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勇者と冥王のママは暁を魔王様と
第六章・世界に二人きり11
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「ハウスト、今、人間界はどうなっているんですか? 私とイスラは人間界にいる間、多くの人間が西に向かっているのを見ました。信仰者として西に向かった者だけではありません。教団を滅ぼそうと軍を送ろうとしている国もあります」
「俺のところにも報告はあがっている。武力衝突が起これば教団は勇者の左腕を使うはず。そうなると西で起こるのは一方的な殺戮だ」
私も頷いて、震えそうになる指先を強く握り締めます。
特殊な方法で奪われた勇者の左腕は勇者の力を宿しています。それは教団が強大な勇者の力を得ているということ。
「イスラの力を利用するなんて許せません」
「そのことだがイスラの左腕が元に戻るかもしれない」
「えっ、えええ?! も、元に戻るって、それは、まさかっ……」
問いかける声が震えました。
元に戻るとは、それは、まさか、イスラの左腕が元の状態に戻るということ……?
ハウストを凝視すると、彼が肯定を込めて頷いてくれる。
「ああ、イスラの左腕は人間界の古い禁術によって奪われた。禁術についての調査結果が出たぞ。やはり今もイスラの患部と奪われた左腕は繋がっている。腕を取り返すことが出来れば元に戻すことができるぞ」
「っ、うっ、うぅ~っ……!」
胸がいっぱいになって涙が込み上げました。
視界が滲んで、抱っこしているゼロスをぎゅっと抱きしめて顔を埋めます。
「ブレイラ、どうしたの?」
肩を震わせている私にゼロスが不思議そうに聞いてきました。
涙が溢れそうになって、抱っこしているゼロスに顔を押し付けてぐりぐりします。
「わああ~、くすぐったい~!」
ゼロスがきゃあきゃあ歓声をあげるので、もっと顔をぐりぐりしてやります。
何度もぐりぐりぐりぐりして、涙が引っ込んで、なんだか楽しくなって、むくむくっと強気な気持ちが湧いてきます。その気持ちの名前は、希望。
「イスラの腕が元に戻るかもしれませんっ。いいえ、必ず戻りますっ……!」
私は顔を上げて、強気に笑って言いました。
そんな私にゼロスの顔もキラキラと輝きだす。
「ほんと?! あにうえ、いたいのなくなるの?!」
「はいっ、頑張ればイスラの腕が元に戻るのです!」
「やったー! あにうえ、げんきになる!」
「はいっ、元気になります!」
嬉しくなって力強く頷きました。
必ずイスラの腕を取り戻したいです。私はイスラの髪一本から爪の欠片にいたるまで誰にも奪われたくありません。誰にも、絶対!
「ハウスト、教団からイスラの腕を取り戻したいです! イスラは勇者なので人間を救うことを優先するでしょう。それなら私がっ」
「――――俺とお前だ。俺とお前で取り戻すぞ」
ハウストが私を見つめて言いました。
その言葉は予想もしていなかったもの。
突然過ぎて驚いた私に、ハウストが少し面白くなさそうな顔をします。
「なんだ、違うのか」
「ち、違いませんっ! 違いませんが、でもあなたは魔王じゃないですか、だからっ……」
ハウストはイスラの父親ですが、魔王という立場を考えると大々的に関わることは難しい。むしろ魔界を守る為に関わらない選択をすることが魔王として正解のはず。
勇者の腕が奪われたことも、教団が人間界の統一を企んでいることも、すべては人間界の問題です。それ以外の世界は自世界の守りを強固にし、波及を防ぐだけでいいのです。
むしろ今までの時代はそうだった筈で、別の世界のトラブルにわざわざ関わろうとする四界の王などいませんでした。四界はいにしえの時代から不可侵状態が当たり前なのですから。
「たしかに俺は魔王だ。だがイスラの親だろ。魔王が人間界に深く関わることは褒められたことではないが、……俺にも少しくらい無茶させろ」
そう言ってハウストは私に顔を近づけたかと思うと、ちゅっ。唇に口付けられました。
不意打ちのそれに目を丸めるも、彼は至近距離で私を見つめたまま少しだけ怒った顔を作ります。
「お前ばかりずるいぞ」
「ず、ずるい……? ……なんですか、いきなり」
私は顎を引いて、上目にハウストを見つめました。
口付けは嬉しいけれど、ずるいとはどういう意味です。
でもハウストは呆れたようなため息を一つ。
「お前もイスラも、もう少し俺を頼ったらどうだ。俺は結構強いし役に立つぞ。甲斐性だってあるつもりだ」
「ハウスト、あなた……」
ハウストの言葉にじわじわと胸が熱くなりました。
ハウストはふっと笑うと、私を見つめたまま続けます。
「俺は魔王で、易々と魔界以外のことには関われない。だが、お前は俺の妃で、イスラは俺の息子だ。父親としてなら関わってもいいだろ」
ハウストはそこまで言うと、「そうだな、フェリクトール」とフェリクトールに話しを振りました。
私も見るとフェリクトールは苦々しい顔で舌打ちします。
いったいどうしたのかと首を傾げましたが、なりゆきを見ていたジェノキスが笑いながら入ってきました。
「じいさん、諦めろよ。ブレイラにあれ見せた方がいいんじゃねぇの? 後で知られたら面倒だぜ?」
「じいさんとは誰のことだ」
フェリクトールは不機嫌に言い返しながらも苦々しい顔をしています。
私だけが分かっていないようで、ハウストとジェノキスは「早く出せ」とフェリクトールをせっついていました。
「あの、フェリクトール様、いったい……」
「…………魔界の王妃宛てにね、招待状が届いたんだよ」
「私に?」
「ああ、渦中の相手からだ」
そう言ってフェリクトールが手紙を差し出してくれました。
私は抱っこしていたゼロスを下ろして受け取ります。
差出人の名は、――――ナフカドレ教団・大司教ルメニヒ。
私は息を飲んで、招待状の文面を読みました。
時候の挨拶から始まった招待状は一見すると丁寧な文面に見えます。しかし……。
「……いい度胸してるじゃないですか」
無意識に目が据わって、招待状をくしゃりと握り締めました。ワナワナと震えが込み上げます。
大司教ルメニヒは私を教団本部に招待しているのです。なぜなら、私が人間の身で魔界の王妃だから。
大司教ルメニヒは人間界の新しい指導者と名乗り、同じ人間でありながら魔界の王妃になった私に挨拶したいというのです。
それだけでも許せないのに、それ以上に許せないのが私を勇者の親だと知っていながら、それにはわざと触れずに招待していること。その驕慢、厚顔さ、小癪、全てが私の逆鱗に触れるもの。これを憤怒せずにいられる筈がありません。
大司教ルメニヒはイスラを陥れ、私を嘲笑っているのですから。
でも、これは絶好の機会でもありました。そう、教団本部には勇者の腕があるのです。
「ハウスト、私は招待を受けようと思いますっ。無理は承知です、どうか私を行かせてください!」
「ああ、お前ならそう言うと思っていた。俺もそのつもりだ」
「ハウスト……。我儘を申し訳ありません。でも、ありがとうございます!」
ハウストは最初から分かっていたようでした。
ほっと安堵した私にハウストが小さく苦笑します。
「勝手に行かれるくらいなら、こうして頼まれた方が嬉しいものだ」
ハウストはそう言うと、「フェリクトール、そういうことだ。計画を進めてくれ」と命令しました。
どうやら私の返事待ちの状態だったようで、既に計画を実行するだけのようです。
フェリクトールは苦々しい顔をしながらも魔王命令に従って重臣や士官に指示を飛ばし始めました。
動き出した計画にジェノキスが面白そうな笑みを浮かべます。
「これで決まりだな。勇者の左腕奪還作戦開始だ」
そう言うとジェノキスが私を見ました。
ぐっと私に顔を近づけてニヤリと笑います。
「ブレイラ、実は俺も甲斐性あるんだ。結構強いし、役に立つ。知ってたか?」
誰かの言葉をなぞったかのようなそれ。
ハウストは不機嫌に目を据わらせたけれど、それがジェノキスらしくて思わず笑ってしまいました。
「ふふふ、知ってましたよ。でも、いいのですか? 精霊王様はご存知ですか?」
「問題ない。むしろ同行は精霊王の考えでもある。魔王が人間界で事を起こすなら精霊界も見過ごしはできないし、今回の一件には精霊族も巻き込まれているからな」
「そういう事なら、是非よろしくお願いします」
「光栄だ」
ジェノキスが気取ったふうを装いながら恭しくお辞儀しました。
こうしてハウストとジェノキスと私の三人で教団本部へ赴き、イスラの左腕を奪還することが決まりました。そう、勇者の左腕奪還作戦です。
成功させる為にも綿密な計画が必要で、ハウストやジェノキスはもちろん、フェリクトールや士官達も計画について最終確認を始めました。
もちろん私も加わりますが。
「よ~しっ、がんばるぞ~!」
ゼロスが元気に声を上げました。
ハッとして見ると、小さな拳をぎゅっと握って……張り切ってます。一緒に行く気満々で、すごく、すごく張り切っています……。
ゼロスは詳細が分からないながらも、私たちがどこかへ行こうとしているのを察知しているのです。
どうしましょう、もちろんゼロスを一緒に連れていくことはできません。
ハウストとジェノキスを見ると、目が合ったのに二人はサッと目を逸らしてしまう。気付いている筈なのに気付かない振りをして、ああでもないこうでもないといつにない真剣さで計画を話し合いだしました。……なんなのですか、こんな時ばかり気が合って。
「ねぇ、ブレイラ!」
「な、なんですか?」
呼ばれて振り向くと、ゼロスはキラキラした瞳で私を見上げていました。
そして地面の小枝を拾うと勇ましいポーズを作ります。
「ぼくね、じょうずにえいってできるよ! みてて!」
そう言うと、えいえいっ、えいえいっ、と小枝を振り回しだしました。
そうやって張り切る姿は勇ましくも可愛らしいのですが、……どうしましょう。
「ブレイラ、ぼく、ステキ?!」
「……す、ステキですよ」
「ほく、かっこいい?!」
「は、はい。かっこいいです」
迷っている間にもゼロスが更に張り切っていきます。
ハウストに助けを求めようとしましたが、目が合うと『……俺には無理だ』と首を横に振られました。……ずるいです。さっき俺を頼れとかっこよく言ってくれたばかりなのに。
……でも、いつまでもこうしている訳にはいきません。覚悟を決めます。ゼロスに泣かれる覚悟を。
「俺のところにも報告はあがっている。武力衝突が起これば教団は勇者の左腕を使うはず。そうなると西で起こるのは一方的な殺戮だ」
私も頷いて、震えそうになる指先を強く握り締めます。
特殊な方法で奪われた勇者の左腕は勇者の力を宿しています。それは教団が強大な勇者の力を得ているということ。
「イスラの力を利用するなんて許せません」
「そのことだがイスラの左腕が元に戻るかもしれない」
「えっ、えええ?! も、元に戻るって、それは、まさかっ……」
問いかける声が震えました。
元に戻るとは、それは、まさか、イスラの左腕が元の状態に戻るということ……?
ハウストを凝視すると、彼が肯定を込めて頷いてくれる。
「ああ、イスラの左腕は人間界の古い禁術によって奪われた。禁術についての調査結果が出たぞ。やはり今もイスラの患部と奪われた左腕は繋がっている。腕を取り返すことが出来れば元に戻すことができるぞ」
「っ、うっ、うぅ~っ……!」
胸がいっぱいになって涙が込み上げました。
視界が滲んで、抱っこしているゼロスをぎゅっと抱きしめて顔を埋めます。
「ブレイラ、どうしたの?」
肩を震わせている私にゼロスが不思議そうに聞いてきました。
涙が溢れそうになって、抱っこしているゼロスに顔を押し付けてぐりぐりします。
「わああ~、くすぐったい~!」
ゼロスがきゃあきゃあ歓声をあげるので、もっと顔をぐりぐりしてやります。
何度もぐりぐりぐりぐりして、涙が引っ込んで、なんだか楽しくなって、むくむくっと強気な気持ちが湧いてきます。その気持ちの名前は、希望。
「イスラの腕が元に戻るかもしれませんっ。いいえ、必ず戻りますっ……!」
私は顔を上げて、強気に笑って言いました。
そんな私にゼロスの顔もキラキラと輝きだす。
「ほんと?! あにうえ、いたいのなくなるの?!」
「はいっ、頑張ればイスラの腕が元に戻るのです!」
「やったー! あにうえ、げんきになる!」
「はいっ、元気になります!」
嬉しくなって力強く頷きました。
必ずイスラの腕を取り戻したいです。私はイスラの髪一本から爪の欠片にいたるまで誰にも奪われたくありません。誰にも、絶対!
「ハウスト、教団からイスラの腕を取り戻したいです! イスラは勇者なので人間を救うことを優先するでしょう。それなら私がっ」
「――――俺とお前だ。俺とお前で取り戻すぞ」
ハウストが私を見つめて言いました。
その言葉は予想もしていなかったもの。
突然過ぎて驚いた私に、ハウストが少し面白くなさそうな顔をします。
「なんだ、違うのか」
「ち、違いませんっ! 違いませんが、でもあなたは魔王じゃないですか、だからっ……」
ハウストはイスラの父親ですが、魔王という立場を考えると大々的に関わることは難しい。むしろ魔界を守る為に関わらない選択をすることが魔王として正解のはず。
勇者の腕が奪われたことも、教団が人間界の統一を企んでいることも、すべては人間界の問題です。それ以外の世界は自世界の守りを強固にし、波及を防ぐだけでいいのです。
むしろ今までの時代はそうだった筈で、別の世界のトラブルにわざわざ関わろうとする四界の王などいませんでした。四界はいにしえの時代から不可侵状態が当たり前なのですから。
「たしかに俺は魔王だ。だがイスラの親だろ。魔王が人間界に深く関わることは褒められたことではないが、……俺にも少しくらい無茶させろ」
そう言ってハウストは私に顔を近づけたかと思うと、ちゅっ。唇に口付けられました。
不意打ちのそれに目を丸めるも、彼は至近距離で私を見つめたまま少しだけ怒った顔を作ります。
「お前ばかりずるいぞ」
「ず、ずるい……? ……なんですか、いきなり」
私は顎を引いて、上目にハウストを見つめました。
口付けは嬉しいけれど、ずるいとはどういう意味です。
でもハウストは呆れたようなため息を一つ。
「お前もイスラも、もう少し俺を頼ったらどうだ。俺は結構強いし役に立つぞ。甲斐性だってあるつもりだ」
「ハウスト、あなた……」
ハウストの言葉にじわじわと胸が熱くなりました。
ハウストはふっと笑うと、私を見つめたまま続けます。
「俺は魔王で、易々と魔界以外のことには関われない。だが、お前は俺の妃で、イスラは俺の息子だ。父親としてなら関わってもいいだろ」
ハウストはそこまで言うと、「そうだな、フェリクトール」とフェリクトールに話しを振りました。
私も見るとフェリクトールは苦々しい顔で舌打ちします。
いったいどうしたのかと首を傾げましたが、なりゆきを見ていたジェノキスが笑いながら入ってきました。
「じいさん、諦めろよ。ブレイラにあれ見せた方がいいんじゃねぇの? 後で知られたら面倒だぜ?」
「じいさんとは誰のことだ」
フェリクトールは不機嫌に言い返しながらも苦々しい顔をしています。
私だけが分かっていないようで、ハウストとジェノキスは「早く出せ」とフェリクトールをせっついていました。
「あの、フェリクトール様、いったい……」
「…………魔界の王妃宛てにね、招待状が届いたんだよ」
「私に?」
「ああ、渦中の相手からだ」
そう言ってフェリクトールが手紙を差し出してくれました。
私は抱っこしていたゼロスを下ろして受け取ります。
差出人の名は、――――ナフカドレ教団・大司教ルメニヒ。
私は息を飲んで、招待状の文面を読みました。
時候の挨拶から始まった招待状は一見すると丁寧な文面に見えます。しかし……。
「……いい度胸してるじゃないですか」
無意識に目が据わって、招待状をくしゃりと握り締めました。ワナワナと震えが込み上げます。
大司教ルメニヒは私を教団本部に招待しているのです。なぜなら、私が人間の身で魔界の王妃だから。
大司教ルメニヒは人間界の新しい指導者と名乗り、同じ人間でありながら魔界の王妃になった私に挨拶したいというのです。
それだけでも許せないのに、それ以上に許せないのが私を勇者の親だと知っていながら、それにはわざと触れずに招待していること。その驕慢、厚顔さ、小癪、全てが私の逆鱗に触れるもの。これを憤怒せずにいられる筈がありません。
大司教ルメニヒはイスラを陥れ、私を嘲笑っているのですから。
でも、これは絶好の機会でもありました。そう、教団本部には勇者の腕があるのです。
「ハウスト、私は招待を受けようと思いますっ。無理は承知です、どうか私を行かせてください!」
「ああ、お前ならそう言うと思っていた。俺もそのつもりだ」
「ハウスト……。我儘を申し訳ありません。でも、ありがとうございます!」
ハウストは最初から分かっていたようでした。
ほっと安堵した私にハウストが小さく苦笑します。
「勝手に行かれるくらいなら、こうして頼まれた方が嬉しいものだ」
ハウストはそう言うと、「フェリクトール、そういうことだ。計画を進めてくれ」と命令しました。
どうやら私の返事待ちの状態だったようで、既に計画を実行するだけのようです。
フェリクトールは苦々しい顔をしながらも魔王命令に従って重臣や士官に指示を飛ばし始めました。
動き出した計画にジェノキスが面白そうな笑みを浮かべます。
「これで決まりだな。勇者の左腕奪還作戦開始だ」
そう言うとジェノキスが私を見ました。
ぐっと私に顔を近づけてニヤリと笑います。
「ブレイラ、実は俺も甲斐性あるんだ。結構強いし、役に立つ。知ってたか?」
誰かの言葉をなぞったかのようなそれ。
ハウストは不機嫌に目を据わらせたけれど、それがジェノキスらしくて思わず笑ってしまいました。
「ふふふ、知ってましたよ。でも、いいのですか? 精霊王様はご存知ですか?」
「問題ない。むしろ同行は精霊王の考えでもある。魔王が人間界で事を起こすなら精霊界も見過ごしはできないし、今回の一件には精霊族も巻き込まれているからな」
「そういう事なら、是非よろしくお願いします」
「光栄だ」
ジェノキスが気取ったふうを装いながら恭しくお辞儀しました。
こうしてハウストとジェノキスと私の三人で教団本部へ赴き、イスラの左腕を奪還することが決まりました。そう、勇者の左腕奪還作戦です。
成功させる為にも綿密な計画が必要で、ハウストやジェノキスはもちろん、フェリクトールや士官達も計画について最終確認を始めました。
もちろん私も加わりますが。
「よ~しっ、がんばるぞ~!」
ゼロスが元気に声を上げました。
ハッとして見ると、小さな拳をぎゅっと握って……張り切ってます。一緒に行く気満々で、すごく、すごく張り切っています……。
ゼロスは詳細が分からないながらも、私たちがどこかへ行こうとしているのを察知しているのです。
どうしましょう、もちろんゼロスを一緒に連れていくことはできません。
ハウストとジェノキスを見ると、目が合ったのに二人はサッと目を逸らしてしまう。気付いている筈なのに気付かない振りをして、ああでもないこうでもないといつにない真剣さで計画を話し合いだしました。……なんなのですか、こんな時ばかり気が合って。
「ねぇ、ブレイラ!」
「な、なんですか?」
呼ばれて振り向くと、ゼロスはキラキラした瞳で私を見上げていました。
そして地面の小枝を拾うと勇ましいポーズを作ります。
「ぼくね、じょうずにえいってできるよ! みてて!」
そう言うと、えいえいっ、えいえいっ、と小枝を振り回しだしました。
そうやって張り切る姿は勇ましくも可愛らしいのですが、……どうしましょう。
「ブレイラ、ぼく、ステキ?!」
「……す、ステキですよ」
「ほく、かっこいい?!」
「は、はい。かっこいいです」
迷っている間にもゼロスが更に張り切っていきます。
ハウストに助けを求めようとしましたが、目が合うと『……俺には無理だ』と首を横に振られました。……ずるいです。さっき俺を頼れとかっこよく言ってくれたばかりなのに。
……でも、いつまでもこうしている訳にはいきません。覚悟を決めます。ゼロスに泣かれる覚悟を。
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