勇者と冥王のママは今日から魔王様と

蛮野晩

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Episode2・魔界の玉座のかたわらに

外遊という名の初めての家族旅行3

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 あっという間に三日が経過し、南都への旅立ちの日になりました。
 城の正門にフェリクトールやたくさんの士官や侍従や侍女たちが並んで見送ってくれます。

「フェリクトール、頼んだぞ」
「ああ、分かっている」

 フェリクトールは重く頷くと、次に私に向かって一礼します。

「くれぐれも粗相のないよう、魔界の王妃の自覚を持つように」
「はい、分かりました。フェリクトール様もよろしくお願いいたします」

 フェリクトールは頷いて、私が抱いているゼロスを見ました。
 今回、フェリクトールは留守役だけではなく、ゼロスが覚醒したことによって芽生えた新たな生命反応の調査も行なうのです。

「あーうー」

 手を伸ばして身じろぐゼロスに、フェリクトールはなんともいえない表情になりました。
 今、三界の水面下ではゼロスに関することで事態が大きく動こうとしています。

「こうしていると普通の赤ん坊だが。……勇者の時といい、今といい、ほんとうに」
「お世話おかけします」
「まったくだ」

 フェリクトールは大きなため息をつきました。
 彼には面倒を掛けてばかりです。

「では行ってくる。ブレイラ、行こう」
「はい」

 ハウストに促されてゼロスを抱っこして馬車に乗り込みました。
 イスラも続いて乗り込み、最後にハウストです。
 こうして私達は多くの臣下に見送られ、南都へ出発したのでした。




 ハウストの大規模転移魔法陣が発動し、長い隊列が南都を見下ろせる小高い丘に出現しました。

「これは綺麗な都ですね! まるで物語にでてくる都のようです!」

 馬車の窓に広がった南都の光景に思わず歓声をあげました。
 眼下に広がるのは、まさに水の都と呼んでも遜色ないものでした。
 都中に水路が張り巡らされ、水路には白い桟橋や吊り橋がかかり、白を基調にした建物が建ち並んでいる。都の中央にある白亜の宮殿は湖の上に鎮座するように建造されていて、水面に反射して映るそれはキラキラと輝いて見えました。

「南の領地は島が多いんだ。都の外にある街や村に行くにも橋が重要な経路になっている」
「そうなんですね。たしかに南都の外に向かって大きな橋がたくさんあります」
「開通式が行なわれる橋はあれだ。あの橋は南の領地全てに繋がっている」
「そんなに大きな橋なんですね。いえ、橋というより街道という感じですね」

 感心しながら遠目に大きな橋を臨みました。
 今回開通する橋は白銀に輝く巨大な橋。南の領地が後世に渡って誇る橋になることでしょう。

「オレもみる! どれだ!」

 イスラが私の隣からひょっこり顔をだす。
 あれですよと指をさすと、「おおきいっ」イスラは瞳を輝かせました。

「明日の開通式ではもっと近くで見られるぞ」
「それは楽しみですね」
「ああ、まず宮殿に行こう。今夜、リュシアンが歓迎の夜会を開く」
「夜会……。緊張します」
「もう何回か出ているだろう」
「何回出席しても慣れるものではありませんよ」

 言い返すとハウストが「それはすまなかった」と私の頬をひと撫でして言いました。
 隊列が宮殿に向かって進みだす。
 宮殿へ続く巨大な桟橋を渡っている時はまるで湖の上を進んでいるかのよう。
 そして宮殿の正門が開かれ、南の大公爵リュシアンを真ん中にして、南都の高官や士官たちの最敬礼で出迎えられました。
 宮殿前で馬車がゆっくり停車します。
 馬車の扉が開かれ、先にハウストが降りる。続いてイスラがぴょんっと飛び降りました。

「ブレイラ、ゼロスを」
「はい」

 抱いていたゼロスをハウストに預けると、次に手が差し出されます。その手に手を重ねてローブの裾を持ち上げながらゆっくりと馬車を降りました。

「ありがとうございます」

 ハウストにお辞儀し、ゼロスはまた私の腕の中へ。
 南都に着きましたよとゼロスに笑いかけ、出迎えのリュシアンや南都の高官たちに向き直ります。
 馬車から降りたった私達にリュシアンは最敬礼しました。

「魔王様、お待ちしていました」
「予定を急に変更して悪かった。フェリクトールには別件の仕事が入ってな」
「とんでもございません。魔王様に南都へ来ていただけるとは光栄の至り。時間の許す限りごゆるりとお過ごしください」

 リュシアンはそう言うと、次に私を見ました。
 私の側には勇者イスラ、腕の中には冥王ゼロス。二人とも子どもとはいえ神格の王、リュシアンは驚きを見せながらも私達にお辞儀します。

「勇者様、冥王様、この度は南都へようこそお越しくださいました。今回の旅路は魔王様の御子としておいでくださったと聞いています。ぜひお楽しみください」

 イスラとゼロスに柔和な笑みを浮かべて言いました。
 子ども好きというよりも、誰に対しても物腰柔らかな方なのでしょう。
 しかし私は忘れていません。初めて挨拶を受けた時に拒絶されたことを。リュシアンは私が王妃になることを快く思っていないのです。きっと今も。

「王妃様、ご機嫌麗しく」
「お会いできて嬉しく思います」
「勿体ない御言葉です」

 儀礼的な挨拶を交わしました。
 深々と頭を下げられていますが、それが表面的なものだと分かっています。

「それでは、夜会の時間まで迎賓館でお寛ぎください。ご案内いたします」

 リュシアンはそう言うと、ハウストと他愛ない雑談を楽しみながら迎賓館へ案内してくれたのでした。




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