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勇者と冥王のママは暁を魔王様と
第十一章・人間の王7
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「うわあああああん!! ちちうえっ、ちちうえ~~!!」
感激したゼロスが泣きながら駆け寄って、「ちちうえ~!!」とぎゅ~っとしがみ付きました。
興奮したゼロスはハウストによじ登りながら訴えます。
「あいつ、おもかったの! ぼく、おもくてもがんばったの! ちからもちさんだから、ちからもちさんだから~! うわあああああん!!」
「ああ、分かったから人によじ登るな」
ハウストは自分の足にしがみ付くゼロスをひょいっと抱きあげて、片腕で抱っこして私とイスラの方へ歩いてきました。
まずイスラを見ます。少し不貞腐れたような顔をしているイスラにハウストは苦笑しました。
「不満そうだな」
「…………。余計なことするな」
「怒るなよ、せっかく急いだのに」
ハウストは眉を上げて言うと、今度は私に振り返りました。
私の姿を目にしたハウストの眼差しに安堵が帯びる。でもそれが厳しい面差しに変化します。
「怪我は?」
「ありません」
「そうか、まずは良しとしよう。だが俺はお前が一人で残ったことは許し難く思っている。それが最善だったとしてもだ」
「勝手な真似をしました。申し訳ありませんでした」
膝を折って頭を下げました。
本当に申し訳なく思っています。でも、同じことがあれば私はまた繰り返すでしょう。
それを察しているハウストは僅かに苦々しい顔で私を見つめていましたが、少ししてゆっくりと手を伸ばしてくれる。指でそっと頬をひと撫でされました。
「辛い思いをさせたな。不安だっただろう」
「いいえ、必ず来てくれると思っていましたから」
ハウストは頷くと、塔の瓦礫に埋もれた禁術の赤ん坊に目を向けます。
ガラガラガラッ……!
瓦礫が崩れて埋もれていた巨体が動きだします。ゆっくりと起き上がり、赤ん坊の一つ目が私たちを見ました。
「とりあえず先に終わらせる」
「あの、ハウスト……」
私は躊躇いながらもハウストを見つめました。
今からハウストは全てを終わらせるのです。そう、あの禁術の赤ん坊のことも。
あの赤ん坊は禁術によって生み出されたもので、元の姿とはかけ離れた姿になりました。きっと正しい命ではないのです。四界を守る為に、禁術の赤ん坊は消滅しなければなりません。でも……。
「図々しいことだと分かっていますが、その……」
お願いしたいことがありました。
赤ん坊の結末は受け入れています。でも、願うことが許されるなら。
「でももし、もし叶うなら、苦しみも痛みもないように……一瞬で」
せめてという気持ちでお願いしました。
これが身勝手なお願いだと分かっていますが願わずにはいられなかったのです。
そんな私の願いにハウストは少し間をおいて口を開きます。
「……俺は、あれが呪われた怪物に見える。幾つもの赤ん坊の亡骸から生み出された怪物だ。たとえお前にはそう見えていなかったとしても四界に存在してはならない生き物だ」
「存じています」
「四界の王として、四界に害するものには相応の処罰や処刑が必要だ。時には見せしめることも」
「はい……」
ハウストの言葉は正論で、合理的で、世界を統治するうえで必要なことでした。
政情を考えると、人間界の各国が禁術の赤ん坊の引き渡しを求めてきてもおかしくありません。禁術の謎を知りたがる権力者もいるでしょう。
私は唇を噛んで黙り込みました、が。
「だが、俺はあまりにも強すぎる。多少手加減したとしても全てが一瞬だ。苦しみも痛みもない、跡形も残らず消滅するだろう」
「ハウスト……、……ありがとうございますっ……」
「ブレイラ、お前はここにいろ」
「はい」
私はお辞儀して一歩引きました。
すると私の隣にいたイスラが前に出てハウストと並びます。
「俺も戦う。始末は俺がつける」
「ぼくも! ぼくも、おてつだいできるよ!」
ゼロスもハウストの腕からぴょんっと飛び降りて、剣を握ってかっこいいポーズを作ってくれました。
私はイスラとゼロスに笑いかけ、またハウストを見つめます。
「よろしくお願いします」
「ああ」
ハウストが禁術の赤ん坊に足を向けました。
その後ろに剣を握ったイスラとゼロスが続きます。
ここから先、私はすべてが終わるまで見守ることしかできません。
禁術の暴走によって生まれた赤ん坊がハウスト達に向かって突進してきます。まるで山が突進してくるような迫力。
しかし三人が怯むことはありません。
「俺が奴の動きを止める、後はお前達の役目だ。ただし一瞬で決めろよ」
ハウストがそう指示してまっすぐ駆け出しました。
真正面のハウストに赤ん坊が手足を鞭のように振り回して襲い掛かります。
ハウストは俊敏な動きで避けると背後に回り込む。――――ドゴオオオオッ!! 強烈な回転蹴り。
後頭部の衝撃に巨体が轟音をあげて地面に叩きつけられそうになりましたが、そこには剣を構えたイスラとゼロスがいました。
「イスラ! ゼロス! 終わらせろ!!」
ハウストが声をあげました。
それに合わせてイスラとゼロスが巨体に踏み込んで、瞬く間に距離を詰めます。
「ゼロス、行くぞ!!」
「はいっ、あにうえ!!」
ゼロスはお利口な返事をすると、冥王の剣を振り翳しました。
そして襲いかかる巨体から目を離さず、軌道に合わせて迎え打つように剣を振ります。
ガキイインッ!!!!
ゼロスの剣と巨体が衝突するも、赤ん坊の重量にゼロスは力負けしてしまいそうになる。でも。
「お、おもいいいぃぃぃ~~!!」
「ゼロス、押し返すぞ!!!!」
すかさずイスラが勇者の剣を振り翳し、二人の力が重なります。
「えええええええい!!!!!!」
「いけええええええ!!!!!!」
ズバアアアアァァァァァァ!!!!!!!!
勇者の剣と冥王の剣、二人が渾身の力で剣を振り切りました。
――――刹那、全身が真っ黒だった禁術の赤ん坊が光に塗り潰されていく。眩いほどの光は巨体を飲み込んで、一瞬にして消え去りました。
そう、とうとう終わったのです。
「……どうか、静かに眠ってください」
私はそっと目を閉じて鎮魂を祈りました。
禁術によって身勝手に生み出され、暴走し、最期は強制的な消滅を迎えたのです。どうしても憐みを覚えずにはいられませんでした。
少しして光が収まって、そこにはイスラとゼロスの姿。
全身全霊の力を出していた二人は立っているのもやっとのよう。
「イスラ! ゼロス!」
二人に駆け寄りました。
すると二人は疲れた様子を見せながらも嬉しそうに振り向いてくれます。
「ブレイラ、終わったぞ!」
「ぼく、つよかったでしょ?!」
「はいっ、よく頑張りましたね! イスラとゼロスが無事で良かったです!」
そう言って二人に笑いかけると、ハウストが歩いてきました。
ハウストはちゃんと分かっていたのでしょう。ここで魔力は使えなくても、イスラとゼロスならば打ち勝てると。
「ハウスト、お疲れ様でした」
お辞儀してハウストを出迎えました。
ハウストは頷いて、私の腰を抱き寄せると目尻に口付けてくれます。
「お前も、辛い思いをさせたな」
「大丈夫ですよ」
そう言って笑いかけて、私からもお返しの口付けをしました。
こうしてハウスト、イスラ、ゼロスと無事に会うことができました。ルメニヒが行使しようとした禁術にはまだ不明なことが多いですが、大司教ルメニヒを失くしたことで教団本部は壊滅するでしょう。教団の野望は挫かれたのです。
ゴゴゴゴゴゴッ……。
その時、地下礼拝堂に低い轟音が響きました。
それはすぐに収まったけれど、頭上からパラパラと砂や小石が落ちてきます。
ハウストは半壊状態の礼拝堂を見回しました。
感激したゼロスが泣きながら駆け寄って、「ちちうえ~!!」とぎゅ~っとしがみ付きました。
興奮したゼロスはハウストによじ登りながら訴えます。
「あいつ、おもかったの! ぼく、おもくてもがんばったの! ちからもちさんだから、ちからもちさんだから~! うわあああああん!!」
「ああ、分かったから人によじ登るな」
ハウストは自分の足にしがみ付くゼロスをひょいっと抱きあげて、片腕で抱っこして私とイスラの方へ歩いてきました。
まずイスラを見ます。少し不貞腐れたような顔をしているイスラにハウストは苦笑しました。
「不満そうだな」
「…………。余計なことするな」
「怒るなよ、せっかく急いだのに」
ハウストは眉を上げて言うと、今度は私に振り返りました。
私の姿を目にしたハウストの眼差しに安堵が帯びる。でもそれが厳しい面差しに変化します。
「怪我は?」
「ありません」
「そうか、まずは良しとしよう。だが俺はお前が一人で残ったことは許し難く思っている。それが最善だったとしてもだ」
「勝手な真似をしました。申し訳ありませんでした」
膝を折って頭を下げました。
本当に申し訳なく思っています。でも、同じことがあれば私はまた繰り返すでしょう。
それを察しているハウストは僅かに苦々しい顔で私を見つめていましたが、少ししてゆっくりと手を伸ばしてくれる。指でそっと頬をひと撫でされました。
「辛い思いをさせたな。不安だっただろう」
「いいえ、必ず来てくれると思っていましたから」
ハウストは頷くと、塔の瓦礫に埋もれた禁術の赤ん坊に目を向けます。
ガラガラガラッ……!
瓦礫が崩れて埋もれていた巨体が動きだします。ゆっくりと起き上がり、赤ん坊の一つ目が私たちを見ました。
「とりあえず先に終わらせる」
「あの、ハウスト……」
私は躊躇いながらもハウストを見つめました。
今からハウストは全てを終わらせるのです。そう、あの禁術の赤ん坊のことも。
あの赤ん坊は禁術によって生み出されたもので、元の姿とはかけ離れた姿になりました。きっと正しい命ではないのです。四界を守る為に、禁術の赤ん坊は消滅しなければなりません。でも……。
「図々しいことだと分かっていますが、その……」
お願いしたいことがありました。
赤ん坊の結末は受け入れています。でも、願うことが許されるなら。
「でももし、もし叶うなら、苦しみも痛みもないように……一瞬で」
せめてという気持ちでお願いしました。
これが身勝手なお願いだと分かっていますが願わずにはいられなかったのです。
そんな私の願いにハウストは少し間をおいて口を開きます。
「……俺は、あれが呪われた怪物に見える。幾つもの赤ん坊の亡骸から生み出された怪物だ。たとえお前にはそう見えていなかったとしても四界に存在してはならない生き物だ」
「存じています」
「四界の王として、四界に害するものには相応の処罰や処刑が必要だ。時には見せしめることも」
「はい……」
ハウストの言葉は正論で、合理的で、世界を統治するうえで必要なことでした。
政情を考えると、人間界の各国が禁術の赤ん坊の引き渡しを求めてきてもおかしくありません。禁術の謎を知りたがる権力者もいるでしょう。
私は唇を噛んで黙り込みました、が。
「だが、俺はあまりにも強すぎる。多少手加減したとしても全てが一瞬だ。苦しみも痛みもない、跡形も残らず消滅するだろう」
「ハウスト……、……ありがとうございますっ……」
「ブレイラ、お前はここにいろ」
「はい」
私はお辞儀して一歩引きました。
すると私の隣にいたイスラが前に出てハウストと並びます。
「俺も戦う。始末は俺がつける」
「ぼくも! ぼくも、おてつだいできるよ!」
ゼロスもハウストの腕からぴょんっと飛び降りて、剣を握ってかっこいいポーズを作ってくれました。
私はイスラとゼロスに笑いかけ、またハウストを見つめます。
「よろしくお願いします」
「ああ」
ハウストが禁術の赤ん坊に足を向けました。
その後ろに剣を握ったイスラとゼロスが続きます。
ここから先、私はすべてが終わるまで見守ることしかできません。
禁術の暴走によって生まれた赤ん坊がハウスト達に向かって突進してきます。まるで山が突進してくるような迫力。
しかし三人が怯むことはありません。
「俺が奴の動きを止める、後はお前達の役目だ。ただし一瞬で決めろよ」
ハウストがそう指示してまっすぐ駆け出しました。
真正面のハウストに赤ん坊が手足を鞭のように振り回して襲い掛かります。
ハウストは俊敏な動きで避けると背後に回り込む。――――ドゴオオオオッ!! 強烈な回転蹴り。
後頭部の衝撃に巨体が轟音をあげて地面に叩きつけられそうになりましたが、そこには剣を構えたイスラとゼロスがいました。
「イスラ! ゼロス! 終わらせろ!!」
ハウストが声をあげました。
それに合わせてイスラとゼロスが巨体に踏み込んで、瞬く間に距離を詰めます。
「ゼロス、行くぞ!!」
「はいっ、あにうえ!!」
ゼロスはお利口な返事をすると、冥王の剣を振り翳しました。
そして襲いかかる巨体から目を離さず、軌道に合わせて迎え打つように剣を振ります。
ガキイインッ!!!!
ゼロスの剣と巨体が衝突するも、赤ん坊の重量にゼロスは力負けしてしまいそうになる。でも。
「お、おもいいいぃぃぃ~~!!」
「ゼロス、押し返すぞ!!!!」
すかさずイスラが勇者の剣を振り翳し、二人の力が重なります。
「えええええええい!!!!!!」
「いけええええええ!!!!!!」
ズバアアアアァァァァァァ!!!!!!!!
勇者の剣と冥王の剣、二人が渾身の力で剣を振り切りました。
――――刹那、全身が真っ黒だった禁術の赤ん坊が光に塗り潰されていく。眩いほどの光は巨体を飲み込んで、一瞬にして消え去りました。
そう、とうとう終わったのです。
「……どうか、静かに眠ってください」
私はそっと目を閉じて鎮魂を祈りました。
禁術によって身勝手に生み出され、暴走し、最期は強制的な消滅を迎えたのです。どうしても憐みを覚えずにはいられませんでした。
少しして光が収まって、そこにはイスラとゼロスの姿。
全身全霊の力を出していた二人は立っているのもやっとのよう。
「イスラ! ゼロス!」
二人に駆け寄りました。
すると二人は疲れた様子を見せながらも嬉しそうに振り向いてくれます。
「ブレイラ、終わったぞ!」
「ぼく、つよかったでしょ?!」
「はいっ、よく頑張りましたね! イスラとゼロスが無事で良かったです!」
そう言って二人に笑いかけると、ハウストが歩いてきました。
ハウストはちゃんと分かっていたのでしょう。ここで魔力は使えなくても、イスラとゼロスならば打ち勝てると。
「ハウスト、お疲れ様でした」
お辞儀してハウストを出迎えました。
ハウストは頷いて、私の腰を抱き寄せると目尻に口付けてくれます。
「お前も、辛い思いをさせたな」
「大丈夫ですよ」
そう言って笑いかけて、私からもお返しの口付けをしました。
こうしてハウスト、イスラ、ゼロスと無事に会うことができました。ルメニヒが行使しようとした禁術にはまだ不明なことが多いですが、大司教ルメニヒを失くしたことで教団本部は壊滅するでしょう。教団の野望は挫かれたのです。
ゴゴゴゴゴゴッ……。
その時、地下礼拝堂に低い轟音が響きました。
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