聖女候補生ロロット・カーデリアは地獄の盟主を飼い慣らす

蛮野晩

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第二章・慈悲の聖女クレディア・シーウェル

同居人(悪魔)かペットか3

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「おい、いきなり動くな!」

 くさりに引っ張られてギルタレスもついてくる。
 でかい体が邪魔すぎる。「邪魔!」と退けて手紙を見つけた!

「あった! …………なにこれっ」

 手紙を読んで愕然がくぜんとした。
 ワナワナする私からギルタレスが手紙を奪う。

「なんて書いてあるんだよ。…………ふ、ふざけるな!!」

 手紙を読んだギルタレスが床に叩きつけた。
 そこに書いてあったのは魔道具『服従ふくじゅう首輪くびわ』について。
 それは枢機卿クラスの聖女しか扱えない上級魔道具の一つだ。力を宿した手で悪魔の首を鷲掴むことで首輪を装着させ、その首輪を装着させられた悪魔は絶対服従をいられるというものだった。本来は使用者より強い悪魔には使えない魔道具だが、ゲートを開いたことで『ゲートを開けたロロットを殺せない』という関係が成立している。私だったから地獄の七大盟主にも首輪の装着が可能だったのだ。
 普段は首輪も鎖も見えず、悪魔を拘束することはない。しかし使用者が念じれば首輪と鎖が出現して絶対服従関係になるということである。
 …………目まいがした。
 手紙を開いた時に手中に吸い込まれていった細い縄はまさに悪魔の手綱たずな。服従の首輪。
 ということは今、私はギルタレスと絶対服従関係。
 手紙にはクレディアのメッセージが記されていた。『悪魔を自由にしてはいけません。立場を教え、手綱たづなを握りなさい。ゲートを開いたあなたしかできないことです』と。

「……手綱を握れって、そういうことだったの」

 言葉のあやではなく物理的に握れということだった。
 クレディアは本気で上級悪魔討伐に地獄の盟主を利用するつもりなのだ。

「こんなことが許されると思っているのか」

 地獄の底から響いてきたような声。
 もちろんギルタレスだ。怒りに声が震えている。
 ピリピリと空気が震撼しんかんして窓ガラスがガタガタと震動する。赤い瞳が怒りで爛々として、その尋常じんじょうでない魔力の膨張ぼうちょうは人間に絶望を感じさせるものだが。

「――――うるさい。その魔力しまっといて」
「っ、グアアッ……!」

 魔力の急速低下。
 今にも爆発しそうだった魔力が一瞬にしてしぼんだ。
 私の命令に強制的に従わされたということ。

「う、うそだろ……?」

 ギルタレスがごくりっと息を飲む。
 正直、私も驚いた。まさかここまで覿面てきめんに絶対服従になるとは思わなかったのだ。

「…………殺す。即殺す。クレディアを地獄に引きずり込んでなぶり殺しにしてやる。おいロロット、今すぐ首輪を外せ!!」
「それ無理」
「ああ?」
「ほらここ」

 手紙の一部分を指差す。

『使用者が望めば首輪は外せます。しかし外せば処刑です』

 そういうことだ。首輪を外せば処刑。密命を断っても処刑。
 ギルタレスが吐き捨てる。

「なにが慈悲の聖女だっ。横暴おうぼうの間違いだろ……!」
「うん、それは否定しないわ」

 慈悲の心だけで枢機卿すうききょうまで昇りつめたわけではないということだ。
 処刑は冗談ではなく本気。首輪を外せば私は世界中の聖女に追われる身になるだろう。
 ……冗談じゃない、面倒くさすぎる。
 ギルタレスの存在はうざいけど、それ以上に首輪を外した後の面倒くささが勝る。
 悪魔の犠牲一つで私の平穏な生活が守れるなら考えるまでもない。
 あっさり切り替えて講義の準備を始める。明日から学校だ。

「おい、なに日常取り戻してんだ! 諦めんなっ、お前だって嫌だろ! もっと組織に反抗しろ!!」
「えー……」
「俺にクレディアを殺させろ! 聖女は皆殺しだ! そうすればお前を人間界の支配者にしてやるよ!!」
「絶対嫌なんだけど」
「もっと欲望を剥き出しにしろ!! 人間らしくねぇぞ!!」
「…………」

 なんで私が悪魔に人間らしさについて語られているのか……。
 私は自分の主導権を握っていたいだけで、他人を支配したいと思ったことはない。……まあ支配されるくらいなら支配した方がマシだけど、それだけ。

「ああうるさい。明日の講義までにレポート仕上げないとダメなんだから、ちょっと静かにしててよ」

 ギルタレスを無視して机に座った。
 本当は今すぐ眠りたいけど、伊達だて酔狂すいきょうで特待生をしてるわけじゃない。学園主席の座は卒業するまで守り続ける。
 自由を確立するのが経済力なら、自由を認めさせるのは特待生という肩書きなのだから。





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