聖女候補生ロロット・カーデリアは地獄の盟主を飼い慣らす

蛮野晩

文字の大きさ
10 / 35
第一章・強欲の王ギルタレス

強欲の王ギルタレス5

しおりを挟む
「ああ惜しい。ペットにするならあなたが良かったかも。でもやっぱり、物分かりの悪い人間はいらないわ!!」

 ドドドドドドドッ!!

「ほらほら、キャンキャン鳴いて逃げ回りなさい!」

 調子に乗った悪魔は鉄糸の数を増やして襲いかかってくる。
 私は悪魔の背後に回って魔法陣を出現させる。魔力を発動して暴風を巻き起こした。

「こんなそよ風でなにをするつもりかしら」

 悪魔が風と戯れるように移動する。私の攻撃を嘲笑っているのだ。
 でもそれを待っていた!!
 悪魔が礼拝堂の真ん中まで来た刹那、四隅の魔法陣が強烈な光を放つ。

「もちろん勝てるとは思ってないわよっ、だから封印するの!! 永遠に寝てろ!!!!」

 カッ!!
 四隅の光柱が悪魔を囲んだ。
 私は両手を重ね合わせて包んでいく。光柱は私の手の動きと連動し、悪魔を包んで徐々に小さく小さくなっていく。

「離せ!! 手をどけろっ、このクソ聖女おぉぉ!!!!」
「寝てろ! 二度と出てくるな!!」

 握り潰すように全力で手を合わせていく。
 でも悪魔の抵抗する力が強いっ。
 握り潰したいのに、逆にじりじりと手を開かされていく。

「聖女候補生ごときが上級悪魔のワタシを舐めるなあああああ!!!!」
「うわあっ!」

 逃げられた!!
 四隅の魔法陣も弾けて無効にされる。

「もう殺す! 地獄に引きずり込んで嬲り殺しにしてやる!!」
「しまったっ!!」

 ドドドドドドドドドッ!!!!
 鉄糸が襲いかかってきた。
 咄嗟に転がって避けたが、左腕に鋭い痛みが走る。

「くああッ!!」

 腕が熱い。
 鉄糸が貫通したのだ。
 祭壇の影に転がり込んで身を潜ませる。

「ッ、あのクソ悪魔っ……!」

 みるみる左腕が赤く染まっていく。
 このままじゃまずい、制服のスカートを裂いて止血する。
 でもすぐに血が滲んできて舌打ちした。いつまで耐えられるか分からないが、悪魔に殺されるなんて死んでもごめんだ。

「あら次はかくれんぼかしら。どこに隠れたの? ここかしら」

 ガシャン!! 鉄糸が長椅子を破壊した。

「それともここかしら」

 ガシャン!! また長椅子を破壊する。
 ガシャン!! ガシャン!! 長椅子を破壊しながら祭壇に近付いてくる悪魔。
 まるで獲物を弄るような嘲笑を浮かべている。完全に面白がっていた。
 そして白々しく祭壇に気付く。

「あらこの祭壇があやしいわ。ほら聖女さん、――――さあ出ておいで!!!!」

 悪魔が大量の鉄糸で襲ってきた。
 祭壇ごと串刺しにするつもりなのだ。
 死ぬ。このままじゃ死ぬ! そんなの冗談じゃないっ、聖女になって自由を買う!!!!

「オラアアア!!!!」
 ガシャアアアアアアン!!!!

 渾身こんしんの力で祭壇を蹴り飛ばした。
 祭壇が悪魔に直撃する。間髪入かんぱついれずに攻撃魔法を発動しようとしたが、悪魔の攻撃の方がわずかに速い。攻撃の衝撃を身構えた、その時。

「あ、ああっ、あ……」

 悪魔が硬直していた。
 おびえた顔で青褪めてガタガタと震えている。
 先ほどまで絶対的優位に立っていたというのに、今は見る影もなく縮こまって怯えている。

「……な、なに、どうしたの?」

 予想もしていなかった展開に私まで動揺してしまう。
 しかも悪魔は私の足元を見て恐怖におののいているようだ。悪魔の視線を追って足元を見る。
 そこには古い魔法陣があった。
 そう、蹴り飛ばした祭壇の下に古い魔法陣が描かれていたのだ。

「なにこれ」

 封印魔法陣のようだが、なにが封じられているか分からない。
 魔法陣に描かれた古代文字を解読すれば分かるのかもしれないが、この古代文字は座学で学習する一般的な古代文字よりもさらに古いもののようだった。
 そして思い出す。この教会が移築される前、ここは古代遺跡だったという。

「……古代のなにかが封印されてるってことだよね」

 そう言って魔法陣に触れようとすると。


「さ、触るな!! その魔法陣に触るな!!」


 悪魔が必死の形相で制止してきた。
 今までにない悪魔の反応。……ふーん、そう。そういうことね。分かりやすくて助かる。

「答えて。この魔法陣はなにを封印してるの?」
「さ、さあ、ワタシも知らないわ。なんでしょうね……」

 白々しい嘘。
 上級悪魔もこんな反応するのね、笑えてきた。

「分かんないんだったら封印を解くしかないよね」
「やめろ!!」
「やめろ? 命令されるの嫌いなんだけど」
「……や、やめた方がいいわ。その封印を解いてはいけないの。お願い、分かって」
「気安い言葉も嫌いなの」
「っ、……ごめんなさい。お願いします。何もしないでいてくれたら、ワタシはすぐにここから出ていきます。ほんとです、もうなにもしません。そこのペットも返します。ワタシは地獄で静かにしてるから、もうやめましょう。ね?」

 猫なで声でお願いしてきた。
 プライドよりも恐怖が勝っているその姿。
 やはり何かあるのだ。上級悪魔が恐れるほどの何かが。

「そう、そこまで言うなら」
「分かってくれたのね!」
「――――なんて約束するわけないでしょう!!」

 悪魔の顔が絶望に歪む。ああいい気味。
 私は足元の魔法陣に手を置き、そこに描かれていた模様を一気に消し去った。
 瞬間、低い地鳴りが響く。
 それはまるで地獄の底から響く怨念のよう。

「じ、地獄の門が開いたっ……。くるっ。盟主めいしゅ様が来るっ……!」

 悪魔は愕然とし、その場に手をついてひれ伏した。
 今この悪魔は盟主と言った。
 地獄にいる盟主とは、地獄の七大盟主のこと。それは上級悪魔ですら恐れる悪魔の最高位。
 まさか、ほんとうにっ……?

「人間界は三千年振りか」

 背後から男の低い声がした。
 いる。背後にいる。振り向きたいのに、息が詰まるほどのプレッシャー。
 全身に冷や汗が噴きだす。上級悪魔に感じた絶望感など比べものにならないそれ。

「……!」

 背後から肩を掴まれ、体が強張る。
 そして有無を言わせず顎を掴まれ、上向かされた。
 至近距離にあったのは、爛々らんらんとした赤い瞳が特徴的な男の顔。精悍せいかんで野性味のある美しい顔立ちに息を飲む。

「地獄の七大盟主が一人・強欲の王ギルタレスのゲートを開いたのはお前か」
「っ……」

 ……一歩も引くな。この悪魔に飲み込まれるなっ
 この悪魔は本物の地獄の盟主。今まで対峙してきた悪魔とは次元が違う。
 私はギルタレスをまっすぐ見据える。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

王子よ、貴方が責任取りなさい

天冨 七緒
恋愛
「聖女の補佐をしてくれないか?」  王子自ら辺境まで訪れ、頭を下げる。  それほど国は、切羽詰まった状況なのだろう。  だけど、私の答えは……  皆さんに知ってほしい。  今代の聖女がどんな人物なのか。  それを知った上で、私の決断は間違いだったのか判断してほしい。

私を断罪するのが神のお告げですって?なら、本人を呼んでみましょうか

あーもんど
恋愛
聖女のオリアナが神に祈りを捧げている最中、ある女性が現れ、こう言う。 「貴方には、これから裁きを受けてもらうわ!」 突然の宣言に驚きつつも、オリアナはワケを聞く。 すると、出てくるのはただの言い掛かりに過ぎない言い分ばかり。 オリアナは何とか理解してもらおうとするものの、相手は聞く耳持たずで……? 最終的には「神のお告げよ!」とまで言われ、さすがのオリアナも反抗を決意! 「私を断罪するのが神のお告げですって?なら、本人を呼んでみましょうか」 さて、聖女オリアナを怒らせた彼らの末路は? ◆小説家になろう様でも掲載中◆ →短編形式で投稿したため、こちらなら一気に最後まで読めます

偽聖女として私を処刑したこの世界を救おうと思うはずがなくて

奏千歌
恋愛
【とある大陸の話①:月と星の大陸】 ※ヒロインがアンハッピーエンドです。  痛めつけられた足がもつれて、前には進まない。  爪を剥がされた足に、力など入るはずもなく、その足取りは重い。  執行官は、苛立たしげに私の首に繋がれた縄を引いた。  だから前のめりに倒れても、後ろ手に拘束されているから、手で庇うこともできずに、処刑台の床板に顔を打ち付けるだけだ。  ドッと、群衆が笑い声を上げ、それが地鳴りのように響いていた。  広場を埋め尽くす、人。  ギラギラとした視線をこちらに向けて、惨たらしく殺される私を待ち望んでいる。  この中には、誰も、私の死を嘆く者はいない。  そして、高みの見物を決め込むかのような、貴族達。  わずかに視線を上に向けると、城のテラスから私を見下ろす王太子。  国王夫妻もいるけど、王太子の隣には、王太子妃となったあの人はいない。  今日は、二人の婚姻の日だったはず。  婚姻の禍を祓う為に、私の処刑が今日になったと聞かされた。  王太子と彼女の最も幸せな日が、私が死ぬ日であり、この大陸に破滅が決定づけられる日だ。 『ごめんなさい』  歓声をあげたはずの群衆の声が掻き消え、誰かの声が聞こえた気がした。  無機質で無感情な斧が無慈悲に振り下ろされ、私の首が落とされた時、大きく地面が揺れた。

追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている

潮海璃月
ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

冷遇された聖女の結末

菜花
恋愛
異世界を救う聖女だと冷遇された毛利ラナ。けれど魔力慣らしの旅に出た途端に豹変する同行者達。彼らは同行者の一人のセレスティアを称えラナを貶める。知り合いもいない世界で心がすり減っていくラナ。彼女の迎える結末は――。 本編にプラスしていくつかのifルートがある長編。 カクヨムにも同じ作品を投稿しています。

処理中です...