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第四章・憤怒の王バルドナード
修道院にて
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「で、どこに向かって歩いてんだよ」
「この都の修道院。先に荷物起きたいし、新しい情報もあるかもしれないしね」
そこがこの都で私に用意されている宿泊先だった。
ヴェリタリアス教団の関連施設は世界各地にある。
当然ながらこの都にも教会や修道院といった教団施設があった。本部から派遣された聖女はこういった教団施設を拠点にして活動するのだ。
大通りを抜けた先に小高い丘がある。そこに都を見下ろすようにして荘厳な修道院があった。
都には貴族や豪商の館が建ち並ぶ一等地があるが、修道院はそれよりもさらに上等な立地にある。それはこの世界におけるヴェリタリアス教団の権威を表わしているかのようだ。
石畳の坂道を歩いて登ると修道院に到着する。
門の前には若い修道女が一人で立っていた。修道女は私の制服を見ると恭しくお辞儀する。
「こんにちは。ロロット・カーデリア様でしょうか?」
「はい、本部から派遣された聖女候補生ロロット・カーデリアです」
「本部から通達がきております。お待ちしていました。……あの、そちらの方は?」
修道女が困惑した顔でギルタレスを見た。
さすがに本部からの通達にギルタレスのことはなかったのだ。
「ああ邪魔ですよね。外で待たせます」
「こいつの主人だ」
私とギルタレスが同時に答えた。
私は隣のギルタレスを睨みつける。
「バカ言ってないで黙ってなさいよ」
「いずれ俺の奴隷になるんだ、間違ってねぇだろ」
「冗談のセンスなさすぎじゃない?」
私とギルタレスが一触即発で言い合う。
しかしそれを見ていた修道女はますます困惑した顔になっていた。
「えっと、……候補生の主人ということは聖女の方でしたか?」
「ああ?」
ギルタレスがギロリッと睨んだ。
地獄の七大盟主が聖女に間違われるなんて冗談でも笑えない。
睨まれた修道女は怯えたように青ざめた。
…………埒が明かない。
「違います。助手です。そういうことにしといてください」
「そ、そうですか。ではご一緒にどうぞ。派遣されてきた聖女様は丁重におもてなしするように厳命されていますので」
修道女はそう言うと改めて私とギルタレスにお辞儀する。
「院長様がお待ちです。どうぞ中へ」
案内されて修道院に入った。
修道院の中も荘厳な外観を裏切らない豪華な造り。長い廊下で修道女や修道士たちとすれ違うたびに恭しくお辞儀された。なかには聖女候補生への興味を隠し切れない者もいて、いささか無遠慮な視線を感じてしまう。でもこれは仕方ないことだ。この世界で悪魔討伐ができる聖女の地位は高く、それに準ずる聖女候補生も同じだ。
しかも修道女や修道士は聖女に憧れながらも、ほとんどが聖女になれるほどの魔力がなかった者たちなので尚更である。
「失礼します。聖女候補生ロロット・カーデリア様を案内してまいりました」
「どうぞ入ってください」
案内されたのは院長室。
院長室には老齢の修道士がいた。
修道士は椅子から立ち上がって深々とお辞儀する。
「初めまして、この修道院の院長を務めているヨーゼフと申します。聖女候補生ロロット様のことは本部から通達が来ております。なにか不自由がありましたらなんなりとお申し付けください」
「ありがとうございます。しばらくお世話になります。さっそくですが話しを聞かせてもらっていいですか? ご存知のとおり今回の一件で聖女が複数殺されています。生前の聖女たちの様子、遺体が発見された状況、知っていることを教えてください」
「分かりました。聖女様の任務は私どもには詳しく知らされておりませんでしたが、死んだ聖女様方は都にある教会を調べていたようです」
「教会の資料はありますか?」
「こちらに」
書類の束が渡される。
この都にある教会施設は全部で七カ所。すべてヴェリタリアス教団の教会だが、聖女は内密に精査していたようだった。そして、遺体で発見された。
「ありがとうございます。他にも聖女が残した記録や書類はありますか? どんな些細なものでも構いません」
「申し訳ありません。聖女様の任務は極秘事項扱いですので、我々はなにも知りません。一切関わっていなかったので」
「では、ここに滞在した聖女たちの世話役を紹介してください」
「それは構いませんが、聖女様方が世話役の修道女や修道士に特別な話しをするとは思えませんが」
「構いません。お願いします」
「分かりました。ではそのように手配いたします」
「ありがとうございます」
死んだ聖女たちの世話役から話しを聞ける約束を取り付けた。これで修道院長ヨーゼフへの挨拶は終わりだ。
挨拶は修道院長に情報提供の協力を得ることが目的だった。立場は聖女候補生の私の方が格上だけど、この都で活動するなら協力を得るに越したことはない。
「ではロロット様、滞在中の世話役を紹介します。入りなさい」
「失礼します」
そう言って院長室に入ってきたのは私をここまで案内してくれた修道女だった。
修道女はあらためて私に自己紹介する。
「あらためまして、修道女のリナと申します。ロロット様がここに滞在する間のお世話を仰せつかりました。未熟な身ではありますがせいいっぱい務めます。よろしくお願いいたします」
どうやら私の世話役だったようだ。
まだ修道女になって日が浅いのかもしれない。初々しい緊張感がある。
「ロロット様、この修道院で分からないことがあればリナに聞いてください。きっとお役に立ちます」
ヨーゼフが穏やかに言った。
こうして私は世話役の修道女リナを紹介されて、この都での任務を本格的に開始するのだった。
「この都の修道院。先に荷物起きたいし、新しい情報もあるかもしれないしね」
そこがこの都で私に用意されている宿泊先だった。
ヴェリタリアス教団の関連施設は世界各地にある。
当然ながらこの都にも教会や修道院といった教団施設があった。本部から派遣された聖女はこういった教団施設を拠点にして活動するのだ。
大通りを抜けた先に小高い丘がある。そこに都を見下ろすようにして荘厳な修道院があった。
都には貴族や豪商の館が建ち並ぶ一等地があるが、修道院はそれよりもさらに上等な立地にある。それはこの世界におけるヴェリタリアス教団の権威を表わしているかのようだ。
石畳の坂道を歩いて登ると修道院に到着する。
門の前には若い修道女が一人で立っていた。修道女は私の制服を見ると恭しくお辞儀する。
「こんにちは。ロロット・カーデリア様でしょうか?」
「はい、本部から派遣された聖女候補生ロロット・カーデリアです」
「本部から通達がきております。お待ちしていました。……あの、そちらの方は?」
修道女が困惑した顔でギルタレスを見た。
さすがに本部からの通達にギルタレスのことはなかったのだ。
「ああ邪魔ですよね。外で待たせます」
「こいつの主人だ」
私とギルタレスが同時に答えた。
私は隣のギルタレスを睨みつける。
「バカ言ってないで黙ってなさいよ」
「いずれ俺の奴隷になるんだ、間違ってねぇだろ」
「冗談のセンスなさすぎじゃない?」
私とギルタレスが一触即発で言い合う。
しかしそれを見ていた修道女はますます困惑した顔になっていた。
「えっと、……候補生の主人ということは聖女の方でしたか?」
「ああ?」
ギルタレスがギロリッと睨んだ。
地獄の七大盟主が聖女に間違われるなんて冗談でも笑えない。
睨まれた修道女は怯えたように青ざめた。
…………埒が明かない。
「違います。助手です。そういうことにしといてください」
「そ、そうですか。ではご一緒にどうぞ。派遣されてきた聖女様は丁重におもてなしするように厳命されていますので」
修道女はそう言うと改めて私とギルタレスにお辞儀する。
「院長様がお待ちです。どうぞ中へ」
案内されて修道院に入った。
修道院の中も荘厳な外観を裏切らない豪華な造り。長い廊下で修道女や修道士たちとすれ違うたびに恭しくお辞儀された。なかには聖女候補生への興味を隠し切れない者もいて、いささか無遠慮な視線を感じてしまう。でもこれは仕方ないことだ。この世界で悪魔討伐ができる聖女の地位は高く、それに準ずる聖女候補生も同じだ。
しかも修道女や修道士は聖女に憧れながらも、ほとんどが聖女になれるほどの魔力がなかった者たちなので尚更である。
「失礼します。聖女候補生ロロット・カーデリア様を案内してまいりました」
「どうぞ入ってください」
案内されたのは院長室。
院長室には老齢の修道士がいた。
修道士は椅子から立ち上がって深々とお辞儀する。
「初めまして、この修道院の院長を務めているヨーゼフと申します。聖女候補生ロロット様のことは本部から通達が来ております。なにか不自由がありましたらなんなりとお申し付けください」
「ありがとうございます。しばらくお世話になります。さっそくですが話しを聞かせてもらっていいですか? ご存知のとおり今回の一件で聖女が複数殺されています。生前の聖女たちの様子、遺体が発見された状況、知っていることを教えてください」
「分かりました。聖女様の任務は私どもには詳しく知らされておりませんでしたが、死んだ聖女様方は都にある教会を調べていたようです」
「教会の資料はありますか?」
「こちらに」
書類の束が渡される。
この都にある教会施設は全部で七カ所。すべてヴェリタリアス教団の教会だが、聖女は内密に精査していたようだった。そして、遺体で発見された。
「ありがとうございます。他にも聖女が残した記録や書類はありますか? どんな些細なものでも構いません」
「申し訳ありません。聖女様の任務は極秘事項扱いですので、我々はなにも知りません。一切関わっていなかったので」
「では、ここに滞在した聖女たちの世話役を紹介してください」
「それは構いませんが、聖女様方が世話役の修道女や修道士に特別な話しをするとは思えませんが」
「構いません。お願いします」
「分かりました。ではそのように手配いたします」
「ありがとうございます」
死んだ聖女たちの世話役から話しを聞ける約束を取り付けた。これで修道院長ヨーゼフへの挨拶は終わりだ。
挨拶は修道院長に情報提供の協力を得ることが目的だった。立場は聖女候補生の私の方が格上だけど、この都で活動するなら協力を得るに越したことはない。
「ではロロット様、滞在中の世話役を紹介します。入りなさい」
「失礼します」
そう言って院長室に入ってきたのは私をここまで案内してくれた修道女だった。
修道女はあらためて私に自己紹介する。
「あらためまして、修道女のリナと申します。ロロット様がここに滞在する間のお世話を仰せつかりました。未熟な身ではありますがせいいっぱい務めます。よろしくお願いいたします」
どうやら私の世話役だったようだ。
まだ修道女になって日が浅いのかもしれない。初々しい緊張感がある。
「ロロット様、この修道院で分からないことがあればリナに聞いてください。きっとお役に立ちます」
ヨーゼフが穏やかに言った。
こうして私は世話役の修道女リナを紹介されて、この都での任務を本格的に開始するのだった。
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