聖女候補生ロロット・カーデリアは地獄の盟主を飼い慣らす

蛮野晩

文字の大きさ
11 / 35
第一章・強欲の王ギルタレス

強欲の王ギルタレス6

しおりを挟む
「そうよ。私が魔法陣の封印を解いたの」
「自分がなにをしたか分かっているか?」
「もちろんよ」

 目をらさずに言い放つ。
 もちろんはったりだ。
 でも一歩も引くわけにはいかない。ここで引けば一夜にして国一つが容易たやすく滅びる。目の前の悪魔はそんなレベルの悪魔だ。

「面白い、いい度胸だ」

 ギルタレスは愉快そうに笑った。
 ギルタレスの上機嫌な様子にひれ伏していた悪魔がおそるおそる顔をあげる。

「盟主ギルタレス様、おそれ多くも拝謁できたことまことに光栄でございます。初めてお目に掛かります、ワタシは同じ強欲の眷属で、ギルタレス様の配下の一人である伯爵家次女の」
「うるせぇ。誰が話しかけることを許した」
「申し訳ありません! お許しをっ、お許しを~~!!」

 悪魔が悲鳴のような声をあげて平伏した。
 しかしギルタレスは不快そうに顔を顰める。

「うるせぇババア。殺すぞ」
「ギャアアアアアアアアア!!!!」

 瞬間、上級悪魔の体が引き千切れた。
 目の前の光景に目を見開く。
 あの上級悪魔が一瞬で消滅した。あっけないほど簡単に瞬殺された。

「ああ、うっかり殺したか。わりぃわりぃ。よし、なんじの罪を許す」

 だから悪く思うなよ、とギルタレスは何ごともなかったように言った。
 この上級悪魔は死をもって盟主に許されたと、そういうことだ。
 ギルタレスは消滅させた同族には一瞥いちべつもせず、至近距離で私を見つめる。
 爛々とした瞳は野望を宿す瞳。これが強欲の王。

「初めましてか、女。ゲートを開けた褒美だ。名はなんだ、名乗ることを許す」
「悪魔に名乗る名はないわ」

 きっぱり答えた。
 突っぱねた私にギルタレスはスゥッと目を細める。
 そして、スッ。剣の刃が喉元に押し当てられた。
 見えなかった。剣を出現させたのも、それを一閃させたのも、なにも見えなかった。
 圧倒的な殺気に飲み込まれそう。獰猛な肉食獣を前にした緊張感。いや肉食獣より性質たちが悪い。だって動物は精神まで犯さない。

「名乗れ」
ゲートを開けてもらった分際で命令しないで」

 至近距離で睨みあう。
 力の差は歴然としている。本当ならギルタレスは一瞬で私を殺せるはずなのに、それをしていない。ならば生き残る勝機チャンスはそこにある。

「私の名を知りたければお願いしなさい」
「ああ?」
「名前を教えてくださいと、そう言いなさい」

 私は一歩も引かない。
 引いても押しても殺されるなら、最後まで押し切ってやる。
 矜持プライドとは自由。自由とは矜持プライド。それを守るためなら最後まで一歩も引かない。

「いい度胸だ女。死をもって償ってもらう」

 喉元の剣が鋭く光る。
 刃に赤い液体が伝う。私の血だ。見せしめるように刃を当てたのだ。
 でもまっすぐに見つめて、絶対引いてあげない。
 息が詰まるほどの沈黙が落ちた。
 ギルタレスは鋭い目で私を見つめ、殺気を纏って剣を握っていたが。

「……いいだろう。俺の門を開けたことに免じて罪を許す」

 そう言って喉元の剣を収めた。
 ギルタレスは王の威厳を纏ったまま上から目線で私を見下ろす。そして。

「名前を教えてください」
「…………」

 あ、言うんだ。ちゃんと言えるんだ。
 絶対殺されると思ってた。
 内心驚きつつも表情には億尾おくびにも出さない。
 上下関係を教えるように、ご褒美をあげるように言葉を紡ぐ。

「私は聖女候補生ロロット・カーデリア。仲良くしましょうね、地獄の盟主」
「聖女候補生が俺のゲートを開けたのか。これは恐れ入った」

 そう言ってギルタレスが感心したように腕を組み、ニヤリと笑う。
 強欲の赤い瞳がぎらりと鋭くなって、まるで獲物を狙うそれ。

「お前のその膨大な魔力、そのままにしておくのは惜しい。決めたぞ、ロロット。俺はお前を手に入れることにした。お前を俺の奴隷にしてやる」
「奴隷? 冗談じゃないわ。勘違いしないで」

 怒りに目を据わらせる。
 隷属れいぞくなんて私が手に入れたい自由からもっとも遠いもの。それは私の逆鱗げきりん
 しかしギルタレスは横柄おうへいな態度で私を縛ろうとする。

「喜べ、ロロット。俺の奴隷になれば俺に抱かれる栄誉が与えられる。地獄でこれほど名誉なことは」

 ガシリッ。
 至近距離にあるギルタレスのあごを鷲掴んだ。忌々いまいましい発言はさえぎるに限る。
 ぎりぎりと顎を破壊する力で鷲掴み、耳元で低く囁く。

「勘違いすんな。聞こえないのか。隷属させられるのはお前の方だ」

 隷属、それは私の逆鱗。
 隷属させられるくらいなら私が隷属してやる。
 決して私の夢はおかさせない。
 口調すら変わった私にギルタレスが忌々しげな顔になる。
 ガシリッ!
 今度はギルタレスが私の腕を掴んだ。
 私がギルタレスの顎を、ギルタレスが私の腕を掴んでいる。互いにぎりぎりしながら掴み、至近距離で睨みあう。

「ロロット、後悔するぜ」
「そんな感情、悪魔討伐を始めた四歳で捨てたわ」

 そう、そんな感情は捨てている。
 後悔なんてする余裕もなかった。初めて悪魔を討伐した時から前だけを見て進んでいる。
 それはこれからも変わらないものだ。


 こうして教会に巣食っていた上級悪魔は討伐され、辺境の村には平和が戻った。
 恐慌状態に陥っていた聖女モーリスは精神を病んでいた。
 ナタリーはモーリスを連れて王都の教団本部へ先に帰っている。
 本当なら私も一緒に帰還すべきだったけど、左腕を負傷していたので二日遅れで村を出たのだった。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

もう我慢しなくて良いですか? 【連載中】

青緑 ネトロア
恋愛
女神に今代の聖女として選定されたメリシャは二体の神獣を授かる。 親代わりの枢機卿と王都を散策中、初対面の王子によって婚約者に選ばれてしまう。法衣貴族の義娘として学園に通う中、王子と会う事も関わる事もなく、表向き平穏に暮らしていた。 辺境で起きた魔物被害を食い止めたメリシャは人々に聖女として認識されていく。辺境から帰還した後。多くの王侯貴族が参列する夜会で王子から婚約破棄を言い渡されてしまう。長い間、我儘な王子に我慢してきた聖女は何を告げるのか。 ——————————— 本作品の更新は十日前後で投稿を予定しております。 更新予定の時刻は投稿日の17時に固定とさせていただきます。 誤字・脱字をコメントにて、何話の修正か記載と同時に教えてくださると幸いです。 また読みにくい部分に対してはルピを追記しますので、同様に何話のことかお教えいただけると幸いですm(_ _)m  …(~2025/03/15)… ※第一部が完結後、一段落しましたら第二部を検討する予定です。 ※第二部は構想段階ですが、後日談のような第一部より短めになる予定です。 ※40話にて、近況報告あり。 ※52話より、次回話の更新日をお知らせいたします。

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

偽聖女として私を処刑したこの世界を救おうと思うはずがなくて

奏千歌
恋愛
【とある大陸の話①:月と星の大陸】 ※ヒロインがアンハッピーエンドです。  痛めつけられた足がもつれて、前には進まない。  爪を剥がされた足に、力など入るはずもなく、その足取りは重い。  執行官は、苛立たしげに私の首に繋がれた縄を引いた。  だから前のめりに倒れても、後ろ手に拘束されているから、手で庇うこともできずに、処刑台の床板に顔を打ち付けるだけだ。  ドッと、群衆が笑い声を上げ、それが地鳴りのように響いていた。  広場を埋め尽くす、人。  ギラギラとした視線をこちらに向けて、惨たらしく殺される私を待ち望んでいる。  この中には、誰も、私の死を嘆く者はいない。  そして、高みの見物を決め込むかのような、貴族達。  わずかに視線を上に向けると、城のテラスから私を見下ろす王太子。  国王夫妻もいるけど、王太子の隣には、王太子妃となったあの人はいない。  今日は、二人の婚姻の日だったはず。  婚姻の禍を祓う為に、私の処刑が今日になったと聞かされた。  王太子と彼女の最も幸せな日が、私が死ぬ日であり、この大陸に破滅が決定づけられる日だ。 『ごめんなさい』  歓声をあげたはずの群衆の声が掻き消え、誰かの声が聞こえた気がした。  無機質で無感情な斧が無慈悲に振り下ろされ、私の首が落とされた時、大きく地面が揺れた。

追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている

潮海璃月
ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。

王子よ、貴方が責任取りなさい

天冨 七緒
恋愛
「聖女の補佐をしてくれないか?」  王子自ら辺境まで訪れ、頭を下げる。  それほど国は、切羽詰まった状況なのだろう。  だけど、私の答えは……  皆さんに知ってほしい。  今代の聖女がどんな人物なのか。  それを知った上で、私の決断は間違いだったのか判断してほしい。

偽物と断罪された令嬢が精霊に溺愛されていたら

影茸
恋愛
 公爵令嬢マレシアは偽聖女として、一方的に断罪された。  あらゆる罪を着せられ、一切の弁明も許されずに。  けれど、断罪したもの達は知らない。  彼女は偽物であれ、無力ではなく。  ──彼女こそ真の聖女と、多くのものが認めていたことを。 (書きたいネタが出てきてしまったゆえの、衝動的短編です) (少しだけタイトル変えました)

私を断罪するのが神のお告げですって?なら、本人を呼んでみましょうか

あーもんど
恋愛
聖女のオリアナが神に祈りを捧げている最中、ある女性が現れ、こう言う。 「貴方には、これから裁きを受けてもらうわ!」 突然の宣言に驚きつつも、オリアナはワケを聞く。 すると、出てくるのはただの言い掛かりに過ぎない言い分ばかり。 オリアナは何とか理解してもらおうとするものの、相手は聞く耳持たずで……? 最終的には「神のお告げよ!」とまで言われ、さすがのオリアナも反抗を決意! 「私を断罪するのが神のお告げですって?なら、本人を呼んでみましょうか」 さて、聖女オリアナを怒らせた彼らの末路は? ◆小説家になろう様でも掲載中◆ →短編形式で投稿したため、こちらなら一気に最後まで読めます

処理中です...