就職に困った魔法使い、チーター討伐の職に就きました。

ステンレス

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1章 馬鹿とハサミは…

1話 その属性の魔法使いはうちでは受け入れてないんだよ。

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「~と、言う感じで、えー御社の理念が…その…理念に」
「そうですか。それではこれにて選考終了です。お疲れ様でした。」

「まだ喋ってる途中ですよ!…えっとぉ、温かくアットホームな職場のイメージに…」
「お引き取りください。」

「待ってください!こんなに熱心な若者を手放すなんて愚の骨頂ですよ!そうやって企業の新陳代謝が悪くなって弱体化して行くんでしょうが!」
「まともに志望理由すら答えられないで何が“熱心な“だ!お前の何がダメか言ってやろう、何がダメか分かってないところだ!!帰れ!」
「いや、ほんとに待ってください…。ここに落ちたらもう後が無いんですぅ…。」

見ての通り、俺は今人生をかけた就活に励んでいる。ちょっと状況は芳しくないが、ここが正念場、諦めるわけには……

「結局それが本音か!!…もういい、では最後のチャンスをくれてやる。君の得意な魔法を披露しなさい。それぐらいのアピール材料の用意はあるのだろう?」

くくくっアピール材料だと?勿論あるに決まっている。

「ふふふ、いいでしょう!これを見てください!!」

俺はポケットから水の小瓶を取り出し、蓋を開け、床に水を流す。

「しかと見よ!!これが俺の能力だ!!」

ピシッ!!
水が小瓶から流れ落ちると同時に凍結し、ミニチュアな滝を形作る。

決まった、成功だ……。
溢れる笑いを堪えるのはもう限界だった。
目の前の面接官も驚きの余り呆然とした表情だ。
手応えアリッ!これで無職回避
「ちょっと」
  ん?
「それだけ?」
  え?
  ーその日の記憶は、
     ここで途切れているー

『翌日』


青年はふらふら街を歩いている。
彼はただただ落ち込んでいた。
最早気分の沈みきった彼の目には映らないが、チーターだの暴動だのと慌ただしい他の都市と打って変わって、ここでは今日も魔法使いたちが元気に労働する。

青年が住むのは世界の中枢たる都市、センテル。
地方から都市へ出てきたはいいが、アルバイトも長く続かなかった彼の自堕落な学生ニート生活は地元の両親のスネをこれでもかと齧ることで成立していた。

学生の身分を笠に物事を後回しにする努力は惜しまなかったため、彼の一人暮らしの部屋は非常に清潔に保たれている。

そして今、彼の頭の中は地元の両親へのメンツを如何するかでいっぱいだった。

(いや、全ては手遅れだ。もう俺には死ぬしか選択肢がないのでは?
……死ぬなら明日がいいな、なんかお腹減ったし。うん。明日死ぬから今日は遊ぼう。)

彼は物事を後回しにする努力を惜しまない。

今日も今日とてとある研究所に向かった。
「こんにちはー。マインでーす。マンガ読みに来ましたー。」
扉を勢いよく開け、彼はウィズ博士の研究所を訪ねる。

「うるさいッ!!今集中してるんだから静かにッ!!」

魔女の形相で睨むこいつはリサ、ついに学生生活十数年を共に過ごし、かと思いきや俺より数年早く大学を出てこの研究所で助手をしている才女(マッドサイエンティスト)だ。あと顔がいい。でも怖くはないんだ。こう見えて根が善良な奴なのは知っているから。

「あっ、すみません。でもお前の方がうるさ、あっ、いえ、何でも。」
決してビビってない。

「今日はお前しかいないんだな。ウィズさんは?講演会の仕事でもあったっけ?って、あるわけないか。」

ここに来た目的であるマンガ数冊を本棚から取り出し近くの椅子に座る。

「失礼なヤツ。転移魔法業界も最近は忙しいのよ。何せいきなり侵略者が現れた街があるってんだから。…ってあんたそ何で当然のように博士の椅子に座ってんのよ。ムカつくから降りなさい。」

ウィズさんは転移魔法専門の研究所をしている女性だ。
その生活力の無さは凄まじく28歳の現在まで恋人はいないと俺の中でもっぱらの噂である。胸もデカくて優しいお姉さんだけどね、胸もデカいし。
椅子の座り心地も最高だ。

転移魔法っていうのはその名の通り物質を転移させる魔法のこと。同じ質量の二つの物質の位置を入れ換えることができる。生き物は転移不可能だ。
あとこれは魔法全般に言えることなんだが、“使用者の質量を超えた魔力は存在できない“っていう法則がある。

実際、同じ質量を入れ換えるって条件があって、重いものほど魔力も必要になる。だからと言って転移する物質の質量は使用者の質量を超えられない。
そういう扱い辛さもあって転移魔法は魔法を使って働く必要性の低い金持ち御用達の魔法だとか言われていたから、講演会なんてごく稀にしかなかったように記憶する。

「金持ち御用達の魔法の講演を聴きに来る奴がいんのかよ?」

「あんたは失礼なこと言わないと死んじゃうの?その侵略者たちが転移魔法でワープするって噂よ。」

「転移魔法で?いやいや、生き物は転移できないって今説明したのに…ていうかそれができないのはお前が一番よく分かってるだろ。」

ウィズ博士の助手たるリサも当然転移魔法の研究者である。

「そんなの私に言わないでよ。目撃者が“あれは転移魔法の魔力体系だった“って証言したのよ。」

「見間違いってのが一番有力だよな。ワープに見えるぐらい速く動いたとか?」

「!!そう、それよ!私はさっきその実験をしてたの!」

「え、俺は冗談のつもりで言ったんだけど……相変わらず破天荒だな。んで、成功したのか?」

「誰かさんに邪魔されなきゃ恐らくね。」

そりゃ失礼しました。謝るからそんなに凄まないでくれ。

「ま、まあ実験は今からでもできるだろ。何か奢ってやるから許してくれよ。」

「ん、じゃ、じゃあ、今日夜ご飯一緒に食べるなら許してあげる。勿論奢ってもらうって意味で特段深い事情は無くて、だからその~」

ゴニョゴニョ言ってて聞こえませんけど。まあ多分いつもの晩飯奢れって奴かなあ。

…金あったっけ?俺が逆さにしても何故だかお金が落ちてこない財布を不思議に思ったその時だ。

ズドンッッッ!!!!

「なっ、何だ!?」
一体何が起きたんだ、落雷_?

「い、今の何の音…?」
「分からん、が、何にせよただ事じゃなさそうだ。外の様子がおかしいな。見てくる。」

研究所の外側は、最早別世界だった。

平和な街の姿は、どこにもなかった。

平穏は、その跡さえ残さず去った。


崩壊する街の熱が、死の気配が、やけに俺を

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