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第一章・強欲の王ギルタレス
聖女と悪魔
しおりを挟む『ロロット・カーデリア、あなたに神の御加護がありますように』
そう祈った優しい修道女は悪魔に取り込まれて地獄に引きずり込まれた。
『聖女になればお金持ちになって城みたいな家も建てられるんだって』
そう教えてくれた地元の知り合いは悪魔に殺された。
『ロロットさんの魔力はとっても凄いから、きっとすぐに聖女になれるね』
そう褒めてくれたクラスメイトは天使の力に圧し潰されて死んだ。
『その大きな魔力は神からのギフトよ。あなたは神に愛されているのね、あなたが神の御心に添いますように』
そう愛を語った教師は悪魔に犯されて発狂した。
お金が欲しい。
できればたくさん。誰も頼らずに一人で生きていけるくらいのお金。
お金を貯めて大富豪になったら、街はずれの小高い丘に大きな家を建てたい。広いサロンや植物園や書庫もある城みたいな家。召使いをたくさん雇って女主人になるの。
結婚はしない。恋人もいらない。友人もいらない。実家とも疎遠になるのがいい、連絡もしたくない。
女主人になったら、誰に虐げられることもなく、侮られることもなく、空腹に腹を抱えることもなく、仕置きで地下牢に閉じ込められることもなく、一人で好きなことだけして生きていく。誰も私を侵害しない、縛れない、望むものが望んだ時に手に入る。そんな圧倒的な自由。
大金を得れば手に入る夢。
侵害されない自由とは、とにかくお金がかかるのである。
それを手に入れるためなら、この目の前の茶番も我慢できるというもの。
今、私は目の前で繰り広げられる光景を冷ややかに見つめていた。
村外れの教会。そこに巨大な山羊の悪魔が出現している。
同級生の聖女候補生の少女が悪魔に取り込まれてしまった。
「熱いッ、からだが熱いっ、あついのっ……!」
髪を振り乱しながら少女は制服を脱いで全裸になった。
正気を失った少女はうっとりした恍惚の表情であついあついと繰り返す。ゆらゆらと体を揺らし、瞳の焦点が合っていない。まだ十七歳の少女には似つかわしくない淫猥な動きは明らかに本人の意志ではない。まるで催眠術にでもかかっているかのよう。
「ロロット、その候補生がそれ以上バカな真似する前に縛っといて! まったく、だから候補生を助手にするのは嫌なのよ!」
聖女モーリスは苛立ちたっぷりに命令してきた。
まるで八つ当たりのようなそれは面白くないけれど、相手は聖女。ここで文句を言っても面倒くさいだけ。
「はいはい、聖女サマの仰せの通りに」
私は悪魔に取り込まれた聖女候補生の背後に回ると、人形のようになっている体を素早く縛り上げる。相手は全裸の少女だけど躊躇いはない、放置しておくと地獄に引きずり込まれてしまうのだ。
私は少女を拘束すると目の前の悪魔を睨み据えた。
頭部に円を描く角を生やした造形。その体は巨大な山羊のようだが、耳まで裂けた口からは爬虫類のような長い舌がチロチロ飛び出している。
その醜悪な姿は人間を恐怖に陥らせるものだけど、私にとっては見慣れたもの。さっさと片付けてしまいたい、けれど。
「醜い悪魔めっ、この聖女モーリスが討伐する!」
モーリスは勇ましく悪魔に言い放った。
吠える聖女の姿に、それならさっさと片付けろと内心苛立つ。
「聖女サマ、啖呵を切る暇があるならさっさと討伐してはいかがでしょうか」
あ、いけない。思わず本音を言ってしまった。
悪魔と対峙していたモーリスが私を睨んで声を荒げる。
「たかが候補生の分際で生意気言ってんじゃないわよ! あんたは黙って私の、ッ、来た!!」
モーリスは咄嗟に飛びのいた。
ガシャーーン!! ガラガラガラッ……!!
教会の長椅子が破壊される。山羊の悪魔がモーリスに向かって突っ込んできたのだ。
寸前で避けたもののモーリスは青褪める。その破壊力は、生身の人間が体当たりされれば骨や内臓ごと潰されるものだった。
でもそれがどうしたの。悪魔討伐ってそういうことでしょ。
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