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第一章・強欲の王ギルタレス
強欲の王ギルタレス6
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「そうよ。私が魔法陣の封印を解いたの」
「自分がなにをしたか分かっているか?」
「もちろんよ」
目を逸らさずに言い放つ。
もちろんはったりだ。
でも一歩も引くわけにはいかない。ここで引けば一夜にして国一つが容易く滅びる。目の前の悪魔はそんなレベルの悪魔だ。
「面白い、いい度胸だ」
ギルタレスは愉快そうに笑った。
ギルタレスの上機嫌な様子にひれ伏していた悪魔がおそるおそる顔をあげる。
「盟主ギルタレス様、畏れ多くも拝謁できたこと真に光栄でございます。初めてお目に掛かります、ワタシは同じ強欲の眷属で、ギルタレス様の配下の一人である伯爵家次女の」
「うるせぇ。誰が話しかけることを許した」
「申し訳ありません! お許しをっ、お許しを~~!!」
悪魔が悲鳴のような声をあげて平伏した。
しかしギルタレスは不快そうに顔を顰める。
「うるせぇババア。殺すぞ」
「ギャアアアアアアアアア!!!!」
瞬間、上級悪魔の体が引き千切れた。
目の前の光景に目を見開く。
あの上級悪魔が一瞬で消滅した。あっけないほど簡単に瞬殺された。
「ああ、うっかり殺したか。わりぃわりぃ。よし、汝の罪を許す」
だから悪く思うなよ、とギルタレスは何ごともなかったように言った。
この上級悪魔は死をもって盟主に許されたと、そういうことだ。
ギルタレスは消滅させた同族には一瞥もせず、至近距離で私を見つめる。
爛々とした瞳は野望を宿す瞳。これが強欲の王。
「初めましてか、女。門を開けた褒美だ。名はなんだ、名乗ることを許す」
「悪魔に名乗る名はないわ」
きっぱり答えた。
突っぱねた私にギルタレスはスゥッと目を細める。
そして、スッ。剣の刃が喉元に押し当てられた。
見えなかった。剣を出現させたのも、それを一閃させたのも、なにも見えなかった。
圧倒的な殺気に飲み込まれそう。獰猛な肉食獣を前にした緊張感。いや肉食獣より性質が悪い。だって動物は精神まで犯さない。
「名乗れ」
「門を開けてもらった分際で命令しないで」
至近距離で睨みあう。
力の差は歴然としている。本当ならギルタレスは一瞬で私を殺せるはずなのに、それをしていない。ならば生き残る勝機はそこにある。
「私の名を知りたければお願いしなさい」
「ああ?」
「名前を教えてくださいと、そう言いなさい」
私は一歩も引かない。
引いても押しても殺されるなら、最後まで押し切ってやる。
矜持とは自由。自由とは矜持。それを守るためなら最後まで一歩も引かない。
「いい度胸だ女。死をもって償ってもらう」
喉元の剣が鋭く光る。
刃に赤い液体が伝う。私の血だ。見せしめるように刃を当てたのだ。
でもまっすぐに見つめて、絶対引いてあげない。
息が詰まるほどの沈黙が落ちた。
ギルタレスは鋭い目で私を見つめ、殺気を纏って剣を握っていたが。
「……いいだろう。俺の門を開けたことに免じて罪を許す」
そう言って喉元の剣を収めた。
ギルタレスは王の威厳を纏ったまま上から目線で私を見下ろす。そして。
「名前を教えてください」
「…………」
あ、言うんだ。ちゃんと言えるんだ。
絶対殺されると思ってた。
内心驚きつつも表情には億尾にも出さない。
上下関係を教えるように、ご褒美をあげるように言葉を紡ぐ。
「私は聖女候補生ロロット・カーデリア。仲良くしましょうね、地獄の盟主」
「聖女候補生が俺の門を開けたのか。これは恐れ入った」
そう言ってギルタレスが感心したように腕を組み、ニヤリと笑う。
強欲の赤い瞳がぎらりと鋭くなって、まるで獲物を狙うそれ。
「お前のその膨大な魔力、そのままにしておくのは惜しい。決めたぞ、ロロット。俺はお前を手に入れることにした。お前を俺の奴隷にしてやる」
「奴隷? 冗談じゃないわ。勘違いしないで」
怒りに目を据わらせる。
隷属なんて私が手に入れたい自由からもっとも遠いもの。それは私の逆鱗。
しかしギルタレスは横柄な態度で私を縛ろうとする。
「喜べ、ロロット。俺の奴隷になれば俺に抱かれる栄誉が与えられる。地獄でこれほど名誉なことは」
ガシリッ。
至近距離にあるギルタレスの顎を鷲掴んだ。忌々しい発言は遮るに限る。
ぎりぎりと顎を破壊する力で鷲掴み、耳元で低く囁く。
「勘違いすんな。聞こえないのか。隷属させられるのはお前の方だ」
隷属、それは私の逆鱗。
隷属させられるくらいなら私が隷属してやる。
決して私の夢は侵させない。
口調すら変わった私にギルタレスが忌々しげな顔になる。
ガシリッ!
今度はギルタレスが私の腕を掴んだ。
私がギルタレスの顎を、ギルタレスが私の腕を掴んでいる。互いにぎりぎりしながら掴み、至近距離で睨みあう。
「ロロット、後悔するぜ」
「そんな感情、悪魔討伐を始めた四歳で捨てたわ」
そう、そんな感情は捨てている。
後悔なんてする余裕もなかった。初めて悪魔を討伐した時から前だけを見て進んでいる。
それはこれからも変わらないものだ。
こうして教会に巣食っていた上級悪魔は討伐され、辺境の村には平和が戻った。
恐慌状態に陥っていた聖女モーリスは精神を病んでいた。
ナタリーはモーリスを連れて王都の教団本部へ先に帰っている。
本当なら私も一緒に帰還すべきだったけど、左腕を負傷していたので二日遅れで村を出たのだった。
「自分がなにをしたか分かっているか?」
「もちろんよ」
目を逸らさずに言い放つ。
もちろんはったりだ。
でも一歩も引くわけにはいかない。ここで引けば一夜にして国一つが容易く滅びる。目の前の悪魔はそんなレベルの悪魔だ。
「面白い、いい度胸だ」
ギルタレスは愉快そうに笑った。
ギルタレスの上機嫌な様子にひれ伏していた悪魔がおそるおそる顔をあげる。
「盟主ギルタレス様、畏れ多くも拝謁できたこと真に光栄でございます。初めてお目に掛かります、ワタシは同じ強欲の眷属で、ギルタレス様の配下の一人である伯爵家次女の」
「うるせぇ。誰が話しかけることを許した」
「申し訳ありません! お許しをっ、お許しを~~!!」
悪魔が悲鳴のような声をあげて平伏した。
しかしギルタレスは不快そうに顔を顰める。
「うるせぇババア。殺すぞ」
「ギャアアアアアアアアア!!!!」
瞬間、上級悪魔の体が引き千切れた。
目の前の光景に目を見開く。
あの上級悪魔が一瞬で消滅した。あっけないほど簡単に瞬殺された。
「ああ、うっかり殺したか。わりぃわりぃ。よし、汝の罪を許す」
だから悪く思うなよ、とギルタレスは何ごともなかったように言った。
この上級悪魔は死をもって盟主に許されたと、そういうことだ。
ギルタレスは消滅させた同族には一瞥もせず、至近距離で私を見つめる。
爛々とした瞳は野望を宿す瞳。これが強欲の王。
「初めましてか、女。門を開けた褒美だ。名はなんだ、名乗ることを許す」
「悪魔に名乗る名はないわ」
きっぱり答えた。
突っぱねた私にギルタレスはスゥッと目を細める。
そして、スッ。剣の刃が喉元に押し当てられた。
見えなかった。剣を出現させたのも、それを一閃させたのも、なにも見えなかった。
圧倒的な殺気に飲み込まれそう。獰猛な肉食獣を前にした緊張感。いや肉食獣より性質が悪い。だって動物は精神まで犯さない。
「名乗れ」
「門を開けてもらった分際で命令しないで」
至近距離で睨みあう。
力の差は歴然としている。本当ならギルタレスは一瞬で私を殺せるはずなのに、それをしていない。ならば生き残る勝機はそこにある。
「私の名を知りたければお願いしなさい」
「ああ?」
「名前を教えてくださいと、そう言いなさい」
私は一歩も引かない。
引いても押しても殺されるなら、最後まで押し切ってやる。
矜持とは自由。自由とは矜持。それを守るためなら最後まで一歩も引かない。
「いい度胸だ女。死をもって償ってもらう」
喉元の剣が鋭く光る。
刃に赤い液体が伝う。私の血だ。見せしめるように刃を当てたのだ。
でもまっすぐに見つめて、絶対引いてあげない。
息が詰まるほどの沈黙が落ちた。
ギルタレスは鋭い目で私を見つめ、殺気を纏って剣を握っていたが。
「……いいだろう。俺の門を開けたことに免じて罪を許す」
そう言って喉元の剣を収めた。
ギルタレスは王の威厳を纏ったまま上から目線で私を見下ろす。そして。
「名前を教えてください」
「…………」
あ、言うんだ。ちゃんと言えるんだ。
絶対殺されると思ってた。
内心驚きつつも表情には億尾にも出さない。
上下関係を教えるように、ご褒美をあげるように言葉を紡ぐ。
「私は聖女候補生ロロット・カーデリア。仲良くしましょうね、地獄の盟主」
「聖女候補生が俺の門を開けたのか。これは恐れ入った」
そう言ってギルタレスが感心したように腕を組み、ニヤリと笑う。
強欲の赤い瞳がぎらりと鋭くなって、まるで獲物を狙うそれ。
「お前のその膨大な魔力、そのままにしておくのは惜しい。決めたぞ、ロロット。俺はお前を手に入れることにした。お前を俺の奴隷にしてやる」
「奴隷? 冗談じゃないわ。勘違いしないで」
怒りに目を据わらせる。
隷属なんて私が手に入れたい自由からもっとも遠いもの。それは私の逆鱗。
しかしギルタレスは横柄な態度で私を縛ろうとする。
「喜べ、ロロット。俺の奴隷になれば俺に抱かれる栄誉が与えられる。地獄でこれほど名誉なことは」
ガシリッ。
至近距離にあるギルタレスの顎を鷲掴んだ。忌々しい発言は遮るに限る。
ぎりぎりと顎を破壊する力で鷲掴み、耳元で低く囁く。
「勘違いすんな。聞こえないのか。隷属させられるのはお前の方だ」
隷属、それは私の逆鱗。
隷属させられるくらいなら私が隷属してやる。
決して私の夢は侵させない。
口調すら変わった私にギルタレスが忌々しげな顔になる。
ガシリッ!
今度はギルタレスが私の腕を掴んだ。
私がギルタレスの顎を、ギルタレスが私の腕を掴んでいる。互いにぎりぎりしながら掴み、至近距離で睨みあう。
「ロロット、後悔するぜ」
「そんな感情、悪魔討伐を始めた四歳で捨てたわ」
そう、そんな感情は捨てている。
後悔なんてする余裕もなかった。初めて悪魔を討伐した時から前だけを見て進んでいる。
それはこれからも変わらないものだ。
こうして教会に巣食っていた上級悪魔は討伐され、辺境の村には平和が戻った。
恐慌状態に陥っていた聖女モーリスは精神を病んでいた。
ナタリーはモーリスを連れて王都の教団本部へ先に帰っている。
本当なら私も一緒に帰還すべきだったけど、左腕を負傷していたので二日遅れで村を出たのだった。
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