい教えてもらうんだ!」
笑顔いっぱいのユウノ。シュリルワは調理を進めながら顎で二階を指す。
「明日と言わず今聞きに行ったらどうです? ちやほやしてやったら喜ぶですよ?」
見せ場を作れて大喜びしているはずだ。きっと今後二週間くらいはドヤ顔し続けるだろう。シュリルワに対して「私の方がお姉さんだからね」としつこく主張してくるだろうが、今回ばかりは素直に肯定するつもりだ。
「んー、それが『今日はやることがある』って言われちゃってさ」
「やること?」
「よくわかんねぇんだけど、『まずはレポートから片付けてから』とかなんとか……。車で迎えに来てくれたときから様子がおかしかったんだよな。ずーっとぶつぶつ何か言ってたし」
「んー……?」
────噂をすれば、廊下からヒタヒタと弱々しい足音。ミオ本人がキッチンに現れた。
「あ、ミオ。お疲れです。話聞いたですよ」
シュリルワはどうぞ自慢話をしてくれとパスを出してみる。しかしミオの表情は曇っており、髪がぐしゃぐしゃになっていた。
「レポート……終わったわ……ヴァンさんに悪いからかなり加減しておいてあげたわぁ……」
「な、何言ってるです……?」
訳のわからないことを掠れた声で漏らす。どうも様子がおかしい。きっと余程のピンチで疲れたのだろうと思い、シュリルワはユウノに提言してみる。
「ユウノ。やっぱりデステニーランドはミオを連れてったらどうです? シュリとはまた今度行くです」
「あ、いいか? でもミオ姉絶叫系ダメなんだよな……」
ユウノは困ったように後頭部をかいた。終わり良しとはいえ今日は趣味が合わないばかりにお互い損をしてしまったのだ。同じことは繰り返したくないだろう。
しかし遠慮がちなユウノをよそに、ミオはユウノの両肩を力強く掴み、血走った目を真っ直ぐ向けて宣言した。
「絶叫系くらい平気よ……! もう何も怖いものなんてないわぁ……!」
「お、おう……?」
決死の形相にユウノは眉根を寄せて困惑していた。事情は分からないが、ミオとユウノの趣味が合わないという問題は若干解決したらしい。
ミオは静々とシンクに近寄り、か細い声でシュリルワに尋ねた。
「シュリちゃん。……エルちゃんがどこにいるか知らない? お部屋にいなかったのよ」
「エル……? あぁ……!」
エルリアの名前を聞き、シュリルワの中で全てが繋がった。車、検問、エルリアが車の中に隠していたという恐ろしい物品。
「……そりゃあとんでもないピンチなはずです」
「あ、聞いてるの? ちびっ子たちには絶対内緒よ……!」
「も、もちろんです。口が裂けても言えんです」
二人が小声で確認し合うのを、横でヒューネットが不思議そうに聞いていた。きっと真相を知ったらひっくり返って数日寝込むくらいのショックを受けるだろう。
そして、さりげなくシュリルワを「ちびっ子たち」から外したミオの言葉に、シュリルワはようやく分かったかと鼻を鳴らした。お姉さんチームの一員として、チームメイトに密告する。
「エルはさっき作業着着てたです。お部屋をリフォームするとか何とか」
ぜひあの変態にはお灸を据えてもらわねばならない。「怒ると超怖い」と噂のミオの力、存分に発揮してもらおう。
「リフォーム……じゃあ……床下ね……!」
ミオは目当てをつけ、よろよろとキッチンを去っていった。
────一分後、エルリアの悲鳴がキッチンにも届いた。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
シスターヴレイヴ!~上司に捨て駒にされ会社をクビになり無職ニートになった俺が妹と異世界に飛ばされ妹が勇者になったけど何とか生きてます~
尾山塩之進
ファンタジー
鳴鐘 慧河(なるがね けいが)25歳は上司に捨て駒にされ会社をクビになってしまい世の中に絶望し無職ニートの引き籠りになっていたが、二人の妹、優羽花(ゆうか)と静里菜(せりな)に元気づけられて再起を誓った。
だがその瞬間、妹たち共々『魔力満ちる世界エゾン・レイギス』に異世界召喚されてしまう。
全ての人間を滅ぼそうとうごめく魔族の長、大魔王を倒す星剣の勇者として、セカイを護る精霊に召喚されたのは妹だった。
勇者である妹を討つべく襲い来る魔族たち。
そして慧河より先に異世界召喚されていた慧河の元上司はこの異世界の覇権を狙い暗躍していた。
エゾン・レイギスの人間も一枚岩ではなく、様々な思惑で持って動いている。
これは戦乱渦巻く異世界で、妹たちを護ると一念発起した、勇者ではない只の一人の兄の戦いの物語である。
…その果てに妹ハーレムが作られることになろうとは当人には知るよしも無かった。
妹とは血の繋がりであろうか?
妹とは魂の繋がりである。
兄とは何か?
妹を護る存在である。
かけがいの無い大切な妹たちとのセカイを護る為に戦え!鳴鐘 慧河!戦わなければ護れない!
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
貞操逆転世界に転生したのに…男女比一対一って…
美鈴
ファンタジー
俺は隼 豊和(はやぶさ とよかず)。年齢は15歳。今年から高校生になるんだけど、何を隠そう俺には前世の記憶があるんだ。前世の記憶があるということは亡くなって生まれ変わったという事なんだろうけど、生まれ変わった世界はなんと貞操逆転世界だった。これはモテると喜んだのも束の間…その世界の男女比の差は全く無く、男性が優遇される世界ではなかった…寧ろ…。とにかく他にも色々とおかしい、そんな世界で俺にどうしろと!?また誰とも付き合えないのかっ!?そんなお話です…。
※カクヨム様にも投稿しております。内容は異なります。
※イラストはAI生成です
洗脳機械で理想のヒロインを作ったら、俺の人生が変わりすぎた
里奈使徒
キャラ文芸
白石翔太は、いじめから逃れるため禁断の選択をした。
財閥令嬢に自作小説のヒロインの記憶を移植し、自分への愛情を植え付けたのだ。
計画は完璧に成功し、絶世の美女は彼を慕うようになる。
しかし、彼女の愛情が深くなるほど、翔太の罪悪感も膨らんでいく。
これは愛なのか、それとも支配なのか?
偽りの記憶から生まれた感情に真実はあるのか?
マッチポンプ(自作自演)の愛に苦悩する少年の、複雑な心理を描く現代ファンタジー。
「愛されたい」という願いが引き起こした、予想外の結末とは——
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる